吉村萬壱のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
夫の浮気を知った妻は身体が巨大化していった。絶望感と罪悪感に苛まれながら、夫は異形のものと化していく妻を世間の目から隠して懸命に介護する。しかし、大量の食料を必要とし、大量の排泄を続ける妻の存在はいつしか隠しきれなくなり、夫はひとつの決断を迫られることに。
すごい内容。衝撃的。
しかも便とか吐瀉物とかの表現が山ほど出てくる。半分以上それだと言ってもいい。
けれどなぜか綺麗というか崇高さがあるというか…
夫は浮気はするし狡猾さもあるしでまっすぐに愛することは到底できないキャラクターなのに、ある種の純粋さを捨てきれないところが嫌いになれない。
「失ってみて気づくこと」とはよく言うけれど、この物語の主人公は、妻が巨大化した上に意思疎通が図れなくなったのである意味で元の妻を“失って”しまった。
だけど妻という生き物自体はすぐ側にいる。
普通の大きさの妻の何十倍も食べ(しかも冷凍の生肉なども貪り食べたりする)そして普通の大きさの妻の何十倍も排泄する。
近所の人や普段関わりのある人にバレてはいけない。だけどそれも限界が来て…
妻の奈緒美がどんどん巨大化&野生化していく過程で、ほんの一時元の姿を取り戻し始めたように見えたときがあって、その一瞬のときの夫婦の交わりが、とても美しく切なかった。
ラストは、どう受け止めたら良いものか。
独特すぎるラブストーリーだったけれど、本物の愛みたいなものを、垣間見た気がする。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ清潔と不潔。
浄と不浄。
きれいはきたない、きたないはきれい。
下種は聖。
これらはつまり極端は対極に転じ得るということだ。
(中島らもと通ずると思うが、ふたりを並べた論は見たことがない。)
男は女を犯すとき、女になって男に犯されたいと夢想する。
女はマゾヒスティックな殉教を夢見る。
すなわち男とは別文脈で受け容れる(ように見える)。
男も女も、対する女と男に、過剰な願望を押し付けて、それが裏切られては怒り失望するしかないのだ。
「B39」と「B39-Ⅱ」の関係は連作の極北。
大げさではなく世界が反転するんだもの。びっくりした。
ところでかつて「ハリガネムシ」でウンコを握り潰す場面を読んだ私は、「小説の描写とはこれだ!」と教えられたものだが、
「不浄道」ではなんと、ウンコを壁に投げつける!!
狂気すれすれだが一ミリだけあちらがわに行ってしまっ(て皮一枚をたよりになんとかぎりぎり戻ってき)たようで感慨深い。
(連想される「はだしのゲン」の糞垂れ流す将校は、ミリ単位ではなくあちらがわ)
芥川賞は功罪両面を併せ持つが、この作家をフックアップしたのだから、やっぱり偉大なのだ。 -
Posted by ブクログ
「グロ」と「夫婦愛」の融合。
家畜人ヤプー以来の奇作です。
内容は、夫の不倫を知った妻が突如、5mになるまで巨大化。
日常生活もままならなくなる中、懺悔と愛情の入り混じった心境で介護し続ける夫の戦いの物語です。
戦いといっても、大半が妻の食事や排泄処理。
排泄の描写は、スカトロファンにはたまらないのではないでしょうか?
一方で得体の知れない激痛に苦しみ、言葉もままならぬなくなっていく妻を見捨てず、最後まで添い遂げる様が夫婦の純愛小説として評価される所以でしょう。
奇天烈な設定ですが、夫婦という裏も表もある一筋縄でいかない関係を考えると、意外とまともなテーマなのかな?と思いました。 -
Posted by ブクログ
ここはB県海塚。新鮮な魚や野菜が手に入るこの町で、町民は心を一つに支え合いながら生活し、子ども達は自主性を重んじる学校に通いのびのびと育つ。同級生の急死が若干多い点はさて置き、理想的な共同体から外れまいと必死に努力する主人公の少女だがー。モダンディストピア小説と聞き、真っ先に手に取った本作。ポスト3.11の日本を痛烈に揶揄した、薄いながらもインパクト大の一冊でした。最初から最後まで不穏な空気満載で、先が気になり気になりページを繰る手が止まらない。明らかに子どもがナレーションしている分、『向日葵の咲かない夏』のような「信頼できない語り手」のトリックには引っ掛からないぞ~!と構えていたものの、ラストの主人公の卓見が伺える独白には衝撃を受けた。特に一番最後の台詞が良い~。同調圧力に極端に弱いと言われる日本人だからこそ書けた作品だし、日本人だからこそ読むべき作品だと思う。因みに母に勧めたら「結局なんだかよう分からんかった」と一蹴されました。
-
Posted by ブクログ
冒頭の、部屋にいたカマキリの頭を指で弾いてすっ飛ばし、頭をなくしたカマキリが「盛んに鎌を振り上げて頭を探すダンスを踊った」という、何とも言えぬ心地悪い描写で始まる。主人公である高校の副担任教師慎一が、ソープ嬢サチコと出会ってから「堕ちていく」物語。
「にんげの体に何かもっと酷い事がしてみたいと、四六時中考える様になってい」き、段々、欲望に被せている蓋が外れていく慎一が、「露天風呂を占領して覚醒剤漬けになって朝まで乱行し続けた、店の女の子に羽交い締めにて体中に針を刺され「痛いか、痛いか」と何時間も責め続けられた、知り合いが一歳の赤子を殴り殺した、など」の「話しをすると箔が付くという文化の中に生きてい」るサチコに対して行う行為のおぞましさ。
芥川賞なんですね。 -
Posted by ブクログ
主人公・恭子の回想で物語が進みます。小学5年生の頃の様子を語っています。
恭子の住むB県海塚市は過去に何らかの災害があり、住民は数年間避難生活を強いられていたらしい。復興が進みやっと故郷に戻ってこられたからか、住民たちの海塚市への想いや住民同士の結びつきは極端な程強い。
冒頭からずっと何かがおかしくて、母親とのやり取りや学校での様子もずっとひっかかる。
だんだんこの海塚という町の異様さや、何らかの病気が蔓延している雰囲気が感じられてきます。
結局、誰が正しくて誰が間違ってるのか、具体的に何が起こったのかは想像するしかないのですが、所々で「絆」「放射能」を連想してしまう…ずっと怖い話でした。
読み終わると母親の印象が変わるのも驚き。