重たい海外小説の後に本棚から取り出して読み始めた。未読だと思っていたが、9年前にしっかり読んでいた。レビューまでしていた。まあ。いいかと内容を全く忘れたままで読み始めたところ、NHKでドラマ化されたものを見た記憶が蘇ってきた。田中美佐子と堺正章の脇役陣は想い出したが、坂口憲二の主役はあまり印象にない。ぼくの中でこの小説の主人公は、フィットしていなかったのだろう。坂口憲二では少しイケメン過ぎる。
アウトソーシングでリストラを請け負う会社、というのがバブル崩壊後のこの時期には売り上げを伸ばしていて、資本金が勧めの涙みたいなこの小さな会社を舞台に、仕事の退職や移動や見直しということをポイントに様々な職種に就く人たちの、人間の棚卸しが改めて題材として面白くて、この作家うまいところに眼をつけたものだと、そのストーリーテリング含めて感心したものだ。そもそもこの作家はクライム小説が素晴らしく、それをおっかけていた筈なのだが、どういうわけかこのシリーズ、より平凡な小市民の現実に寄り添った小説でも、山本周五郎賞を獲得しちゃった。やはり実力があるのだなあ。
シリーズは、リストラ請負人・村上伸介をレギュラーとした連作中短編集で、それぞれの作品毎に個性的なゲストキャラクターが登場。両側の眼線を入れ替えながら展開する、非常に読みやすいストーリーである。作品毎に会社が変わるので様々な業界や、変わった職場なども覗きながら、そんなバリエーションのなかで、様々な種類のゲストヒーロー&ヒロインたちが取り上げられる。彼らの生き方を巡る物語。
個人的には自分もリストラを受けたことがあるし、リストラをせねばならぬ立場にも立ったことがあり、小説を読みながらもそのときの両サイドでの自分の判断を棚卸しさせられるような、少し、自分の人生の鏡みたいな小説だな、と冷やりとさせられるところなどもありつつ、それ以上に自分のやってきた仕事を振り返り、そこそこいい仕事をやってこられた部分もあったりして(もちろん不甲斐ない結果も山ほど!)、今の仕事ももっともっとレベルアップしたりして行きたいものだなあ、などと心を入れ替える機会になるのは、この本の中でいろいろな人たちの人生に向き合えたからだと思います。
(2019.03.28)
以下、初読時レビュー
『君たちに明日はない』の一巻目が出てから早や5年。2.5年ぶりに出た三冊目のシリーズ作品集は、ちょうど本シリーズがテレビドラマ化される機会に合わせて出版されたものなのだろう。なので、第二巻では『借金取りの王子』以外に副題がなかったのだが、本書ではテレビドラマで作品に馴染んだニューカマーをしっかり捕まえようと、ドラマと同じ副題がしっかり接続された。
小説では顔などのはっきりしなかった人物たちにテレビドラマでは、顔が与えられてしまうのだが、これを無視して読んでも、意識に取り込んで読んでもそれは読者の勝手である。ドラマを気に入るかどうかがポイントかもしれない。ぼくはこのドラマが気に入ったので、村上真介は坂口憲二、芹沢陽子は田中美佐子で読んでみた。前二冊は顔がなかったので、そのままという手もあったけれど、まあドラマがよかったので。
本シリーズは、リストラ請負会社から、やってきた村上真介と秘書・川田美代子の二人が、いわば各短篇小説の狂言回しの役割となり、主役はそれぞれの仕事を追われようとしている社員たちであり、その個性である。その個性は仕事と密着している場合もあれば、仕事というよりは人生観・世界観の突出が会社とフィットしない場合などもあり、それらが、いつの間にかリストラを題材にしながら、それぞれの人間小説として完成してゆくあたりが面白い。
もちろんこんな稼業を選択したということに対する村上の自己への疑心が根底にあり、それを仕事を通じて次第に誇りに変えようとする大きな連作としての流れもある。しかしそれらは個々の短篇小説に登場するそれぞれのキャラクターたちの魅力によるものが大きい。南米冒険小説や都市型クライム活劇の傑作を書く作家が、こうした地味なシリーズを書き、その一冊目で山本周五郎賞を獲得してしまったという、皮肉というべき流れも、作品に親しめば、決してわからないでもない。それだけ、このシリーズ世界は既に定着し、安定して一人歩きをしているのだ。
ちなみに、作者の車好きは知る人ぞ知るところ。本書のうち、自動車整備士を主人公にした一篇では、カキさんという作家が、整備士のお得意さんとして名前だけだが登場してそのフリークぶりを語り、笑わせる。そんな遊び心も含めて、垣根涼介の本来のジャンルであるクライム・ノヴェルとは違った地平での肩の凝らないシリーズながら、作家の幅と奥行きと、双方ともに感じさせる佳品集であった。
さて、時を経ずして『ボーダー ヒート・アイランド5』というクライム活劇の新作を出してくれた。こちらもシリーズ名表記は初めてとなる。見ていないが映画化されたことによるタイトルの知名度アップが背景にあっただろう。映画化作品はまだ見ていないが、是非、時間を作ってDVDチェックと行きたい。
(2010.07.13)