藤野可織のレビュー一覧
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短編集『おはなしして子ちゃん』に収録されていた「ピエタとトランジ」のその後を描いた作品。
主人公の2人のヒロインのキャラクターが立っているので、いくつかちょっとした事件を並べておけば、場面設定を大きく変えずに連作短編として十分一冊の本にまとまったと思うんだけど、あえてそれを行わずに2人に年を重ねさせ、世界を巻き込んだディストピアに発展していく形にしたのはとても良かったと思う。
探偵を主人公にしたミステリー小説だと、なぜかその周囲で必ず事件が起きるというある種の「お約束」があるんだけど、本作はミステリーの体裁をとっていないにもかかわらずその設定を踏襲しているのが、何とも皮肉めいていて面白かった。 -
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青木きららという女性が各編に必ず登場する短編集だが、青木きららは同一人物ではない。現代日本に似たパラレルワールドのような世界を舞台としているが、夢の世界を彷徨っているみたいな読み心地。
「わかった」とは言えないが、響いた。寓意や暗喩のようなものを、掴めそうで掴めない、掴めたと思った瞬間にふぁっと霧になって消えてしまうような、「なに、わかった気になってるの」と氷の眼で見つめられているような緊張感が、このわかりやすさの求められる時代に、独特の歯応えを差し出してくる。
以下、個人的な備忘メモ。タイトル前の記号は、「◯=好き」「◎=特に好き」を表す。
◯トーチカ
青木きららの偽物を探せ、てな -
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大好きな『ピエタとトランジ』が漫画化されたって? そりゃ、読まなきゃ嘘だろう。連載を追うのがファンのあるべき姿だろうけれども、ドラマでも一気見タイプなので申し訳ないけれどもジリジリしながら単行本化を待ってました。
藤野可織の同名の連作小説集をコミカライズ。
だいぶ原作の雰囲気そのままで、ビジュアライズされることでより分かりやすくなる。頭の中でぼんやり浮かんでたあれこれが、目の前に!
掲載されているのは、ピエタとトランジの出会いである高校生のエピソードから、大学生まで。
「ピエタとトランジ」前後編
「高校教師飛び降り事件」
「ファミレストイレ事件」
「女子寮殺人事件」前後編
ピエタとトラン -
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ネタバレ幼児の「わたし」を語り手に、母の死と、父と「あなた」の(再婚を前提とした)同居が語られる。「あなた」が「わたし」に(というよりは周囲の人間すべてに)心から親密な関係を築けないことを傷のついたコンタクトレンズやほぼ見えない裸眼で表象し、「わたし」もコミュニケーション機能の不全に陥っている様を噛んで尖った爪で表す。
たしかにホラーだこりゃ怖い。
どのような話かがつかみきれない序盤からすでに相当怖い。すべての文章に「ひっかかり」を覚えるのだ。語り手の「わたし」は自分の心情を一切語らないのに、「あなたは~思った」と「あなた」の行動・心情を断定的に語る。それだけで「これは絶対に誰も幸せになれないタイプ -
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ネタバレ高校2年生の時、ピエタの学校にトランジが転校してきた。地味だけど愛想のいいトランジは天才で、そうして殺人を引き起こす特殊な性質を持っていて、ピエタの彼氏の殺人現場を見ただけで犯人を推理してしまうし、ファミレスで勉強しているだけで周りが血の海となる。
このファミレスの話から始まるのだけれど、高校生がファミレスで勉強するという比較的ありふれたシチュエーションなのに、クリームソーダが憧憬の象徴だよねという同意を取りやすい長閑さの話なのに、机に突っ伏していたピエタが全く突然、誰かに頭を持ち上げられて首にナイフを刺されそうになるというとんでも展開となる。なんかだらだらはじまったな〜面白いのかな〜なんて読 -
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青木きららという女性がキーパーソンとなる短編集。
どの話にも青木きららが登場するが、同一人物ではなく、話自体にも繋がりはない。しかし、どの物語も、同じような空気をまとっているような気がした。
静謐だが、どことなく不安。
きっと不安に感じるのは、読者である自分たちが普段気づかないようにしている不条理や未知のものを、あえて全面に押し出しているからだろう。
社会にあらがうことなく受け入れ、そこでの不満はあれど不都合はないくらいの幸せを享受できれば良しとする「トーチカ」。
未知のものに対して、ささやかな抵抗を試そうとする「積み重なる密室」。
この2篇が特にお気に入りの話だった。 -
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はじめて読む作家。
現代作家をもっと読んでみようキャンペーンの一環で手に取る。
読み始めてすぐには不条理小説なのかな、と戸惑う。
二話目、三話目に読み進めてやっと外格が掴めてきた。
青木きららという名前の周辺にある、主に女性の上に起こるさまざまな現象と現代の世界との摩擦。
『花束』、『幸せな女たち』、『愛情』のところが面白かった。
フェミニズム文学、と括られてしまうのだろうけど、この本をそんなふうに束ねないで、と思った。
『幸せな女たち』の、結婚における苗字のくだりも泣けてくる。
いま読めて良かった。
毎日毎日みんなが感じていることをうまく言い当ててくれたことに感謝。
短編集が最初のトーチ -
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短編集。
ちょっと不思議且つ怖いような世界観で、どの短編にも「青木きらら」という名の人物が出てくる。名前が同じなだけで各短編のきらら達は何の関係もないが、まず、ちょっとインパクトのある名前だなと思う。
苗字が「青木」だからこそしっくりくるというのに共感。「大久保きらら」だと何だか語感が悪い気もする(全国の大久保きららさんごめんなさい)。
「スカート・デンタータ」が一番面白かった。スカートが痴漢の指を食い破るという過激な犯行に及ぶのに、誰もがそれを肯定している世の中で怖かった。そりゃもう履くしかないよね、自衛のためにも。夜な夜なスカートの歯をブラシで磨く人達を想像すると奇妙だが、皆がやるように -
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「……私の近くにいるとみんなろくな目に遭わないから」頭脳明晰な探偵トランジと親友で助手のピエタ。トランジは周りに殺人事件を誘発してしまう体質の持ち主(本人は望んでおらず手を出してもいない)であるゆえ、2人の行く先々で人が死んでいく。時を超え、国境を超え、デストピアを駆け抜けていく壮大な物語。『おはなしして子ちゃん』に収録されていた同名短編が独立して長編になったのが文庫化されたというので読んでみました。凄く面白かった。バタバタと人が死んでいく…という設定は本来私は好みでは無いのですが、ピエタとトランジの二人の関係性の魅力が輝いていてそちらの楽しさが勝っていました。いわゆる百合なんでしょうけど二人
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さまざまな「青木きらら」たちの物語を集めた短篇集。シュールでユーモラス、そして少しほっこりするかもしれない読み心地の一冊です。
お気に入りは「スカート・デンタータ」。ある日痴漢に対して文字通りに牙をむいたスカートと、そのおかげで強くなってゆく女性たち。その状況に憤慨し苦悩する痴漢の主人公。もちろん痴漢はダメですよ。こんなことが起こったとしたら、多少はいい気味だとも思います。だけれどまるで被害者であるかのように悲哀を切々と語る主人公の姿がもう面白くって仕方がありませんでした。違う、悩むのそこじゃない。
「花束」」「消滅」はシュールな光景と、愁いを抱えた物語の対比が印象的でした。無数の花束や無数の -
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ネタバレ探偵のように頭が切れるが、関わった人間がみんな死ぬか殺人犯になるかする特異体質のトランジ。その親友のピエタ。二人は周囲に巻き起こる事件を解決したり、わざと犯人を逃がしたりして異常な日々を楽しく過ごしていたが、ピエタがもう一人の友人をトランジに紹介したことで、徐々に世界の均衡が崩れはじめる。青春ミステリーみたいなポストアポカリプスSF。
長く続く探偵シリーズものでよく言われる、「これって探偵自身が殺人事件を誘発する死神体質なんじゃないの」みたいなやつ。あれが実際一人の女の子に備わっていて、しかも他人に感染するという設定。だから高校時代に運命の出会いを果たした二人の青春ミステリーみたいに始まる -
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ネタバレ短篇集「おはなしして子ちゃん」に収録された「ピエタとトランジ」が帰ってきた!
単行本版の書名は「ピエタとトランジ〈完全版〉」だが、文庫化に際して「ピエタとトランジ」と改題。
「奇想の作家」として凄まじい短編ないし中編を続々発表してきた著者にとって、たぶん最長の作品ではないか。
テーマや核心に関しては、ネット上の著者のインタビューや、山内マリコの「家父長制を殺しに来た」という書評(すごいタイトル)に言い尽くされていると思う。
個人的には、読んでいる最中は気づかなかったが意外としっかりコナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズをふんわり下敷きにしていることに驚いた(しっかり、ふんわり、って