あらすじ
「佐藤って、ああいうムキムキの男がタイプなの?」「私は下が見たいの。せっかくの屋上なのに」「なあ、ムキムキの男がタイプなの?」「だからプファイフェンベルガーのはなしをするのはいやなんだよ」「まおえがはじめたんだろ」(「プファイフェンベルガー」より)。芥川賞作家が贈る恋愛小説集。
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藤野可織さんの恋愛小説集、と聞いて、ちょっと意外ではあった。読んでみて、やはり一筋縄ではいかない「恋愛」小説ばかりだった。
小説、特に「純文学」とカテゴライズされる類のそれにおいて重要なものが二つあって、それは小説全体に漂う「空気感」と、小説の行く先を決定付ける「瞬間」の二つなのだと私は思う。このどちらか(またはどちらも)がちゃんと書かれている小説は面白いし、面白い小説にはちゃんとそれが書かれているのだと私は思う。
収録されている7編はどれも、現実が幻想に切り替わる瞬間が滑らかであり劇的だった。
たとえば深海魚のことを考えた瞬間に、部屋の電気を点けた瞬間に、玄関のチャイムが鳴った瞬間に、見慣れたはずの現実が突然姿を変えてしまうようなそういう瞬間が、一瞬の隙をついて襲い掛かってくる。それでいて「まあそういうものだから」と、その世界の歪みをするりと呑み込ませてしまう不思議な説得力がある。けれどやはり歪みは歪みであり、この世ならざるものを呑み込めば体が違和を唱えるのは必然であり、読み終えたときには体の奥に、妙なしこりのようなものが残るのだ。
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ジャンルとしてはホラー?寄りの作品が多い印象。表題作『ファイナルガール』の淡々とした進み方が好き。あと、『プレゼント』のナツキのキャラクターも良い。
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7つの短篇が収録されているが、前4編と後ろ3編とではテーマが異なっているように感じた。
「去勢」「狼」「ファイナルガール」に共通する非日常的なモノによる日常の破壊は、筒井の「死にかた」や「走る取的」にも似て、この後の著者の作品にも見られるスラップスティック作品群に含まれるだろう。
異常な事態に見舞われる「プファイフェンベルガー」の閉塞感。「戦争」に於ける記憶と実像の入れ子状況など、かなり重いネタにもかかわらずドライにかつユーモアすら含んだ描き方はさすがだ。
「大自然」はともかく、「プレゼント」だけは良くわからなかった。しかし身体の一部パーツへのフェティシズムにも似たこだわりは、著者の特徴かもしれない。
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何気ない日常のような、だけれどシュールでどこかしら怖く感じてしまう短編集。淡々と何事もないように書かれる事象は、案外異常で。ひそやかな恐怖感が感じられます。
お気に入りは表題作「ファイナルガール」。なんとも凄惨な物語がとても冷静に語られていくのが印象的。うーむ、こんな人生嫌だ(笑)。
「狼」も凄いなあ。おそらく子供心には相当恐ろしいぞこの物語。
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うーむ。なかなか面白かったなーと本を閉じ、概要を改めてみたところ…なんとなんと。これは恋愛短編集だったのか!!
これを恋愛小説としたところかまたすごい好き。藤野さんは芥川賞受賞作で虜になったのだが、とても相性がいい。
今作もいい具合に気味が悪くて、ざわざわーとするのがいいんです。同じ短編集だとわたしはおはなししてこちゃんの方が面白かったなーと感じたのですが、これもなかなか。
中でも好きなのは去勢、プファイフェンベルガー、表題作のファイナルガール!
こんな恋愛小説読んだことないよ、まったく。
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なんと、恋愛小説集だったとは。
覚悟はしていたのだけれど、夜中ひとりで読んでやっぱり後悔。
こんなにざわざわさせてくれるなんて、憎いあんちくしょうなお人。
表題作の「ファイナルガール」も好きだけれど、
熊の防犯ブザーとストーカーの「去勢」がいちばん好き。
天才!
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芸術としての大自然の中でボーイフレンドと過ごす「大自然」
熊の防犯ブザーとストーカー「去勢」
プファイフェンベルガーが好きな女の子はボーイフレンドと映画館の屋上に登る「プファイフェンベルガー」
教え子で彼女である少女と歯を抜きに行く「プレゼント」
彼は狼を恐れている、倒そうとしている「狼」
ハリーとレニーと、そしてサイモンの死「戦争」
「ファイナルガール」は、小さい頃母親のおかげでアパート唯一の生き残りとなった。しかし連続殺人鬼は何度でも訪れる。
彼女は30歳で娘を守り死ぬのだと信じる。
藤野可織は、息を詰まらせる描写がうまいなあ。ホラーでありながらユーモアもあるから、安心して読める。
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まったくすばらしいことだ。彼は成熟しきった男性であるにもかかわらず純潔であり、帰り血で濡れそぼっているにもかかわらず無罪だった。
(P.75)
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「大自然」★★★
「去勢」★★★
「プファイフェンベルガー」★★★
「プレゼント」★★★
「狼」★★★
「戦争」★★★
「ファイナルガール」★★★
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短編
自然とは呼べない美術館でのキャンプで、眠る妹を置いて夜中にひっそりと会う深海魚。
電話口からいつだってストーカーをしてくる存在と、少しも恐怖を感じない矛盾とクマの防犯ブザー。
亡くなった海外の映画俳優を思いながら映画館で閉じ込められる佐藤と伊藤。
虫歯があるとキスをしてから宣言され親知らずを抜歯した家庭教師と教え子で恋人の16歳の少女。
5歳のときに家に来た狼が再び現れたときのために体を鍛えたが、いざというときに怖気好き細くか弱い彼女に助けられた同棲初日。
小説の脇役サイモンに心奪われ、彼氏と別れ戦争により天涯孤独になろうとも、一番に悲しむべき死は存在しないサイモンただ一人だった。
母は自分の命と引き換えに娘であるリサを連続殺人鬼から救ったのは母が30歳頃のことで、
リサもきっとそのくらいで娘のために死ぬと思いきや、襲ってくる連続殺人鬼からを次々と叩きのめして生き延びる人生であった。
不思議な話。理解できないわけではないけれど、正直なぜそうなったのかとかよくわからない。
だけど、嫌いじゃない。爽快に連続殺人鬼を殺していくリサがうけた)^o^(
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読み物としては、普通、かな。
この人は客観的で冷静な視点でホラーを書くから、大仰にならず、淡々と読める。
先日トークショーに行き、この作家を好きな理由はわかった。
Posted by ブクログ
「愛は可笑しい」を帯に冠する私にとっての不思議ちゃん、藤野可織の短編恋愛小説集。
いやぁ笑ったね、いろんな意味で笑わせてもらいました。リノリウムの大自然を泳ぐ深海魚、熊の防犯ブザーに別れを告げられるストーカー、バイキンマンのJKに死なない狼とファイナルガール…でもやっぱり圧巻は不屈のヒーローブファイェンベルガーだろうな。
きっとこの「可笑しい」は英訳するとsuspiciousか、いや敬意を込めて彼女にはYou are insane ! と言ってあげたい。
何かと批判の多い昨今の芥川賞作家のリアル純文学、でも表紙を飾るマルティンクリマス氏の液体窒素でぶっ飛ぶ少女を見ればなんとなくわかるんじゃない。大事だよ「なんとなく」
Posted by ブクログ
芥川賞作家って感じ。
(あたしの勝手なイメージ)
暴力的で
なんとなく気持ち悪くて
なんとなくわけわかんない。
みたいな。
まぁ楽しく読めました。
Posted by ブクログ
前作よりドライで読後が複雑な感じがする短篇集だった。キャンプ物(映画『ムーンライズキングダム』ケリー・リンク『モンスター』)が好きなので『自然』『ファイナル・ガール』が特に良かった。『自然』ではいかにも現代アートにありそうな「自然」の陳腐であやしげな講釈がツボにはまった。人工の物を自然といいきる不自然な環境でのシュールなラブシーン。少年少女達のエゴが強く不器用でシュールな恋愛小説集であった。