司馬遼太郎のレビュー一覧
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ネタバレ日本は、この列島の地理的環境という、ただひとつの原因のために、ヨーロッパにはない、きわめて特異な政治的緊張が起こる。外交問題がそのまま内政問題に変化し、それがために国内に火の出るような争乱が起こり、廟堂(政府)と在野とが対立する。廟堂とは体制のことであり、外交を現実主義的に処理しようとする。野はつねに外交について現実的ではない。現実的であることを蔑視し、きわめて抽象的な思念で危機世界を作り上げ、狂気の運動をくりひろげる。幕末は維新のぎりぎりまで型に終始した。この他国にとってふしぎな型を理解するには、日本の地理的環境にかぎをもとめる以外になぞの解きようがない。
幕威のこの急速なおとろえは、嘉 -
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ネタバレ普通に面白い小説でした。
山内一豊の出世を描く、千代の内助の功の話。
伊右衛門は、木下藤吉郎(豊臣秀吉)の手についたが、出世は遅々として進まない。
そして、ついに時代に転機が訪れる。
信長が、本能寺で自害することとなったのである。
その信長の後継者を巡って対立することになる諸将の中で、いち早く飛び出したのは秀吉であった。
秀吉は、パフォーマンスと話術とで、あっという間に筆頭へと上りつめることになる。
秀吉についた伊右衛門にも、ようやく運が向いてきた。
伊右衛門は、四十歳を目前にして、ようやく大名になったのであった。
ただし、たった二万石の……であったが。
けれど、秀吉の天下も長くは続かなか -
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太平洋戦争には戦略というものはなかった。横井庄一氏のような兵隊を汽船に乗せ、地図にあるかぎりの島々にくばてまわり、配るについては海軍がその護衛をし、まるで棄民のように島々に捨て去りにしたあとは、東条英機という集団的政治発狂組合の事務局長のような人が、東京の大本営で「戦陣訓」というお題目をひたすら唱えつづけただけの戦争であった。20
太平洋戦争というのは、それだけの戦争である。この戦争からひきだせる教訓などなにもない。
「日本は地理的に対外戦争などできる国ではありませんね」というふうに言ってもらうほうがよく、いわゆる、十五年戦争に -
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ネタバレ「耳はばかですから」と、むかし酒を飲む席で秋田実氏がいわれた。この人は、いまは亡い。昭和初年に東京大学を出ると大阪にもどってきて、旧弊なマンザイを一新した人である。万歳を漫才という文字に変えたのもこの人だったと思うが、漫才はむしろ論理やつじつまが飛躍しなければならない。飛躍のあざやかさこそ漫才の本領なんです、と秋田さんはいわれた。ラジオの漫才を聞いている人は、例えば毛糸編みのアニメをかぞえながらでも聞くことができる。耳というのは言葉についてそれほど許容量の大きいものです、といわれた。「目はそうはいかない。実にうるさい」
驚くことはたやすくない。大型動物を見て樹の上に跳び上がるリスのように、生 -
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ネタバレ石油戦略という核心の部分は、むろん隠され、多くの別なことばにつつまれて窺うことができません。この構造を裏づけるに十分な経済力も戦力も日本にはないということまで、さまざまなことばによっておおいかくされ、人々に輝かしい気分をもたせたのです。敗戦の日に、佐々木邦というユーモア作家が「雲の峰 日本の夢は敗れたり」という俳句を作りましたが、この間の消息が想像できます。なにしろいまでもこの幻想を持続している人がいます。この幻想のもとに、そこに参加して生死した数百万の人々の青春も死霊も浮かばれないという気持ちがあるからでしょう。しかし自己を正確に認識するというリアリズムは、ほとんどの場合、自分が手負いになる
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ネタバレ人間というのは、よほど変人でないかぎり、自分の村や生国(こんにちでいえば母校やひいき球団もこれに入る)に自己愛の拡大されたものとしての愛をもっている。社会が広域化するにつれて、この土俗的な感情は、軽度の場合はユーモアになる。しかし重度の場合は、血なまぐさくて、みぐるしい。ついでながら、単なるナショナリズムは愛国という高度の倫理とは別のものである。
しかし、その社会も成熟しはじめたいまとなれば、それがこんにちの私どもを生んだ唯一の母胎であるといわれれば、そうでもないと言いたくなる。いまの社会の特性を列挙すると、行政管理の精度は高いが、平面的な統一性。また文化の均一性。さらには、ひとびとが共有す -
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ネタバレ本能寺の変で辛くも信長の手から四国を守った元親だったが、信長に代わり秀吉が四国へ攻めてきた。
家臣に説き伏せられ、また土佐一国になった元親。秀吉に登城を命じられ秀吉の器の大きさ、土佐の貧しさ、田舎ぶりを思い知る。
夢を失い、土地も失い、多くの犠牲への報いもできず、鬱々と過ごす元親。
唯一の希望は匂やかな美丈夫に育った弥三郎だったが。
まっすぐで清すぎる息子に不安も感じる。
「腹中に三百の悪徳を蔵った一つの美徳を行じよ。それが大将への道だ。」
弥三郎に女をモノのように扱えといいつつ、菜々を大事にしている様子が微笑ましい。
大阪ほど金品に恵まれてはいなかったけど、家族としては幸せそうな長曾我部一