円城塔のレビュー一覧

  • SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと

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    円城塔の翻訳が綴るタイムトラベルもののSF純文学。メタフィクショナルで概念的な世界観は難解に映るものの、文体の軽妙さのおかげかまるで苦痛に感じない。特に翻訳者との親和性は抜群の一言。ウィットに富んだ比喩表現やプログラムとの掛け合い、自己語りなどは『ライ麦畑でつかまえて』のように軽妙洒脱で、非常にスマートで美しい文章だった。帯にある自分殺しのパラドックスが起こるのは中盤からで、やや遅めに感じるかもしれないが、序盤部分でじっくりと語られた主人公の生活や家族との思い出こそが本筋であり、パラドックスのアクシデントそのものは物語の一要素に過ぎない。難解な用語と世界観の把握が困難を極めるものの、一冊の本の

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    2019年05月27日
  • これはペンです(新潮文庫)

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    「良い夜を待っている」は再読
    かんねんてきなSFの中でも登場人物が語り手という手段である面が多く
    随筆ふうな小説
    そのことがらをさまざまな言いようで言い表すことを繰り返して表現するということが
    小説や評論とか随筆などを含む文章表現というものなのだ
    といった感じを包むような世界

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    2018年10月25日
  • シャッフル航法

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    単行本以来で読み返してみると、これ以後の『プロローグ』、『エピローグ』、『文字渦』と直結する内容だったんだなあ。それぞれのエッセンスを単品で味わえる。手法に重きを置いたように見える短編かなと思っていると、かえってそちらの方がエモーショナルで不意を突かれる。

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    2018年09月24日
  • プロローグ

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    自分って何だろう?誰だろー?って思った
    自分の中にある色んな性格だったり考え方が人間として現れる
    私の中には誰がいるんだろう、なんて名前つけよーかなー?って考えると楽しくなってくる
    でもその中に共通性っていうのが自分の主張できる個性なのかもしれないなって

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    2018年07月09日
  • Self-Reference ENGINE

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    短編かと思いきや読み進めるうちに長編小説だと気づく。ナンセンスなのか、全てに意味があるのか私には理解しきれなかったけど面白いことには変わりないです。
    床下から大量にフロイトが出てくる話、Boxを一年に一回転がす話など、現実離れしたシュール・カオスな世界も楽しめて大好き。SFだけどSFじゃない感じ。2周目読んでいます。

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    2018年07月05日
  • プロローグ

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    いわゆる私小説であり、わたしの小説でもあるというのはどうかな。わたしの小説、わたしを(書く)小説、わたしが小説。かなりSelf-Reference ENGINEですね。単行本既読なので2回目ですが明らかにより面白くなったしより理解できたと思います。

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    2018年03月02日
  • Self-Reference ENGINE

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    初、円城塔作品を読んだ(後からそういえば屍者の帝国は読んでたと気づいた)。読んだけれど、読んでいないかもしれない。なにを言っているのか自分でも怪しい。 時間という概念が崩壊し、ありとあらゆる可能性があり得るし、あり得ない世界。未来方向、或いは過去に銃弾が飛ぶ、と聞いても実際に読まないとわからない。 意味がわからないようでわかるけれど、やっぱりわけがわからない。読んでいて常にそんな感じだった。 面白かったのかどうかもやはりわからないけれど、(関連はあるものの)短編の集まりで、読みやすくはあった。

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    2022年01月16日
  • SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと

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    自分で未来の自分を殺す最悪のパラドックス。
    抜け出すには、過去を受け入れること。そんなありきたりの答えは、だからこそ、破壊力がある。
    途中かなりメタフィクション的な実験があちこちにあったけど、終わってみればとても美しい家族小説。
    この本が、『SF的な宇宙で安全に暮らすということ』とは、なんと皮肉なタイトルだろう。
    安全な宇宙から出て身近な人を愛することが出来るのかという問いは、最近読んだディックのヴァリス三部作にも通じるような気がした。

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    2017年02月07日
  • これはペンです(新潮文庫)

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    いつも通りの変態的なメタ小説。タイトルから察しはつくが「書くこと」について書いた小説で、OjiがMoji。ユーモアが冴える。セルフリファレンスエンジンの時はむちゃくちゃ笑えたが、しかし今作はそれだけではなく叙情的でもあり、世界とか空気とか、そういうものが味わえる小説になっていた。表題作「これはペンです」は白眉。もうひとつの「良い夜を待っている」もかなり良くてラストはむちゃくちゃ好きだが、ちょっと雑な感は否めない。難解な議論や問題を引用するのがいいが、いちいち「ややこしい部分は専門家に任せるが、」みたいな注をつけられるとさすがに鬱陶しい。

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    2016年08月20日
  • Self-Reference ENGINE

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    伊藤計劃から派生して読む。ぜんぜん違う。

    無数の入れ子構造と時間の改変、というふたつの柱による、奇想天外な論理物語。
    何でもあり小説。常識は一切通用しない。

    個々のエピソードはそれなりに理解できるのだが、全体を通して何が貫かれているのかを統合するのが難しい。
    まわりくどい文章(語り手云々ではなく著者の声)で煙に巻かれて。
    そもそも大掛かりなジョークでもある。

    はっきりいえばわかっていない箇所のほうが多いのだが、情感あふれる文体や場面に引き付けられる。
    ぐっと胸の詰まる場面も。
    (アンチロマンであるのは間違いないが。)
    つまりは、かっこいいなぁ、と溜め息。
    そして、あた

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    2016年07月14日
  • これで駄目なら

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    カート・ヴォネガットの、卒業式での祝辞等の講演集。
    円城塔の翻訳が意外にはまっている+思った以上にあたたかみのある祝辞が多くて驚く。
    「これで駄目なら」はいつか言いたいセリフだ。

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    2016年06月18日
  • 道化師の蝶

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     旅の間にしか読めない本があるとよい。などという本をすわって読む。飛行機の中では考えがどんどん後ろに取り残されて読めないからである。いやそんなことはない。頭の中の考えも、頭の持ち主と一緒に飛行機で移動しているのだから、考えにも慣性がある。いや考えには質量がないから慣性はないのか。
     飛行機の中で捕虫網でアイディアを捕まえようとするA・A・エイブラムス氏の話を聞く私。
     さてこそ以上、しからばすなわち、A・A・エイブラムス氏の話は各地を旅してはその土地の言葉で作品を書いた友幸友幸の作品らしい。翻訳。コリアンダーとシラントロとパクチーとシャンツァイは同じ。ウコンとウンコも色が同じ。マンガ的には。

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    2016年06月30日
  • Self-Reference ENGINE

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    いくつもの時間と物語の断片から相互に参照し合いながらそのつど生成される機関。という形の小説。入り組みすぎてて笑ってしまうほどだが、完全に理解できなくても判る面白さが絶大にあって、脳が踊る。こんな形の小説は読んだことがないし実際あまりないのだろうけれど、それなのに「これこそが小説としての楽しみだ!」と言えるようなところがあるのは、読むそのつど世界が拡散・収束して私のなかに生成されるからだろうか。小説と物語と書くことと書かれることについて考えた。
    なお佐々木敦の解説がわりあいにわかり易く纏まっていてさすが。読後の整理には役立つが、しかし厳格に整理する必要はあまり感じない。
    円城は本当に小説の構造、

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    2016年05月02日
  • これで駄目なら

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    『人生の目的は、愛すべき人を愛すること。自分の人生をコントロール出来ていないと感じていてもだ。』
    『素晴らしき地球ーーどうにかすることできたはずだ。でも僕らはケチで怠け者だった。』
    地球の部分を自分の生命と置き換えて考えてしまいました。
    自分に対してケチで怠け者な態度はいけないですね。
    どうにか出来る時間はまだあるはずです。
    さてこのこの本はカート・ヴォネガットのスピーチの記録です。
    大学の卒業式や講演会などですね。何の気なしに読んだんですが、
    ラスト131ページの言葉読んで涙腺崩壊!!!
    糸井重里さんのコピーに同感。
    『ヴォネガットは目とこころにしみる。』
    目にしみすぎちゃて、しみすぎちゃっ

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    2016年02月22日
  • SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと

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    書評的な宇宙で無批判に暮らすっていうこと

     チャールズ・ユーなんて知らない。これが処女長編というから、知らなくても当然だが、円城塔が初の長編翻訳していて、この珍妙なタイトル。これは買い。
     しかも時間SFである。私は時間ものが大好きであることを公言してはばからない者だが、サグラダ・ファミリアの真ん中でも公言するし、陸前高田市の奇跡の一本松の根元でも公言する。するだろう、するに違いない、したかも知れないが、しているところである。

     主人公チャールズ・ユーはタイムマシン修理屋。タイムマシンものをかなり読んできたがこういう職業ははじめてだ。しかも流しの修理屋。狭い四畳半アパートみたいなタイムマシ

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    2016年02月15日
  • バナナ剥きには最適の日々

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     わかるとかわからないとか問題にするならば、まずはわかるということを明確に定義し、わかるということがよくわかるようにしなければならないということがわかるのである。
     円城塔の書評ならば、まずはこんな感じで始めればいいんじゃないか。
     お風呂掃除をしながら、猫はそう考える。
     そして「おふろそうじ」は「さむらごうち」と似ている、と思う。
     思えば、かの「おふろそうじ」氏も、「わからない」現代音楽を否定して、「わかる」語法で長大な交響曲というモニュメントを打ち立てたかったのではないか。そこにナルシシスティックな自己宣伝が混じっていたから人々の反発をかきたてているのだが、「わかる」ものを作り出したい

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    2016年02月07日
  • Self-Reference ENGINE

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     たとえば、『ダ・ヴィンチ・コード』は息もつかさぬ展開で、一気に読まされたにもかかわらず、読後、もの凄く不満が残った。その含蓄の浅さはさておいても、小説でなければならない必然性がないのだ。アクションの連鎖なら映画のほうが効果的ではないか。
     本書『Self-Reference ENGINE』は小説であらねばならない手応えを感じさせてくれる。それでいて至って軽く不真面目な語り口。しかも語り得ぬことを、ヴィトゲンシュタインのように沈黙せずに、とにかく、何とか語ってしまったのだ。

     もちろん映画にはできないだろう。20の短編にプロローグとエピローグのついた22の断章(文庫化に際し、2編増えた)。そ

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    2016年02月07日
  • 道化師の蝶

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    個人的には、非常に脳を揺さぶられる感があり、とても楽しめた。時空を飛んで、鏡の中を行き来するようなそんな錯覚を覚えるような、話の展開。年に一冊くらいこんな本に巡り合えたらどんなにか楽しいか。良作だと思いました。

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    2015年12月29日
  • 好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美

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    名所旧跡というものがある。人の口に上るので、自分では特に行ってみたいと思っていなくても、一度くらいは行っておいたほうがよいのではと思ってしまう、そんなようなところだ。古典というのもそれに似たところがあるのかもしれない。学校の歴史の授業で名前だけは聞いていても、『雨月物語』はともかく、色恋や女郎買いを主題とした『好色一代男』や『春色梅児誉美』などは、文章の一部すら目にしたことがない。ましてや山東京伝の名前は知っていても廓通いのガイドブックである『通言総籬』などは作品名さえ教科書や参考書には出てこない。しかし、出てこないから、大事ではないということではない。

    「色好み」というのは、日本の文化・伝

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    2015年12月24日
  • Self-Reference ENGINE

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    「書くこと」についてのSFなのか。
    何を言っているのかよく分からないことが多い。それでも奇妙につじつまが合っているように感じることも多々ある。
    難解さと「分かったような気がする」感のバランスがちょうどよく、こういう本を読むのは楽しい。

    とにかく、この内容をこれだけの長さで書ききることができるのはとんでもないことだ。

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    2018年11月06日