あらすじ
叔父は文字だ。文字通り。文章自動生成プログラムの開発で莫大な富を得たらしい叔父から、大学生の姪に次々届く不思議な手紙。それは肉筆だけでなく、文字を刻んだ磁石やタイプボール、DNA配列として現れた――。言葉とメッセージの根源に迫る表題作と、脳内の巨大仮想都市に人生を封じこめた父の肖像「良い夜を持っている」。科学と奇想、思想と情感が織りなす魅惑の物語。
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短編集あるある、表題作より併録されている方の作品の方が好きになる。
今回のもそれで、というかそもそもそっち目当てで9,8年振りに手に取った本書。小説のために書かれた小説(のために書かれた小説)。
自動小説生成装置がもしもあるとするなら、それに反抗していきたいというのが著者のスタンスらしい。前半はそれこそAIが書いたかのような、文法だけ正しくて内容は支離滅裂な文章が続くが、終盤に至るにつれ比較的物語としてわかりやすい展開となっていき、コントラストで無理やり感動させられてる感、いや実際、謎にとても感動する。
著者のブログには小説の書き方のポイントがまとめられていておもしろい。曰く、「2人の登場人物が、時空的に離れた場所で、それぞれモノローグする(なんかわからんが泣ける)」、「特定のジャンルものとしてはじめ、ある地点でジャンル自体をひっくり返す(エロ漫画と思ってたらハードSFだった、みたいな?)」、「理詰めで押し続けるように見せて、限界に達したところで破綻させる(感情を喚起しやすい)」など。
まんまとハメ手にハメられた。
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「これはペンです」 5
始
叔父は文字だ。文字通り。
終
たとえそれが、あなたの目には文字なのだとしか映らなくても。
「良い夜を持っている」 4
始
目覚めると、今日もわたしだ。
終
いつから握っていたのだろうか、丸く赤いビー玉が夜の中へ走り出る。
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『これはペンです』
文字に飲み込まれるように読んだが面白かった。言いたいことや内容はなんとなく理解することもできた。しかし誰かに説明しろと言われたら説明することはできないだろう。でも面白かったことは確かなのだ。きっと読んだ人ならこの感想が通じるはず。
小説内で感情を示す表現は少ないが、主人公にとって叔父は大事な人だということがひしひしと伝わってきた。主人公とのやり取りが、叔父にとっての愛情表現なのかもしれない。
『良い夜を待ってる』
これはペンですの続編ともとれる作品。こちらもこれはペンです同様に難しく、脳を使うのでお腹が空く作品だった。
理系の人が愛を言語化するとこんな感じになるのかなと思い、少し笑ってしまった。
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「良い夜を待っている」は再読
かんねんてきなSFの中でも登場人物が語り手という手段である面が多く
随筆ふうな小説
そのことがらをさまざまな言いようで言い表すことを繰り返して表現するということが
小説や評論とか随筆などを含む文章表現というものなのだ
といった感じを包むような世界
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いつも通りの変態的なメタ小説。タイトルから察しはつくが「書くこと」について書いた小説で、OjiがMoji。ユーモアが冴える。セルフリファレンスエンジンの時はむちゃくちゃ笑えたが、しかし今作はそれだけではなく叙情的でもあり、世界とか空気とか、そういうものが味わえる小説になっていた。表題作「これはペンです」は白眉。もうひとつの「良い夜を待っている」もかなり良くてラストはむちゃくちゃ好きだが、ちょっと雑な感は否めない。難解な議論や問題を引用するのがいいが、いちいち「ややこしい部分は専門家に任せるが、」みたいな注をつけられるとさすがに鬱陶しい。
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小説の小説であり、機械と人間の小説でもある。筆者が何度も試みているテーマだけれど、そのたび違う視点で、違う混乱を連れてきて、違う興奮を呼び覚まして、つまりすごく面白い。真面目なのかふざけているのか判らないところと、あとすこしで理解できそうなところで突き放すところが大好きです。SFマガジンで新作連載するそうで大層楽しみです。
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時間をかけて読めばわかるような気もするし、わかっていないような気もする。
・これはペンです
叔父=「書くこと」
「書く」とはどういうことなのかということを、あらゆる極端な方法を試すことで浮かび上がらせる話。
テーマを言ってしまえばそれまでだけれど、それを叔父という存在を通して描いたことに面白味というか発想の意味がある。
このことが、物語の中で描かれている、「書く手法は書くことに意味を与えるのか」という問いのひとつの答えになっているのかな?と思った。
大きな入れ子構造?
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表題作は“叔父は文学だ。文字通り。”の書き出しで、抗う間もなく円城塔ワールドに放り込まれる。大学生の姪が、叔父と不思議な手紙のやり取りをしているのだが、途中、この叔父は本当に存在しているのかと疑いたくなった。同時収録の『良い夜を待っている』は、息子が語る父の人生。記憶の宮殿ならぬ記憶の巨大都市。読んでいると、記憶能力以上に、忘却能力の偉大さを思い知らされた。(再読本)
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比較的読み易かった。「これはペンです」:叔父の正体はちゃんと分かったし、「良い夜を待ってる」:あらゆることを記憶し忘れないという父の主観を文章にする手法が面白かった。ボルヘス好きなんだろうなぁ
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著者の作品はSelf-Reference ENGINEと屍者の帝国(共著作)しか読んだことがないのですが、その中では一番読みやすかったです。小説なんだか小説論なんだか。表題作より「良い夜を持っている」の方が好みかな。というか表題作はよくわからなかったので…再読します。ところどころ出てくる科学用語に知らないものがあって少し勉強になりました。
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ああこんな感じ方もあるのかと、頭の奥で思考がぷちぷちはじけて気持ちよい。数学の概念を理解しようとするときの感覚そのままなので大好きです。
脈絡なく思いついたものから次々と連ねただけのようにしか見えないのに、グッときたことばを一節抜きだしてみたらそれだけでバラバラになってしまった。ごちゃごちゃと考えてまとまらないことをむりやり要約してみたら意味が全部取れてしまったときみたい。この感覚のことまでうまく言葉にされているので恐れ入ってしまいます。
理系はロマンチックだ
Posted by ブクログ
難解といえば難解だけど、文体がしっかりしているから読みやすい。
ネタバレになるので詳しく書かないけれど、表題作の「これはペンです」と、もうひとつの収録作品「良い夜を持っている」のつながりに、ある場面で気づいたとき、思わず「うわっ」と声が出そうになった(^^ゞ
勘のいい人なら、もっと早く気づくのかもしれないけどね。
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存在の証明。この本を読んでて思い浮かんだ言葉。小説とは何か、についてつらつら述べられているだけではなくて、人が存在するとはどういうことか、をずっと考えさせられる一冊でした。ちょっと読みにくいけど、面白かった。
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理解しきれていない。長期休暇中にまた挑戦する。言語について掘り下げられた一冊。『良い夜を待っている』の方が好き。言葉にして説明することが難しい、抽象的なことを描写している点がすごい。自分が普段目にしているモノが物事の一面にすぎないことを痛感した。言語についてもっとしっていたらもっと理解しやすかったかもしれない。言葉は記号にすぎないこと。モノで記憶する方法。「無」について考えようとして亡くなった父は最後にどんな世界をみたのか。再読必須。見たことのない世界を見せつけられました。他作品も読みたい。
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■「これはペンです」
叔父は文字だ。文字通り。
■「良い夜を持っている」
目覚めると、今日もわたしだ。
それぞれの書き出しだが、短く端的で膨らみがある。
そこから始まるのはどちらも物語というよりは、徒然なレポートのようなもの。
叔父や父といった近親者が、妙に遠く、特殊な存在である。
自動文章生成の叔父、
超記憶のため二重写しの街に心漂わせる父。
飄々と孤高に生きることをしている。
さらにスポットは語り手自身の意識にも亘る。
最終的には書くこと考えることについての小説になっている。
やはりこの作者の書くものは素敵だ。
Posted by ブクログ
中編程度の作品が2本の薄い本だが、読み終わるまでにかなりの時間がかかった。瀬名英明の『デカルトの密室』を思い出したが、円城の方が余計なストーリーが織り込まれていない分、密度が濃い。
人の心理や慕情や老いへの哀しみやコミュニケーションを扱った文学とは見えない。いや、コミュニケーションの理論を扱ってはいるのだが、それは工学の分野の「情報理論」の定理、法則、仮説などなどを思考実験で小説の体をとって射影したようなものだ。機械学習の分野が急激な発展を遂げている昨今では、情報空間をどのように描写するかが文学のテーマにもなりうるということを円城は示したかったのか。
Posted by ブクログ
円城塔3つ目。
前の短編集に比べると私でも読めた。
文字でしか交流できない叔父と、あらゆる全てを記憶してしまう父。家族や親類という近しい人間を、このように特異に描くことで、物理的な距離を感じるとしても、精神的なつながりは強固にあるというように感じた。
文字の叔父さんはかなり捻くれてるなと思うだけだった。なんやら色んなもので文字を書いて手紙として送る。意図はよくわからない。
超記憶のお父さんは辛いだろうな。確かに、なんでも鮮明に覚えているということは、自分は一体今どこに存在しているのかが分からないんだろうな。間違いをも記憶し続けるなら、これは間違いだと記憶しておく二重の作業がいるな。キツイね。
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とてもとっつきにくいと感じてしまい、なかなか進みませんでした。手紙を読むのにこんなに苦労させられるなんて、主人公のように調べる意欲がかなり必要ですし、定期的に来るとなるとついていくのは難しいですね。
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姿の見えない叔父との手紙とメールのやり取り。
あらゆる方法で文字を書き手紙を送ってくる叔父。そんな叔父の姿を見極めようと試行錯誤する姪のお話…なのかな?
『良い夜を持っている』はこの叔父のあらゆることを忘れない、超記憶保持者の父親の話。
Posted by ブクログ
▼表題作
1+1=2という計算させるのにもプログラムを作らねばならなかった時期だけはようやく脱し、まだみんなハンドアセンブリでマシン語使うかBASICインタプリタを使っていて、かろうじて半角カタカナは使えるマシンが出始めたがひらがなや漢字など全角文字はグラフィックで描かないかぎり存在しなかったパソコン(パソコンという語も生まれたばかりでずっとマイコンと呼ばれていた)草創期、俳句の自動生成プログラムを作ったことがありそれは季語データベース(とりあえず五文字か七文字になるようにしておいたもの)と、五文字語、七文字語のデータベースを作っていき、それらをランダムに組み合わせるだけだったのだが、たまにはけっこうおもろい俳句ができデータベースを増やすにつれバリエーションも増えていったのでデータベースを外部に持たせ(当時は磁気テープが主流でフロッピーディスクですら高額で入手困難だったが)量的な問題をクリアした上で洗練させていけばいつか質量ともに既存及び未来の俳人全てを凌駕していけそうな気もしてた。最終的には俳句採点プログラムを作ろうとか思ってた。ちなみにぼくは俳句に興味がないわけではないのでけっこう読んではいるがちゃんと作ったことはほとんどなくこれまで作った総量で千句ていどかと思う。でもまあ特に囲碁将棋が強くない人でも強いプログラムを作ることは可能なもんやからなんとかなるやろうと。ちなみに試しに作った五目並べプログラムはぼくより強かった。ともあれ次は語句の関係性を考慮できるようにして無駄な句を減らしつつ思いがけなさの面白味は残すようにしたいとか思ってた頃、パソコンが世の中で仕事の道具になり始め玩具としておもろなくなっていったので途中やめになった。なんかその頃を思い出した。
《否定とその否定の否定。叔父の時間はそんな単純なやりかたで駆動されている。》p.28
《自分が切り貼りをしていると承知しながら、全く別の内容を書こうとする輩が一定の割合ででてくるからだ》p.60。学生のときこういうのやったことあるなあ。99%あちこちからの引用で、引用元とは全く異なる内容の論文にした。ぼく的には面白かったけど、誰も評価してくれなかった・・・単にレベルがいまいちやっただけかもしらへんけど。
この本、何が書かれてあるのか一度目で全て理解しながら読んだ人がいたらすごいもんやなあと思う。あるいは眠くならずに読めた人も。
ときおり何も考えず意味もなくほぼ自動筆記したらこんな文章になったような気もする。
作家なら一度はこういう文章を書いておきたいもんやないかなあと思う。
たまに読み返したらなんとなく刺激受けるんやないかなあと思う。電子書籍の形でもいいので持っておきたい一冊。
ある意味メタやけどメタっぽいしらける感じはなくそこはかとなく面白く感じさせるのはえらい力量やなあと思った。
▼良い夜を持っている
記憶の中に都市を構築した父の話。確実ではないが「これはペンです」の叔父の父ということだろう。姪にとっては祖父ってことになる。
記憶は改竄できるものだから、もし完全な記憶力を持っている人間がいるならその人はタイムトラベラーかもしれない。
自分のなかで増殖し続ける迷宮都市をさまよいつづける父の肖像。
無限に入れ子になっていくエミュレータとしての架空の都市群?
ぼくの卒論は大雑把に言えば「文学における記憶というもの」だったのでこの作品を面白がる素地はあった。
卒論の形式は注につぐ注の塊で互いが互いの注であり続け本文量は全体の一割もなかった。発想をきっちり伝えるためにはそうするしかなかった苦肉の策だったが提出した夜、教授から「面白かったよ」とわざわざ電話がかかってきた。
昔のMacにおまけでついてきてたハイパーカードというアプリの機能ロックを外したものに出合ったときこれがあったらもっとうまく構築できたなあとか思った。
【一行目】
叔父は文字だ。文字通り。(これはペンですp.9)
目覚めると、今日もわたしだ。(良い夜を持っているp.119)
Posted by ブクログ
どこかで筆者の“時間”に関するエッセイを読んで、短い文章だったけどすべてが自分の知らないことで、衝撃を受けた。
そしてこの小説。この人の頭の中はいったいどうなっているのだろう。
小説なのか、ただの文字なのか、すべてがでたらめな気さえする。
Posted by ブクログ
何について述べているのか、何がどうなるのかなんともわからないままひたすらページを捲り、本も後半になった頃急にわかった!と思った次の瞬間、やっぱりよくわからんとなりました。
他人の頭の中はよくわからないことを久しぶりに思い出し、他人を無理に理解しようとするのはよくないなと再認識出来た一冊です。
Posted by ブクログ
読むのにメタフィクションに対する意識とサイエンスやテクノロジーに関する素養が必要になる。混沌としているようで整然としていてある意味で面白いという感じかな。受賞作よりもペン、ペンよりも良い夜が個人的には面白かったかな。テーマの設定は面白い人だなと思うので相性のいい作品を読むことができれば好きそうというのが読んだ印象。面白いテーマ設定をする、できる人が少ないので貴重かなと思う。
Posted by ブクログ
頭のいい理系の人が書いた小説だということはすぐわかる。アイディアが斬新で、こんな小説があるのかとびっくりしたのは、私が理系頭ではないせいか。ものを書くとはどういうことなのかと、改めて考えさせられた。
切り貼りの件では、某大学で、自分で独自に執筆した文章を一字一句たりとも交えてはいけないというレポートが課されたという記事をいつだったか読んだのを思い出し、くすっと笑ってしまった。
が、私の好みはストーリーテラーなので、星3つでごめんなさい。
Posted by ブクログ
“わたしが計算機室で見出すのは、ループに落ち込み、くるくると虚しく回っている判定プログラム。複数の分岐したルーチンたちが活発に互いを牽制しつつ、分岐の先のどの結論を議決するのか、盛んな言い争いを続けている。計算はそうして続いているが停止をする様子は見えず、結論が導き出される気配はない。健忘症に襲われた登場人物たちが自分たちでは気がつかないまま、堂々巡りの議論を続ける。
抽出された叔父の特徴たちは互いに互いを論駁しながら、どこかの結論へと落ち込むことを拒否し続ける。
ドアを蹴破るようにして登場したわたしが突きつけたプリントアウトを乱雑な机の上に放り出し、教授は降参するように両手を挙げる。
「二十四」
と眠そうに重い瞼を持ち上げつつ、教授は問う。
「二十四」
とわたしは答える。”[P.99_これはペンです]
少し泣きそうになる。
よいよる。
「これはペンです」
「良い夜を持っている」
“父は絶えず、このような想起に直面していた。何かを覚え、思い出し方を設定し、思い出し方を思い出し、何を思い出すのだったかを洗い出し、自分が何を知らないのかを選別しては拾い続けた。自分の袖に赤い光が灯るのを見て、思い出すべき単語は、父だったのか、袖だったのか、腕だったのか、肌だったのかを自分で決めねばならなかった。
父がその技を自在に扱えるようになるまでは長い時間が必要だったし、達成できたかどうかは意見が分かれる。”[P.157_良い夜を持っている]
20170504 再読