初の円城塔作品。
20+2のお話で構成されており、一つ一つ独立した最高に面白いSFとして読むこともできるが、世界観は同じで少しずつ繋がっているため、壮大な長編として楽しむこともできる。
プロローグの「Writing」での本についての書き出しから、圧倒的文才と理系的思考が爆発していて一気に掴まれた。
第一部:Nearsideの
「01 Bullet」ではこめかみに銃弾が埋まった少女とそれに恋をする少年のお話だが、そこからタイムパラドックス的なお話が展開されていくのが楽しかった。
「02 Box」では箱を倒すという謎の儀式を毎年行う家族のお話で、現実でもありそうと思ったがそこから話はさらに遠くへと飛んでいく。
「03 A to Z Theory」はこの本の中でも上位に好きなお話で、とある論文についての話なのだが、そのありえなさと妙なリアリティが心地よかった。ミステリーオタクとSFオタクの描写も必見。
「04 Ground 256」はイベントによって家具やら何やらが生えてくる村のお話である。明るめのお話で読みやすいSFであったが、重要な要素がちょこちょこ登場していることに後で気づき、もう一度読みたくなった。
「05 Event」はいままでのお話で匂わされてきたイベントや巨大知性体についてのお話となっており、この作品の要素の核となるお話であると思った。
「06 Tome」はトメ教授の最終講義、鯰文書、興味をそそるワードが出まくりで面白かった。
「07 Bobby-Socks」はタイトルの通り可愛い靴下が主人公のお話。ありえない設定にすごいリアリティ。これこそSFだと思う。
「08 Traveling」は他のお話とは色が少し変わって、ゴリゴリSFだと思った。操縦桿は上下左右に過去と未来!
「09 Freud」はあのフロイトが床下から出てきてしまった家族のお話。これも設定で勝ち。
「10 Daemon」では人間ジェイムスと巨大知性体ユグドラシルのやり取りによって進む。人間と巨大知性体の対比をしつつ、敵からの攻撃に対するこちら側の疾走感が感じられ良かった。
第二部:Farside
「11 Contact」では超越知性体が登場し、10で巨大知性体の凄さが際立てられていたために余計に恐怖を感じた。
「12 Bomb」では、いままでのこのお話全てを否定するような医者が登場する。このタイトルの理由は何なのかぜひ見届けてほしい。
「13 Japanese」では日本文字についてのお話である。文字を題材にSFを書けるのかと驚いた。
「14 Coming Soon」では映画の予告風なお話となっており不穏な終わりの雰囲気を感じつつも楽しく読むことができた。
「15 Yedo」では突然江戸っ子口調の二体の巨大知性体が登場し、そのテンションのまま話が進んでいく。とても読みやすい。
「16 Sacra」では巨大知性体の崩壊について描かれる。人間より上位の存在であっても崩壊する時が来るという切なさを感じる。
「17 Infinity」では、「01 Bullet」でのこめかみに銃弾が埋まっていた少女が主人公となりおじいちゃんとの不思議な関係が描かれている。設定というよりは主人公の思考が理系よりのSFという感じだった。
「18 Disappear」では巨大知性体の絶滅について描かれる。その中で最初の滅びた理由でないものを挙げていくところが特に好きで、その一つ一つで作品を書きてほしいと思うぐらいバラエティ豊かな滅び方にワクワクした。
「19 Echo」は、もともとは人間の女性だったのが、数々の功績を残した後に箱型の巨大知性体となるというお話で、ゴリゴリSFで話は進みながらも最終的にはほっこりしてしまう素敵なお話だった。
「20 Return」はタイトルの通り全てが戻ってくるような最後にふさわしいお話だった。
エピローグの「Self-Reference ENGINE」では作品名の意味を知ることができ、最後の最後までこの作品の世界観を堪能できた。
初めてということでビビっていたが、一つ一つの設定が面白く少しづつ繋がっているのでもう一度読んで更に深く楽しみたいと思った。
特に好きなのは、1,3,7,11,12,13,15,18