【感想・ネタバレ】Self-Reference ENGINEのレビュー

あらすじ

彼女のこめかみに埋まった弾丸。鯰文書の謎を解き明かす老教授の最終講義。床下の大量のフロイト。異形の巨大石像と白く可憐な靴下。岩場を進む少年兵の額に灯るレーザーポインタ。反乱を起こした時間。そして、あてのない僕らの冒険──これはSF? 文学? あるいはまったく別の何か? 驚異のデビュー作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

初の円城塔作品。
20+2のお話で構成されており、一つ一つ独立した最高に面白いSFとして読むこともできるが、世界観は同じで少しずつ繋がっているため、壮大な長編として楽しむこともできる。

プロローグの「Writing」での本についての書き出しから、圧倒的文才と理系的思考が爆発していて一気に掴まれた。
第一部:Nearsideの
「01 Bullet」ではこめかみに銃弾が埋まった少女とそれに恋をする少年のお話だが、そこからタイムパラドックス的なお話が展開されていくのが楽しかった。
「02 Box」では箱を倒すという謎の儀式を毎年行う家族のお話で、現実でもありそうと思ったがそこから話はさらに遠くへと飛んでいく。
「03 A to Z Theory」はこの本の中でも上位に好きなお話で、とある論文についての話なのだが、そのありえなさと妙なリアリティが心地よかった。ミステリーオタクとSFオタクの描写も必見。
「04 Ground 256」はイベントによって家具やら何やらが生えてくる村のお話である。明るめのお話で読みやすいSFであったが、重要な要素がちょこちょこ登場していることに後で気づき、もう一度読みたくなった。
「05 Event」はいままでのお話で匂わされてきたイベントや巨大知性体についてのお話となっており、この作品の要素の核となるお話であると思った。
「06 Tome」はトメ教授の最終講義、鯰文書、興味をそそるワードが出まくりで面白かった。
「07 Bobby-Socks」はタイトルの通り可愛い靴下が主人公のお話。ありえない設定にすごいリアリティ。これこそSFだと思う。
「08 Traveling」は他のお話とは色が少し変わって、ゴリゴリSFだと思った。操縦桿は上下左右に過去と未来!
「09 Freud」はあのフロイトが床下から出てきてしまった家族のお話。これも設定で勝ち。
「10 Daemon」では人間ジェイムスと巨大知性体ユグドラシルのやり取りによって進む。人間と巨大知性体の対比をしつつ、敵からの攻撃に対するこちら側の疾走感が感じられ良かった。

第二部:Farside
「11 Contact」では超越知性体が登場し、10で巨大知性体の凄さが際立てられていたために余計に恐怖を感じた。
「12 Bomb」では、いままでのこのお話全てを否定するような医者が登場する。このタイトルの理由は何なのかぜひ見届けてほしい。
「13 Japanese」では日本文字についてのお話である。文字を題材にSFを書けるのかと驚いた。
「14 Coming Soon」では映画の予告風なお話となっており不穏な終わりの雰囲気を感じつつも楽しく読むことができた。
「15 Yedo」では突然江戸っ子口調の二体の巨大知性体が登場し、そのテンションのまま話が進んでいく。とても読みやすい。
「16 Sacra」では巨大知性体の崩壊について描かれる。人間より上位の存在であっても崩壊する時が来るという切なさを感じる。
「17 Infinity」では、「01 Bullet」でのこめかみに銃弾が埋まっていた少女が主人公となりおじいちゃんとの不思議な関係が描かれている。設定というよりは主人公の思考が理系よりのSFという感じだった。
「18 Disappear」では巨大知性体の絶滅について描かれる。その中で最初の滅びた理由でないものを挙げていくところが特に好きで、その一つ一つで作品を書きてほしいと思うぐらいバラエティ豊かな滅び方にワクワクした。
「19 Echo」は、もともとは人間の女性だったのが、数々の功績を残した後に箱型の巨大知性体となるというお話で、ゴリゴリSFで話は進みながらも最終的にはほっこりしてしまう素敵なお話だった。
「20 Return」はタイトルの通り全てが戻ってくるような最後にふさわしいお話だった。
エピローグの「Self-Reference ENGINE」では作品名の意味を知ることができ、最後の最後までこの作品の世界観を堪能できた。

初めてということでビビっていたが、一つ一つの設定が面白く少しづつ繋がっているのでもう一度読んで更に深く楽しみたいと思った。
特に好きなのは、1,3,7,11,12,13,15,18

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2024年05月25日

Posted by ブクログ

短編かと思いきや読み進めるうちに長編小説だと気づく。ナンセンスなのか、全てに意味があるのか私には理解しきれなかったけど面白いことには変わりないです。
床下から大量にフロイトが出てくる話、Boxを一年に一回転がす話など、現実離れしたシュール・カオスな世界も楽しめて大好き。SFだけどSFじゃない感じ。2周目読んでいます。

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2018年07月05日

Posted by ブクログ

初、円城塔作品を読んだ(後からそういえば屍者の帝国は読んでたと気づいた)。読んだけれど、読んでいないかもしれない。なにを言っているのか自分でも怪しい。 時間という概念が崩壊し、ありとあらゆる可能性があり得るし、あり得ない世界。未来方向、或いは過去に銃弾が飛ぶ、と聞いても実際に読まないとわからない。 意味がわからないようでわかるけれど、やっぱりわけがわからない。読んでいて常にそんな感じだった。 面白かったのかどうかもやはりわからないけれど、(関連はあるものの)短編の集まりで、読みやすくはあった。

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2022年01月16日

Posted by ブクログ

伊藤計劃から派生して読む。ぜんぜん違う。

無数の入れ子構造と時間の改変、というふたつの柱による、奇想天外な論理物語。
何でもあり小説。常識は一切通用しない。

個々のエピソードはそれなりに理解できるのだが、全体を通して何が貫かれているのかを統合するのが難しい。
まわりくどい文章(語り手云々ではなく著者の声)で煙に巻かれて。
そもそも大掛かりなジョークでもある。

はっきりいえばわかっていない箇所のほうが多いのだが、情感あふれる文体や場面に引き付けられる。
ぐっと胸の詰まる場面も。
(アンチロマンであるのは間違いないが。)
つまりは、かっこいいなぁ、と溜め息。
そして、あたふたする巨大知性体萌え。

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2016年07月14日

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いくつもの時間と物語の断片から相互に参照し合いながらそのつど生成される機関。という形の小説。入り組みすぎてて笑ってしまうほどだが、完全に理解できなくても判る面白さが絶大にあって、脳が踊る。こんな形の小説は読んだことがないし実際あまりないのだろうけれど、それなのに「これこそが小説としての楽しみだ!」と言えるようなところがあるのは、読むそのつど世界が拡散・収束して私のなかに生成されるからだろうか。小説と物語と書くことと書かれることについて考えた。
なお佐々木敦の解説がわりあいにわかり易く纏まっていてさすが。読後の整理には役立つが、しかし厳格に整理する必要はあまり感じない。
円城は本当に小説の構造、というところに関しては他の作家間の間でも卓抜していると思う。文章にやや引っかかる癖を感じたけど、デビュー作ということで、ご愛嬌。

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2016年05月02日

Posted by ブクログ

 たとえば、『ダ・ヴィンチ・コード』は息もつかさぬ展開で、一気に読まされたにもかかわらず、読後、もの凄く不満が残った。その含蓄の浅さはさておいても、小説でなければならない必然性がないのだ。アクションの連鎖なら映画のほうが効果的ではないか。
 本書『Self-Reference ENGINE』は小説であらねばならない手応えを感じさせてくれる。それでいて至って軽く不真面目な語り口。しかも語り得ぬことを、ヴィトゲンシュタインのように沈黙せずに、とにかく、何とか語ってしまったのだ。

 もちろん映画にはできないだろう。20の短編にプロローグとエピローグのついた22の断章(文庫化に際し、2編増えた)。それぞれの短編はまあ、映画にできるかも知れない。死んだ祖母の家を取り壊したら、床下から22体のフロイトが出てきて、親族が困って会話を交わす。十分映像化はできる。シュールな短編映画。
 しかし22の断章が醸し出すヴィジョンは映像化できまい。『虐殺器官』の帯に、宮部みゆきの「私には三回生まれ変わってもこんなのは書けない」という讃辞が載っていたが、可能性の問題としてならば、才能に恵まれ、修練を積めば『虐殺器官』の執筆は手の届く地平にあると思うのに、『Self-Reference ENGINE』は宇宙が三回生まれ変わっても書けそうにないという気がする。

 何かが起こった。それをイベントと呼ぶ。そのイベントとは時空構造が壊れてしまったことらしい。時間が順序よく流れなくなってしまった。その原因は人工知能が進化して自然と一体化して巨大知性体となった、その知性体が関係しているらしい。巨大知性体たちは時空構造を元に戻そうとたがいに演算戦を繰り広げている。

 何だか解らない? ジグソウの最後のひとつまでかっちりと嵌って「解った」とならないと気が済まない向きにはほとんどストレスフルな小説だろう。だいたい時間の前後関係が成り立たなくなった世界など記述可能ではないし、われわれの脳では理解できるはずもないのだ。自然と一体化した巨大知性体というのは、結局のところ世界がコンピュータ上のシュミレーションと化したといっているのではないだろうか。その巨大知性体同士の演算戦とは世界の書き直し合いということだろうか。
 作者はそんな風に安易に説明してくれず、鯰の像が消えたとか、靴下が生きているとか、奇天烈な断章を語るのだ。でもどこかでジグソウのピースがかちっと嵌っているらしいというあたりが知的興奮をかき立てるのだ。

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2016年02月07日

Posted by ブクログ

「書くこと」についてのSFなのか。
何を言っているのかよく分からないことが多い。それでも奇妙につじつまが合っているように感じることも多々ある。
難解さと「分かったような気がする」感のバランスがちょうどよく、こういう本を読むのは楽しい。

とにかく、この内容をこれだけの長さで書ききることができるのはとんでもないことだ。

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2018年11月06日

Posted by ブクログ

このひとの頭の中はどんな構造をしているんでしょうか(^^;)(笑)

別の作品も読んでみたくなりました!

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2015年04月09日

Posted by ブクログ

とりあえず巨大知性体萌え!(「自然」萌えか?) メタとメタとメタの隙間にナンセンスをゴリ押しで突っ込んだような文体は筒井康隆の偏執的な長編を思い出させるけど、あそこまで読んでて虚しくはならないw 全く関係無いように見えて、すこしだけ関係のある短編集にワクワクしてしまう人におすすめ。メタな話にあんまり慣れてないと読むのは辛いのかもしれないけど、正直理解できなくても(僕のように)十分楽しめると思う。解説が丁寧なのも良!

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2016年01月17日

Posted by ブクログ

全体を通した作品の理解度としては、私は低い方だと思うし、分かりにくい小説だったなとも感じる。
でも短編単位で読んでも面白いし、短編を1つずつの章に見立てて長編作品として捉えてもまた楽しかった。長編作品として読むときには点と点が線で繋がったような感覚が楽しかった。
個人的には「理解度は低いけど満足度は高い作品」って感じ。

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2025年11月23日

Posted by ブクログ

アニメ『ゴジラS.P』きっかけで本書を手に取った。
イベントなる時空破壊現象後、巨大知性体らが演算戦を繰り広げる世界。
非常にバラエティに富んだ22篇もの複雑な短編から構成されているが、解説がめちゃくちゃ丁寧で全篇のあらすじをまとめてくれているため、読後復習になり大助かり。
『三体』を彷彿とさせるような「Contact」と、何もかもがいい意味でぶっとんでる「Yedo」が好き(「八丁堀の巨大知性体」「サブ知性体ハチ」などのパワーワードw)

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2021年05月23日

Posted by ブクログ

買ったのは大昔。なんだかめんどくさそうな作家だなーと積んでたんですが、いあー面白かった。
シンギュラリティ後、いろいろあって次元的にむちゃくちゃになった世界を、ユーモアで包んだ連作集。
映画化不可能!

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2021年05月16日

Posted by ブクログ

円城塔のデビュー作。
個人的に、彼の作品を読むのは、道化師の蝶に続いて2冊目。

まず、読み進めるうちに短編集だと感じたが、更に読み進めると前に出てきた登場人物がチラホラ出て…と、章ごとに連関があるのをなんとなく察した。が、深い関係があるわけでもなく…

一言で言ってしまえば、因果律がめちゃくちゃになってしまった世界線を素直に書いているために、普通の小説の形態を取っていないのだ。
その掴めなさ、何でも有るし何でも無い感じが非常に新鮮であったし、因果律の崩壊した世界観の描写が非常に技巧的で有ると感じた。

これを読んでいた同時期に、クリストファー・ノーラン監督の『TENET』が公開されており、あれもまた時間系のSFであったが、
あちらは独我論を強く意識させるのに対し、こちらは独我論を微塵も感じない。そもそも小説とは、主人公が存在するために、独我論的前提を取らざるを得ないはずなのだが、この小説は独我論的前提がないというところが、(私に取っては)新しい小説であると考えている。

少なくとも、道化師の蝶よりは分かりやすいと思う。

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2020年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

巨大知性体にだんだん親近感が湧いてくる。
ひとつひとつはふつうに面白く読めるんだけど、全体のはなしとなると結局なんだっけ?となる。でもクセになる文章。

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2019年09月07日

Posted by ブクログ

バラバラになったパズルが固まりかけてはまた砕け散り、
そしてまた小さく丸まっていく、ほつれたり、絡まったり、まるでひとを弄んでいるような底意地の悪さがあった。
しかし、文章への引き込み方が実に、実に上手い。
もう、ずっと永遠にこの本に意地悪をされていたいと感じた。

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2018年11月05日

Posted by ブクログ

多分、面白い。
何せSFなんて読むのはウン年ぶりで、高校生の頃必死で勉強した理系科目の知識を引っ張り出しながらウンウン読んだ。
これは、多分恋愛小説に近いの。。。か?
よく分からない。

ただ、巨大知性体のビジュアルが私の中で二転三転した。
そしてリチャード!きみは誰だなんだ!
とりあえず、そのうち再読が必要だ。

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2016年03月23日

Posted by ブクログ

わからないけど面白い。圧倒される。語られる物語が少し自分の中で整理できたかと思えば、次の話でまた追いつけなくなる繰り返し。でもそれが苦痛ではなく楽しい。思考と想像力を刺激する作品。
文章一つ一つは丁寧でリズムよく非常に読みやすい。だからなんとかついていける。
時間と空間が混乱した世界で、世界を管理する巨大知性体たちが人間の面倒も見て、巨大知性体同士で演算戦を繰り広げながらも、世界を元に戻そうと奮闘している。そんな世界の出来事を一部御紹介しますというようなショートショートを連ねた連作。
ちょうど真ん中の10 Daemonと11 Contactから取っ付きがよくなり一気に引き込まれました。11から後半は巨大知性体たちの個性が出て、ぼやっとした全体像も見えてくるので、取っ付きがよかったのですね。物語はどんどん喜劇的な様相を帯びてきて、終わりが見えてきても収拾はされない。エピローグでさらに突き放された感覚。

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2015年04月13日

Posted by ブクログ

全然まったくもって意味が分からない.
が,読ませる何かを持っている本.

読み手に好き勝手推測させておいてそれをひっくり返しつつ,そもそも推測/理解に意味あるの?と言われている気分になる.

しかし,それでも,どうしてだか,好きな本.

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2015年04月05日

Posted by ブクログ

作品の全体像が見えて来た後半は良かったが、前半は苦痛だった。

屍者の帝国もそうだったが文体が合わない。

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2025年08月17日

Posted by ブクログ

"P, but I don’t believe that P.(p.3)"

 昨年の年末に読んだ『文字渦』に続いて、2冊目の円城塔。予想に違わず、トンデモなくぶっ飛んでいる!
 この本のあらすじ(そんなものが仮にあれば、の話だが…)をまとめるのは、僕には少しばかり荷が重いので、裏表紙の紹介を引く。
"彼女のこめかみには弾丸が埋まっていて、我が家に伝わる箱は、どこかの方向に毎年一度だけ倒される。老教授の最終講義は鯰文書の謎を解き明かし、床下からは大量のフロイトが出現する。そして小さく白い可憐な靴下は異形の巨大石像へと挑みかかり、僕らは反乱を起こした時間のなか、あてのない冒険へと歩みを進める―"
一読して理解できる人がいたら、ぜひお目にかかりたい(笑) 何を食べて育ったら思いつくねんとつっこみたくなる荒唐無稽なアイデアが、これでもかと炸裂している。この途轍もない「法螺話」を面白がれるかどうかで、大喜びする人と同じくらい、肌に合わない人が居そうな類の本だ。

 本書は、「自己言及のパラドックス」と「因果律の崩壊」という2つのモチーフによって緩やかに結びついた、ほとんど独立した22のパートからなる。モチーフのうち前者について少し説明すると、これは論理学におけるパラドックスの一つであり、例えば「この文は偽である」といった文のことを指す。仮にこの文が真であるとすると、まさにこの文が主張していることからこの文は偽であることになり、偽であればこの文の否定が正しいはずだからこの文は真であることになり、そして真であれば…と無限に続く(最初にこの文が偽であると仮定した場合も同じ)。これが、本書をSelf-Reference "ENGINE"と題する所以だろう。つまり、自己言及文を宣言することにより、自分の尻尾に齧り付こうとしてグルグルと回るような、永久の運動が駆動し始める。
 本書の舞台は、"イベント"以降、時間がお行儀よく揃って進むのを止め、複線化してしまった未来の世界である。時間も空間もすべてバラバラに弾け飛び、因果は巨大知性体によっていとも簡単に書き換えられていく。あったことがなかったことになり、なかったことがあったことになる。
"彼女と一緒にいた短い時間、僕たちはより本当に近いことを話そうと努力した。この頃には沢山のことが、なにがなんだかわからなくなっていて、本当のことなんてそう簡単には見当たらなかった。そこにあった石ころは目をはなすと蛙になっていたし、目をはなすと虻になっていた。昔蛙だった虻は昔蛙だった自分を思い出して、虻を食べようと舌を伸ばそうと考えて、それとも自分は石だったのかと思い出して、それをやめにして墜落していた。(p.11)"

 雑に言ってしまえば、全くもってナンセンスなSFである。それぞれのパートから惹起されるイメージは面白い。一方で、それら相互の関連性はごく薄く、設定も放りっぱなしの感があって、全体が「拡散」しているような印象を受けた。少なくとも、読者が意味を理解できるようには書かれていない。そもそも、果たしてこの本に「内容」があるのか? あたかも、無機質な何かが、不明な規則に従って出力を吐き出し続けているような。あるいは、気紛れに流れる電気信号を種に、微睡みのなか生成される映像のような。それがまさに作者の狙いかもしれないと確かに思わなくもないが、好みでは『文字渦』に軍配が上がる。率直な感想を述べると、本作はinterestingではあったが、残念ながらあまりexcitingではなかった。

 ただ、少なくとも、こうして円城塔を2冊読み終えて一つ言えるのは、この作者、そしてこの本でしか見ることのできない唯一無二の景色が間違いなくある、ということである。








以下、メモ。
プロローグ Writing
冒頭。全称∀と存在∃の違いについてか?
まどろっこしい可能性の網羅・列挙は、論理学・数学、もっと言えば自己言及のパラドックスの前提となる排中律を意識して?
1 Bullet
2 Box
“こんな箱が波打ち際に落ちていたら”→Echo?
再帰性、少ないパーツからほとんど無限大を生み出すという点が「自己言及」と関連
“解体不可能な爆弾が存在しないように(p.48)“→量子力学のエンタングルメントを連想した
3 A to Z Theory
この名前といえばあの物理学者/数学者ね、と分かる名前がチラホラ
4 Ground 256
トメさん
"壊される速度よりも速く複製してしまえばよいではないか。"←Box
5 Event
計算としての自然現象→量子シミュレーション
"無数の宇宙を新造するのに、無限の情報量は必要ではなかった。"
「小説家」の比喩
6 Tome
自己増殖オートマトンと自己消失オートマトン
7 Bobby-Socks
自己増殖する(ように見える)靴下の山(というユーモア)
8 Traveling
9 Freud
"祖母の家を解体してみたところ、床下から大量のフロイトが出てきた。"
一番わけが分からない話。あまりの気の抜け具合に頭が痛くなる。フロイト→夢?
10 Daemon
11 Contact
12 Bomb
"I believe that P, then P is true."
13 Japanese
『文字渦』っぽいテーマ。「日本文字」なる架空の言語。
14 Coming Soon
「予告篇(トレーラー)」。本書全体の構造にとって大事なパートのように思えるが、その実、ただ思わせぶりなシーンの連続でしかないかもしれない。
15 Yedo
喜劇計算。独立な話としても面白く読める。
16 Sacra
自己消滅オートマトンと自己免疫疾患。
17 Infinity
リタ再登場(本当に同一人物?←「私」が複数いることの示唆)
Writingの、無数の本の中から所望の一冊を探す話の反復。
いわゆる区間縮小法がモデルだろう。そもそも体を構成する分子のconfigurationが同じ人間が2人いたとして、彼らは似通っていると言えるのか、という問題。
18 Disappear
巨大知性体たちの「あらかじめの滅亡」
"人間が彼らの絶滅の理由を知ることができないとされる理由は単純だ。ありえそうな滅亡の理由を人間が思いつく先から、その理由で滅びたわけではないと過去を改変するような時空構造として、彼らは絶滅したのだと考えられている。証拠がどんどん後出しされる推理小説には終わりようがない。はじめから終わってしまっていない限り。"
19 Echo
リリカルな挿話。結末が近づいている予感。
20 Return
エピローグ Self-Reference ENGINE

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2023年07月30日

Posted by ブクログ

22のパートからなる連作短編集風の長編(?)。言葉運びの優雅さに何度もヤられてしまいました。パートの幾つかで、セルフパロディのようにダレた話になっていたのだけが少し残念(SF的にはアリなのかな)。

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2022年12月20日

Posted by ブクログ

SF短編集。
的な感じです。

読み進めていく中でイロイロ繋がってきたり、問題が解決したように見えたり見えなかったり。
この方の文章にしては、読み易くまだ意味が為されているような……でもチョイチョイよく分かんなかったケド。

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2021年09月16日

Posted by ブクログ

ちょっとごめん何を言っているのかわからない、と思うところも多いわけで、いちいちイラッとするかと思いきや、まぁ嫌いではないんだけどね。だからといって、何を言っているかを理解できたとは思えないんだけども、こういう言葉遊びというか、ああ言えば上祐、的な言い回しを覚えておけば、実生活でも役に立つ瞬間があるかもしれないけど、ほとんどの場合は、かみさんがブチ切れて終了〜ってわけだけどね。
それにしたって、この超絶知性体みたいなやつは、そろそろ出るか出るかと思いながら、なかなか出てこないねぇ。

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2020年08月22日

Posted by ブクログ

祝芥川賞受賞。

時間とは何か、言語とは何か、有限と無限、自己同一性などなど、テーマは思い切り直球勝負。けれど直球勝負のテーマの数々をてんこ盛りに盛りすぎているのと、奇をてらった構成や語り口や小道具のせいで、ふざけているようにも見える。ストーリーをこわすギャグが多すぎてストーリーの体をなさなくなった芝居みたいなものでしょうか。

韜晦が過ぎて物語の持ち味を殺しているような気もする。しかし、こんなお話をまじめな顔でされても困ってしまうかも。粋みたいなものを感じつつ読むのが良いか。

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2018年11月05日

Posted by ブクログ

うーん、面白いんだけど、詰め込み過ぎ。意味の分からない単語を読むことだけでもパワーがいる。やっぱり本って、一冊読んだ時の達成感があるじゃない。これは結構苦痛。ランダムに一編取り出して再読するときっともっと楽しめると思う

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2017年08月29日

Posted by ブクログ

2016/06/04〜2016/06/12
星3

計算機屋さんが読むと面白がりそうな内容がたくさん入ったSF小説だった。短編が何話も続く形を取ってはいるが、全体として統一感があるようになっている本だった。

尚、ハードカバーも出版されていて、そっちの方が初出。

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2016年06月13日

Posted by ブクログ

世界観が統一された短編集。時空が歪んだ世界の話。自分には難解な文章だった。お笑いシーンも理解できる人だけ笑って下さい的。解りづらい物語じゃないと思うが解りづらかった。

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2015年09月04日

Posted by ブクログ

リタが登場する話と「Echo」が好き。
ほとんどわからないが、その分必死に読んだ。
たまに面白く感じると嬉しい。
理解できないところが、この作品の魅力なのかもしれない。

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2015年09月03日

Posted by ブクログ

ハヤカワ文庫初心者にはハードル高すぎで。
純喫茶マリアナ海溝でバナナジュース飲みたいなーぐらいしか浮かばないなこれは。

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2015年04月29日

Posted by ブクログ

“新たに出現しようとしている家は、その家なりの固有の論理をもってここに出現しようとしているはずなのだが、生えてこようとする先から僕らが打ちこわし続けているために、ちょっとばかり調子を崩している。進行中のプログラムのコードを途中で壊されたりしたら、それはまあ、色々問題が起こることは間違いない。でも僕たちはこの家を守ろうと決めているし、この村を守ろうと決めている。
廊下に生える椅子やらハンガーやら机やらを片っ端から滅多打ちに破壊して、僕はキッチンへの道を切り開く。母が本格的に活動を開始して、愛想のチェーンソーを振りかざしまくる一日が終わり、夜がまたやってくる頃には家はようやくひとつの家の姿を取り戻すのだけれど、それもまた一夜の夢に儚い。次の朝はまた、ひどく即物的な悪夢として再来する。その一生を、家を守るために家を破壊し続ける母の姿はどこか感動的であるのだが、人生とはもう少し調子の整ったものだと小さな頃の僕は思っていた。”[P.73]

(20121006)
もっと色々知ってからまた読み直したい。

“視界の中央に、唐突に大きな星が現われてそこに居座る。
それは、四次元方向から昇ってくるいつもの星の一つではないことをリタは知っていた。三十年前に突如変転したこの地平。そこに新たに届いた三十光年先の星の初めての挨拶なのだということを知っていた。
リタは右手を持ち上げ、その星に挨拶を返す。
わたしたちは、わたしたちではないものへ広がっていこうと決めた。
なんといってもわたしたちは。
おじいちゃんの孫なのだ。
リタは頷き、無限に広がる平面の無数の場所で、無数のリタたちが一斉に頷いた。
そうしてリタは、ひとりぽっちで立ち上がった。”[P.305]

"「するのだ。第一、お前はもうすでに、俺が生き物であるかのようにこうして話し続けているではないか。俺が何かの種類の生き物、あるいは生き物以上の何かであることは、この会話が正気に行われているとするための前提条件に近い。そうでなければ、お前はただの靴下へ向けて独り言をつぶやいていることになるわけだが、如何」
あまりよくない。"[p.129_07:Bobby-Socks]

20150227 再読
前より噛み砕いて読み込めていれば良いのだけれど。

"ここから続いていくお話もまた、どたばたの無限の連鎖に違いない。なんといってもジェイムスは僕の知る中で一番賢い男なのだし、リタは完全にネジのはずれきった規格外に調子っぱずれの女の子なのだから。しかも今やジェイムスは二人に増えやがった。
そのどたばたにまた巻き込まれたいかといって、まっぴら御免だと僕は宣言したはずだ。何度でも言ってやる。本当にまっぴら御免なのだ、こんなことは。"[p.348_20:Return]

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2015年02月27日

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