塩野七生のレビュー一覧
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「ストゥポール・ムンディ」(世界の驚異)と同時代の人達に畏敬され、公式にはラテン語で「フリデリクス 神の恩寵によって ローマ皇帝アウグストゥス イェルサレムとシチリアの王」と称したというフリードリッヒ2世という人物…なかなかに興味深い訳だが、本作はその人物の生涯を概ね編年式に追いながら語る物語だ。
本作は、“主人公”であるフリードリッヒ2世等の史上の人物達をモデルにした劇中人物達が勇躍し、苦悩し、歓び、怒るというような「小説」ではなく所謂「史伝」という読物である。或いは、日本国内ではやや馴染みが薄いかもしれない欧州諸国の歴史を題材としながら、非常に読み易い感じだ。実は同じ著者の他作品も過去に読 -
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ネタバレエデッサ陥落、第二次十字軍、イェルサレム陥落を描いた第二巻。
読んでいて感じるのは、リーダー層の人材が何よりも大事ということ。
常に戦力不足に悩まされながら、城砦とそれを守る病院騎士団や聖堂騎士団、アマルフィ・ヴェネツィア、ピサ、ジェノヴァによる制海力と物資調達力により領土を保っていた十字軍キリスト教国家。
それが十字軍も第二世代になり、そして第三世代となると責任感と経験を備えたリーダーが少なり、弱体化していく。
そのような中、ボードワン四世が身体が崩れ落ちていくという癩病に侵されながら13歳で王に即位し、24歳で燃えつきるまで孤軍奮闘する様子には心を動かされる。
一方でバラバラだったイス -
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☆☆☆2020年1月レビュー☆☆☆
フリードリヒ2世は、高校で世界史を勉強した人でもなじみの少ない名前ではないだろうか?
僕も塩野氏の作品に出会う前はほとんど知らなった。
「最初のルネサンス人」と言ったら、興味をそそられるだろうか? 暗黒の中世と言われたヨーロッパにあって、「政教分離」という、今では常識となっている考えを推進した皇帝、と言えるだろうか?
日本で政教分離を推進したといえば織田信長だが、行動力の面でも信長に近い気がする。性格の激しさという点では少し違うかもしれないが・・・。
上巻では、孤独な少年時代から、インノケンティスウス3世の庇護を得てドイツに向かう場面、そして戴冠と、若 -
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本書の時代は日本では鎌倉時代か。この時代にヨーロッパでこんなダイナミックな動きが進行していたとは全く知らなかった。いや面白い、中世ヨーロッパにこのような君主がいたとは。
歴史上の人物を、現代人に理解できるような文章で魅力的に紹介することが著者の得意とするところなのだろう。
小生は「ローマ人の物語」を読むのが楽しく、あの大部冊を繰り返し愛読した。
本書の主人公は「カエサル」の次くらいにいい男である。著者は惚れた男を描くと文章が光る。
「フリードリッヒ二世」、世界史で名前くらいは出てきていただろうか。日本では業績なぞ全く知られていないのではないだろうか。この時代に法による支配を打ち出し「憲章」を制 -
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ネタバレ久々に塩野七生を読みたくなって、手に取った1冊。中世ルネッサンス期近辺のヨーロッパ(主としてイタリア半島の都市国家)を舞台に、愛に翻弄され、愛を持って翻弄した女性たちの物語である。
恋愛沙汰ってのは、もうどうしようもない。惚れた腫れたの話になると理性やら理屈は吹っ飛びがち。それでもまあ、渦中の人たちは仕方ないとして、そこに、関係ない人が善意や損得勘定やもろもろから下手に関わると、大概ろくでもない(あるいは実にくだらない)結果に終わる。
部活やサークル活動、SNSやら、社内恋愛であれば、まぁまぁくだらなくても取り返しもつきやすい。芸能界やらであれば話題になっても1年もたてば禊もすむ。
ところ -
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情報とは、その重要性を認識した人にしか、正しく伝わらないもの。
これは、哲学者カントの感覚と認識の区別に通ずるのではないか。
カエサルはそのことを早くも喝破していたのではないか。
フリードリッヒ二世の柔軟性。
自身の側近に敵方のイスラム教徒も複数いた。
生まれは高貴だが育った環境が素養を育んだのか。合理的で近代的な人間だった。
十字軍の歴史にも
チンギスカンが開祖のモンゴル帝国が侵入してくる。歴史は有機的につながっていることの良い例。
宗教強騎士団最後の闘いは圧巻。
滅びの美学。
実質的な宗教戦争は十字軍で終わる。以後は、領土争いに宗教で色付けをしたもの。
最後の宗教戦争、それが -
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「 戦争は、人類にとって最大の悪業である。にもかかわらず、人類は、この悪から抜け出すことができないでいる。
ならば、戦争を、勝ったか負けたかで評価するのではなく、この悪を冒した後にどれだけの歳月の平和がつづいたか、で評価されてもよいのではないか。
また、
平和とは、人類が戦争という悪から抜け出せない以上、未来永劫つづく平和というのもありえず、短期間ではあっても一つ一つの平和を積み重ねていくことでしか、達成されないと考えるほうが現実的ではないだろうか。」
塩野七生氏の歴史物著書では、
このような鋭い指摘にもあるように、
リアリズムが物事の見方に通念として流れている。
それこそが
机上の -
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200年間にわたる十字軍国家時代の第二幕の幕開け。
「神がそれを望んでおられる」という号令のもとイェルサレム奪還を成し遂げたヨーロッパ諸国のキリスト教団達。
その名を連ねるのはタンクレディなどの卓越した人材達。
だが、イェルサレム奪還後、
第一次十字軍に名を連らねるような人材がキリスト教側にはいなくなってしまった。
「人材とは、なぜかある時期に、一方にだけ集中して輩出してくるものであるらしい。だがこの現象もしばらくすると止まり、今度は別のほうに集中して輩出してくる。なぜ双方とも同時期に人材は輩出しないのか、という疑問に明快に答えてくれた、哲学者も歴史家もいない。」
たしかに、
古代 -
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キリスト教の聖地がイスラム諸国の手に落ちてからから400年ちょっと、本書は法王の聖戦への呼びかけに参集した俗にいう第一回十字軍がエルサレム奪還を試みる遠征記になっている。
冒頭から目から鱗がポロポロ落ちる事実の連続であった。急激に発展を遂げるイスラム諸国の度重なる侵略で中東の領地を失い、衰退を辿るビザンチン帝国は教理の違いなど構わずカトリック教会に泣きつく。これを引き金に法王は東ヨーロッパにカトリック教会の影響力を強めようと、ヨーロッパ諸国の君主の上に立ち、指導できる力を示すために十字軍の編成を唱える。十字軍編成には極めて利己的な思惑があったとは・・・。聖戦やらイスラムの圧政に苦しむ人々の解 -
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☆☆☆2019年9月☆☆☆
フリードリヒ2世が中心となった第六次十字軍から、ルイ9世の行った第七次、第八次十字軍。そしてアッコン陥落、騎士団の崩壊まで。
フリードリヒ2世の遠征は無血でエルサレムを解放したため当時は激しい批判にさらされた。イスラム教徒とキリスト教徒の共存を実現した稀代の名君だと塩野氏は評価する。アラビア語を自由に操ったり、ナポリ大学を開設し法律を重視したり、当時としては異例の人物だったのだろう。
一方、ルイ9世は宗教的情熱、信念ならだれにも負けなかったが決して優秀な人物ではなかった。悪い人ではなかったのだろうが、十字軍は大失敗に終わった。
その後、マムルーク朝に -
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リチャード獅子心王が主役の第三次、そこから第五次までの十字軍の歴史を物語形式で書かれています。資料に忠実に、ないところは想像力で、物語を面白く臨場感あるように。主要な登場人物に十分感情移入しながら楽しんで読ませていただきました。中世という時代の君主の生活など、ある意味自由で無防備が許された時代だったのだなと。その背景に宗教が強い影響力を持っていたことが。そしてそれが十字軍を発生させたのだなということが分かります。
十字軍は第一次だけが成功で、あとは失敗と思っていました。しかしこの第三次も十分に成功だったということが分かりました。キリスト教とイスラム教が協力して、長い平和を作ったということは、現 -
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☆☆☆2019年8月レビュー☆☆☆
ゴドフロア、ボエモント、タンクレディ、ボードワンといった第一次十字軍の築き上げた十字軍国家の維持という難題を背負った人々の物語。
完全アウェイの中に築かれた帝国だけに維持が困難なのは想像に難くない。そのために大きな役割を果たしたのは聖堂騎士団、病院騎士団、城砦、経済交流、海軍。
なるほどなぁ、と納得がいった。
約900年前の中東に遠く思いをはせる。
癩王、ボードワン4世の活躍も印象深い。
死を覚悟した人間の美しさがあらわれたような人物。部下からも慕われ、常に最前線で戦った。日本でいえば、大谷吉嗣のような人物だったのではないか。
イスラム側