鈴木恵のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ギャングに命を狙われた少女と父親の逃避行。
ノワールですが、面白いです。
11歳の少女ポリーは、母親とその再婚相手と暮らしていました。
父親は何年も収監中。
ところがある日突然父親が現れ、命を狙われているから一緒に来いと告げます。
刑務所にいた父のネイトは、ギャング組織の親玉に睨まれ、家族ともども抹殺指令が出たため、脱獄してきたのだ。
妻がとっくに再婚した相手と暮らしている娘のことなど、あまり気にかけてはいなかったのだが。
父と同じ淡い青色の眼をしたポリー。
「拳銃使いの眼よ」と母親には言われていました。
互いに馴染のなかった父と娘が危機に瀕してやむなく行動を共にし、次第に気が合う相棒となっていくロードノヴェル。
常識を超えた状況ではあるが、その関係性に心温まります。
暗殺指令を覆すために、どういう手段をとるか?
熊のぬいぐるみを離さない女の子は次第に度胸を身につけ、変貌していきます。
そして…?
アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)新人賞受賞作。
スピーディな展開で、読ませます。 -
Posted by ブクログ
ミステリ短篇集「ホワイトの殺人事件集」を著した後隠棲した作家を追って、彼のもとへ訪れた編集者。その本を復刊するために、短篇のひとつひとつを読み返し考察していく二人。しかしそれぞれの作品に潜む不自然な矛盾点と謎。いったい物語はどこへ向かうのか。ミステリの楽しさがこれでもかというほどに詰め込まれた一冊です。
作中作のミステリの数々が楽しいです。どれもが王道のように見えて変則的でひねくれた作品が多いです。仕込まれた矛盾点も気になるし(自力ではなかなか気づけませんでした)、なんとなく据わりの悪い気がする結末もそれはそれで魅力的。なのだけれどまさか……ああ、これ以上は語れない! 言うべきことは、この本が一度で二度も三度も美味しいミステリだってことです。
作中作では「青真珠島事件」がお気に入り。なんといってもあれがモチーフですし。罠の数々も邪悪で素敵です。 -
Posted by ブクログ
何度読んでも魂が震える。菊池光の訳も良かったが今回の新訳も良い。話が良いんだから当然だ。15年前の戦争で特殊部隊で名を上げたキャントンことドライバーのケインは、弁護士メルランの依頼で、シンプルな仕事を引き受けた。マガンハルトという実業家を大西洋岸からフランス、スイスを横断してリヒテンシュタインへ約束の日時までに車で送り届けるというものだった。しかし、マガンハルトはフランス警察に追われ命を狙う者たちもいるからと、アル中のガンマン、ハーヴィーが雇われた。そしてマガンハルトの連れて来た美人秘書の4人で車に乗り込んだ。派手なアクション、駆け引き、一か八かの賭け。アルコールに逃げ出したくなる極度の緊張と逃げ、セクシャルで魅力的な女、庶民とは違う価値観に生きる実業家、ケインの過去に関わってきたレジスタンスの仲間たち。ケインは命を狙う側ではなく狙われる男の側にいることに義を感じる。時に弱さを見せながらもプロとしての覚悟が上廻る。葉隠の武士道のような死の覚悟を照れで隠しながら、常に甘えず頼らず自分の足で立ち、やり遂げる。そしてラストのどんでん返し。マガンハルトの命を狙っていた男の謎が明かされケリをつける。無駄のない文章、科白と動き。共に戦った信頼が生んだ男たちの友情。最後まで痺れっぱなし。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ難読障がいを抱えた始末屋、オーラヴ・ヨハンセン。
信条と言うほど偉ぶったものではないが、相応の罪人でないと自らの招く結果にうまく心の整理がつけられない不器用で孤独な気質の男。
かつて、同じ組織のポン引きの上役が聾唖の少女の仕事ぶりを怒鳴りつけている場面に心が騒ぎ、衝動的に助け、資金面で援助し、微かな恋心を抱きつつその後の生活を見守る。そんな男。
あるとき雇い主から不貞をしている妻を殺すよう命ぜられるのだが、なんと彼女の姿に一目惚れ。
不倫自体も彼女が弱みを握られている節があり、相手の男も暴力的。
本能的とも言える行動で相手の男を始末することを選んだが、実はその男は雇い主の息子だった。
さてえらいことに。
『真夜中の太陽』のパラレルストーリーともあって同様の乾いた世界感の中で繰り広げられるパルプノワール。
主人公の決してインテリではなく、どちらかというと難しいことが考えられない、軟派ではないが芯の通ったハードボイルドというほどストイックではない、直感的でフラットな感じがなんとも言えないかっこよさを備えていて、思考の流れをトレースするのが心地よい。
『ヘッドハンターズ』は何だったのだろうと思うほど、作品によって良否の差が大きい作家かなと感じた。 -
Posted by ブクログ
言わずと知れたダニエル・デフォーの名作。本書は第一作『ロビンソン漂流記』の新訳となる。南米大陸の無人島へと流れ着き、二十八年間の漂流生活を過ごしたロビンソンの姿が描かれる。西欧文学史における無人島物語の先駆けであり、『ガリヴァー旅行記』や『十五少年漂流記』など後世に絶大な影響を与えた本作。現在でも世界文学の名作に挙げられることが多く、マックス・ウェーバーがロビンソンを例に中産階級労働者のプロテスタント精神を論じたことが知られている(※大塚久雄著『社会科学における人間』(岩波新書)』のレビュー参照)。
ストーリーは「放浪癖のあった青年時代からブラジルで農場を経営するまで」「無人島漂流から脱出まで」「後日談」の三部構成となっている。序盤では航海に憧れて家出したり、海賊船の奴隷として二年間働いたり、西アフリカでライオンを狩ったりと、波瀾万丈な人生が語られる。平穏な人生を説く父への反発と、信仰の軽視をロビンソンは後に繰り返し後悔することになる(神に背いて巨大な魚に呑みこまれたヨナへの言及がある)。ブラジルでの農園経営は終盤かなりの財を成したことが明らかになるので、彼には船乗りでなく経済人としての才覚があったようだ。企業家でもあった著者自身の経験が反映されているなど、私小説的な側面もあるのだろう。
農園での生活に倦怠感を覚えたロビンソンは、奴隷の売買を行うため奴隷船でアフリカへと向かい、途中で船が難破して無人島へと流れ着くことになる。
無人島での描写は前半が生活に関するものだ。難破船の残骸から必需品を回収し、家屋の建設、食料の調達、衣服製作、山羊の飼育、パン作りや農耕にまつわる記録が各章ごとに細かく描写される。正直、海岸で足跡を発見するまでは物語に起伏もなく、冗長な展開が続く。無人島生活だから仕方ないのだが……
足跡発見以降、ロビンソンは先住民の捕虜を救出し、フライデーという名の青年と共に暮らし始める。物語が面白くなるのはここからで、ロビンソンは本格的に島を脱出するための計画を練り、偶然島を訪れた海賊達との攻防を繰り広げて英国船の奪取に成功する。文明から切り離されて野生化したロビンソンの姿を目にした英国人達の反応が面白い。
島を脱出したあとは、ロビンソンが所有していた財産やブラジルの農園について長々と説明される。一時は「金など無意味だ」とまで言い切ったロビンソンが、細かい銭勘定をしている場面は涙なしに読むことができない。一行は欧州を横断して熊やオオカミに襲われながら英国へ向かうのだが、最終章の蛇足感は否めなかった。
作品を通じて描かれる信仰心の発露と改悛が、本書のテーマといってよいだろう。病や孤独の苦難を通じて、プロテスタントの精神に目覚めてゆくロビンソンの姿は印象的だ。聖書を引用した箇所では、どれほど悲惨な状況に置かれようとも「必ず神が慈悲を与えてくださる」と繰り返し述べられる。人間は己の境遇に不満をこぼさず、神の御意志に従って日々を生きればよいのである。とはいえ、上述の金銭感覚にしてもそうだが、ロビンソンは一度悔い改めたことをすぐ忘れる性格なので、最後まで読み通したあとは「結局それほど改心していないのでは」と思ってしまう。現に第二作『ロビンソン・クルーソーのさらなる冒険』(岩波文庫版の下巻に収録、未読)では結婚後まもなく再び航海に出ているようだ。やっぱ反省してねぇな?
18世紀の小説とはいえ、西洋中心主義的な立場からフライデーを教化してやったり、先住民族を人食い蛮族としてこれでもかと醜悪に描いたり、違う意味でドキドキする描写が多かった。現代の我々からすれば人食い蛮族と奴隷商人に大きな違いがあるとは思えないが……逆にフライデーの視点からロビンソンを教化する『フライデーあるいは太平洋の冥界』というパロディ小説が(ミシェル・トゥルニエ著)あるらしいので、機会があれば読んでみたいと思う。
追記しておこう。
2020年6月現在、ミネアポリスの黒人男性殺害に端を発する反人種差別デモが全世界に広がっている。抗議者の活動を受け、イギリスでは慈善事業家エドワード・コールストンおよびロバート・ミリガン像(両者は奴隷商人で財を成した)が撤去されたと報じられている。こうした「過去の清算」は世界中に飛び火し、かつて発表された文学・映画・コミック・音楽などのあらゆる創作物に影響を及ぼすものと予想される(すでに映画『風と共に去りぬ』は人種差別表現を理由に動画配信サービスHBO Maxから一時的に削除されている。時代背景の説明と批判を明記した上で再配信する予定とのことだが)。そう遠くない未来、ロビンソン・クルーソーも「知恵と勇気で苦難を乗り越えた英雄」でなく「人種差別主義者のブタ野郎」として世間の非難を受けるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
エイドリアン・マッキンティ『ザ・チェーン 連鎖誘拐 下』ハヤカワ文庫。
下巻は手に汗握るアクションの連続。映画化されたら、かなり面白い作品になるだろう。海外翻訳物に余り馴染みの無い方でも充分に楽しめる作品だと思う。
無事、愛娘のカイリーを取り戻し、誘拐した子供を解放したレイチェルだったが、チェーンの呪縛からは逃れられない。意を決して、レイチェルはチェーンを断ち切るために元軍人のピートと共に行動を起こす。
そして明らかになるチェーンの首謀者とその目的……
一般人がモンスターを凌駕してしまうという出来過ぎなところもあるが、多くの方々にお勧めしたい作品。
本体価格780円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
エイドリアン・マッキンティ『ザ・チェーン 連鎖誘拐 上』ハヤカワ文庫。
奇抜な設定のスリラー・ミステリー。この作品は海外翻訳物に馴染みの無い方にも充分楽しめるのではなかろうか。
タイトル通り『連鎖誘拐』を描いた作品である。まるでチェーン・メールのような誘拐の連鎖。たまに描かれる首謀者は一体誰なのか。犯罪とは無関係の一般人が大切な我が子を守るために次々と犯罪に手を染め、無慈悲な誘拐のチェーンを維持し続ける。
乳癌から生還し、新たな職業を得て、これからの人生に期待を膨らませていたシングル・マザーのレイチェルの元に突然、最愛の娘カイリーを誘拐したとの連絡が入る。娘を救うためには身代金の送金と他の誰かの子供を誘拐する必要があり、レイチェルは愛娘の命を守るためにやむなく犯罪に手を染める……
果たしてレイチェルはこのチェーンを断ち切れるのか……
本体価格780円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
ネタバレ刑務所内で大きな犯罪組織に刃向い、家族ともども死刑宣告を下された父親、救出に向かうもかつての妻と再婚相手は既に殺され、かろうじて娘だけを救出できた。彼と娘の逃避行は逃げ回るのではなく、戦うことで死刑宣告を取り下げさせようという危険かつアクティブなものだった…。
娘を犯罪者にするつもりは毛頭ないし、自分も犯罪など犯したくはないが、それでもこの父娘がいいなぁと思うのである。二人で強盗を繰り返すシーン、生き延びるための訓練を行うシーン、ジャンクな食事を楽しむシーン…。娘をもつ父親なら「あぁ、俺もこういう娘との関係が欲しい」と思うんじゃないだろうか?
この本は、犯罪小説であり、アクション小説であるが、何よりも、娘の安全を確保し、成長を見守る父親の姿に感動する、この本は家族小説である。
タイトルの「拳銃使い」はちょっと違うような気もするが、語呂とリズムがいいので、これも良し。