鈴木恵のレビュー一覧

  • その雪と血を

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    ネタバレ

    難読障がいを抱えた始末屋、オーラヴ・ヨハンセン。
    信条と言うほど偉ぶったものではないが、相応の罪人でないと自らの招く結果にうまく心の整理がつけられない不器用で孤独な気質の男。
    かつて、同じ組織のポン引きの上役が聾唖の少女の仕事ぶりを怒鳴りつけている場面に心が騒ぎ、衝動的に助け、資金面で援助し、微かな恋心を抱きつつその後の生活を見守る。そんな男。

    あるとき雇い主から不貞をしている妻を殺すよう命ぜられるのだが、なんと彼女の姿に一目惚れ。
    不倫自体も彼女が弱みを握られている節があり、相手の男も暴力的。
    本能的とも言える行動で相手の男を始末することを選んだが、実はその男は雇い主の息子だった。
    さてえらいことに。

    『真夜中の太陽』のパラレルストーリーともあって同様の乾いた世界感の中で繰り広げられるパルプノワール。

    主人公の決してインテリではなく、どちらかというと難しいことが考えられない、軟派ではないが芯の通ったハードボイルドというほどストイックではない、直感的でフラットな感じがなんとも言えないかっこよさを備えていて、思考の流れをトレースするのが心地よい。

    『ヘッドハンターズ』は何だったのだろうと思うほど、作品によって良否の差が大きい作家かなと感じた。

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    2021年10月04日
  • ザ・チェーン 連鎖誘拐 上

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    スピーディでスリルがあり、面白い!
    そんなチェーン繋げられるのか、色々と危ういのに、他に道が無いと思わせる切実さが生々しく、力強い。計画の全体像の壮大な底知れなさより前に立つ、操る側と操られる側も地続きな人々のサイズ感。他人事では無い、一枚隔てた、そこにある、この世界。
    スカスカのようでがっつり絡み合い逃さぬ一蓮托生の鎖たる様と、全てが繋がるような捉えよう。
    普通に生きるためにモンスターになるという事。
    続きが楽しみ。

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    2020年10月22日
  • ロビンソン・クルーソー(新潮文庫)

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     言わずと知れたダニエル・デフォーの名作。本書は第一作『ロビンソン漂流記』の新訳となる。南米大陸の無人島へと流れ着き、二十八年間の漂流生活を過ごしたロビンソンの姿が描かれる。西欧文学史における無人島物語の先駆けであり、『ガリヴァー旅行記』や『十五少年漂流記』など後世に絶大な影響を与えた本作。現在でも世界文学の名作に挙げられることが多く、マックス・ウェーバーがロビンソンを例に中産階級労働者のプロテスタント精神を論じたことが知られている(※大塚久雄著『社会科学における人間』(岩波新書)』のレビュー参照)。

     ストーリーは「放浪癖のあった青年時代からブラジルで農場を経営するまで」「無人島漂流から脱出まで」「後日談」の三部構成となっている。序盤では航海に憧れて家出したり、海賊船の奴隷として二年間働いたり、西アフリカでライオンを狩ったりと、波瀾万丈な人生が語られる。平穏な人生を説く父への反発と、信仰の軽視をロビンソンは後に繰り返し後悔することになる(神に背いて巨大な魚に呑みこまれたヨナへの言及がある)。ブラジルでの農園経営は終盤かなりの財を成したことが明らかになるので、彼には船乗りでなく経済人としての才覚があったようだ。企業家でもあった著者自身の経験が反映されているなど、私小説的な側面もあるのだろう。
     農園での生活に倦怠感を覚えたロビンソンは、奴隷の売買を行うため奴隷船でアフリカへと向かい、途中で船が難破して無人島へと流れ着くことになる。
     無人島での描写は前半が生活に関するものだ。難破船の残骸から必需品を回収し、家屋の建設、食料の調達、衣服製作、山羊の飼育、パン作りや農耕にまつわる記録が各章ごとに細かく描写される。正直、海岸で足跡を発見するまでは物語に起伏もなく、冗長な展開が続く。無人島生活だから仕方ないのだが……
     足跡発見以降、ロビンソンは先住民の捕虜を救出し、フライデーという名の青年と共に暮らし始める。物語が面白くなるのはここからで、ロビンソンは本格的に島を脱出するための計画を練り、偶然島を訪れた海賊達との攻防を繰り広げて英国船の奪取に成功する。文明から切り離されて野生化したロビンソンの姿を目にした英国人達の反応が面白い。
     島を脱出したあとは、ロビンソンが所有していた財産やブラジルの農園について長々と説明される。一時は「金など無意味だ」とまで言い切ったロビンソンが、細かい銭勘定をしている場面は涙なしに読むことができない。一行は欧州を横断して熊やオオカミに襲われながら英国へ向かうのだが、最終章の蛇足感は否めなかった。

     作品を通じて描かれる信仰心の発露と改悛が、本書のテーマといってよいだろう。病や孤独の苦難を通じて、プロテスタントの精神に目覚めてゆくロビンソンの姿は印象的だ。聖書を引用した箇所では、どれほど悲惨な状況に置かれようとも「必ず神が慈悲を与えてくださる」と繰り返し述べられる。人間は己の境遇に不満をこぼさず、神の御意志に従って日々を生きればよいのである。とはいえ、上述の金銭感覚にしてもそうだが、ロビンソンは一度悔い改めたことをすぐ忘れる性格なので、最後まで読み通したあとは「結局それほど改心していないのでは」と思ってしまう。現に第二作『ロビンソン・クルーソーのさらなる冒険』(岩波文庫版の下巻に収録、未読)では結婚後まもなく再び航海に出ているようだ。やっぱ反省してねぇな?
     18世紀の小説とはいえ、西洋中心主義的な立場からフライデーを教化してやったり、先住民族を人食い蛮族としてこれでもかと醜悪に描いたり、違う意味でドキドキする描写が多かった。現代の我々からすれば人食い蛮族と奴隷商人に大きな違いがあるとは思えないが……逆にフライデーの視点からロビンソンを教化する『フライデーあるいは太平洋の冥界』というパロディ小説が(ミシェル・トゥルニエ著)あるらしいので、機会があれば読んでみたいと思う。

     追記しておこう。
     2020年6月現在、ミネアポリスの黒人男性殺害に端を発する反人種差別デモが全世界に広がっている。抗議者の活動を受け、イギリスでは慈善事業家エドワード・コールストンおよびロバート・ミリガン像(両者は奴隷商人で財を成した)が撤去されたと報じられている。こうした「過去の清算」は世界中に飛び火し、かつて発表された文学・映画・コミック・音楽などのあらゆる創作物に影響を及ぼすものと予想される(すでに映画『風と共に去りぬ』は人種差別表現を理由に動画配信サービスHBO Maxから一時的に削除されている。時代背景の説明と批判を明記した上で再配信する予定とのことだが)。そう遠くない未来、ロビンソン・クルーソーも「知恵と勇気で苦難を乗り越えた英雄」でなく「人種差別主義者のブタ野郎」として世間の非難を受けるかもしれない。

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    2020年07月03日
  • 深夜プラス1〔新訳版〕

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    「深夜プラス1」(ギャビン・ライアル : 鈴木 恵 訳)を読んだ。
    新訳ですね。旧訳(菊池光)で読んだのはもう何十年も前だ。新訳はさらっと読みやすくなってる気がする。

    『だが、キャントンでいるということは数えられない。』(本文より)

    そうなんだよな。
    そういうことなんだよな。

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    2020年05月02日
  • 拳銃使いの娘

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     ページを開いた瞬間から、がばっと掴まれた心は、物語のスピード感と一緒に走り出す。登場人物の主観ごとに変えて語られる物語は短くまとまり、次の登場人物の物語へスピードを緩めることなく引継がれ、先を読ませる。

     描かれているのは暴力に支配された世界なので、好き嫌いが分かれるかもしれないが、面白い。おそらく映像化されるだろうが、本書を読んでいた時間の高揚感を超えることはないと思う。活字の持つ力は、まだまだ侮れない。

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    2020年03月14日
  • 深夜プラス1〔新訳版〕

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    名作冒険小説の新訳版!
    この会話、サイコーにかっこいい!
    初めて読んだのは中学生だったかな、大人になるとより楽しめる気がする。

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    2020年03月01日
  • 拳銃使いの娘

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    ネタバレ

    刑務所内で大きな犯罪組織に刃向い、家族ともども死刑宣告を下された父親、救出に向かうもかつての妻と再婚相手は既に殺され、かろうじて娘だけを救出できた。彼と娘の逃避行は逃げ回るのではなく、戦うことで死刑宣告を取り下げさせようという危険かつアクティブなものだった…。

    娘を犯罪者にするつもりは毛頭ないし、自分も犯罪など犯したくはないが、それでもこの父娘がいいなぁと思うのである。二人で強盗を繰り返すシーン、生き延びるための訓練を行うシーン、ジャンクな食事を楽しむシーン…。娘をもつ父親なら「あぁ、俺もこういう娘との関係が欲しい」と思うんじゃないだろうか?

    この本は、犯罪小説であり、アクション小説であるが、何よりも、娘の安全を確保し、成長を見守る父親の姿に感動する、この本は家族小説である。

    タイトルの「拳銃使い」はちょっと違うような気もするが、語呂とリズムがいいので、これも良し。

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    2020年01月23日
  • 拳銃使いの娘

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    2019年このミステリーがすごい!海外編第2位
    アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀新人賞、アレックス賞受賞作品
    緻密な描写が目に浮かびました。この内容なら映像化も容易だと思われます。
    読み終えてみれば、娘思いの良い?父親でした。

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    2019年12月27日
  • ニューヨーク1954

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    昔の復刻版と思ってたのが、ごく最近書かれた作品と気付き、驚いた。もう、全然当時の雰囲気。ブルボンのお菓子工場でハイテクに効率良く生産されるのが現代の作家で、この人のは、孫達が来るから笹団子つくろ。誰も喜ばないけどな、とよもぎを積みに行く老婆のしたりがおが浮かぶ。具体的に言うと、昔の人にはスタイルがあった。気に入りのシェーブローションを頑なに使い続け、店にその人が入って来たら「あ、来たな」と存在が解る。
    クールな文体なんだけど表現がいい。特に前半の人生とは、という説明が粋でなあ。内容は事件で人が殺されるよ。

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    2019年08月28日
  • 拳銃使いの娘

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    はい面白いです。最高です。
    パパと娘の逃避行。生きるために、守るためにギャングに立ち向かうクライムノワール。血と暴力には熊のぬいぐるみがお似合いだぜ!!
    父親の覚悟により娘は変貌していく。拳銃使いの娘へと。娘は相棒となる…娘を鍛え上げることで親子を取り戻していくのだ。成長の物語であり家族の絆の物語でもある。場面転換がとにかく素晴らしく、登場人物もすぐ把握できる。異常にすっきりしたリービタリィ海外苦手な人もおススメです。
    保安官が好きでねぇ。トンプスン読んだからかもしれないが狂ってるやつほど正義に偏りがあってぶっとい芯のある生き様がいい。とにかく読もう!こりゃあ傑作だ!!
    作者が影響受けたもの。
    『ペーパームーン』、タランティーノ、エルロイ…もうお判りだね?
    (どストライク

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    2019年05月04日
  • 深夜プラス1〔新訳版〕

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    実際は古いほうの文庫。もう何回読んだか分からないくらい読んでいる。その度ごとに感銘する。ふしぎなものだなあ。

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    2019年04月09日
  • 拳銃使いの娘

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    アクション小説。
    レオンみたいな。
    お父さんが物騒な人だと娘も物騒になるお話。
    でも超人的な活躍する訳でもなく、地に足のついた娘の活躍&成長でした。
    映画になるのね?見たいかも。

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    2019年04月03日
  • その雪と血を

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    殺し屋の男が自分のボスの女であり
    暗殺の標的である女に惚れてしまうとこから始まるパルプ・ノワール

    あらすじだけで、どんな結末になるか
    なんとなくわかってしまうんだけど
    寒さが伝わってくるくらいの綺麗な描写が良い。
    暴力すらやや和らげてるような印象(ヤワなわけではない) ただただ切ない。

    余談:パルプ・ノワールってなんなの?とか今なぜ70年代でノワールなの?とか疑問に思ってたことを全て解説してくれてて感動した。

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    2019年03月13日
  • 拳銃使いの娘

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    アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)新人賞受賞作品。早川書房は海外作品の受賞作品を半年から一年くらいで日本語版にして出版してくれる稀有な版元である。中でもポケミスは早撃ちにかけては名の知れた叢書なので、ぼくは八割方は読んでいる。新たな作家に出会うことも多い。本書デビューとなったこのジョーダン・ハーパーみたいな活きのいい作家と。
    少女が犯罪者の父親と逃亡し逆転勝利を、目指すロード・ノヴェルである。のっけから彼等の殺害指令が全米に出される。超重警監房にいる犯罪グループのボスから発される。少女は、父親と同じ拳銃使いの眼をしている。海ではなく川のように青い眼を。
    作者はテレビドラマ作家だそうで、小説の展開もなるほどスピーディーで心地良い。ノワールで、クライムで、バイオレンスでありながら、熊のぬいぐるみを手放さない少女の成長物語でもある。
    巻末解説によると、インスピレーションを受けたのは『子連れ狼』『ペーパームーン』『レオン』作家としてはジェイムズ・エルロイ、コーマック・マッカーシー、クエンティン・タランティーノだそうだ。笑いたくなるほど納得。推して知るべし。
    犯罪に無縁の人はおよそ出てこない。はぼすべての人物が堅気ではない作品世界で、一番不似合いだったのが主人公の少女ポニーだ。もちろん主人公は彼女。拳銃使いの父親の隣、助手席でタフに育ってゆく彼女の変貌ぶりこそが、この作品のすべてを駆け抜ける魅力である。
    時に美しく、時に容赦のない文章が、アメリカ西部の荒野を縦横に切り取ってゆく。薄手の本ながら密度の詰まった重量級の傑作としてインパクトを与えてくれること間違いなし、請け合います。

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    2019年02月08日
  • 真夜中の太陽

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    巨匠認定。今回も素晴らしい。北欧ミステリは分厚いのに読後感が似てしまい、見分けがつかなくなってしまうものも多い中、ページ数も少ないのに地理的にはノルウェー感をたっぷり味わえ、人物も個性豊かで悪役を含めて魅力的で、主人公の感情の動きも時間とともに大きく揺れ、わずか260ページとは思えない充実感。恋愛小説としても優れており、ミステリ要素もちゃんとある。幸せな読後感を持てるミステリは久しぶりかも。
    まさかの双葉山!笑

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    2018年09月07日
  • 真夜中の太陽

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    ネタバレ

    過去から逃げ、組織に追われている男が見つけた居場所。その場所で出会った1人の女性と子供。2人との交流、特に子供との場面がいい。追われている恐怖のなかにあって過ごす時間。ジョークをねだる子供。何気ない瞬間がとても鮮やか。『その雪と血』同様に静かで美しい。少し頼りない男がたどり着いた場所。結末に向かうとき、このまま終わってほしいと思わずにはいられなかったラストが素晴らしい。

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    2018年08月26日
  • その雪と血を

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    ボスに依頼された人物を始末する殺し屋、オーラヴ。次の依頼は、ボスの妻を殺すこと。任務を遂行するためボスの家に赴いたオーラヴは、妻に一目惚れしてしまう…。

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    2018年06月06日
  • トランプ

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    アメリカ人のみならず、立候補表明時には誰もが泡沫候補だと思った
    ことだろう。立候補した本人以外は。

    ドナルド・トランプである。アメリカ人の大富豪は、並み居る共和党候補者
    を次々と撤退に追い込み、民主党のヒラリー・クリントンとアメリカ大統領
    というVIP中のVIPの座を目指している。

    私にしては珍しく旬の読書なのである。だって、大統領選前に何故、彼が
    多くの批判を受けるのと同じくらいに、多くの支持を得ているのかを知り
    たかったのだもの。

    しかも、調査報道は得意中の得意の「ワシントン・ポスト」取材班。これは
    読み逃すわけにはいかないでしょう。トランプ自身も取材班のインタビュー
    に応えているっていうしさ。

    先般、ヒラリー・クリントンとのテレビ討論会で司会者から「選挙の結果を
    受け入れるか」と問われて、頑なに「自分が買った場合は受け入れる」と
    繰り返していた姿こそ、本書でもトランプ自身が言っている「ドナルド・
    トランプは負けたことがない」との現れなんだ。

    でも、実際はいっぱい負けているんだけどね。憧れのニューヨークのプラザ
    ホテルを買収したはいいが結局は手放す羽目になっているし、手掛けた
    カジノは倒産している。自分のことが書かれた記事が気に入らないから
    と高額の賠償請求訴訟を起こしても判事に却下されてるし。

    でも、本人にしたら「負け」ではないらしい。誰かに似ていると思って考えた
    ら、子ブッシュ政権時代の国防長官ラムズフェルドだった。ラムズフェルド
    の自伝の感想に「究極のポジティブシンキング」と書いたけれど、トランプ
    もまさしくそれ。

    あ、偶然にもラムズフェルドのファーストネームも「ドナルド」だったわ。
    ラムズフェルドは戦争屋だったけれど、トランプはアジテーターであり、
    ショーマンである。

    選挙戦では一貫して「ブルーカラーに共感する大富豪」として、国民の
    不満のはけ口になるような言葉を連発し共感を呼んでいるものね。
    大衆が何を求めているのか。それを嗅ぎ付ける嗅覚は非常に鋭いの
    ではないかと思うわ。

    しかも、既存の政治家が使う分かり難い言葉ではなく、感情に直接訴え
    る分かりやすい言葉ばかりなんだよね。だから、他の候補者の誰よりも
    一般の支持を得たのだろうな。

    「俺はドナルド・トランプをやっている」

    本人にとっては「ドナルド・トランプ」自身が既にブランドなのである。だから、
    メディアを批判しながらもメディアに出続け、詐欺まがいの行為と恫喝で
    イメージを守り抜く。

    実際、トランプの純資産がどれくらいあるのかは不明だそうだ。本人のその
    時々の「感覚」で資産額が変動するらしい。純資産は本当のところ、どれ
    くらいあるんだろうな。

    「アメリカは選挙を注視して私を大統領にするべきだ」なんて発言もあった
    けれど、もし、まかり間違ってトランプが大統領になったら大統領専用機で
    あるエアフォース・ワンの尾翼に「T」とか書いちゃうんじゃないのか。ホワ
    イトハウスは「トランプハウス」に名称変更して、挙句には国名まで「ユナ
    イテッド・ステイツ・オブ・アメリカ」から「ユナイテッド・ステイツ・オブ・トラ
    ンプ」にして国からライセンス料を踏んだくろうとするかもしれん。

    アメリカ大統領候補を様々な方面から描いた優れた評伝である。この膨大
    な仕事を僅か3か月で仕上げた「ワシントン・ポスト」取材班に敬意を。

    そして、間近に迫った大統領選挙の結果が楽しみである。トランプが負け
    たらきっと「不正選挙だ」ってまたひと騒動なんだろうけれどね。

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    2017年08月24日
  • その雪と血を

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    俺にはできないことが3つあると言って消去法的に殺し屋となった男が、殺さないという道を選んだことで得られた悲しい結末、あるいはハッピーエンドの物語。人にはそれぞれテーマがあってそのテーマに沿って人生は物語として再構成される。同じ事象を目の前にしても、個々人によっては見えているものも違えばその解釈も大きく異なる。そういう意味で一人称で語られる物語は読むたびに解釈が変わるほど入念な小説だった。エピローグでは語り手が変わるがそれが意味することは何だろうと考えあぐねる。カートヴォネガットの『タイタンの妖女』で死にゆく男が見た夢の光景の話があるが、この物語では何がどこまで夢だったのだろうと考え始めるとキリがないけれど、そのキリのなさゆえに小説というものは深化し、読み手によって命を与えられるのだろう。雪という肉体と血を身に纏って。

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    2017年03月10日
  • トランプ

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    ワシントン・ポストだから
    トランプたたきの本ですが
    500頁近くあり、内容も濃く読み応えある。

    表紙の写真がまた悪そうで笑う

    トランプが嫌われるのも、支持されるのもわかる
    ゴルフのスコアをごまかす話が可笑しかった。

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    2017年02月19日