何度読んでも魂が震える。菊池光の訳も良かったが今回の新訳も良い。話が良いんだから当然だ。15年前の戦争で特殊部隊で名を上げたキャントンことドライバーのケインは、弁護士メルランの依頼で、シンプルな仕事を引き受けた。マガンハルトという実業家を大西洋岸からフランス、スイスを横断してリヒテンシュタインへ約束
...続きを読むの日時までに車で送り届けるというものだった。しかし、マガンハルトはフランス警察に追われ命を狙う者たちもいるからと、アル中のガンマン、ハーヴィーが雇われた。そしてマガンハルトの連れて来た美人秘書の4人で車に乗り込んだ。派手なアクション、駆け引き、一か八かの賭け。アルコールに逃げ出したくなる極度の緊張と逃げ、セクシャルで魅力的な女、庶民とは違う価値観に生きる実業家、ケインの過去に関わってきたレジスタンスの仲間たち。ケインは命を狙う側ではなく狙われる男の側にいることに義を感じる。時に弱さを見せながらもプロとしての覚悟が上廻る。葉隠の武士道のような死の覚悟を照れで隠しながら、常に甘えず頼らず自分の足で立ち、やり遂げる。そしてラストのどんでん返し。マガンハルトの命を狙っていた男の謎が明かされケリをつける。無駄のない文章、科白と動き。共に戦った信頼が生んだ男たちの友情。最後まで痺れっぱなし。