今野敏のレビュー一覧
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シリーズ最新作。今作も期待を裏切らない一冊で、各登場人物の魅力が満喫できる短編集になっています。長編でもその魅力を味わうことができますが、事件のトリックや解決の行方に気をひかれてしまうため、短編集として読む方のに適したストーリーです。
全10編、これで1クールのTVドラマが成立してしまうのではないかと思えるほど、クオリティの高い内容。刑事ものですがいずれも素敵な人間ドラマが描かれていて、刑事もの特有の事件臭さといったものを感じさせない内容です。
須田の活躍は相変わらずですし、相楽もなんだか角が取れてより深みのある人物として描かれており、村雨、黒木、桜井、水野といった一係の面々もより人物としての輪郭がはっきりしてきた、そんな印象を持ち、ますます好きなシリーズになりました。 -
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ネタバレ今野敏「ST警視庁科学特捜班シリーズ」第3作目(2000年12月単行本、2004年1月文庫本)。
今回の舞台はモスクワだ。ロシア連邦保安局(FSB)と科学捜査の情報交換を目的とした研修にSTから百合根友久キャップと赤城左門の2名が派遣されることになった。時を同じくして黒崎勇治が柔術の指導セミナーでモスクワへ私的な渡航を予定していた。そして山吹才蔵もモスクワの在住の曹洞宗の檀家の集まりに呼ばれてと、取ってつけたような理由とタイミングでのモスクワ渡航で、偶然にも黒崎と同じ飛行機に乗っていた。
飛行機の中で黒崎は同じ柔術の指導者の芦辺正次郎29歳と二人だったが山吹が黒崎を見つけて声をかけたのだ。その会話を聞いてオカルト関係に精通しているフリージャーナリストの森田康治39歳が声をかけてきて、何やら科学特捜班のモスクワでの目的に探りを入れてくるのだ。モスクワでのラスプーチンゆかりの教会での爆発死亡事件に興味があるらしい。
先にモスクワに行っていた百合根と赤城はFSBが担当しているまさにその爆発事件の捜査に参加することになった。FSBの捜査官の名前は通称アレク、 KGB出身の爆弾テロの専門家だ。アレクは格闘技にも精通していて今は柔術を始めている。そしてそのアレクがFSBに柔術を取り入れようとして黒崎達を指導セミナーに招待した張本人でもあったのだ。
教会の地下室での爆発事件で死んだのはその教会を買い取ったマフィアのヴィクトル・ヴォルコフ。そしてその事件を調べようとその教会に忍び込んだ森田も死んだ。爆発の現場には爆薬の痕跡はなく、その教会では度々ポルターガイスト現象が起きていたという。事故なのか殺人事件なのか、日本人も死んだということでSTの残りのメンバー、青山翔と結城翠が菊川警部補と共に急遽モスクワへ派遣されることになった。
モスクワにSTの5人と百合根、菊川のいつものメンバーが揃い、ロシアが誇るFSBもSTの能力に兜を脱ぐことになるのである。赤城が森田の司法解剖をして、殺人事件と断定し、結城がポルターガイスト現象の謎を解明し、青山が犯人のプロファイリングをしたところで、今回は何と百合根キャップが犯人を推理、特定し、更にアレクもその真相を知っているはずというところまで突き止めていた。
いつもと違う百合根を見た意外性に戸惑ってしまった。またSTに苦労ばかり強いられていた百合根の心の中に、いつのまにかSTが居着いている言動に戸惑いながらもほっとするのである。
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シリーズ3作目からだいぶ間をおいて刊行された一冊のようです。その間、著者の力量が上がったからでしょうか、おそらくシリーズの中では一番読み応えのある一冊ではないかと思います。
“あの”ヴィクトルに狙われているというカジンスキーのガードを引き受けた工藤。が、ガードを続けながらもなんだかヴィクトルのことが気になる様子。ついにはヴィクトルからカジンスキーの正体を聞かされ信じるべきはヴィクトルのほうであると気づく!
最終的にはヴィクトルからエレーナ救出のために手を貸してくれという新たなミッションが課せられ工藤もロシアへ。最後の救出劇はあっけなかったですが、そこに至るまでの緊迫した展開が充分“読ませてくれる”内容に仕上がっています。ヴィクトルの登場もあって物語に厚みも加わり、17年のときを経た成熟を感じさせてくれる一冊でした。 -
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ネタバレ今野敏「ST警視庁科学特捜班シリーズ」第2作目(1999年9月単行本、2002年9月文庫本、2014年7月新装版)。
5人のSTメンバーの中で今回は毒物等の薬物専門家である山吹才蔵が活躍する。前回登場の警視庁捜査一課の刑事菊川吾郎警部補もSTの推理に今回も協力する。STキャップの百合根友久警部が頼りないのは相変わらずだが、菊川警部補の積極的関与で百合根警部を助け、捜査権のないSTがその特殊な力を発揮することが出来るのは今回も同じだ。
代々木公園、世田谷公園で連続して変死体が発見される。いづれからもフグ毒が検出され連続殺人事件として捜査本部が設置された。被害者の一人は暴力団関東英隆会と関わりがあるチンピラ杉田英吉19歳、もう一人の被害者はフリーのカメラマンでタレントのゴシップを追いかけていた笹本雅彦35歳。そしてそのタレントの所属事務所は関東英隆会の企業舎弟だった。捜査本部は関東英隆会絡みの事件として捜査方針を固めるが、STの推理は違っていた。
杉田英吉のパソコンに有名なテレビのアナウンサー八神秋子28歳の写真が大量に保存されていた。八神秋子には岩谷慎太郎という35歳のレストランチェーンを経営する実業家のボーイフレンドがいて、付き合う前まではストーカーに悩まされていた。そしてそのストーカーが杉田の可能性があった。
また岩谷には自己啓発セミナーを主宰している白鷺勇一郎という人物と繋がりがあり、秋子がセミナーに参加することになったことで事件は狂気の核心に迫る。
岩谷と白鷺は関東英隆会の下部組織と共に関係がある間柄だった。そして白鷺と秋子は学生時代に出会っていた。岩谷の秋子への異常な独占欲、嫉妬、病的な愛情。白鷺の秋子への身勝手な復讐心。秋子が白鷺のセミナーに参加して徐々に洗脳される前に岩谷も白鷺に洗脳されていた。三者の異常な関係が2件の殺人事件を起こす動機となった。
サディズムによる洗脳やや死人を蘇らせるトリックなど、何とも理解し難いストーリーだが、山吹才蔵が事件発生当初から感じていたインスピレーションが全て結びつき、STの面々の活躍で事件は解決する。赤城左門の法医学、青山翔の心理学、結城翠の聴覚、黒崎勇治の臭覚と柔術、4人の特殊能力が山吹才蔵をフォローして、事件解決、犯人逮捕までこぎつけるのだ。
捜査本部の全く予想していなかった事件の真相に指揮を取っていた池田厚作管理官は驚くもSTの能力に満足感を感じていたようだ。反してSTに否定的で排除を画策していた警視庁捜査一課刑事調査官の川那部遼一警視は鼻をへし折られた感じの退場シーンが今後どう言う関係の展開になるのかちょっと楽しみな気もする。 -
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ネタバレ今野敏「ST警視庁科学特捜班シリーズ」第1作目(1998年3月単行本、2001年6月文庫本、2014年5月新装版)。
「隠蔽捜査シリーズ」や「樋口顕シリーズ」のようなリアル感は無く、漫画かテレビドラマにありがちな登場人物設定のストーリー構成で、これは違うかなと思いながら読み始めたのだが、これはこれでなかなか面白いと引き込まれて一気に読み終えた。
警視庁科学捜査研究所(科捜研)に新設された警視庁科学特捜班(ST)、そのSTに所属する5人のスペシャリストの活躍の物語である。リーダー格の法医学担当で女性恐怖症の医師(赤城左門)、第一化学担当で毒物など化学物質などを嗅ぎ分ける臭覚が発達し、古式武道柔術の達人でもある(黒崎勇治)、文書鑑定担当でプロファイリングの専門家であり秩序恐怖症のイケメン(青山翔)、物理担当で離れた場所の小声も聴き取れる特殊聴力の持ち主でいつも露出狂を思わせるような派手な服装の美人(結城翠)、そして第二化学担当で薬物のエキスパートで実家がお寺で自分も僧侶の(山吹才蔵)の5人だ。5人共警察官ではない、科捜研の一般職員の身分だ。それでも特捜班として捜査本部の捜査会議に参加する。
捜査の刑事達との橋渡しをする役目でSTの実務面の運用を任せられたのがキャップの百合根友久、30歳のキャリア警部だ。そして捜査本部の警視庁捜査一課係長の菊川吾郎警部補45歳が当初STに懐疑的だったのが徐々にその能力を認めて信頼していくようになっていく。
3人の女性が連続で殺害され、いづれも対立する外国人マフィアと深い繋がりがあったことがわかる。香港マフィア、台湾マフィア、そしてコロンビアマフィア三つ巴の新宿権益争いが発端の、愛人報復殺人事件と思われた。3件の殺人事件は手口も全く違い、猟奇的だが3件共被害女性の体内に遺された体液の血液型は全部違っていた。明らかに同一犯ではない別の事件だった。しかし捜査本部の方針に異を唱えたのがSTの青山だ。推理したプロファイリングを話す時、全く違う事件の真相を暴くことになる。
この物語ではSTの各人の特技が発揮される場面で実に痛快に楽しめる。特に黒崎勇治、結城翠、青山翔の3人の特技が凄い。
黒崎の柔術の腕前は超一級だ。香港マフィア7人を相手に一人素手で30秒で5人を倒し、2名は逃げ出す。そして刑事二人を倒したプロのテロリストエージェントを一瞬に倒す。これは痛快だ。
結城の並外れた聴力も凄い。部屋の中の話し声をドアの外から聴いて有益な情報を取ったり、ホテルのフロントでの被疑者の会話をロビーの離れた場所から聞き取ったりしたりする。もっと凄いのが絶対音感を持っていて声紋鑑定と同じように人物を判別、被疑者を特定してしまうところだ。
そして青山のプロファイリング、殺人事件現場に臨場しても当初なかなかプロファイリングをしなかった。それが終盤に理由がわかるのだが、犯人がプロファイリングを想定した偽装をしていたからだった。3件の殺人事件の手口とその理由を青山が語り始めるとまず 菊川警部補が言葉を失い、犯人一人説を相手にしていなかった捜査本部幹部も海外逃亡を企てているという推察に全捜査を投入するのだ。
アメリカで表社会ではイタリアンレストラン経営を中核としたコングロマリットを経営し、裏社会でも麻薬市場を牛耳っているジュリアーノ・グレコ56歳、日本でもグレコ・ジャパンを設立して飲食店の経営等でグレコ帝国を確固たるものにしている。そして日本文化や伝統が大好きで将来引退したら日本に住みたいと思っている。更に中国に経済的にも裏社会でも日本が支配されることを憂慮していて、そうなるぐらいなら自分が支配したいという野望も持っている。
グレコ・ジャパンは日本の化粧品会社を買収し新しい化粧品事業を展開しようとしていた。そのマーケティング調査にジュリアーノは中国系アメリカ人のリリィ・タン29歳を派遣してきた。細身だが強靭な体つきの美人だ。
リリィ・タンの任務にはもう一つあった。日本の外国人マフィアに争いを起こし、組織を弱体化させることだと推察される。ジュリアーノは日本の文化・伝統を破壊する外国人マフィアを一掃させたいと思っているように伺えるのだ。リリィ・タンが任務を敢行し3人のマフィア関係者の女性を殺害し、任務を成功させたがSTに見破られ、逃亡寸前に成田空港で逮捕される。しかし殺害は自供してもその動機や共犯者あるいは教唆については喋らなかった。リリィ・タンは紛れもなくプロのテロリストだった。
読み始めた時は、このシリーズの2作目はもういいかなと思っていたのだが、読み終えると2作目も是非読んでみたいという風に変わった。きっと回を重ねる毎にSTへの捜査員の信頼が積み重なっていき、STも活躍の場も増え、進化し、またSTの新しい魅力が見られるだろうと思う。どういう展開が待っているのか楽しみだ。
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今野敏「警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ」第4作目(2014年4月単行本、2016年8月文庫本)。
前作から14年経ってからの4作目ということになる。作品の中では3年後の設定みたいで、樋口顕は45歳、氏家譲は43歳、天童隆一は51歳、樋口照美は20歳になっていた。樋口顕は警視庁捜査一課の警部で変わらず、氏家は荻窪署の巡査部長から警視庁生活安全部少年事件課の警部補に栄転していた。天童も警視庁捜査一課の警部から警視で管理官になっていて、照美は高校生だったのが大学3年生だ。捜査一課長の田端守雄は変わらないが警視正になっている。
今回も殺人事件の捜査と並行して樋口の家族の事件に関わる展開が描かれて、対応する樋口の人間性がよくわかるストーリーだ。
そして今回新たに登場する樋口の捜査の相棒は世田谷署の刑事の小森進警部補45歳と警察庁刑事局刑事企画課の小泉蘭子刑事指導官、25歳前後のキャリアだ。勿論氏家も要所要所で樋口に情報協力する。
事件は南田麻里という23歳のキャバクラ嬢が池尻の自宅マンションで絞殺されたことから始まる。遺体の第一発見者で通報したのは、麻里の飲み仲間で三軒茶屋の美容院で働く石田真奈美28歳だ。
警察にとって厄介だったのが麻里は世田谷署にストーカー被害を相談していて、そのストーカーが容疑者として上がり消息を絶っていることだ。警察の失策としてマスコミからの追求を極端に恐れていた。容疑者の名前は樫田臨、33歳の会社員だったが退職していた。
そんな時氏家から樋口に電話があり、被害者は痴漢被害で別の男を告訴していることを知らされる。このことが後で事件解決に結びつく糸口になるのだ。
告訴されて地検で有罪判決後控訴手続中の男は楢崎公平、47歳の大学の准教授だったが懲戒免職になって、そして離婚している。現在弁護士のもとで控訴手続中で直接会えない状況下だ。
他にも渋谷署にも別のストーカー被害で麻里から届けられていた男がいて、氏名は柳本行雄40歳。これは都公安委員会から禁止命令が出ている。
いづれも容疑者になり得るが、調べていくうちに被害者南田麻里の隠れた姿がわかってくる。そして事件解明が予想もしない方向に進んで行く。いや見逃していた方向だ。犯行の動機も判り、犯人が特定された時、意外な幕引きで事件は終わる。
今回は事件解明に小泉蘭子刑事指導官が大きく寄与する。ストーカー犯罪の専門家ではあるが、刑事ではない。刑事とは違った観点で樋口に助言して事件解決に導く。長身でスタイルのいい美人だ。
そして家族の事件というのは、娘の照美のパソコンから高校や中学に脅迫メールが送信された事実を警視庁生活安全部のサイバー犯罪対策課の捜査で突きとめたことだった。氏家は少年事件課ではあったがこの情報を得て樋口に内密に連絡してきた。おそらく遠隔操作ウイルスによるなりすましメールだと思われるが、捜査員が事情を聞きに行くことになるだろうという。ここから樋口の思案悩みが始まる。この情報は誰にも勿論照美にも話せない、照美が素直にパソコンの調査に応じてくれればそれだけで解決する問題だと自分に言い聞かせる。ところがそうはいかずに予想外に照美が抵抗して捜査員にパソコンの提出を拒否してしまうのである。
ここでまた新しい捜査員の名前が出てくる。サイバー犯罪対策課の捜査員の名前は伊勢原克明、年齢は30代半ば、5年前に板橋署にいた時に樋口と一緒に仕事をしたことがあり、樋口のことを恩人だと思っているらしい。これからこのシリーズにまた登場してくる予感がする。
樋口の懸念していた強制調査について、照美のパソコンの調査はあくまでも協力依頼であって強制捜査なんてありえないと言う。最終的には照美も打って変わって自主的にパソコンを提出する。そして樋口に新しいパソコンをおねだりするのである。樋口はまんざらでもない様子で最近ずっと距離があった親子のコミュニケーション復活でホッとする家族の話でもあった。