西澤保彦のレビュー一覧
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「確定している未来の事象を事前に幻視する」予知夢を見る能力を持つ久志本刻子と甥の素央は、謎の殺人鬼による一族に起こった惨劇を夢に見る。未来は変えられるかもしれない、と一縷の望みをかけて惨劇の場に顔を出さない、という選択をした素央の行動によって、惨劇は回避された。何故、惨劇は回避されたのか。ふたりはお互いに見た夢の答え合わせをはじめるのだが――。
というのが、本書の導入。他の能力では代替できない『予知夢』だからこその『殺人』の形を描いた傑作だと思います。個人的には著者の作品群の中でも、かなり好きな作品です。一筋縄ではいかない複雑な構成によって放たれるラストの強烈な一撃にミステリ的な快感を覚え -
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十二月の終わり、その年、五十歳を迎える大学教員の古徳は、学生時代の同級生である早稲本と再会する。古徳にとって早稲本は旧友でありながらも、ひとりの女性を巡って因縁があり、再会が必ずしも喜ばしいものではなかった。一緒に酒を飲むことになったふたりは、気付くと二十八年前の世界にタイムスリップしていた。実は古徳には様々な条件が重なることで、タイムスリップできる体質を持っていたのだ。過去に戻った早稲本は、ずっと抱えていたある疑念を古徳にぶつけるのだが……。
本作はタイムスリップ能力を持った男を主人公にした連作集になっています。過去に戻れるという能力を有している、と言っても、自由自在に行き来できるわけ -
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狂う。なんて魅力的なタイトルだ、と初めて見た時、そんなふうに思いました。単行本時のタイトルは『彼女はもういない』。内容を考えると、どちらも作品には合っているのですが、個人的には『狂う』のほうが好きです。
鳴沢文彦は母校の同窓会名簿の改訂版を見たことをきっかけに、爆発的に憎悪が醸成されるようになった。かつてともにバンドのメンバーだった奏絵の連絡先が空欄になっていたのだ。この出来事をきっかけに鳴沢は自分の得た遺産を目当てにする甥を利用して、凶行を重ねていく。
『狂った』としか思えない行動の、『動機』だけは不明瞭なまま。どんなに他人からは理解されなくても、当人には当人なりの論理が大抵、あった -
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異様な遺体となって見つかる女子高生、常軌を逸した行動を繰り返す刑事。被害者たちの共通点が分かるとともに、やがて明らかになる犯人の意外すぎる動機。ということで、西澤保彦『殺す』は、元々のタイトルは『猟死の果て』で、どちらであったとしても、過激さを感じるタイトルですが、内容も名前負けしない異様さを持っています。
心の歪みが暴走するとともに、周囲にいた者たちまでもがおのれの闇をさらしていく。これは怖い。そして露悪的にデフォルメして描かれているように見えて、必ずしも、「いや、こんな奴おらんやろ」と言い切れないものを感じてしまうことに、さらなる怖さがあります。 -
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著者がかつて書いた作品の中に、『七回死んだ男』という作品があります。遺産相続をめぐる騒動の中で死んだ祖父の死を回避するために、同じ一日を何度も繰り返す少年の奮闘を描いた著者の代表作です。
ふと読みながら、『七回死んだ男』を思い出したのは、本作も家族の死を回避しようとする男の物語だったからかもしれません。だけど死を止めたい理由が独特と言えば独特ではあります。突然、現在の姿のままタイムスリップした男が死を止めたかったのは、姉のため。女性しか愛せなかった姉はそのことで反発し合っていた昔気質の父親が殺されたことがきっかけで、望まぬ結婚をし、望まぬ人生を歩んでしまったからなのです。
家族をめぐ -
匿名
購入済み設定がワクワクする
SF×クローズドサークルミステリ。
こういうジャンル大好きですが、やっぱり面白かった!
ハイペースで人格が入れ替わるところは少し混乱したけれど、
図もあるし、説明も丁寧なので乗り切れました。
理屈が納得出来たし、読後感も爽やかで、読んで良かったと思いました。 -
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今読むには少し古い物語だとは思いますが、それでも私はこの物語に心を掴まれました!
このミステリーはほんとに素晴らしいと思います!!
ミステリーでは当たり前な展開、今まででてきた登場人物の中に犯人はいて、犯行に関わっている人もいて、少しずつ真実が分かっていくはずなんです。
少しずつ真実がわかっているのに、自分の推理はどんどん真相から遠ざかっていました。
最初はハコちゃんと呼ばれる女の子の視点から入ります。その視点では、事件で重要なことが描かれているはずなのに、私は最初のそのシーンのせいで逆に真相から遠ざかっていきました。きっと作者もそれを狙っていたのでしょう。最初に重要な場面を見せ、読者が真実 -
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ネタバレなるほど、本書の帯に「ミステリが明らかになった後の衝撃・その後にある気持ちが湧き上がってくる」ということを書いてありその意味がよくわかった。
物語の後半から一気に増すスピードと、読後にわかる細かな伏線。
私は普段ミステリ小説はあまり読まないがなかなかにハマりそうな読後感だった。
以降はネタバレになるが、本書の肝となる「ファンタジー・共同幻想」は現代にも似た部分が多分にあると思う。
SNSの普及によって自分好みの情報だけを取捨選択できる環境が整った。
だから自分の知っている世界は一面的で偏りができてしまっているかもしれない。
そして、そのことに気がつくこともできないかもしれない。
結果と -
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死者たちの世界―― 誰も寄り付かない辺境の屋敷にそれはあった。 生前の記憶をリセットして生ける屍として再生させる装置、それによって甦った屍は更なる仲間を求め生者を殺していく・・・。 一方死者の世界の隣町では不可解な連続殺人が起きていた、死後の世界と生前の世界が交わる時事件は驚愕の結末を迎える・・・。
西澤氏のSFミステリ。 「生ける屍の死」の影響を強く受けています。 荒々しいそれでいて雑ではない驚天動地のトリック、ラスト数行で叩きつけられる真相、SFという自由な設定に厳粛なルール付けをして展開される西澤ミステリの最高傑作だと思いますね。(でも舞台がアメリカなので珍苗字は一切出てこないのだ