西澤保彦のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
七つの死体が横たわる嵐の山荘。そのうち六人を自らの手で殺してしまった主人公・マリは、唯一自分が関与していない一人の死について、“真犯人”を推理しはじめる――自身の罪を着せるために。
本作は、ブラックユーモアと緻密なロジック、そして人間の滑稽さが絶妙に絡み合った、非常にユニークなミステリ作品です。
物語は、山荘での事件を追うマリと、別のホステス殺害事件を捜査する刑事・三諸という二人の視点が交互に描かれます。個別に進行するはずの事件が、奇妙なかたちで交差し、登場人物同士の接点が浮かび上がっていく。二つの事件を眺めていく事で、数多の謎が複雑に絡み合った事件の全貌を、まるでパズルのピースを一つずつはめていくように、徐々に明らかになっていく過程が楽しめました。全編に渡って伏線が張り巡らされている緻密な構成は、ロジック重視のミステリファンにも深い満足感を与えると思います。
更には、こうした緻密な構成が、恐ろしく雑な殺人と動機に繋がっていくギャップも面白かったです。ただ、人によっては、殺人の動機や展開があまりに突飛で、荒唐無稽な点は、評価が分かれる所でしょう。
ミステリの形式を一度壊し、ユーモアと毒気をまぶして再構築したような本作は、王道の推理小説とは一線を画した変則的な傑作。常識的な推理小説に物足りなさを感じている方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。 -
Posted by ブクログ
ぬいぐるみ警部参上! というわけで本作は、二十代後半のキャリア組の警部で、類稀な美貌を持ちながら、実はぬいぐるみへの造詣と愛が深い音無美紀警部を主人公と三人の個性豊かな刑事が様々な事件を解決していく(ただし一話目の段階では、まだ全員集合はしていない)連作シリーズになっています。事件と直接関わるものから直接的な関わりはないものの印象的に使われているものまで、なんらかの形でぬいぐるみがそれぞれの短篇に登場する作品になっています。
特に印象的だったのが、真相で明らかになる登場人物の心理が強烈な印象を残す「誘拐の裏手」で、〈凶器〉の扱いが〈犯人〉の心理的な側面と強くリンクするラストがとても好きでした。あとは、「ウサギの寝床」は事件の真相を知った時に、ぬいぐるみが重要な意味を持つ、という点が好きな一篇。続編が出ているので、こちらも楽しみに読みたい作品でした。 -
Posted by ブクログ
典型的なブラック企業を辞職し、求職中の十和人は、民間調査会社に勤めているという謎の男から仕事の依頼をされる。それは、日本国内のとある民家に約一ヶ月間滞在して欲しい、という内容で、提示されたのは多額の報酬だった。てっきりひとりで滞在するとばかり思っていた和人が招かれた場所で出会ったのは、見知らぬ女性と少女で、三人でまったく別のとある家族を演じて欲しい、と彼ら三人は調査員から告げられる。情報もほとんど与えられないまま嘘の家族生活を送ることになった三人は――。
というのが、本書の導入。紛い物の家族が本物になっていく過程をほほ笑ましく読んでいたら、まさかラストはここまで壮大な話になるのか、とびっくりしてしまいました。表紙裏の紹介文には、『ハートフルミステリ』と書かれていますが、どちらかというと、怖さを感じる結末でした。前半のエピソードにちらりと出てきた人物が中々強烈なキャラクターとして、重要な役割を担って登場するのですが、屈折してるのにどこかからりとしている悪役が大変魅力的で、印象に残りました。