西澤保彦のレビュー一覧
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ネタバレここまで来ると好みの問題でしかないと思うけど、私はやっぱりこの雰囲気好き。
しかも前作より面白いかも。前作読んで高まっていた期待に見事に応えてくれて満足。
一応短編集。
初編では腕貫さんは割と謎な人物で、ともすれば悩みを抱えてる人だけに見える妖怪(!)なのかな、くらいに思ってたけど、今作は全部腕貫さんの勤務時間外にもたらされた相談事になってる(だから「残業中」ね)。
確かに毎回受付時間に来るクライアントの話にしていたらワンパターンというかマンネリ化してたかも。
お、今回はこういう趣向か!と思いながら、一方で腕貫さんのプライベートが描かれることで謎めいた部分がなくなって世界観が壊れるんじゃないかとの危惧もあった。
でも、相談したことない女子大生に「易者」と思われるくらいには認知されてることが分かったり、意外にグルメな一面が見れたりして、これはこれで楽しかった。
あと、おんなじ登場人物が出てきたり、事件が全部櫃洗市で起こってるもんだから、レストランとかホテルとか何度も同じ施設が出てきたりして、もう事件は知ってる街で起こってるような気分になる。そうやって読者は作品の世界に引き込まれちゃうんだよね。うまいなぁ。
んで、ミステリの部分もしっかりしてると思う。こんなの分かりっこないってレビューもあるけど(そしてそれは否定はしない)、その分腕貫さんの鮮やかな推理力が映えるというか。
そしてなにより「軽い」ので、自分の精神状態を気にせず読めるのも魅力だな(シリアスな話は読む方も体力使うからね)。 -
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この物語には、「妄執」にとり憑かれた二人の人間が登場する。
ひとりは、ギリギリまだ引き返せる場所にいた。
ひとりは、きっと死闘を繰り広げてでも容易には引き下がらない筋金入りの「妄執」に囚われている。
最近起こったマンションでの不可解な出来事と、タックが語る異様な過去の出来事がカットバックのように語られていく。
ほんの小さな疑問の裏に、実は怖ろしい現実が隠されているマンションにまつわる出来事。
逃げても逃げても、手段を選ばず、誰を傷つけてもけっして諦めることなく追ってくる過去にまつわる出来事。
ともに、人間のあさましさと怖さが描かれている。 -
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ネタバレ良かったです。世界観が。
西澤保彦初めて読みましたが、全く気負わずに文章を書く人ですね。変に洒落た言い回しとかほとんどなく、こちらも気が散ることもなく構えずに読めます。
同一の主人公の周囲で起こる短編集。
ライトミステリに分類されるのでしょうか、日常的な小さなミステリが仕込まれてますが、大きなテーマは「老い」とか「死」とかです。
主人公は早期退社して再就職先を探す48歳独身。生い立ちも不幸の部類に入るし、現在天涯孤独で、お先真っ暗なはずだけど、小説には不思議と絶望感がありません。
むしろ近所の人との何気ない会話とか、人との出会いなどもあって、心が温まります。
登場人物たちはそれぞれそれなりに不幸です。周囲に痴呆の老人も居るし、老人は死ぬし、彼らも歳を取ります。各短編も決してハッピーエンドではありません。
なのに、何故、こうも読後感が良いのか。
地味な小説ですし、傑作ではないかもしれないけど、ほっこりします。
人の繋がりっていいなと思えます。 -
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ネタバレ〇 概要
お嬢様学校として有名なミッションスクール,メアリィ・セイント・ジェイムス女子学院(MSJ)の学校関係者が続けて死亡する。同学院の新任英語教師,住吉ミツヲは,混沌とする記憶を抱えたまま,事件に巻き込まれていく。果たして,彼は本当に同僚教師の妻を殺害してしまったのか?
事件のカギを握るのは,魔性の女性事務員なのか。女子高生探偵遲野井愛友,大富豪探偵月夜見ひろゑ,そして腕抜探偵といった豪華なラインアップの探偵が登場する櫃洗市を舞台としたミステリの決定版!
〇 総合評価 ★★★★☆
好きか嫌いかといわれれば好きな作品である。住吉ユリエ,遲野井愛友など登場人物が非常に魅力的であり,そもそも櫃洗市という舞台も好きだ。書評などを見ると,推理小説としてはいまいちという感想も多い。ストーリー全体として見れば意外性はあるのだが,殺人事件の真相を推理するとなると伏線も乏しいし,真犯人も地味。推理小説としてはそれほど評価できないのは分かる。これは,キャラクター小説として,櫃洗市を舞台とした群像劇を楽しむ小説として読むべきだろう。そのように読んでみると,結構楽しめた。
〇 サプライズ ★★★☆☆
MSJの関係者である薩川佐由理,茅野真奈,智恵クロフォード,瀬脇修一郎の4人が死亡していたが,薩川佐由理,智恵クロフォード,瀬脇修一郎の三人を殺害したのは茅野真奈だった。茅野真奈は,智恵クロフォードを刺殺した後,投身自殺をする。茅野真奈が起こした連続殺人事件に,住吉ミツヲの記憶障害を重ね合わせることで,混沌とした物語を構築している。標葉いつかというMSJの女性事務員にまつわる「標葉いつかと関係を持った男は,決まってその直後に身内の誰かが謎の死を遂げる」という都市伝説を話に絡めてくる。
住吉ミツヲは,ひょんなことを理由(この理由に,腕抜き探偵残業中の「青い空が落ちる」の登場人物,松嶋充子を登場させるのが心憎い。)に,自分の弟,ミツヒロを殺したいと思って標葉いつかと関係を持つ。そして,本当にミツヒロは交通事故で死んでしまう。ミツヲは自責の思いからミツヒロの死に関する全てを忘れてしまう。
ミツヲは記憶を失うだけでなく,ときにはミツヒロを演じてミツヒロの死を忘れようとする心の病に陥っており,その状態を脱するために,高校生探偵である遲野井愛友が大富豪探偵である月夜見ひろゑの財力を使って,標葉いつかも殺害され,その真犯人がキムバリィ・ブラウン園長と早藤行雄教頭であるという大芝居を慣行する(この大芝居に,榎本裕子アナウンサーを使うのが心憎い。)。
という荒唐無稽な話。終盤の怒涛の展開は,意表を突く真相なのだが,話があまりに荒唐無稽すぎて,サプライズはさほど感じなかった。ミツヲの記憶障害を解消するために行った大芝居を踏まえたラストも,「夢オチ」を思わせるようなオチ。話の骨格となる連続殺人の犯人が茅野茉奈で,話全体の構成としては意外性があるのだが,殺人事件の真犯人としてはいたって平凡。総合的に見て,サプライズはぎりぎり★3かな。
〇 熱中度 ★★★★☆
住吉ユリエ,月夜見ひろゑ,腕抜探偵といった,これまでのシリーズでも登場した魅力的なキャラクターに加え,遲野井愛友,住吉美津子,住吉譲流と個性豊かで魅力的なキャラクターがてんこ盛り。話としても,「この話にどんなオチをつけるんだ」と思わせるほど大風呂敷を広げていく展開。熱中度は非常に高い。
〇 キャラクター ★★★★★
魅力的なキャラクターがてんこ盛り。これまでの櫃洗市シリーズで登場したキャラクターがオールスターとばかりにそう登場するだけでなく,この作品がデビューとなる女子高生探偵の遲野井愛友も非常に魅力的。また,主人公の住吉ミツヲこそやや影が薄いが,その母,住吉美津子,父住吉譲流のキャラクターも一本筋が通っていて魅力的である。推理小説としてではなく,キャラクター小説として読んだ方が面白いかもしれない。キャラクターは文句なし。
〇 読後感 ★★★★☆
荒唐無稽な話であるが,読後感は悪くない。住吉ミツヲと遲野井愛友が結ばれるというオチで,住吉家と遲野井家の家族が一緒に食事をするというラスト。殺人事件があったり,住吉ミツヒロが死んでいたり,そもそも住吉譲流と遲野井愛友の母が不倫の関係にあったなど,どろどろした背景があるので,冷静に考えるとそれほどハッピーエンドとも思えないのだが,そのような展開を忘れさせる気持ちのよいラストである。
〇 インパクト ★★★☆☆
住吉ミツヲの記憶を取り戻すために,大掛かりな芝居をうったという話全体にはインパクトがある。しかし,推理小説としてみるとインパクトは薄い。殺人事件の真相が地味すぎるのだ。キャラクターが魅力的なのは美点だが,やや過剰なキャラクターが,個々のキャラクターの活躍のインパクトを薄めているのも事実。サービス精神が旺盛すぎたきらいはある。インパクトは★3か。
〇 希少価値 ★☆☆☆☆
腕抜探偵シリーズはそこそこ人気がありそうだけど,モラトリアム・シアター自身がどこまで人気があるかは謎。西澤保彦作品は映像化されないし,実業之日本社文庫ということもあって将来的には手に入りにくくなる可能性はある。 -
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ネタバレ門限六時。家が厳しい女子大生ハコちゃんはやっとアメリカ行きの許しを得た。出発前日、親の外出をいいことに同級生が開いた壮行会から深夜帰ると部屋に女の死体が!夜遊びがバレこれで渡米もふいだと焦った彼女は自分に気があるガンタに遺棄を強要する。翌日発見された遺体は身元不明。別の同級生も失踪して大事件に。匠千暁、最初の事件。
本格的な推理という感じがした。どんどん展開が変わっていく。推理小説としては非常におもしろいものだった。だが、ちょっと残念だったのは推理要素が強すぎてだいぶ深く考えないとわからないということ。東野圭吾のように軽く読めるような内容ではなかったと思う。でも、引き込まれ具合はなかなかであった。 -
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匠千暁シリーズ長編。
最高傑作という評判に違わない、大作。
シリーズの魅力である、論議による謎解きを今作では有効に使う。それぞれ謎としても雰囲気としてもバラエティのある話で積み重ね、大テーマを少しずつ確実に掘り下げる。
にじみ寄るように外堀を埋めていって、ど真ん中にある主要キャラの過去を暴露させる。このクライマックスが各編の間に少しずつ挟まれ決して多くないページでまとめられるあたりとか、解説者のいうとおり語り手がウサコである点とか、ホントに練って作られている。そうやって整えた舞台でのオペラのような愛憎劇には、なんともいえない興奮を覚える。
衝撃より精度が売りの構造美と、青春小説にして鮮烈なテーマへのアプローチ、個々と本題の謎解き・議論の辛辣さや哀しさ、愉しさ。更に、ターニングポイントはこうして位置させるべきというお手本のようなシリーズ運び…
そんな完成度の高さと深みのある魅力に加え、なんだろうか、思い入れのある読者の期待にしっかり応えてくれる感じ。これはすごい。
4+ -
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捻りの効いた本格ミス。著者の名人芸の一角といえる“議論もの”。
喧々諤々の議論により、印象的な脇道や効果的なミスリード、あるいは新たな伏線となる説…と、様々な推理を重ね、真相ににじり寄っていく様は、何度味わっても独特で見事。
今回はまた、殺人と悪事のフー&ホワイダニットと平行し、幽霊の「あるべき論」が論議されるのも面白かった。
そして、導入から展開、つまり前半部の描きっぷりにもいい。起承転結のうち前二つにも意外性や独自性が込められており、他作と似た印象でもワンパターンでは決してないので、全く読み弛まない。ノンシリーズの本作で、改めて感じた。
ちなみに、大矢博子のあとがきもなかなか。本作の魅力語りはそこまで同意できないが、著者作に通ずる業の下りはなるほどと思った。
4- -
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西澤保彦が狂気的な犯罪者を描いた倒叙ミステリ。
真の目的だけ伏せられ、最後に探偵役に暴かれ、更に本人も知り得なかった事実まで明らかとなる、と珍しくはないパターン。
しかし、ミステリとしての展開も、猟奇ものとしての書き口も、とてもクオリティが高い。
話の入り方、場面転換の切り返し方が大胆なのがよいのだろうか、小さいことがたくさん気になるが、一つ一つを吟味する手間も惜しく読み進めてしまう。知らないうちに読まされて、気付けば謎解きに一緒に首を捻り、殺戮者の破滅的な理論に背筋を寒くしている。
最後、大オチがさすがにちょっとなぁ…と思うところはあるが、パズラーとサスペンスの双方で破綻のない良作。
4