西澤保彦のレビュー一覧
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ぬいぐるみをこよなく愛するキャリアの音無美紀警部(男、イケメン)だが、一応公にはなっていなくて、注意深い部下の桂島刑事だけが気付いている。その音無を密かに恋していろいろと脳内で妄想にふける則竹佐智枝主任も気づいていない。桂島刑事は則竹主任の気持ちにも気付いている。心の中ではいろいろあっても表面上は何事もない、このあたりの描き方が面白い。周りの人間がいいんだよね。どの事件でもぬいぐるみをきっかけにして、音無は鮮やかに事件を解決してしまう。音無警部が事件を解決したらディナーに誘おうと密かに賭けをしていた則竹主任はどうしたのかなあ。めでたく誘ったのか、それとも…。
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超能力と本格推理は相容れるのか
西澤保彦さんと言えば「7回死んだ男」が有名ですが、本作品も同作と同じように超能力+ユーモア+本格推理小説という仕立てとなっております。
で、どういった超能力かと言いますと、まあタイトルで一目瞭然かも知れませんが、実は主人公は瞬間移動が出来る訳でありまして、ただそんなことが出来るのであれば、アリバイなんか作り放題で何が起ころうがこいつが犯人に決まってるではないかと思われるかも知れませんが、そこはこの作者の書く小説ですので色々と捻りが効いてます。
具体的には酒を飲んで酩酊状態でないと移動出来ないとか、移動先には裸で現れるとか、下手に移動したら2度と帰って来れない状況もありうる訳で、実に有難迷惑と言いますか嫌がらせのような能力となっている訳で、果たして主人公はこの論理学の設問のような妙な条件をかいくぐりながら、自らの目的を達成できるのか?(ただ当初の目的は冒頭でいきなり挫折してしまうのですが)というお話であります。 -
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読書中毒高校生エミールと彼女に恋するB級映画マニアユッキーが過去の事件の謎をほぼ回想語りだけから解き明かすシリーズ二作目。今回は表題作以外は殺人事件。会話だけで推論が組み上がっていき一つの結論に導かれる形式は本領発揮といった感じ。ラストの毒の効き方含め「埋没のシナリオ」「アリバイのワイン」が上手い。それだけじゃなくてユッキー一家の正月風景とか表題作のエミールの祖母の悲しくも美しい思い出話とか二人の背景がさらに鮮やかになってシリーズ物としても進んでいるのが良い。単独でも大丈夫だけど前作読み返せば楽しさ二倍。あと舞台のブックカフェ、行きた過ぎる!
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うーらーめーしーやー
淺生倫美の兄、唯人が近くのお寺で首を吊って自殺した。
倫美は唯人の遺品の中に日記を見つける。その内容は唯人と倫美の友人や教師、喫茶店の店員との酸鼻な関係を細かく記したもの。おかしい、兄はそんなにモテる人間ではない。日記の内容が事実かどうか確認するがやはり全て嘘だった。しかしその日記のに出てくる人物が次々と殺されていく。しかし兄は自殺したのにその日記は死んでからも続きが書かれていた。殺された友人2人の犯人は分かるしかし残りの犯人がわからない。兄は生きているのか。殺される前に必ず目の前に出現する「計測機」とは誰なのか。
うーーーーん。これは難しい。
兄の怨念で人を殺せるのか?「計測機」とは兄の思念が形になったものなのか?
自分の読解能力では犯人はさっぱりわかりませんでした。これは……ホラーなのかな?(^^;) -
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ネタバレ腕貫を嵌めた謎の公務員が探偵役となり、お悩み相談を解決する連作ミステリ。特異なキャラクターが探偵役となって解決するという当初抱いたイメージとは違い、腕貫探偵という記号は強烈ではあるものの、キャラクター性には非常に乏しい。その人間性の無さや記号的な探偵を行き詰めた結果、逆に特異な存在となっているのは面白く、腕貫探偵の登場シーンは異世界に迷い込んだような趣がある。解決に乗り出すというアクティブさもなく、常時受け身の安楽椅子探偵ではあるのだが、本作はそれをさらに行き詰めた、謂わば「装置」としての探偵である。完全に答えを出すわけではなく、あえて謎に対する解法、道筋をつけるだけで、推理や真相にたどり着くのは相談者というのが斬新で面白かった。他の探偵小説と比べると特異に映るが、あくまでお客様の私生活に必要以上には立ち入らないという、公務員という領分を越えない振る舞いが徹底しているため、違和感はまったくなかった。
7つの短篇から成る本作ではあるが、事件として一番面白かったのは最初の「腕貫探偵登場」であろう。あとがきにも書いてある通り、死体発見、死体消失、死体移動という3つのアイデアがねじ込まれた異様な作品ながら、解決は鮮やかで示された手がかりを一つも残らず回収する様は脱帽である。導入としては完璧で惚れ惚れしてしまった。
一番インパクトがあったのは「喪失の扉」で、プライドの高い面倒なおじさんの家から発掘された履修届という忘れ物、それを持ってきた理由の喪失という、一見するとつまらない悩み事が、殺人事件へと飛躍する様は予想外でゾッとしてしまった。ささやかな日常の話が、一気に殺人者の隠蔽という暗い記憶を封印した話になる手腕は素晴らしい。冒頭の面倒なウザいおじさんの振る舞いも真相に直結しており、平凡な人間が殺人者になるという話に説得力を持たせている。
「スクランブル・カンパニィ」は部屋の入れ替えという古典的なトリックが最初からあけっぴろげになっており、それが事件を変容させたというのがミソ。余談だが、美人上司に風邪の介抱をされるというのはくっそ羨ましくて、別の意味で美人上司が犯人じゃないことを願ってしまった。オチとしては、美人上司も一枚噛んではいたのだが、倫理的には問題を起こす直前で踏みとどまったのでホッとしている。風邪を引いて無理やり駆り出された主人公という例外がいたおかげで、犯罪を犯さずに済んだというのがいい。美人上司の、惚れた男に尽くす、弱っている男を見ると放っておけない、というのは方便ではなく真実であったというのもスパイスが効いており、あえて小説内でくどくど説明してないのが良かった。なるようにしてなる、というのがこの作者の作品の持ち味なのだろう。「喪失の扉」を読んだ時に思ったことだが、作者は善人に対しては優しく、報われる話を描くので、そこは読んでて安心する部分である。
ただ、難点もちょっとあって『七回死んだ男』を途中で挫折した身であるのだが、その理由が本作を読んではっきりとした。どうにも、この三人称の中に浮ついた一人称が入り交じる文体が読みにくく感じる。他にも似たような文体の作品はたくさんあるのだが、この作者の文体はとりわけそこが鼻についてしまい、描写が頭に入らず何度もページを繰る羽目になってしまった。これはもう好みの問題で、合わないものは仕方がない。ただ、腕貫探偵の正体は気になるため、気が向けば続刊も手に取ってみようと思う。非常に論理的なミステリ短編集で、出来としては文句のつけようがないぐらい面白かったです。