日暮雅通のレビュー一覧
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東南ヨーロッパにある、架空の地域が舞台になっている。この地域二つの都市が存在し、それぞれ違う民族の居住地があるのだが、一部については重なっている。そこでは、相手側の人々や建物などを見てはいけないし、もちろん干渉してはいけないというルールがある。これを破ることは「ブリーチ」と呼ばれる。またブリーチを取り締まり、裁く人たちもブリーチと呼ばれる。事件の発端は、遺棄された女性の遺体を見つけたこと。身元がわからない結果、もう一つの都市の住人らしいということがわかり、二つの都市をまたいでの捜索が行われる。二つの都市が重なっているという設定が面白いのだけれど、もしかすると、ここまで極端ではなくても似たような状況って、日本を含む世界のいたるところで起きているのかもしれないって、ちょっと怖くなった。
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17世紀のイギリスを舞台にした宗教と政争と策略をめぐる物語。4人の異なる男性(異邦人であるヴェネチアの商人、汚名を着せられ命を亡くした父親の名誉挽回に猛進する弁護士志望の若者、暗号を解く技能を使い自分も重要人物であると自負してやまない数学者、華々しい政治の舞台には縁遠いながら身分としてはジェントルマンである不器用な歴史学者)の手記で構成されていて、日本語訳はそれぞれ4人の翻訳者が担当したという凝った作品。ある出来事を別々の視点から語るという群像劇が好きなのでその点では楽しめましたが、世界史にも英国の歴史にも詳しくないので、実在の人物と史実をベースに架空の人物とフィクションを織り交ぜて良質な娯楽作品になっているものの、知識が足りずに(おそらくは)半分ほどしか理解していないのでは、という感触で申し訳ない気持ちです。読みながら芥川の『藪の中』を思い出していたら、役者あとがきにもそういう声があがっているがそれより『月長石』を挙げる方が妥当では、とありました。『月長石』も読んだと思うのですがそう言われてもあまりしっくりきませんでした。個人的には芥川と、夏目漱石の『こころ』の先生の独白を思い出しました。最後まで読むとある種のカタルシスが得られますが、そこに至るまでの長い道のりは自己愛に満ちた嫌な人物のひとりよがりな長口上を延々と聞かされるかのようで辟易しそうになったりもしましたが、そこを読み終えてこそ、4人目が語る事件後の話で気持ちがすっきりできたという面もあるように思いました。まだ記憶が残っているうちに再読したら、初見より楽しめるのではないかと思います。
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小学生の時にシャーロックホームズシリーズにハマって何度も読んだ。しかしそれ以来なかなか読み返すこともなく、本棚の隅にずっと並べていた。
訳者の日暮さんはシャーロキアンと聞いていたので、期待して読んだところ当たりだった。
読みやすい訳文、充実した注釈、多くの画家による挿絵。装丁もおしゃれでとてもいい感じ。
久しぶりに読んだ感想としては、こんなにスピーディーな展開だったのか、と驚いた。長編と言っても短い作品の中に、ワトソンの懐中時計からの推理、ホームズのコカインや事件解決に対する考え方、ワトソンの恋と婚約、当時のイギリスとインドの関係など面白いところがたくさんある。
そしてホームズは引用をめっちゃする。
「人は、自分に理解できない相手がいると、馬鹿にして笑うものだ。ゲーテはいつも、簡潔にうまいことを言うね。」
「彼(ジャン・パウル)に、奇妙だが深遠な言葉があってね。人間の真の偉大さを証明する第一のものは、自分自身が卑小な存在であると認識することにあるというんだ。」
「ゲーテの詩の一節を、よく思い出すよ。
自然がおまえを、ひとりの人間としてしかつくり出さなかったのが惜しまれる。
おまえは偉人にも、そして悪漢にも、なれる素質があったというのに」
これがまた、単にロジックだけではないホームズの奥深さを感じさせる気がする。
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2つの都市国家が同じ位置にありながら、互いに見えないものとして人々が暮らしている。生まれたときから見ないように訓練している。都市は完全にこちらに属する部分、重なる部分があり、重なる部分では見ないふりをしながらぶつからない様に避けねばならず、とややこしいファンタジー設定。
しかし、冒頭は殺人事件現場で始まり主人公は警部補という大筋ではミステリ小説である。
前半は都市の設定を飲み込みつつ読むのが難しかったが、主人公や脇キャラに馴染みだし、物語が展開するにつれ引き込まれて加速した。ハードボイルドの刑事もののような読み心地とSFらしい世界観の不思議さを感じて満足度の高い読書だった。ラストの切なさも良い。
2つの都市国家が同じ場所にということからイスラエルとパレスチナを示唆しているのかと思った。ハンガリーあたりとも考えたが、解説の大森望氏によるとバルカン半島の中程とのこと。アメリカ発のあるパレスチナ問題解決法がこれに似ているとも書いてあり、興味深い。この設定を架空の星でなく現代の欧州にした力技がすごい。 -
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ネタバレ読み応えがあった。
語り手が変わるたびに意味が変わっていく出来事の連続で、主観が違うとこうも違うのかと。もちろんあえて真実を書いていない語り手も存在しているのだけど。2人目が1番手こずった。ちょっとどこまでが妄想なのか…。下巻に入ってからは割と一気に読めたかな。
手記ごとに訳者が違うも面白い。より一層、4人それぞれの視点、それぞれの物語へと入ってしまうので事実はさらにわからなくなっていく。
語り手が変わるたびに、ひっくり返されるミステリ。あまりこの時代の宗教戦争に詳しくないことが悔やまれたけれど…薔薇の名前を読んでみようと思う。 -
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物的証拠や状況証拠・容疑者の自白・アリバイといった、犯罪捜査において重要視されがちなものはそのまま信用せずに疑い、犯行の手口や現場を心理学的に検証して犯人を突き止める。教養と才気に溢れた富豪ファイロ・ヴァンスの探偵方法は現代でのプロファイリングに似ている。
衒学的で、相方に自分だけが知る真相を仄めかす言動は、後世の作品や探偵たちのキャラクターに大きな影響を与えていることは間違い無いだろう。とは言え、たまにぶん殴りたくなるほど鼻に付いたが。
探偵“ファイロ・ヴァンス”が仮名で、本作は彼の友人で仕事上のパートナー“S・S・ヴァン・ダイン”による記録であるという設定がおもしろい。作者の影が巧みに消えている。 -
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四人の語り手の手記により、大学で発生した毒殺事件と、その犯人と疑われた女性の運命如何を主筋として、イングランド王政復古時代の政治情勢や党派対立等を絡ませながら、物語は進んでいく。
ミステリとして見れば、信頼できない語り手の問題や語り=騙りといったことになるが、媚びず、卑屈にならず生きていくヒロインの人物造形が実に魅力的だと思った。
ヒロインのラストについては、ウーンという気持ちも拭えないが、語りの中で、そこまで含めて書かれているではないかと言えば、そうかもしれないと思わされる(ネタバレ気味の恐れもあるのでぼかしていますが、最後まで読まれた方には分かっていただきたい)。
本書では、実在の登場人物も多く、当時の医師の社会的立場だったり、輸血研究の先陣争いだったりと、興味深いトピックも面白いし、歴史小説としても読み応えがあると思われる。
ただ、少し注文が。年表や登場人物の表が付され、また訳者解説でも時代背景に触れられてはいるのだが、もう少し、この時代を巡るイングランドの政治党派関係や宗教的対立等について説明があれば、より人物関係の微妙さや出来事の意味合いについて理解が深まったのではないかと思う。 -
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先ずは本書の無事刊行を寿ぎたい。
本書の帯とカバー裏には、『薔薇の名前』とクリスティの名作が融合と謳われているが、本作を手に取り、内容ではない別の面での『薔薇の名前』との共通点を思って、しばし感慨に耽った。
それは、日本語訳がなかなか出なかったということである。『薔薇の名前』が映画化された頃、原作ではアリストテレスやキリスト教、異端審問等に関わる内容が満載だということで、それらに纏わる蘊蓄本がだいぶ刊行されていたのだが、肝心の原作の翻訳が待てど暮らせど出ない、その出版社が東京創元社であった。
翻訳者の一人である日暮氏が、本書についての打合せの始まった時期のことを書いた文章を読んだが、20年以上前から作業は開始されていたようだし、訳者の東江氏の御逝去という事情もあったりと、本書刊行まで難航したことが窺える。そうした困難を乗り越え、刊行に至り、この大作を読むことができたことに、何はともあれ感謝したい。
感想は、下巻にて。 -
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「緋色の研究」に続くホームズ長編2作目。メアリー・モースタン嬢から奇妙な出来事についての相談の受けるところから始まる。ホームズの名探偵ぶり、いろんな捜査方法、犯人を追い詰める場面など、冒険小説の要素もあって面白かった。
「ぼくの頭脳は、停滞しているのが大きらいなんだ」「頭を使っていないと、生きている気がしない」など、頭脳的な刺激を渇望するホームズが印象的。ワトスンは意外とロマンチストなのかな。二人のキャラの違いが良い。
訳者解説も良い。特にタイトル「四つの署名(The Sign of Four)」の和訳についての話が知れたのは良かった。
ホームズは鹿撃ち帽がトレードマークだと思っていたけど、挿絵だと普通のハットだ。不思議に思って調べてみたら、シドニー・パジェットという挿絵画家の描いたホームズが、あの鹿撃ち帽のイメージの元らしい。「ストランド」誌に短編が掲載されるようになってから登場する挿絵画家だというので、彼の挿絵も楽しみに、次を読もうと思う。 -
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分裂と統合の物語。
相変わらず冗長ともとれてしまう細々としたコロニーやらメカやら古典・現代物理学の説明セリフも多く、ひぃふぅ言いながら読み進める。
頁を進める毎に細々とした説明が加速度的に、まさに”指数関数的に”増してゆくようで、あれこの人今何してたんだっけ、っていうかこの人誰だっけ・・となってしまうのはワタシの読書能力と物理学その他について教養がないせいもあるだろうけども・・
この描写は緻密を超えて、ちょっとオタクっぽ過ぎるかもしれない・・
下巻にはいってようやく題名『7人のイヴ』の正体が明らかになる。
解説でも指摘されている通り、邦題としての『7人のイヴ』はネタバレを含んでしまっているのかもしれない。
人種差別、マイノリティ差別という、全世界的な問題が生じる。
この問題はもちろん日本も例外ではないが、特に激しく噴出しやすい米国の作家であるからなおのこと、なのだろう。
どんな少人数であってもひとは集団を作って社会化する。
猜疑心、優劣、善良さ。
人類は集団の中でしか生きられないが、しかし、その集団は暴力的で排他的な一面も濃いのが悲しい事実でもある。
上巻からひぃふぅ読み続け、この作者が描くテーマは人種とか国境というものだったのではないか、と気がつく。
物語の最終章である第四部。
この第四部こそ、この長い物語の本編といってもいいのかもしれない。
第三部から第四部への唐突ともとれる移行は『2001年宇宙の旅』(映画)でサルによって投げられた骨がゆっくり回転し、宇宙ステーションに切り替わる、あのシーンを彷彿とさせる気もする。
COVID-19という時局、文脈に生きていると、人種の多様性、或いは生態系には多様性が必要であって、それらは乗り越えるものでもなく、共生という暴力的なものでもなく、理解しあう共感という文脈が種族存続のキーワードになるのではないか。
この物語のラストシーンを読むと、そんなことを考える。
ふぅ。
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ディストピアはなぜか心地よい。
月の分裂にはじまるパニック、分断、希望の象徴としての箱舟宇宙ステーション建造とここまでは地球・人類滅亡の物語だ。
中盤、いよいよ地上最後の日の描写がとても心地よい。
心地よい分、もう少し長く楽しみたかった気もする。
いかんせん最後の日の描写が短いのだ。
もちろん、この物語の視点は箱舟が中心になるから、地上の最後は通過点に過ぎないのだが。
後半以降はいよいよ箱舟だけの人類史がはじまる。
しかし、ここでも権力、対立、分断という人類を人類たらしめている醜く愚かな一面がのぞいてくる。
滅亡を控えた地上がディストピアであったように、地上滅亡後の箱舟も等しくディストピアなのか。
ここで上巻が終わる。
この物語はどちらかというとハードSFでもあるから、難解さや説明過剰な点、いわゆるオタクっぽさもあって宇宙船の姿や動きを思い描くのが難しい。
その一方で時折挟まれるユーモアは、ディストピアSFにふさわしい皮肉やブラックユーモアに溢れている。
P.113『驚異的な身体持久力をそなえ、生死に関わる危険を完全に無視できて、宇宙服を着た状態で生き残るすべを身につけていなくてはならない。その結果、すべてがロシア人ということになった。」
そんなことあるかい。
ロシア人をなんだと思っているんだ。