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Posted by ブクログ 2018年10月14日
この小説をSFという範疇で語るのは非常にもったいない。SF的なミステリであり、小説である。(昔風に言えばslip stream、伴流文学である)。
二つの都市国家が同じ地域を占めているという状況でも十分に特殊ではある。加えて、その二つの国家は『壁』という物理的なもので仕切られているわけではなく、お...続きを読む互いに相手を見ない(見えない)物として扱う事で並立させているというのだ。
このシチュエーションだけで相当な物である。
加えて、相手の国を侵犯してしまった(特殊な状況下なので頻繁に起る)場合、『ブリーチ』(漂白とでもいえばいいのか)というどちらの国にも属さない公権力が存在するという。さらに複雑な状況である。
この「見ない・見えない」ことでそれぞれ異質なものが共生するというのは、実は我々が暮らす現代社会の中にもあるように感じている。ただ見てしまっても『ブリーチ』されないというだけで…
いろいろな意味で背筋が寒くなった一冊。今年最後の最後で『今年の一冊』に決めました。
Posted by ブクログ 2018年04月17日
読むのが疲れるが、味わい深いスルメのような作
表紙 7点岩郷 重力 日暮 雅通訳
展開 7点2009年著作
文章 7点
内容 815点
合計 836点
Posted by ブクログ 2016年02月04日
都市と都市、ヨーロッパのはし、バルカン半島のあたりにあると思われる二つの都市国家、ベジェルとウル・コーマは「地理的にはほぼ同じ位置を占める」。ほぼ同じ場所を占めるという紹介文の記述がまずわからなかった。いったいどういうことか。
それは『アンランダン』の裏ロンドンのように同じ場所だが異次元、という...続きを読むようなSF的に現実離れした設定ではまったくなく、実現可能だが政治的に現実離れした設定なのである。二つの国の国境はいわば双方の国民の心の中に画定されている。ベジェルの側からみると、完全にベジェルの土地である〈コンプリート〉な場所、まったく異国、すなわちウル・コーマの領土である〈アルター〉な場所、両者が混在する〈クロスハッチ〉する場所がモザイク状に入り組んでいるのである。
ベジェルの住人は目の前にウル・コーマの街並みがあり、ウル・コーマ人が歩いていても〈見ない〉ようにする。ときどき目があってもすぐに目をそらすように習慣づけられている。それを犯すこと、すなわち〈ブリーチ〉は重大な違反行為なのである。
私の住む3丁目は日本だが、4丁目は北朝鮮になっていて、そこは〈見ない〉ように生活する、5丁目の交差点は〈クロスハッチ〉していて、北朝鮮の車も通るけど、それも〈見ない〉ようにしながら避けて通る。というような感じか。
馬鹿げている? そうかもしれないが、外国人にとっては極めて馬鹿げていても、現地人には非常に大事なことって実はたくさんあるではないか。ミエヴィルはこの奇妙な二つの都市を現代に配置して、実際にありそうに思わせていくのである。ベジェルとウル・コーマが分裂する前の遺跡の発掘現場、愛国主義者、統一主義者などの政治集団などの道具立てのほかに、インターネットもあるしiPodも出てくる。
しかし全体の体裁はミステリーというジャンルを遵守する。私、すなわちベジェル警察のティアドール・ポルル警部補が、若い女性の他殺現場に到着するところから話がはじまる。ところが、まず被害者を知る者が誰もいない。やがてわかってくるのは、彼女がかつてベジェルに滞在し、その後、ウル・コーマに移った外国人で、ベジェルとウル・コーマの間にあるという伝説の第三の都市オルツィニーについて調べていたということである。
すなわち、殺人犯は、被害者をウル・コーマで殺して、ベジェルに遺棄したという〈ブリーチ〉行為に関わっていた可能性があるのだ。ベジェルとウル・コーマの権力のほかに、この〈ブリーチ〉行為を取り締まる〈ブリーチ〉という名の秘密警察のようなものが別にあるらしく、本件を〈ブリーチ〉で扱うようポルル警部補は監視委員会に要請する。
ところが、とってつけたように、犯人が合法的に国境を越えたという証拠が出てきて、〈ブリーチ〉は発動されない。ポルルはウル・コーマ警察に協力して捜査を進めるため、ウル・コーマに入国するはめになる。
総体局所的(グロストピカリー)にはすぐ隣のブロックにある〈アルター〉な地区に直接歩いて入ったらそれは〈ブリーチ〉である。そこで旧市街のコビュラ・ホールに行って、正規の手続きをふんでウル・コーマに入国すれば、〈アルター〉な隣のブロックに行くことができるのだ。しかしその際には、もはやベジェルのほうを〈見ない〉ようにしなければならない。隣のブロックは総体局所的には、隣にあるのだが、遠い異国なのである。こうした造語ももっともらしい雰囲気を作り出す。ベジェルの××街の位相分身(トポルゲンガー)はウル・コーマでは○○街だ、とか。
背表紙の紹介文に「ディック−カフカ的異世界」などとあるが、それはまったくの誤読であろう。ディック−カフカ的世界には超自然的なものが介入するが、ミエヴィルの世界には「不思議なことなど、何もないのだよ」。
読者をこの2つの都市の住人にしてしまう綿密な描写のあと、事態は急を告げ(どうやらオルツィニーについて調べているものが命を狙われるらしい)、それまでまるで超自然的存在であるかのように畏れを持って描写されてきた〈ブリーチ〉が登場する。第3部は〈ブリーチ〉。ポルルは〈ブリーチ〉へと入るのだ。〈ブリーチ〉へ入るということがどういうことなのか、ここでは述べないが、相互に〈見ない〉ことで成り立つ都市と都市のありさまに馴染んだ読者には、認識論的飛躍のめまいを感じさせるだろう。
終盤、「都市と都市」の特性を利用した犯罪の謎を解くポルルの活躍は、何とも見事に盛り上げられていて、しかもミステリの快感がある。さらにこの認識論的飛躍が深い陰影を添えるのだ。tour de forceの作品である。
Posted by ブクログ 2021年11月22日
東南ヨーロッパにある、架空の地域が舞台になっている。この地域二つの都市が存在し、それぞれ違う民族の居住地があるのだが、一部については重なっている。そこでは、相手側の人々や建物などを見てはいけないし、もちろん干渉してはいけないというルールがある。これを破ることは「ブリーチ」と呼ばれる。またブリーチを取...続きを読むり締まり、裁く人たちもブリーチと呼ばれる。事件の発端は、遺棄された女性の遺体を見つけたこと。身元がわからない結果、もう一つの都市の住人らしいということがわかり、二つの都市をまたいでの捜索が行われる。二つの都市が重なっているという設定が面白いのだけれど、もしかすると、ここまで極端ではなくても似たような状況って、日本を含む世界のいたるところで起きているのかもしれないって、ちょっと怖くなった。
Posted by ブクログ 2021年08月02日
2つの都市国家が同じ位置にありながら、互いに見えないものとして人々が暮らしている。生まれたときから見ないように訓練している。都市は完全にこちらに属する部分、重なる部分があり、重なる部分では見ないふりをしながらぶつからない様に避けねばならず、とややこしいファンタジー設定。
しかし、冒頭は殺人事件現場で...続きを読む始まり主人公は警部補という大筋ではミステリ小説である。
前半は都市の設定を飲み込みつつ読むのが難しかったが、主人公や脇キャラに馴染みだし、物語が展開するにつれ引き込まれて加速した。ハードボイルドの刑事もののような読み心地とSFらしい世界観の不思議さを感じて満足度の高い読書だった。ラストの切なさも良い。
2つの都市国家が同じ場所にということからイスラエルとパレスチナを示唆しているのかと思った。ハンガリーあたりとも考えたが、解説の大森望氏によるとバルカン半島の中程とのこと。アメリカ発のあるパレスチナ問題解決法がこれに似ているとも書いてあり、興味深い。この設定を架空の星でなく現代の欧州にした力技がすごい。
Posted by ブクログ 2018年12月08日
帯でなく表紙へ大書されているように
SF関係の賞だけでなく世界幻想文学大賞も受賞している本
中身は解説にもある通りハードボイルド調の警察もので
この前読んだ「愛おしい骨」と同様に
翻訳を透してそれだけで文化の違い(というより日本が島ということか)を
感じる風な小説だが
舞台設定が奇抜でそこがSF側の...続きを読むこれがSFだと推挙するところである
「都市と星」というより「不確定世界の探偵物語」みたいな感じかと読んでいたが
これを書いてしまうと未読のひとにいらぬ先入観を与えそうで嫌だが
書かずにいられないので書くと
「メンインブラック」にしか見えない
一度そう思うとコメディにしか見えない
というわけで読んでいる途中はミステリ→SF?という感じだったが
読み終えた今は
ミステリだろうがハードボイルドだろうがSFだろうがコメディだろうが
なんでも内包する「幻想」「ファンタジー」の懐深さにひれ伏すのみである
Posted by ブクログ 2017年07月04日
物語の舞台となるのは、ふたつの都市国家。両国の領土は隣り合っているというより、飛び地のように入り混じっている。区画ごとに国が入れ替わるような地域もあれば、公園の真ん中や木立の途中で国境が引かれた地域もある。網目状に入り乱れた国境線には壁はない。しかし両国の住人たちは幼い頃から訓練を受け、たとえそれが...続きを読む目の前にあっても、隣国の情景は意識から追い出すよう求められる。そしてその規則を破ったとき〈ブリーチ〉と呼ばれる組織がどこからともなくやってくる…。
奇抜な着想を、綿密なディテールによって読ませる、ハードボイルド・ミステリーでありSF小説。奇妙な都市と都市との間に、さらにもうひとつの都市が隠されているのでは、という謎が、さらに伝奇的なロマンも感じさせる。訓練された他国・他者への無関心というのは、現代的なテーマとも言えるのかもしれない。
Posted by ブクログ 2017年01月10日
ヨーロッパあたりにある重なって存在する二つの都市国家.越境行為をすればブリーチという超法規的なパトロールがやってきて何処かへ連れ去られてしまう.そんな世界で起きた殺人事件.ボルル警部補は片方の都市では解決不能と見て他国に乗り込む.ディック風のハードボイルドSF.書評によれば訳がひどくてほぼ無茶苦茶ら...続きを読むしい.ちゃんとした訳で読んで見たい.山形浩生あたりで.
Posted by ブクログ 2015年07月13日
我ながら500pよく読んだ。
この本は読む人の想像力が問われるかも知れない。同じ空間に2つの都市、がお互いに目を合わさない事で成立しているという設定は面白い。映像的でもある。自国でないものにはフォーカスが合わずに、ぼやっとブラーがかかるイメージ。
分かりづらいていう人もいるけど、常日頃見て見ぬふりっ...続きを読むてしてるし、今の時代隣人をあまり知らなかったりするし、割とリアリティーがあると感じた。
ストーリー自体は、もはや映画化考えてるんじゃないの?と思うほどシンプル。映画の時間にちょうど収まりそう。ラストはもっとどんでん返しがあっても良かったかも。
Posted by ブクログ 2014年08月27日
何だこれはSFなのか?
物理的に重なり合った都市国家??でも異次元で重なり合うとか、パラレルワールドとかSF的な設定はありません。見えているのに見ないようにするぅ???もう想像力の限界です。
日常的には目には写ってはいるけれど見えていないものは多いもので、意識して視ることが重要なんてことは言われま...続きを読むすが、意識して見えていないようにするのは、かなり難しいです(歩きながらやってみた)。しかも、国という境界を識別して。隣の建物を見ないとか、倒れている人を障害物として認識するとか・・・眩暈がしてしまいます。ミエヴィル恐るべし。
でも、何故そんな境界を引いているのか?と考えると、もちろん歴史的背景はあるのでしょうが、かえってややこしいのでは?などと、見えないことにまでしている「境界」というものを考えてしまいました。作者は寓話は嫌いだそうですが、読むほうとしてはなんか考えてしまいます。
なんだか今回は「?」が多い感想だったな。
Posted by ブクログ 2014年04月24日
翻訳の文体が好み。
街の描写が特に上手い。
そもそも国家などの成り立ちについて触れるのかと思いきや触れなかったので「そこ詳しく」とはなるもまぁそれはそれ本題ではなかったのだな、と流せる程度。
Posted by ブクログ 2013年07月25日
パラレルワールド的ハードSFで、推理小説。
「言語都市」もそうだが、読んだことのない話なのに
それを有り得そうに思わせる力はすごい。
1つのエリアに2つの国があり、相互に干渉しない。
設定だけでも面白いが、ちゃんと小説として成立しています。
Posted by ブクログ 2018年10月07日
2つの都市が同じ場所に存在していて,それぞれの住民は互いを見ないようにして生活している,という設定.「なんやそら」感がする設定ではあるけど,非常に真面目に書いてあるので変にリアリティがある.SFのレーベルから出ているが,基本的には警察小説.でも,いわゆる「見えない人」的なのでミステリっぽい,とか色々...続きを読む思ったりするので,むしろSFだとか思わずに読んだ方が良いかもしれない.
Posted by ブクログ 2016年01月17日
設定がオチ。バカ。SFというよりファンタジー/ミステリ。等々褒め言葉だか何だかわからない言葉がたくさん浮かぶ問題作。でも、読み進めるうちに複雑怪奇な設定の外郭が掴めてくるとともに「理解」は遠のいていく感覚、これは数々の名作SFで感じてきたモノと共通する部分かなって思う。つまり好きです。よくもまあこん...続きを読むな設定で次々ネタが出てくると感心しつつ。発想は新しいけど手法とかストーリーの流れ自体は古典的と言ってもいい感じで、そこがまた良かった。
Posted by ブクログ 2020年07月20日
うーん、なんでしょうか。舞台装置とか設定とかそこそこ面白いのですが、訳のせいなのか読みにくい。二つの都市に住む住民の不条理や歴史修正主義の愚かさとか、色んなものを内包してるのかもしれないが読みにくく、エンタメとして楽しめない。
無駄に長い気もするし、犯罪の動機が全く弱く感じる。久しぶりのSFだった...続きを読むが、そろそろついてくのがきつい、
Posted by ブクログ 2019年08月21日
ヒューゴー賞をはじめ、さまざまな文学賞を受賞というカバーに記された紹介文とアーサー・C・クラークの「都市と星」のような世界を期待して手に取りました。
なんて無理繰りなと呆れる設定が徐々に明かになり、無理を承知でストーリーを推し進めるのは圧巻。
ややこしいからなのか、読んで途中で寝落ちすることしき...続きを読むり。
Posted by ブクログ 2019年01月19日
舞台設定は面白い。減点としては、ストーリー、主人公の掘り下げ、犯行動機の納得感、読みづらさ。ジャンルとしては現代を背景とした架空国家伝奇ものか。""
Posted by ブクログ 2017年01月11日
都市と都市という題名に象徴されるように,複雑な都市のあり方ががこの本の魅力となっている.だけど理論上は可能なのかもしれないが,実際ありえないような存在だ.そして,起こった殺人事件.この犯人探しが単純なハードボイルドになってもいいところが,複雑な都市構造のためにやたらと込み入って,非常にわかりずらかっ...続きを読むた.
Posted by ブクログ 2014年12月12日
なんとなくの印象ですが最近(2000年以降?)ヒューゴー賞/世界幻想文学大賞/ローカス賞... あたりを同時受賞してるsfで 「すっごくよかった」というのがないような。
この本も まあ すんごく面白かった 訳ではないですが 印象的な作品といえばいえるかもしれません。
それ以下でも以上でもないかな。
Posted by ブクログ 2014年09月20日
SF賞総なめの作品ということ。また、初めて読む作家ということで楽しみにしていた作品。背景が大陸の情勢を反映、サスペンス仕立て、都市が見える見えないなどひとつのジャンルSFでないところは素晴らしいと思うが、もうひとつ盛り上がりがなかった、気持ち的に。違う作品を楽しみにしたい。
Posted by ブクログ 2014年06月23日
設定はおもしろかったんだけど、その世界観に慣れるのに時間がかかる。最初の2,30ページはなかなか飲み込めなくて、けっこう読むの大変だった。
また、和訳がちょっと微妙なのか、ちょいちょい会話とか意味がとりづらいとこがあるような気がする。。
でも、都市っていうものに焦点を当てるっていうとこが独特ですご...続きを読むくおもしろいとは思う。
Posted by ブクログ 2014年05月25日
SFとしては物足りない。ミステリーもソコソコ。何がそんなに面白いのか?
単一民族、島国で差別に鈍感な日本人には実感としてわからないかも。
モザイク状に空間が重なりあった異民族・異文化の2つの都市。都市の境界線は超法規的な監視組織に常に見張られており、お互いに見て見ぬ振りを続け、衝突を避け均衡を保って...続きを読むいる。
このSF設定は多民族国家、侵略された歴史を持つ国の現実をシュールに描写したもの。
混じり合っているのに、決して融和することがない人々の哀しみです。
寓意ではないそうですが、それでも滲みでてしまうものですね。
Posted by ブクログ 2014年04月18日
Science Fiction ならぬ、Social FictionのSFか。世界観は引き込まれるが、成り立ちや結末にどんでん返しが欲しかった、かなり淡々と終わった印象。6.5
Posted by ブクログ 2014年03月24日
二つの都市を舞台にした、刑事もの壮大ミステリーです。設定が非常に面白く、特に狙撃犯を追うシーンは手に汗を握りました。
設定だけに白熱ものですが、「都市」がメインであるために内容が私にとって難しいかったです。状況が掴めないこともしばしば…(笑)。
やはり翻訳が難しいのでしょうか、ストーリーが物足りな...続きを読むく感じてしまい、中編からあまり進みませんでした。
でも、楽しめたのは確かです!
Posted by ブクログ 2014年04月19日
モザイク状に組み合わさった領土を持つ、二つの都市国家間で起こった殺人事件を捜査する刑事の姿を描いた小説。
読んでみると純粋なSFやファンタジーという感じではなく、都市の様子なんかはけっこう現代的な印象。
しかし設定は綿密に作りこまれていると感じます。ファンタジーやSF要素のあるミステリはたまにト...続きを読むリックを成立させようとするあまり、世界観やルールが作りこまれすぎていて不自然な印象を受ける時があるのですが、この小説は二つの国家間でのルールを自然に生かした、世界観ありきの小説で都市と都市の魅力を引き出すために殺人事件を使っているんだな、と感じました。
少し切ないラストもいい印象で、架空世界を舞台としたミステリーとしても面白かったですが、出来ればこの二つの国家の成り立ちまで深く掘り下げてみてほしかったです。
ヒューゴー賞
世界幻想文学大賞
ローカス賞
クラーク賞
英国SF協会賞
2013年版このミステリーがすごい!海外部門7位