読者をこの2つの都市の住人にしてしまう綿密な描写のあと、事態は急を告げ(どうやらオルツィニーについて調べているものが命を狙われるらしい)、それまでまるで超自然的存在であるかのように畏れを持って描写されてきた〈ブリーチ〉が登場する。第3部は〈ブリーチ〉。ポルルは〈ブリーチ〉へと入るのだ。〈ブリーチ〉へ入るということがどういうことなのか、ここでは述べないが、相互に〈見ない〉ことで成り立つ都市と都市のありさまに馴染んだ読者には、認識論的飛躍のめまいを感じさせるだろう。
終盤、「都市と都市」の特性を利用した犯罪の謎を解くポルルの活躍は、何とも見事に盛り上げられていて、しかもミステリの快感がある。さらにこの認識論的飛躍が深い陰影を添えるのだ。tour de forceの作品である。