安部龍太郎のレビュー一覧
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第6巻は、引き続き本能寺の変の真相について、当時の日記とか家譜を傍証しつつ、詳述される(興味のある読者はぜひ)。
安部版家康6巻を通じての特徴は、母親於大の方との愛憎半ばの関係と、相思相愛ともいえるお市の方への恋慕という、家康の人間的側面が縦糸として、描かれていることだ。
何人もの側室がいても、幼馴染で信長の妹だったお市は、家康にとって特別な存在で、正室に迎える約束もあり、信長も認めていたとか。ここら辺は、小説上の創作であろうが・・・
柴田勝家の正室となっていたお市の方が、秀吉によって討ち死にされたことにより、家康は秀吉との戦いを決意することになる。
さらに、織田家を立てようとする家康に対し、 -
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第5巻は、家康の側から見た本能寺の変。
著者は、当時の日記などの文献を拠り所に、本能寺の変の黒幕を近衛前久と足利義昭と記す。
この二人は従兄弟にあたり、それぞれ朝廷と幕府の再建に尽力してきた間柄だという。
変の原因のひとつに、信長の天皇譲位の強要があると。前久は、将軍宣下を口実に信長を京におびき出し、光秀に討たせ、義昭を都に呼び戻して幕府再興するという計画があったそうだ。
しかし、秀吉のすばやい備中高松城からの大返しにより、計画が狂う。
秀吉にそれが可能だったのは、黒田官兵衛らクリスタン勢力により、本能寺の変が起こることを事前に知っていたからと。
それにしても、様々な場面で記録されている家康の -
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ネタバレ5巻は本能寺の変を最新研究を元に描いている。
信長は正親町天皇を誠仁親王に譲位させ征夷大将軍に就き武家のトップに君臨し、併せて嗣子五の宮を皇太子につかせ太上天皇となることで宮廷をも牛耳ることを画策。これに反対する前関白近衛前久が暗躍し、信長包囲網を築かんとする将軍足利義昭、イエズス会の情報網、光秀が懇意にしていた四国の長宗我部を信長が方針転換して侵攻を始めたこと、などなどが背景にあって光秀が前久に取り込まれ、信長を京都に誘き出した上で信長を討ったという筋書きで物語が進行する。
秀吉が事前に信長暗殺を知っていて中国大返しの準備を着々と進めると言うのは新説としては定着しているのだろうか。太閤記と比 -
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第4巻は、長篠の戦に勝利した家康が、宿敵武田を滅ぼすまで。
ここでは、「この世を浄土に近づけるために生きてみよ」と諭した登誉上人の教えを守ろうとする家康が描かれる。
「この世を浄土に近づけるとは、家臣、領民が幸せに暮らせる国、戦いに怯えることなく安穏に暮らせる国を築くことだ」と考えるまでの高みに至った家康。
彼は浄土を信じているのに対し、信長はそうした心はない。
その信長が湯殿で家康に語る場面がある。
土地の私有と人の自由が、戦乱を拡大させてきたと、信長。戦いのない世を作るには、かつて大和朝廷がものした制度=律令制を取り入れ、すべての土地と領民は国のものとする=公地公民制にする必要があり、これ -
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桶狭間の戦いから説き起こした家康物語。
大概の歴史小説は会話もそれらしき言葉で綴られるが、本作は現代語で語られる会話が多く、歴史小説は初めてという読者には取り組みやすいか。一方、コアな歴史小説ファンにとっては、重みが感じられないか。
家康も自分自身を「俺」と表現し、現代言葉が多用されている。年若い正義感の持ち主として、青年家康を象徴するひとつの手法か(途中から「わし」になるが)。
この家康、「人はなぜ殺し合い、奪い合うのか。なぜ欲や敵意から離れられないのか」と、悩みながら闘いの日々を生きる。
そんな家康であるが、やがて相手の人の良さを弱点と見做し、逆手にとって勝ちにつなげる冷静さを身につけてゆ -
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学校で教える表面的な歴史ではなく、当時の歴史の本質的な部分を学ぶことができる一冊です。
織田信長がその時代にいち早く鉄砲を取り入れ、それによって天下を取ったことは学校で習いますが、鉄砲に必要な火薬や鉛の弾をどうやって手に入れたかということは学校では教えてくれませんでした。
信長が単純にいち早く他の大名よりも優れた武器を手に入れたから天下をとれたということではなく、それらの武器を使うために資金調達、物流、貿易といった基盤を掌握できたからこそ大事を為し得たのだと改めて考えさせられました。
現代のビジネスに通じる視点も学ぶことができる良書でした。 -
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作者のデビュー作。1日1短編、ゆっくり読み進めたが、どれも面白い充実したラインナップ。
どの話も物語の形式や語り手の目線が同じでないのが面白い(例えば「団十郎横死」や「俺たちの維新」のように目玉の人物目線で描くものもあれば、「山門炎上」のように全く無関係の第三者目線から描くもの、「鬼界ヶ島」や「比叡おろし」のように語り口調のものなど)。
特に好きなのは「銭屋丸難破」と「孝明天皇の死」。前者は全く知らなかった金沢の商人の話であり、「守りに入ったら負けなのだ」という死や失敗を恐れぬ信念がビジネスマンの私には刺さった。後者は文学作品の質が高い。孝明天皇と対立し、過去には死んでくれればと思ったこと -
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ちょうどNHK大河ドラマ「麒麟が来る」では、これから信長が朝倉義景を討つための出陣前夜である。信長は帝から、天下を平定し平和な世を構築することを目的とした戦を認められ、戦の大義名分ができた。
信長は朝倉を討つ戦いに、幕府の後ろ盾を求めたが、将軍足利義昭は朝倉を討つことに難色を示し、幕府の後ろ盾を得られないままの出陣というところで、前回の放映が終わっている。
本書は、本能寺の変での信長暗殺に関する、著者の説が述べられたものである。本能寺の変まで、まだまだ幾つもの山場を控えた大河ドラマの倍楽しく観るための予習ということになる。ドラマは、安部氏の推理を採用しているのか否か、そういう楽しみ方もでき -
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終盤では、鎌倉から都に返された静御前を、義経らが奪還して共に奥州に逃げるというストーリーに描かれている。この辺りは確かな資料が残っていないだろうから、このような解釈もよいと思う。そして義経の物語をハッピーエンドで締めくくるというスタイルはとても斬新に思えた。
義経の妻としては静御前のほか河越重頼の娘と平時忠の娘がいたことが知られているが、時忠の娘が意外な形で登場してびっくりする。さすがにこれは筆者の創作だろうが、感情移入できる粋な演出である。一方で河越重頼の娘はほとんど話に出てこない。重頼の娘こそが義経の最後まで寄り添った妻であるとする説もあるので、そこは少し残念だ。