夢枕獏のレビュー一覧
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夢枕獏『白鯨 Moby-Dick 上』角川文庫
ジョン万次郎と『白鯨』を融合した海洋冒険小説の上巻。
夢枕獏は年老いてもなお余りある創造力で面白い話を創り上げるものだと感心する。ジョン万次郎が復讐のために『白鯨』を追うエイハブ船長の米国の捕鯨船ピークオッド号に乗っていたというのだ。余りにも面白くて、500ページ余りを一気読みしてしまった。鯨漁の描写などはまるで『餓狼伝』の格闘シーンのようで迫力があり、血湧き肉躍る。
物語は晩年の中浜万次郎が気鋭の文人で新聞記者でもある徳富蘇峰に世間に伝わるのとは異なる自らの経歴の真実を伝えるところから始まる。
土佐の中浜村で漁師の次男に生まれた万次郎 -
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最上の読後感!
北極、南極と並ぶ三大極地エベレスト山頂。高度8,000m。ジェット機が飛ぶ高さ。地表という枠を外せば宇宙や深海に並んで人間を寄せ付けない場所。自然vs人。そんな俯瞰の知ったかなどはねのけるように、泥臭いほど人間の一人称視点によって切り取られている。
──神聖な場所だから人はそこを目指すのか。あるいは人が目指すからその場所が神聖になるのか─
なぜ山を目指す人間を描くのか。
風景がくどいほど説明されているわけではない。主人公を除けば、人物の背景も大して語られない。それなのに凄まじい没入感が襲ってくる。まさに極地にいて、歯をガチガチと鳴らし、足を震わせ、生死の境目がびったりと背 -
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夢枕獏さんといえば陰陽師。幻想的な昔語りのスペシャリスト、だとばかり思っていたら全くのお門違い。
ゴリゴリに現実的で、瑞々しい山岳エンタメだった。
ヒマラヤを取り囲むチベット・ネパールという異国情緒も生々しく映る。これはハマらないでいられない。
山登りといえば、ゴルフや釣りと並んで三大老後の楽しみと勝手に決めつけている。お金も時間もかかる。やりきるなら3つからどれか1つを選択しなければならない。
体力的に最もハードルの高いのが登山だろう。40代でまだ味見すらできていない。華々しいプロの世界もないから露出もない。自分から手を出さなければ、一生味わえない世界。
最高峰に挑むこの作品で、少しでも -
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25年ぐらい前に読んで押入れにしまっていたのを読み返した。
前に読んだ時と今では、感じるところが違う。最初に読んだ時は主人公の年齢より12歳ぐらい年下で、今では14歳年上。
空手道場のビジネスマンクラスに集う面々と練習あとに居酒屋で語らいながら、『練習した後のビールの味を知ったらやめられなくなりますよ!』という様なセリフ。自分も身近にそんなところがあれば、仲間になりたいなという様な感想をもった25年前。
今回は登場人物それぞれが抱えているものやこだわり。最後に主人公が洩らす嗚咽。
空手道場の館長の父親のセリフ『こだわって悪いのか。おれだって、こだわりたかあない。こだわれたくはないが、こだわって -
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「ゆうえんち」最終の5巻。
体の裡に棲む魔性が蠢き続ける限り、敗北ではなく勝利への途中という思考だったか柳龍光。気持ち悪さが「ゆうえんち」の柳はたまらなくぞわぞわさせる。これのあと死刑囚編の柳を見ると、毒気が薄れたように思えます。
柳との決戦の後、蘭陵王との戦いに臨むことになった無門。彼もあちら側へ行く有資格者でした。ここの挿絵がオーガ、愚地独歩、松本太山、柳龍光、神奈村狂太、久我重明の面々。獅子の門をくぐり、あちら側へと歩を進めた無門。その最初の相手が蘭陵王か。
ここの戦いもそそるものがありましたが、さらに古から続く闘争の歴史があるという新事実の披露がとんでもない好奇心を生み出してしま -
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羽生丈二。なんと不器用で、魅力的な男だろう。 なぜ山に登るのか?という問いにマロリーは「そこに山があるから」と答えたという有名な言葉があるが、「ここに俺がいるからだ」という羽生。
誰もなし得ていないエベレスト登山に己の全てを注ぎ込む人生。少年から青年になり、年齢を重ねると共に社会に適合するようになっていく周囲の人々とは異なり、常に山だけを見据える。
決してスマートな生き方ではないのに、小説の中の深町のようにいつのまにか引き込まれていく。
酸素の薄い地点で高山病に苦しみ、意識が朦朧とする中で、とりとめもない考えががぐるぐる回る様子に、エベレスト登山のリアルさ、怖さを文字から感じた。
なぜ山に -
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原案・板垣恵介、原作・夢枕獏、漫画・藤田勇利亜『漫画 ゆうえんち 4』秋田書店。
全5巻をもって完結した夢枕獏の『小説 ゆうえんち』でイラストを担当した藤田勇利亜が漫画化するという何ともややこしい作品。
第4巻。まだまだ『ゆうえんち』には辿り着かぬのだが、オリジナリティが効いていて非常に面白い。
師匠の松本大山の仇を討つために主人公の葛城無門は柳龍光の居場所を探す。無門はかつての柳龍光の師匠であるマスター国松の元を訪ねる。相変わらず不気味な国松。
国松との死闘から生還した無門は久我重明に柳龍光が参加しようとしている『ゆうえんち』のことを聞く。
夢枕獏の原作には無かった『ゆうえんち』の -
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ネタバレ私、夢枕さんの原作至上主義なんですが、ほんとに、この作品の博雅さまは博雅さまのこう、核というかこれがなくてはその人にならない、ところがかっちりと入っていて、魅力的なのです。
この作品での衣を着崩して、ちょっと無精ひげがあって、へらっとしてるのに品があって、音楽に真摯で音楽に愛されまくっている、柔い方言で話す博雅さまは、本当に博雅さまだ!!!とおもうのです。この作品全体に言えることなんですけど、夢枕先生の陰陽師の譲れない点をきっちり踏まえてそのうえで伊藤先生の魅力がうまく乗っかっていて、すごく好きです。
晴明さまとの関係性も、違うように見えるんですけど、枝葉を落としていくと結局のところ、博雅さま -
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ネタバレ『陰陽師』シリーズ第18巻。
大好きなシリーズ。
露子姫、登場。嬉しい。
黒丸が強く格好良く育っていて嬉しかった。
格好いいと言えば、道満も善き。ダークヒーロー。玉藻前が出て来て面白い展開になってきた。
晴明と博雅のゆるゆるマッタリ感も健在で良かった。
晴明のことが好きすぎて泣き出しちゃう博雅くんとか、二人を見守ってきた長年のファンをどうしたいんだ!夢枕先生!ありがとう!大変善きでした!
珍しく焦っちゃう晴明とか、ヤバい。好き。ボキャブラリー足りない。
夢枕先生御年72歳。まだまだお元気そうでナニヨリです。
お身体に気をつけて、これからも陰陽師シリーズ続けて欲しいです。楽しみにしてます。
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私がフォローしてる〇〇さんの感想を見て読んでみたくなった作品。「神々の山嶺」以来、久しぶりの夢枕獏先生。
冒頭いきなり「まえがき」で著者が語る。
「いいなあ。
まっさらな状態でこれが読めるなんて。
あなたのことが。ぼくは本当にうらやましい。
作者が本気で読者に嫉妬しているのであります。
2008年9月12日
東京にて 夢枕 獏」
より始まる物語。
相当な入れ込み様です。
これに近い導入は何度か他の著者にて拝読した事がありますが、読む前にハードルが上がってしまい逆効果で残念な手法として記憶しています。
しかしながら流石夢枕獏先生。私の予想を良い意味でかるーく裏切ってくれました。
確かに面白い。