あらすじ
その姿を見た者は、生涯魂を囚われる――。
海と鯨に心を奪われ、人生を狂わされた男たちが、神の生き物に挑む!
土佐の中浜村で漁師の次男として生まれ育った万次郎は、鯨漁に魅せられる。やがて仲間たちと漁に出た際、足摺岬の沖合で遭難してしまう。漂流した五人は無人島にたどり着くものの万次郎は銛打ちの師匠・半九郎の形見の銛を追って、さらに漂流してしまった。単身、大海原に投げ出された万次郎を救出したのは、米国の捕鯨船ピークオッド号だった。その船長・エイハブは、自分の片足を喰いちぎった巨大な白いマッコウクジラ“モービィ・ディック”への復讐に異常な執念を燃やし、乗り組員となった万次郎を巻き込んでゆく……。
ジョン万次郎と、ハーマン・メルヴィルによるアメリカ文学の金字塔『Moby-Dick』が、夢枕獏の奔放な想像力によって融合する!
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Posted by ブクログ
夢枕獏『白鯨 Moby-Dick 上』角川文庫
ジョン万次郎と『白鯨』を融合した海洋冒険小説の上巻。
夢枕獏は年老いてもなお余りある創造力で面白い話を創り上げるものだと感心する。ジョン万次郎が復讐のために『白鯨』を追うエイハブ船長の米国の捕鯨船ピークオッド号に乗っていたというのだ。余りにも面白くて、500ページ余りを一気読みしてしまった。鯨漁の描写などはまるで『餓狼伝』の格闘シーンのようで迫力があり、血湧き肉躍る。
物語は晩年の中浜万次郎が気鋭の文人で新聞記者でもある徳富蘇峰に世間に伝わるのとは異なる自らの経歴の真実を伝えるところから始まる。
土佐の中浜村で漁師の次男に生まれた万次郎は父親から聞いた鯨漁の話に魅了され、僅か8歳にして家族には内緒で山道を越え、単身で窪津へ鯨漁を見に行く。そこで伝説の銛打ち・化け鯨の半次郎という老人を出会った万次郎は銛打ちの手ほどきを受け、化け物のような白い抹香鯨の話を聞く。
何度か半次郎の元に通う万次郎だったが、ひと月ばかり通わぬうちに半次郎は亡くなり、形見に半次郎の銛をもらう。
時は過ぎ、14歳になった万次郎は仲間たちと小さな船で漁に出た際、足摺岬の沖合で遭難する。辛くも5人の仲間と無人島に流れ着いた万次郎だったが、ある日、半次郎の形見の銛を失うまいと海に入り、そのまま漂流してしまう。大海原を漂い、生命が尽きるかという夢うつつの中、万次郎は米国の捕鯨船ピークオッド号に救助される。その船の船長こそ、自分の片足を食い千切った巨大な白いマッコウクジラMoby-Dickに異常な復讐心を燃やすエイハブ船長だった。
定価1,040円
★★★★★
Posted by ブクログ
白鯨を追い求める捕鯨船に助けられたジョン万次郎の運命が描かれる。
どこまでが史実の万次郎なのか、どこまでが名作「白鯨」なのか、そんな違和感を感じさせないほど、一気に読ませるところに作者の力量を感じました。
万次郎とクジラとの出会いの場面では、その時代の空気感や漁師の心意気が届いてきそうでした。
また、漂流の場面では、臨場感のある海の恐ろしさが伝わってきました。
そして、好奇心というのは、生きるための大きなエネルギーになるのだということを改めて感じました。
この後、万次郎が白鯨とどのような闘いを繰り広げるのか、楽しみです。