二宮敦人さんの作品は『最後の医者は桜を見上げて君を想う』以来で2作目。
『さよなら、転生人生』
いわゆるランプの魔神であるビルカが現れ、現世を離れ自分が希望する生き方が出来る「魂」に転生できる物語
転生とは魂のお引越し♪
ワオッ!なんと軽快な・・・
転生先は、魂が抜けた直後の肉体!!
ビルカが条件にあった魂を時空を超えて探し出し、依頼者の魂をその肉体に放り込むのだ。
その他設定として・・・
・知識と記憶は持ち越される
・言語野は能力として備わる
・転生は途中でやめることも出来る
・同じ人以外なら何度でもやり直せる
ほほぅ・・・
何だかメリットしかなさそうな転生ですな。
本作は、以下の章毎に3人の主人公の転生物語
第一章 楽園を捨てる理由
古狩サトルは会社を無断欠勤して訪れた海辺で、ビルカの魔法のランプを見つける。
サトルはブラック企業に勤めるが、今の世界に嫌気がさしていた。転生先には「遊んで暮らせて、誰とも競わずにすむ世界。そりの合わない人とは関わらなくて良くて、仲のいい人とだけ一緒にいられる世界」を希望する。
第二章 人が龍を滅ぼすとき
転生希望者はサトルの友人の本原隆太。
父親が社長の隆太は、父の後継ぎとなることに反発し高校卒業後ニートを続けている。ゲーム漬けの日々を過ごす隆太は、転生先として「強靭な戦士になりドラゴン退治が出来る世界」を希望する。
第三章 ゆるしがたき病
転生ビジネスを始めたサトルに初めて依頼して来たのは、重度のアトピー性皮膚炎に悩まされる鶴田愛美。愛美はアトピーが原因で学校でもいじめにあっていた。「健康な体であれば、肌が健康であってくれれば、他は普通程度でもいいという転生先」を希望する。
ネタバレは避けるとして・・・
とにかく転生先の世界観に先ず驚いた。
国境を渡るのは当たり前で、世界を駆け巡り、遥か彼方へ時空を超える。
人々の暮らしぶり、信仰、精神、文化の有り様から、壮大なスケール感を扱っているのが圧巻だった。そして、その中に忽然と魂を転生された3人の主人公達・・・
3人それぞれの立場やものの見方に、同じ現代人として共感しながら、その背景にある現代の生き方にも、作者からの問いかけを強く感じる。
転生することによって生き方がどう変わるのか、変わらないのか、或いは転生先から戻って来るのか、来ないのか・・・
知識と記憶を持って転生しているだけに、この転生をどう活かすのか・・・
主人公が希望した魂をもってなお、悩み続け、自分の生き方を選択していく様子は実に興味深い。
各章ラストに、転生された時代と場所の種明かしをしてくれる所もにくい演出だった。第二章と三章に至っては、現世に繋がる伏線回収まであり、すっかり魅了されてしまった。
装丁の美しさと各章のタイトルセンスも素敵で拘りを感じた。でも『さよなら、転生人生』だけはちょっと違う様な気がするのは私だけだろうか。
望みどおりに生まれ変わったら、本当に人は幸せになれるのか?自分の人生をみつめるいいきっかけにもなる作品だと思う。
読後は気持ちのいい爽快感と、作者から人生のエールを届けてもらったような気持ちになれた。
是非これはシリーズ化して欲しい♪
文体も読みやすく平易な表現が成されているので読書慣れしていない方にもオススメしやすい作品だった。
これから益々楽しみな作家さんだと思う。