辻堂ゆめのレビュー一覧
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ネタバレ
美しすぎるミステリー
この小説を読んで、ミステリーなのにこんなに美しいという感想で終わるものがあるんだと初めて思い知らされました。
彼女がついた多くの嘘も全て意味があり伏線があり、読んでいて、これもあれも繋がっているのかと感心させられるばかりでした。
ただ、ページ数が少ない分2人の会えなかった時間が割とあっという間で少しあっさりしすぎているような気もしてしまいました。
音楽が題材となっているだけあってピアノの描写が何度も出てきますが、実際に聴こえないピアノの音が聞こえてきそうなほど描写が細かく、感情が高まるかのごとく緻密に表現されていて、本当に素晴らしかったです。 -
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乗っている電車が人身事故を起こした直後から、明晰夢を見るようになった井瀬。女子高生の紗世によるとそれは現実になるものであり、それによると井瀬も紗世も電車に轢かれて死ぬことが決定しているのだという。その運命は変えようとしても事態が悪化するだけであり、そのまま座して死を受け入れるしかないのか。さらに井瀬の明晰夢の中で起こる不可解な事態は何を示しているのか。スリリングな読み心地のミステリです。
少年院から出所して更生の道を歩み始めたところで、逃れえぬ運命を知ってしまった井瀬がどのように行動するのか。前科持ちで学歴もない井瀬だけれど、しかし彼はとんでもなく冷静だし強い人物であると感じます。だからこそ彼を取り巻く不審な状況にハラハラさせられどおしでした。立身出世した不良仲間の五味渕と、小学生時代の綺麗な思い出だけを共有した粕谷、対照的とも思える二人の友人のどちらが味方となり得るのか。そしてまた七年後に死ぬことを予知した紗世がどのように生きるのか。リミットが迫っていくのがもうつらくて、だけれど先が気になって仕方ありません。
真相は予測がついたところもあり、まったく予想外だったところもあり。ああ、そういう結末になるのかあ……だけど流れ的にはこれしかないんですよね。 -
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前作から、10年ぶりの復活となる本書は、創元推理文庫から2020年に発売された、「書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー」の第二弾で、全て1990年代生まれの作家が書かれているのが特徴ですが、どちらかというと、その若さはあまり気にならず、バラエティに富んだ多種多様な作風を、一冊で体感できた喜びが強かったです。
武田綾乃 「その爪先を彩る赤」
演劇部の失くなった靴を捜索する話で、犯人や動機は分かりやすいものの、その後の探偵に絡む、謎解きの細やかな伏線が見事だと思いましたし、そこに潜んでいたのは、探偵と「僕」との間における、稀少な価値観の共有で、こうした自分を認めてくれるような喜びは、学園生活では、やはり大切ですよね。
斜線堂有紀 「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」
武田さんの、明るい雰囲気の話の後だけに、余計に衝撃的に思われて、犯人探しや事件の謎以上に、後味の悪さが凄まじく、おそらく、大人の全く介入しない状況もそうさせたのかもと思うと、学生たちの持つ視野の狭さに、思考能力の限界や恐ろしさを感じさせられて、もはや狂気的ですらある。問題作。
辻堂ゆめ 「黒塗り楽譜と転校生」
ミステリの要素に、やや専門性を感じられたが、合唱コンクールを絡めた清々しい物語には、これぞ青春といった気持ちの高まりを覚え、最初まとまらなかったけど、やるときはやるといった、かつての私の中学のクラスの雰囲気を思い出しましたし、謎の答えについても、同様の青春が滲み出ていて、この時しか体験出来ないことの素晴らしさを、実感いたしました。
額賀澪 「願わくば海の底で」
まさか、こうしたアンソロジーで、東日本大震災を題材にしたことに驚き、その筆致も、当時の哀しみだけでは表せないような、複雑で繊細な哀しみを、こと細かく表現しており、『その《潮時》を無理矢理踏み越えてきた』等に感じ入るものもありましたが、ミステリ要素も、最後の最後にどんでん返し的に入っており、しかも、それが見事というのが適切なのかどうか分かりませんが、皮肉にも、震災と絡んでいるからこそ成立するような、叙情感や喪失感に、諦観めいた悲しみ、そして、人として、どうあるべきだったのか? そんな事を考えさせてくれました。
青崎有吾 「あるいは紙の」
最近フォローしている人達の間で盛り上がっているのを、私は素知らぬ振りをしつつ、秘かに気になっていた方で、まずは短編をと、お試し感覚で読んでみたら「裏染天馬」シリーズで、しまったと思ったが、どうやら番外編的な感じでもありそうで、主役は「クラーク・ケント」の彼だったが、「向坂香織」とのやり取りに青春のもどかしい切なさがあったり、天馬とのやり取りの素朴さ等、まず物語としての面白さがあっての、最後の謎解きは渋いながらも効果的だったし、それは、向坂自身の思いの詰まった、彼女自身の存在意義を証明したようでもあって、彼の為したことの大きさを実感させられた終わり方は、とても素敵で、このシリーズにより興味を持ちました。それにしても、青崎さんは時代もの好きなのかな。
以上、五つの短編を読みまして、いくつかの作品で印象的だったのが、この年代特有の、本音を素直に言えなかったり、自分の想定以上の意地を張ってしまうといった、そのもどかしい感情に苦しむ姿であり、これこそ青春に付きものなのかもしれませんが、おそらく実際にどうすれば良いのか、本人自身、分からないのでしょうね。
しかし、そこを試行錯誤して乗り越えていくことが、大人へと成長していく、一つの要素なのかもしれないと思うと、これらの物語には、そうした成長への願いが込められているようにも感じられて、私の中のどこかで、アンソロジーには単行本に掲載しないような実験的なものや、ちょっとした小品を書いているといった、そんなイメージを払拭してくれた、素敵な作品集でした。 -
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サラリーマンの光弘と専業主婦の咲奈は、だれもが羨む幸せな夫婦。だがある日、気づいてしまった。光弘は咲奈の不貞に、咲奈は光弘の裏切りに。
その日から、彼らは良い夫婦の仮面をかぶったまま、互いの殺害を計画し始める。
『今からあなたを脅迫します』シリーズなどが代表作の藤石波矢さんと、『いなくなった私へ』などの辻堂ゆめさんの共著で、夫パートが藤石さん、妻パートを辻堂さんが書いています。
共著の小説というと、著者が変わる際に違和感を覚えて没入感が覚めてしまうことがよくあるのですが、この本はそういったこともなく、自然な文章で楽しめました。
あとがきを読むに、自分の書くパートで相手を殺すトリックを仕掛けてパス。バトンを渡された方がそのトリックを回避し、別のトリックを仕掛け返して返す……という方法で書かれたようです。相手のトリックをひっくり返し、相手パートに書かれた文章なども逆手にとって返す、という共著ならではの面白さがあり良かったです。
正に紹介文にもある通り"殺し愛"。こんな殺し合いに発展はしますし、エキセントリックで似た者同士ですが良い夫婦の二人です。
ミステリっぽいタイトルですが、ミステリというよりはドタバタしたコメディ・エンタメ小説。最後まで読むとむしろラブコメかもしれません。
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共著の小説ならこれも好きです。
『注文の多い注文書』(ちくま文庫)/小川洋子、クラフト・エヴィング商會 -
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学校で人気のある綺麗な先生が監禁されネットに期限(死亡予定)があげられる。そんな中、主人公(不良)、学年一番の美人、一番優等生、サッカー部の有名人に君たちだけが先生を救えますと手紙が届く。何の関わりもなかった四人が監禁された先生を探し始めるのだがそこにはやはり因縁めいた関係が含まれていた。
謎解きを進めるように話が展開していき、因縁が明らかになっていく。真犯人に共感できなかった以外は面白く読めた。そこが共感できていたら★5だったけどなぁ。
経過から犯人は自然と絞られていくのだけど、なぜその人なのかとか、少し仕掛けられていたある種のトリックとかが最後に解けていくところは一気読みになります。 -
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ネタバレ急性の脳腫瘍で入院している夕夏は、医師の態度から最悪の結果を察し、絶望していた。
その夜、目の前に男が現れて言う、「君の命を助ける代わりに、大切な物を奪う」と。目が覚めると夕夏は、ここ2年間の記憶を失っていた……。
不運ではありながら、優しく幸せでドラマチックな恋愛小説。
2年間の記憶がない夕夏は、任されていた仕事も思い出せず、最近の人間関係もリセットされてしまっており、最初は戸惑いながら手探りで何とかしようとするのですが、記憶を消した男や、疎遠だった家族、職場の仲間と交流を深めるうちに徐々に立ち直っていきます。
恋愛・親愛・家族愛と、様々な愛に溢れたラストシーンは素敵でした。
また、”彼”の行動・言動のひとつひとつに隠された、愛情や恐怖、祈りを考えると、一途な気持ちにぐっときます。