船戸与一のレビュー一覧
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この小説に描かれている時間は、決して長くはない。中心となるのはおよそ10年ほどの出来事である。しかしその短い時間の中に、裏切りと懐疑、そして殺戮が絶え間なく繰り返され、関わる者は誰もが最終的に敗者となっていく。
第七の奏では、イスラム革命後のイランにおけるゾロアスター教徒の怨念が描かれ、宗教による排除の現実が提示される。
第八の奏では舞台がコーカサスへ移り、アゼリ人とアルメニア人の対立、そしてソヴィエトの統治の歪みが浮かび上がる。
第九の奏では、革命防衛隊内部の乱れが露呈し、体制そのものの不安定さが示される。
第十の奏では武器商人が裏切りによって命を落とし、暴力が流通として機能している現実が -
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1992年第10回日本冒険小説協会大賞
1992年第5回山本周五郎賞
1992年第5回このミステリーがすごい!第一位
と、華々しい受賞歴の本作。
super8さんのお勧めの一作でもあります。
今年3月、(常にそうであるとも言えますが)この小説の舞台となるイラン周辺は、あらためて緊張の続く地域であることを意識させられました。
本作は物語の前に、「飾り棚のうえの暦に関する舌足らずな注釈」と題された、現在の世界の暦に関する短い考察から始まります。わずか5ページほどですが、暦の歴史の全体像を大きな流れとして捉えさせる、印象的な導入でした。
現在、世界標準として用いられているのはグレゴリオ暦であり -
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本書の舞台は昭和5年(1930年)から翌々年まで。関東軍•帝国陸軍による満蒙領有の声が大きくなるなか、軍部の暴走する形で満州事変が発生、さらには関東軍は上海事変で国民政府と衝突する。この当時は「中国」ではなく、大陸の呼称は「支那」。清朝が倒れたあとの統一政府はなく、国民政府とは別にソ連の支援を受けた毛沢東が共産党政府を立ち上げたころ。
この時代の多くの支那人たちにとっては、民族意識はまだ育っていない。本作中の登場人物である新聞記者の香月信彦の言葉では「支那の未来は支那人の民族意識を国民党と共産党のどっちが吸収するかに懸かっている」のであり、約100年前に現在の中国情勢の緊張の原因があり、中国 -
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船戸与一の畢生の大作「満州国演義」シリーズを初めて手にしたのはたしか7、8年前。新潮文庫版の刊行が始まった頃だ。書店の平棚に積まれた「満州国演義一 風の払暁」の表紙と帯の文面に心を動かされ、ペラペラとページを繰ったのがきっかけ。文庫本刊行に合わせて第四巻「炎の回廊」の途中まで読み進めたものの、雑事に紛れそこで中断。その後の展開はどうなるのかな?時々脳裏によぎるものの時間だけが過ぎていった。
昨春、本の整理をし始めた時に再会した。本の整理は家人から言われ続けていることだが、自由時間が増えたことだし、のんびりやろうと覚悟を固めて、第一巻から再読し始めた次第。そして先日、「満州国演義八 南冥の