船戸与一のレビュー一覧
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本書の舞台は昭和5年(1930年)から翌々年まで。関東軍•帝国陸軍による満蒙領有の声が大きくなるなか、軍部の暴走する形で満州事変が発生、さらには関東軍は上海事変で国民政府と衝突する。この当時は「中国」ではなく、大陸の呼称は「支那」。清朝が倒れたあとの統一政府はなく、国民政府とは別にソ連の支援を受けた毛沢東が共産党政府を立ち上げたころ。
この時代の多くの支那人たちにとっては、民族意識はまだ育っていない。本作中の登場人物である新聞記者の香月信彦の言葉では「支那の未来は支那人の民族意識を国民党と共産党のどっちが吸収するかに懸かっている」のであり、約100年前に現在の中国情勢の緊張の原因があり、中国 -
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船戸与一の畢生の大作「満州国演義」シリーズを初めて手にしたのはたしか7、8年前。新潮文庫版の刊行が始まった頃だ。書店の平棚に積まれた「満州国演義一 風の払暁」の表紙と帯の文面に心を動かされ、ペラペラとページを繰ったのがきっかけ。文庫本刊行に合わせて第四巻「炎の回廊」の途中まで読み進めたものの、雑事に紛れそこで中断。その後の展開はどうなるのかな?時々脳裏によぎるものの時間だけが過ぎていった。
昨春、本の整理をし始めた時に再会した。本の整理は家人から言われ続けていることだが、自由時間が増えたことだし、のんびりやろうと覚悟を固めて、第一巻から再読し始めた次第。そして先日、「満州国演義八 南冥の -
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著者は早稲田大学探検部出身で、冒険小説の第一人者だという。?初版発行は1984年。少し苦手意識のある一人称形式だが、比較的読みやすいのは、主人公の語り口が落ち着いているからか。
ー裏表紙からー
舞台は、ブラジル東北部の町エクルウ。アンドラーデ家とピーステルフェルト家が、互いに反目し合い、抗争が繰り返される血なまぐさい町に、山猫(オスロット)と呼ばれる一人の日本人・弓削一徳が現れる。ピーステルフェルト家から、ある依頼を受けた山猫。その依頼とは、敵対するアンドラーデ家の息子・フェルナンと駆け落ちした娘・カロリーナを捜し出し、生娘のまま連れ戻してほしいというものだった。ブラジル版ロミオとジュリエッ -
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次郎、南方の山林に散る・・・・・・。
満州国もついに、全9巻中の8巻目まで読んでしまった。あと1冊でこの壮大な船戸ワールドを読み終えてしまうのかと思うと、寂しくてならない。
辻政信
牟田口廉也
東條英機・・・・・・
無能作戦立案、実行、強硬により数万・数十万の死傷者を出した男たち。その屍を尻目に終戦まで生き延びた者たち。
ある者は、戦犯として挙げられつつも裁かれるのを嫌い自決。(なんと卑怯な。死に逃げず、自らの判断が国をどんな運命に導いたのかを見届ける義務のある人間だろうに)
ある者は、平和を取り戻した戦後日本で代議士にまで上り詰める。(そもそも、そんな男になぜ票が集まった -
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一巻は単行本でも読んだのだが、本作が船戸さんの遺作になってしまったこともあり、もったいなくて途中で読みとどまっていた。よし、読むぞと意気込んで再読。場の情景がありありと浮かび、4兄弟それぞれがその時代の政治に巻き込まれていく序章の一巻。まだ何冊も続きがあるから、まだみんな動いてくれるはず。いろいろな視点で時代の狭間を覗く、しかもその視点は兄弟なので互いに異なる立場でありながらも、気にかけているのがいい。兄弟なので、がないと異なる他者の存在を自分に置き換えづらいのかもしれない。つまり船戸氏の戦略が成功している。完結しているんだということが嬉しくもあり悲しくもあるけれど、自分の中でもようやく完結に
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とにかく夢中になって読みました。
舞台はブラジル東北部の架空の街、エクルウ。そこに住む日本人の「おれ」の一人称で進む物語。
エクルウでは『ロミオとジュリエット』さながらに2つの大きな家が、いがみ合っています。両家以外にもエクルウに駐屯している軍の司令官やら警察署長やら神父やら娼館の女主人やら一癖も二癖もある面子が沢山。
そこにフラッと現れるのがタイトルにも出てくる謎の日本人「山猫」。クソ暑くて蝿が飛び交っているような田舎町にあって、タキシードをパリっと着こなし、ひび割れた声で話す、まだらの頬髭の偉丈夫ですが、いきなり腕っぷしの強いところを見せつけてくれます。
その後、「山猫」と「おれ」が道中を