船戸与一のレビュー一覧
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船戸与一の遺作にして、最高傑作の第三巻。第三巻に入り、血の匂いと動乱の風が強くなって来た。これぞ、船戸与一の冒険小説なのだ。
昭和七年の満州国建国を契機に日本国の内外に大きなうねりが生まれ、時代の波と運命に翻弄される敷島四兄弟。四人の兄弟はその信義も、職業も、身分も異なるのだが、間宮徳蔵という謎の人物に操られるかのように満州国に深く関わっていく。ここにこの壮大な物語の面白さがある。
外交官の太郎は満州国建国に男の浪漫を抱きながらも少しずつ道を踏み外していく。馬賊の頭目だった次郎は仲間を失い、たった独りになりながらも己れの信念を貫く道を歩む。憲兵中尉の三郎は妻を迎えてもなお信念と正義を失わず -
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全九巻から成る歴史冒険小説大作の第二巻。満州事変を中心に昭和五年から七年までが描かれる。
昭和初期を描いた歴史小説の中に、図らずも満州事変に関わっていく敷島四兄弟の運命に翻弄される姿に物語の面白さがある。
外交官の太郎と対立する憲兵中尉の三郎、馬賊の頭目の次郎と三郎の偶然の再開など、敷島四兄弟の距離が近付くのだが、そこには必ず間宮徳蔵の影が見える。間宮徳蔵の正体が、この壮大な物語の鍵を握りそうだ。
常に日本の外の世界を見事に描き、比類なき熱い冒険小説を上梓し続けた船戸与一であるが、遺憾な事に本作が遺作となってしまった。残り七巻は心して読みたい。 -
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船戸与一の遺作となってしまった大長編小説の第一巻。日本で唯一、異国の砂漠の匂いのする冒険小説を書ける作家が船戸与一だった。冒頭から船戸作品の面白さを十分に堪能出来る歴史冒頭小説である。
昭和三年から四年に掛けての満州を主舞台に雲南坂の名家・敷島家の四兄弟のそれぞれの生き様が描かれる。満州に渡り、馬賊の長となった次郎。奉天総領事館の外交官・太郎。関東軍の陸軍少尉・三郎。早稲田の学生・四郎。四人の兄弟のそれぞれが謎の男、間垣徳蔵と関わり、数奇な運命に翻弄されていく。中でも多く描かれるのは、馬賊の四郎であり、単なる歴史小説ではなく、歴史冒険小説といった味わいになっている。
自分が最初に船戸与一の -
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加瀬邦彦が自死したというのに驚いているところ、船戸与一までもが身罷ったというので、茫然自失というか気が抜けてしまって、朝も昼も食事しないでいたらフラフラになってしまったのです。
高校生になってすぐ、なにげなく何の予備知識もないまま手にとったこの本の単行本(1979年版)を読んだ時の衝撃は、そう、体中が震え興奮に沸きあがる体験は、今も鮮明すぎるほど鮮やかに覚えています。
『満州国演義』全9巻をきっちり完成させて逝ってしまうなんて、全巻にサインしてもらったのが良かったのかどうか、まだ第1巻から読み始めたばかり、よーし お弔いだ、怒涛のごとく読むぞ! -
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メキシコの大学に留学している若者があることをきっかけに“タランチュラ”と呼ばれる年老いた行商人の旅について行く物語。
最後の論告の章で主人公が言う科白「タランチュラとの旅は血腥い旅だった。ぼく自身も人間を殺した。しかしあれほどじぶんが生きているんだという実感を持ったこともなかった。わかりますか?生きて物語に参加しているんだというときめき。それを経験したんです。だから、何の後悔もない。どのような刑を宣告されようとそのまま受け入れます。控訴する気は全くありません。」がすごい印象に残ってる。
普段はこうは思わないけど数少ない映画化されたものを見てみたいと思った作品。そこそこ長い本だったけどこういう本 -
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いまさら説明の必要もない、今をときめく冒険小説の旗手、というか今や大御所と言っていい存在の船戸与一。
すでに2000年に『虹の谷の五月』で直木三十五賞も得ている我が愛しの四天王のうちのひとりですが、デビュー作は1979年の『非合法員』でした。(私の四天王と名づけて、溺愛して全著作を読み込んでいる小説家は、逢坂剛・佐々木譲・高橋克彦、それにこの船戸与一の4人です)
それに先立つこと4年前に、別名の豊浦志朗名義で『硬派と宿命・・はぐれ狼たちの伝説』、そして2年前に『叛アメリカ史』という2冊の渾身のルポルタージュを上梓していることは、彼のファンなら今さら目新しい情報でも何でもない周知の事実ですが -
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1970~80年代、積極的に海外へ進出する日本企業。
南米、東南アジア、アフリカといった途上国へ進出するとなれば、
ゲリラ、誘拐、政情不安といった「カントリーリスク」がつきものなわけで。
その種のリスクに対処する「日本企業の守護神」隠岐。
その隠岐に憧れ、
一目置かれる男になることを夢見た男・香坂が、
いかにして、高級官僚らを殺し、大井川源流の雪山に死ぬことになったか。
きっかけは、グ・エンザ。
真実はマグレブの容赦ない太陽だけが知っている。
日本の当時の新帝国主義というべき悪辣な海外進出への批判、
他人の痛みを省みない日本人の虚無のフラッシュアウト、
いろいろな意味をもって本書を読むことも可 -
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フィリピン・セブ島のガルソボンガ地区で育つ、少年トシオ・マナハンの成長譚である。父親は日本人だが、フィリピン人の母親を孕ませた後、姿を消してしまった。母親はトシオを育てる為、娼婦となり、エイズで死んでしまう。そんな逆境にも負けず、ジャピーノ(日本人との混血)と呼ばれても気にせず、逞しく生きていく。そんな少年の13歳(1998年)から15歳(2000年)の5月にスポットをあてた作品である。
虹の谷とはガルソボンガの奥地にある谷で、空を見上げると、まん丸の虹が出るという地。ホセ・マンガハスという元新人民軍のゲリラが住みついている。毎年5月に、この虹の谷へ行こうとすると、なぜか事件が起こってし -
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みんなはおいらのことをジャピーノと呼ぶ。ほんとの名前はトシオ・マナハン。父親は日本人だけどどんな人間なのかは知らない。母はエイズで死んだ。今はセブ島のガルソボンガ地区でじいちゃんとふたり、闘鶏用の軍鶏を育てながら暮らしてる。いまだに山奥に潜んでいる反政府ゲリラたちの活動はやまないし、地区の大物たちは賄賂で動いてる。新しくやってきた牧師はどうも女より男に興味があるらしい。みんな楽な暮らしをしている訳じゃない。でもそれなりに、みんななんとかうまくやって来ていた。あの日までは…。
その日、地区のみんなから白い目で見られたまま、日本人の老画家の妻となって日本に渡ったシルビアがガルソボンガ地区に