宇佐美まことのレビュー一覧
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ネタバレ宇佐美まこと氏といえば、土着的なホラーのイメージが個人的に強かったが、それを見事に覆す、まるで壮大な時代小説が始まるかのような導入。
そして、さらにその予想を裏切り、ページ僅かしか進まぬうちに舞台は時空を飛んで現代へ。
実に巧い。
卓越した手腕は全編を通して発揮され、途中までは"余白、遊びの部分が結構多い作品だな"などと思っていたが、あれよあれよという間にそれらすべてのパーツがするすると破綻なく連綿と繋がり、数々のエピソードが集積した一個の大きな物語として閉じるパッケージには、様式美という言葉がふさわしいとすら感じる。
一方で、その超絶技巧を活かすことを第一義として緻密に組み上げられた構成…という印象を持ったことも事実で、ではそれを以てこの作品は読者に何を伝えたいのか、という根幹を成す"背骨"については、そこまで強烈な感銘を受けなかった…充分面白いのだけれど。
見せ場となる重要な場面は多いが、特に私の心に残ったのは、賢人が鯨の歌に呼応しチェロの音色を取り戻すシーン。
まさしく1つのクライマックスであった。
賢人が島を去る前に皆の前で演奏するシーンも然り、音の出ない紙媒体の小説でありながら、音楽の持つ力を感じた。
また、恒一郎が長い時を経た後に生まれた島へ帰郷するくだりには、ケンシロウが修羅の国に戻った時のそれに通じるものがあるではないか。
いくら言葉に尽くせぬ恨みつらみがあろうとも、母が何にも代え難き幼い我が子を残して逝くだろうか…? という疑問は決して拭いきれないが。
蛇足ながら、もう10年前になるが小笠原に旅行した際、真っ青な海でイルカと泳いだことやダイヴィング中にユウゼンを見たこと、ウミガメの煮込みを食べたこと、そして兄島瀬戸の珊瑚礁でスノーケリングしたこと等を懐かしく思い出した。
「出ていく者を見送り、来る者を受け入れた。それは島そのもののあり方だった。」 -
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初読みの作者さん。フォローしている方々のレビューに惹かれて買ってみた。
1985年、たまたま上野の職安で出会った葉子と希美。希美の紹介で葉子が深大寺の旧家で住み込みの家政婦として働くことになったのをきっかけに二人が関係を深めていく様が描かれる。
閑静な武蔵野での出来事の間に挟まれる、2015年、伊豆の高級老人ホームで暮らす女性の述懐の中でさらりと語られる単語に物語の不穏さが増し、何は起きたのかを知りたくて頁を繰る手が進んでいく。
中盤以降で明かされる真相は、最後の最後まで予断を許さない、小道具の使い方まで含めて手が込んだ作りで、とても良く出来ていると思った。
ただ、第二章で、昭和の高度成長時代と対比して描かれる、1965年~66年にかけての筑豊の悲惨な生活の描写の濃さが強烈で、ミステリーとしての面白さが霞んでしまった印象も受けたのでした。 -
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増水で土が抉られた堤防の土中から、謎の骨格標本が発見されたというニュースを見た豊は、数十年前の小学生時代、仲間数人で山中に骨格標本を埋めたことを思い出す。だが、それは記事の発掘場所とは異なっていた。
あれは本当に骨格標本だったのか。そんな思いを抱いた豊は、今は都内で勤務する哲平に会いに行くことに。
あの日、俺たちは本当は何を埋めたんだろう。
横暴な教師へのいたずらのため、骨格標本を隠して埋めた小学生時代の思い出。それから数十年後、目にしたニュースをきっかけにその日の真実を明かそうとするミステリー小説です。
小学生って、大人からみると本当に子どもに見えるけど、時々大人もハッとするようなことを理解していたりしますよね。
ミステリーとしての大まかな展開だけを考えると、結末は予想できなくもないのですが、ヒューマンドラマ的な側面が非常に強く、それぞれ夫婦関係、親子関係の悩みや東日本大震災での被災など、停滞し、囚われている不幸で不自由な現実から、事件の調査をきっかけに途絶えていた縁が復活し、苦難を克服して少しずつ前向きに歩きだしていく。事件の根幹や事情は重く、ですがそんな暗い中にも、読後感悪すぎず明るい希望が見えるようなお話でした。 -
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タイトルの意味、構成内容がとても深く、心をえぐられる日本推理作家協会賞受賞作品でした。
貧困と犯罪、社会の二極化を扱い、現在パートと過去パートを交互に描く作品は他にもあった気がします。けれども本作は、社会時事を取り込みながら、犯罪ミステリー・社会派寄りのヒューマンドラマとして、絶妙のバランス加減だと感じました。
「私」という一人称展開で、「私」が誰なのかミスリードに混乱するなど、多くの伏線の張り巡らせ方と回収法も見事ですし、重いけれども先の見えない展開にも引き込まれました。
3部構成で時代・場所が変遷し、各章題『武蔵野陰影』『筑豊挽歌』『伊豆溟海』も秀逸です。
宇佐美さんは、貧困と飢餓、そしてそれ以上の絶望を読み手に突き付けます。社会への怒りさえ感じます。人の心に潜む暗い情念、負の側面、心の暗部を巧みに浮き彫りにしながら、読み手を激しく動揺させ、物語へ感情移入させてくれました。
タイトルでもあり、終末の「愚者の毒」の解釈は人それぞれでしょうが、著者は哀しく弱い立場の者、他から愚かに見える(そうならざるを得なかった)人たちへ救済の光を当てたのだと思います。「愚者の毒」をもってして、"裁き"ではなく"安寧"を与えたのでしょう。
愚者も毒も二面性があり、賢者と愚者、薬と毒の境界は曖昧です。でも、個人的に愚直な人や行為は好きです。そうなれない自分をさて置き、応援したくなりますもん‥。 -
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滅びゆく者をテーマにした本は何故かそそられる。背景に流れている雰囲気が好きで冒頭から引き込まれた。昭和初期、限られた時代を生きたある華族の哀しみと、異能の作庭師の熱情が静かに呼応する「美しい庭」の物語だった。
当主である房興は家というものに取り込まれ、個を埋没させている。経済的には恵まれてはいたが、自分らしい豊かな人生を生きてきたわけではなかった。才能ある純朴な新進気鋭の庭師・溝延兵衛に庭園を造ってもらうことになり、彼の生き様や、彼の作品である庭に寄せる思いを聞き、房興と彼の妻・韶子は自分自身を見つめ直す。
作庭師が雇い主の吉田房興に話す
「決められた道を行くことは簡単でございます。既にある道を外れることも容易(たやすい)ことでございましよう。難しいのは新しい道を作ることでございます」
一介の庭師の言葉が侯爵家の房興と彼の妻・韶子の心を揺さぶった!
タイトルは「行く春や鳥啼き魚の目は泪」という松尾芭蕉の句から採ってあるが、ミステリー要素も散りばめられていて十二分に楽しめた。
初読みの宇佐美まことさんだったが、他の作品も更に読みたくなった。