◼️ 長野まゆみ「天球儀文庫」
少年たちの1年。交歓と喪失。長野まゆみの風味満載。
この本のあとがきに著者も書いているように、最近の長野まゆみは作風が変わって、かなり日本的で文調も味のある、現実的な社会を取り入れて感の強いものもある。今作は初期作品のテイストで、西洋っぽい世界で、たぶん美しい少年2人の、危うさと感情の起伏を含んだ友情を描いている。もちろん凝った言葉と小道具、微妙な想い満載のメルヘンチックな物語。
アビは、かつてケンタウルス座のケンタウリ・プロキシマという星の名前を教えてくれた宵里(しょうり)といつもつるんでいる。宵里はガラスペンと水溶きのインクを愛用し、大人びてドライ。アビはやや子供っぽい感情の持ち主。授業では碧睛(へきがん)の教師が、鳥の翼の構造を教えている。9月の昼休み、2人は売店で三日月パンと腸詰肉(ソオセエジ)、シトロンソォダのランチをする。中庭では校舎に幕を張って、恒例の野外映画会が行われる。2人は、仮の映写室となる音楽室へと行き、そこで、おととし聴こえてきた歌と、澄明な睛(ひとみ)の少年を思い出すー。
この話の「月の輪船」と「夜のプロキオン」「銀星ロケット」「ドロップ水塔」の4篇が収録されている。2話めはクリスマス頃の話、3話めは春、季節がひとめぐりし、関係性に変化がもたらされる。
おそらく美少年と思われる主演たち、古代天球儀のレプリカが取り付けられ、粋な企画をする学舎では専門的で不思議な授業が行われる。文具、食べ物飲み物、言葉は斜め上を行っている感じ。最初からしても橄欖(オリイヴ)、呉藍(くれない)、濃紺(プルシアン)、洋墨(インク)、翠色などなどなど。
学校がある島ではロケットの打ち上げがあったり、流星群を見るのに船が出たり。私はけっこうこの舞台立てや美少年2人の動き、少女マンガの美少年同士のような心の動きは、「パタリロ!」を思い出す。この異世界感を好んで、楽しんでいる。
「少年アリス」「野ばら」あたりが定番だが、「天体議会」、またちょっとテイストは違うが「カンパネルラ」は名作かと思った。
降りに触れ、筆致が変わる前の作品を読もうかなと。古本屋にあったら誘い込まれる感じがする。言葉遊び、小粋な小道具と意外な展開。うん、フェイバリットだ。