山岸真のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
特に携帯メールの予測変換の進化ときたら、あまりにもすばらしいものだから、面倒なメール返信のときにはついつい予測で表示される単語をそのまま繋げて送ってしまったりする。・・・でも、これって、本当に「ワタシ」が送ったメッセージなんだろうか。私の介在は最小限であり、携帯がメッセージを作ったと言っても良いのではないだろうか。
こんな風に日常を取り巻くさまざまな事象が進化していくと、これまで当たり前だった「境界」がものすごく曖昧になる。どこまでが「自分」で「自分の意思」なのか、「生命」とか「人」と認識されるにはどんな条件が必要なのかとか、「選択した現実」と「選択しなかった現実」の差異とか。
・・・なんてことを、倩倩と考えてしまう物語群。本当の自分の姿は自分の中にあるようで、実はほかの誰かとの関わりの中でしか現れ得ない?そもそも「本当の自分の姿」なんて意識自体が幻想かもね。 -
Posted by ブクログ
これだけの宇宙を見せられて、人間ひとりひとりの物語に価値が見出せる人がいたら会ってみたい。
価値はないけれど意味はあるよね。個人的に重きをおきたいのはヤチマの人間性について。人によって色々思うところがあるんじゃないだろうか。私は彼(彼女?)が『何の曇りもない笑顔』を浮かべられることと故郷を捨てて一人で真理を求め続けることから見える 無邪気さ を持っていることに大きな意義がある……気がする。引用したとこが心に残ったのは、ヤチマのセリフだからです。
物理とか数学をやったことのない文系の人には読みづらいかも。でもわかるとこだけ読んでればおkです。
あと5回くらい読んでちゃんと理解したい。 -
Posted by ブクログ
いくら不可知な人間の精神とはいえ、自然界の法則に逆らうことはできない。イーガンは数学をはじめとした大変な科学の知識で(文系のため、どんなジャンルの学問かもすでにわからない。汗)、人間の行動の決定や、愛や憎しみの感情を、どんどん因数分解していってしまう。各短編には、しょせん人間も機械の部品の組み合わせにすぎないのだという趣旨の文章がちらちら見える。しかし読み終わると、いやそうではないという思いが、まったく理屈ではないところから立ち上がってくる。
この短編集の最後2編はなかでも難解で、多元宇宙論をテーマにしている。全然わからないままとにかく最後まで読んだら、あれっと思う関連が隠されていて、また読み直した。すると、初読より断然得るものが多かった。イーガン独特の科学法則のたたみかけのような、やや退屈に思える部分が実はセンチメンタルなメタファーであることに気づいたのだ。その一瞬のひらめきはまるで天啓だった。他にもないかとページを繰ったけれど、残念ながら同じ感覚はもう訪れなかった。
理系の人なら感知できるのだろう、ロジカルな文中にそっと埋め込まれたイーガンのセンチメントを、私はずいぶん見逃してしまっているのだろう。それでもかすかな気配だけは感じることができる。それが彼の小説を苦労しても読みたいと思わせる“行動原理”なのだ。 -
Posted by ブクログ
ディアスポラ=離散
宇宙(多次元)の様々な方向に自分たちのコピーを1000個派遣して知的生命体、生存をかけて可能性を探検する。
人間存在が究極に不滅になったときの最終的な人の行き先。
これを作者なりに推し進めている
・自分の全ての可能性を探索しつくす(完了)
・自分の人生の中で不変の箇所を探し続ける(アイデンティティの探求)
・自我を維持できなくなり消滅、霧散、停滞
自分の夢想した問題意識が表現されていて興味深かった。
”価値”は、自分の視点中心に”現れる”のであって、それ自体存在しない
残るのは、自分への探求か、全て(個々に優劣が無いため)の外部の探求。
やはり不死/長命は、普通の人間存在(=自分)には耐えられない。言いかえると、自分のアイデンティティは維持できない(ある意味での死)
あらためて有限の生(死)に向き合う生き方をしたいと感じた
グレッグイーガン全てに通底するテーマであるが、改めておもしろかった。 -
Posted by ブクログ
全9編によるハードSFの短編集。
絵画を実際に再現するため、人を攫っては絵画に合わせて人体改造していく「愛撫」や、ワームホールに囚われた人物を救出に向かう「闇の中へ」など、ユニークな設定が目白押しです。
しかし、個人的には表題作以外はどうにものめり込めず、あまり楽しめませんでした。全般的に設定が細かすぎる傾向があります。
例えば「道徳的ウィルス学者」では、不倫をした者や同性愛者など、主人公が不道徳と見なす人間を殺すためのウィルスをばらまく物語ですが、このウィルスの設定が「どのタイミングで染色体にコピーされ、変異し、受容体に取りつき、どのように擬態するか」といった仕組みが、あらゆるパターンを網羅するように延々と解説されます。
著者の博識ゆえか、フワッとした説明で済みそうな箇所にも緻密な理屈づけが施されており、説明が長すぎて結局頭に入りきらないまま読み進めることになります。
本題と末節の区別がつかなくなり、骨の折れる読書でした。
恐らく著者の意図は、独創的なアイデアとその設定の作り込み、そして作中のキャラクターを通じたメッセージ性や思考実験の面白さにあり、物語はあくまで舞台装置なのでしょう。
ただ、私自身は登場人物のドラマを読みたいタイプなので、あまり好みが合いませんでした。
その中で表題作「しあわせの理由」は別格の面白さでした。
脳に巣食ったウィルスを除染した際に幸福感(ホルモン)を生み出せなくなった主人公が、脳細胞を代替するメモリを埋め込むと今度はあらゆる物事に幸福を感じるようになってしまうという物語です。
他人の脳細胞データから作成したメモリを埋め込むという設定も興味深いのですが、主人公は言わば「他者の評価軸で動く人間」となっており、Twitterの登場以前から、他者評価に幸福を左右される現代的な人間像を予見していたような、その慧眼には驚かされました。
運動に幸福感を覚えるよう設定してダイエットに勤しむ描写など、あすけんと組み合わせたような発想も秀逸です。
他人の感情が共存する状態を、希望を込めて描いているのがとても良かったです。
この状態を異常ではなく、人間にしかできない知性の継承として捉えており、人間讃歌のドラマへと昇華させた手腕は見事でした。
全体としては自分の好みとはややズレる短編集でしたが、表題作「しあわせの理由」だけでも読む価値のある一冊だと思います。