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Posted by ブクログ
ハードSFの大家グレッグ・イーガンの11の短編を収録した本書は、文中の言葉を借りるならば、「きみがきみであること」「自分が何者であるか」、すなわちアイデンティティを共通したテーマに据えている。
SFの手法でアイデンティティを語る作品としては、個人的にはロボットを題材にした作品が多い印象を受けるのだけど、本書においてはそれに依存することなく、多彩な視点からアイデンティティを捉えている。
ヒューゴー賞/ローカス賞を受賞した表題作もさることながら、次の2作品が特に素晴らしかった。
・『ぼくになることを』
衰退する脳を排出し、その代わりに衰えることを知らない"宝石”を移植することが一般化した未来社会。"宝石”を移植しても、その人物の思考は従前までと何も変わらない(移植するまでの間、脳と"宝石”は常にシンクロナイズされているからだ)。だけど、脳のない人間は、果たして"人間"と呼べるのだろうか…
"宝石”の移植を頑なに拒む主人公の顛末。それが、とにかく割りきれなくて、心に刻まれるほど気色悪い。
・『百光年ダイアリー』
未来には行けないが、知ることはできる社会。主人公をはじめとした一般市民は、"未来の自分が記した日記"により、将来を理解していた。"自分という存在"は、過去と未来の自分によって形作られる。そんな社会を甘受していた主人公だが、ある日、歯車が狂い始め…
アイデアとなにより展開が秀逸!これは面白かったなぁ。
全作品を通じて、とにかく後味は良くない。
心を覆い尽くすのは、不安。だけど一抹の希望が潜んでいることを否定できない。
そんな不透明な心境に陥るのだけど、でもアイデンティティを認識した時って確かにそんな気持ちかもね。決して爽快な気分じゃないと思うんだ。
そう考えると、微妙なセンチメントを表現してくるグレッグ・イーガンは、流石と言わざるを得ない。
Posted by ブクログ
進みすぎたテクノロジーと、それに置いていかれた人の精神を取り扱う、イーガンならではのセンスが光る短編集。
あらすじを語ること自体がネタバレになってしまうので、実にもどかしいのですが…。
短編集の一話一話の密度が濃く、どれも考えさせられます。
「ぼくになることを」を読んだショックは相当なものでしたし、
「貸金庫」は今まで読んだSF小説の中で一番ほろりと来ました。
紙面には、幾何学や量子力学の話題がばらばら出てくるので、一見読みづらいと思うかもしれませんが、そんなのは雰囲気作りの装飾です。本質はもっと分かりやすくて、不可解なところにあります。最初は苦痛に感じるかもしれませんが、是非読み通してみてください。
Posted by ブクログ
11作品収録。
グレッグ・イーガンの発想の豊かさには舌をまく。よくこんなに様々な世界が思いつくものだと感心する。頭いいんだろうなー。しかもいずれも秀作(正直に言うと、『繭』は自分的に微妙であった)。
分類すればSFなのだが、描かれるものは、”宇宙”や”テクノロジー”というよりは、”異なる世界”といった感じ。
収録一作目の『貸金庫』は同地域・同年代の身体を毎日移動する意識だけの主人公の物語。読んでいく途中で謎が溶けていき、わかった瞬間思わず、そういうことか…、と少し居心地が悪くなる。
続く『キューティ』『ぼくになること』は、倫理観がテクノロジー(医療ではないと思う)を制御出来なかった時の物語とでも言うべきか。私にはグロテスクに感じられる人間のエゴのストーリーだった。少し背中に寒気を感じるような、そんなグロテスクさ。
文庫本の表題である『祈りの海』はどうやら地球ではない場所が舞台で、登場人物も我々地球人とはやや異なる。どうも雌雄同体のようだ。私たちはある世界を主に支配する(言葉選びが難しいが)ある程度の知性をもった生き物を描く時、自分たち地球人のように描くことが多いが(肌の色や目の数が多少違っていても、地球人と交配が可能な姿)、この作品に登場する人は生殖器官が地球人とは異なるという点で、珍しい作品かな、と思う。同じイーガンの(私には難しすぎた)『クロックワーク・ロケット』の世界を思い出させる。
本短編集を通して感じたことは、SFの形を取りながら人間が描かれているということ。物語である以上、登場人物がいる以上、そこに人は描かれるのは当然なのだが、ある特殊な状況下での振る舞いや思考、成長、ずるさなどは考えさせられるものがある。主人公だからといって彼ら全員に感情移入できるわけではない。
まるでSFは人間を描くための方便のような、そんな印象。
Posted by ブクログ
イーガンは初めて読んだのが『ディアスポラ』で、めちゃくちゃ面白かったけど、難解さにイーガンへのハードルが上がりすぎてその後手を伸ばせずにいたのだけど、読みやすいものも多いよと何人にもおすすめされてようやく手を伸ばしたのがこちら。
本当に読みやすくてびっくりした。単純に難解さの程度の高い低いという話だけでなく、なんというかその設定における思考実験の方向性やそこで積み上げる論理が個人的に肌に合う感じがする。そこが自分と合わないというか発想が違うからこそ面白さを感じるSFも少なくないけど、そういうものはハード・ソフトを問わずついていくのにパワーは使ってしまう。その点イーガンの本作は設定としては斬新なものも多いけれど、論理の積み上げに違和感なく読めたのが何より楽しかったというかイーガン好き!ってなった。
どれも面白かったけど印象が強かったのは冒頭の「貸金庫」。『君の名は。』のインスピレーション元になっているという作品ですが、短いながらもイーガンの「この境遇に置かれた人ははたしてどのようにそのことに気づいていくのか」を丁寧に思考していった感じが出ていて怖くも面白かったし、本作に近い設定を残した『君の名は。』もちょっと見てみたくなった。
Posted by ブクログ
イーガン二冊目、引き続き読みやすいと評判の短編集を手に取りました。読めば読むほど、イーガン好きだなあと思いました笑。とりあえず次は『宇宙消失』を読もう。
イーガンを調べている中で、最近「文藝」で特集が組まれたとのことで、その刊読みたいな~と思っていたところ、あれこの表紙は…と家にあることが判明笑。特集の一つにアニメ平家物語があって、それで買っていたんですね。今年一年ハマった平家物語から、イーガンにバトンが渡されたような、そんな気がしました。2023年はイーガンイヤーになるのかな?
イーガンは日本で謎に人気が高いということで、え~こんなに面白いのに、、と思いつつ、英語でおすすめSF記事を探すと、イーガンがあげられてるところほぼ見たことがなく、そういうことかあと少し納得。
さて『祈りの海』ですが、「キューティ」、「繭」、「放浪者の軌道」あたりは特に好きでした。その他の「貸金庫」、「ミトコンドリア・イヴ」、「イェユーカ」、「祈りの海」あたりも面白かった(基本全部じゃんという)
今回収録されているものは、特にどの作品も、アイデンティティとは何か?を様々な角度から取り扱ったもので、こんなにいろんな角度で考えられるのか…と驚きながらどんどんハマるイーガン…。とはいえ短編集としては、『しあわせの理由』の方が好きだったかな?
「繭」の、「…大衆はそこまで想像力を欠いちゃいけない。だれだって記号論は幼稚園で学んでるんだ、メッセージの解読法くらい知ってるさ」にしびれた笑
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小説・文芸
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