Posted by ブクログ
2020年04月08日
ハヤカワ文庫
グレッグイーガン
祈りの海
科学とアイデンティティの対立を描くハードSF短編傑作集。共通テーマは「科学の時代に自分のアイデンティティを確立できるか」
各短編 SFでしか描けない状況のアイデンティティを描いている
*霊のアイデンティティ
*DNA操作により生まれた赤ちゃんのアイデンテ...続きを読むィティ
*自身のバックアップがいる人間のアイデンティティ
*母胎システム管理により消滅させられる同性愛者のアイデンティティ
*決められた未来を生きる人間のアイデンティティ
*医師不要の時代における医師のアイデンティティなど
感動したのは 同性愛者のアイデンティティ「生まれつきのものであり、それを 誇りに思うことも 恥に思うこともない」
終盤2編「イェユーカ」「祈りの海」は読みとりにくい。職業倫理や宗教観が アイデンティティという捉え方でいいのだろうか?
貸金庫=自分の意識を保存する肉体
*意識(精神)と肉体 は別
*意識が 転々と人間(宿主)の肉体に憑依して 記憶を形成していく
キューティー
*親の愛は 子どもが人間として存在することを前提としている
*人間として存在する=赤ちゃんが親へ意思表示(パパと言うなど)
*DNA操作により生まれ、4歳で死がセットされた赤ちゃんに 親の無償の愛は存在するのか
ぼくになることを
*人間は バックアップ用の能に経験を同期し、30歳くらいにバックアップ用の能にスイッチし、永遠に生きられる世界
*同期により自我と意識は1つになる→一人の人間しか存在していない
繭
*母体子宮を管理し同性愛者を発生させない細胞(繭)の研究
*分離主義〜同性愛が病気の一種にされる→一つの人種が地球から姿を消す
百光年ダイアリー
*決められた未来を生きる人間にアイデンティティはあるのか
*不変の未来〜歴史は過去も未来も決定済
*歴史はつねに勝者が書いてきた〜歴史の作者の干渉〜誰もが操られている
誘拐
*自分のスキャンファイルにより、自分の死後、仮想現実に コピーを復元できる
*私たちはお互いのことをコピーとしてしか知ることができない。私たちに知ることができるのは、自分の脳の中にいる、お互いの一部分でしかない
放浪者の軌道
*放浪者=倫理的単一文化の居住者の道徳律から外れた自分
*一つの思想体系は 信奉者から周辺の人へ広まり、無秩序な集団を取り込んでいく
ミトコンドリアイブ
*アイデンティティを確立するために 人間のルーツを規定しようとする誤り
*男性も女性も、民族主義も〜捨てるべき。そのとき「幼年期の終わり」がくる。先祖を冒涜せよ
無限の暗殺者
*無限とアイデンティティの対立
*主人公のわたし=無限=無限の数のバージョンのわたし〜死ぬことなど気にする必要はない→わたしは 無にすぎない、測度零の集合
*アイデンティティ=わたしが死ぬときに わたしが引き返さないことで 恥辱に まみれずにすむ
イェユーカ
*医師が不要となるヘルスガードという装置。主人公である医師がヘルスガードを付けること自体、医師が病気に負けている世界
*理解できれば どんな病も癒せる医師としてのアイデンティティが生まれたラストシーン
祈りの海
人生を価値あるものにしているものが〜無意味である可能性に面と向かう気構えがあれば〜その奴隷になることはない
最後のやりとりが印象に残る
「神ってのは なかなかいい思いつきだが、まるで意味をなさん」
「でも生きることがつらすぎませんか?」
男は笑って「四六時中って わけじゃないさ」