山岸真のレビュー一覧
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9編の短篇集で、その中でも表題作は、ものすごく根源的な問題について考えさせられる小説。
ここで問われているのは、まさしく「しあわせの理由」だ。
人間が感じる幸福感というのは、煎じ詰めれば、その正体は脳内の化学物質が惹き起こす化学反応の産物に過ぎない。
たった数ミリグラムの脳内麻薬が、長年の修行の末に悟りを得た禅僧と同じ境涯に人間を導くのだとしたら、精神の陶冶というものに、いったいどれほどの価値があるのだろう。
たとえば、ドラッグによって夢の世界に旅した人が、そのまま現実世界に戻ってくることなく、夢から覚めないままに一生を過ごすことが出来るとしたら、その人はこの上ない幸福の中で生きることを意 -
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90年代以降では最高のハードSF作家のひとり、としてその筋ではつとに名高い作家の短編集です。90年代以降のSFは短編集の拾い読みぐらいしか体験したことのない鴨、どんだけトンガった作風なんだろうと心してページを開いたら、意外にも淡々として優等生風のイメージでちょっと拍子抜けしましたヽ( ´ー`)ノ最新の科学理論を生身の人間の日常レベルに溶け込ませて新たな視点を提供するのが、この人の作品の特徴のようです。科学理論なくして物語が成立しない点では明らかにハードSFでありつつも、物語の主眼はあくまでも人間ドラマ。がちがちのSFというよりも、昔ながらのアイデア・ストーリーといった方がしっくり来るかもしれま
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あ〜やっと読めたよ。前に一度第1部第1章だけで挫折して、いつか再挑戦と思っていたウルトラハードSF。解説の大森氏のアドバイス通り、わからないところは大胆にとばし読み、最後の方はほとんど具体的なイメージがつかめないまま、それでも充分入り込めた。
この長編の一部であり、おそらく核となった短編「ワンの絨毯」をSFマガジンで読んだ時の何とも言えない感慨を思い出す。「何が書いてあるのかよくわからないが、何かすごいことが書いてあるのはわかる」という読書体験は後にも先にも他にない気がする。大体よくわからんものは途中で読めなくなるものだし。
宇宙とそれを認識するものについて、徹底した思考が繰り広げられ、イ -
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日本オリジナル短篇集。7篇収録。
脳内インプラントを使用する際、手馴れた人は小指の先にのせてすんっと鼻の穴に入れればいい、初心者用には挿入棒が用意されている、あるいはインプラントがどのように市場に流布していったか・・なんていうあたりはいかにもリアルに感じられて楽しい。それを使うか否かの葛藤や、初めて店で買う時のうろたえぶりもそうだろうなぁという感じ。
「ルミナス」「オラクル」や表題作では、作中で論じられる議論についていけなくて。だいたい、アルゴリズムってなにさ、量子コヒーランス?というレベルなので。もちろん、編者が言うように、“科学的・数学的な説明”がわからないなりの楽しみ方はできるのだけれど -
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本作は1994年刊行。イーガンは現代電脳SFの最右翼とされている。
「人格を電脳空間にダウンロードして不死を得」という設定は、先日読んだ同じ作者の 「ディアスポラ」1997と共通している。
「ディアスポラ」は、宇宙の真実を解明するために旅するというようなテーマだったのに対して、「順列都市」は自分達専用の異次元空間を作り出して、宇宙の終りが来ようとも不死である。という物凄い話。
出発点の世界は、電脳空間で「大富豪」は自分専用のプロセッサでのびのび暮らせるけれど、大多数の電脳人間は公共ネットワークの余った計算資源で細々と計算されている存在という世界。なにしろ生前の「投資の利息」で細々とCPU