山岸真のレビュー一覧
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ネタバレ表題作『しあわせの理由』
脳の幸福を感じる部分が、脳内の腫瘍により過剰になりすぎた男の話。
手術で腫瘍を摘出しなければ命の危機という絶望的な状況にも関わらず主観的には幸福感と万能感で満たされた日々を送る。しかし手術が成功し命の危険が無くなり不自由のない生活が訪れた後、自身の生活において一切の幸せを感じることができなくなってしまう。
後の手術で、何に対して幸福を感じるかを自分自身で選択できるという状況になるが、幸福や興味の対象を自分でボリュームつまみを回すかのように選択することで得た幸福は本当の幸福なのか…
人間にとっての幸福とは極めて主観的なものであるということをストーリーを通して再認識した。 -
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夏休みに読みたい小説、として紹介できる本を探していた時に評判が良い本書を発見しました。
タイトルに「夏」とあること、SF小説でありながら少年の恋愛や成長をテーマとした比較的ライトな小説であることを知り、手に取りました。
政府高官の息子であるドローヴは、戦争中という特殊な状況かでありながら父の権威による恩恵を受けています。夏には別荘地へ家族旅行をする余裕すらあるのです(もっとも、周囲とは違うのだ、という両親の姿勢に反感を抱いてはいるのですが)。
しかし、ドローヴは夏の旅行を楽しみにしていました。昨年の夏、別荘のある港町パラーシクで出会った少女ブラウンアイズと再開できるかもしれない、と淡い期待を膨らませていたからです。
親の庇護から抜け出たいとねがう少年の葛藤、仲間うちでの立ち位置をめぐる諍い、そして恋。
舞台は地球とは異なる「異星」であり、SFならではの舞台設定があるものの、作品全体を通して描かれるのは少年主人公の成長ですから、YA文学としても多くの生徒に薦められる本だと感じました。
個人的には、結末に「あまりに救いがなさすぎる」とも感じたのですが、このような結末以外には考えられない(ハッピーエンドになったらなったで、「ご都合主義」と思う気もします)作品ですし、「名作」として読み継がれていることに納得できる1冊でした。 -
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◯難しいSFのお話もあれば、普通の物語として面白いものなど、お菓子の袋詰めみたいな短編集。
◯個人的にはチェルノブイリの聖母がSF感がなくて面白い。ハードボイルド探偵小説的な良さがある。
◯一番気になっていたボーダーガード。出だしの量子サッカーでだいぶ痛めつけられたものの、後半は人類に普遍的なテーマである死と、それを乗り越えた人類の苦悩を描いていて興味深い。想像もつかない未来だから、登場人物の考え方に納得できないように書いているのか、あまり共感はできない。
◯しあわせの理由は感情ですらコントロールできる場合、それはもはや人間の感情といえるのか、というテーマを読み取れる。ボーダーガード共々興味深い。
◯理系の人たちは入りやすいというイーガンのSFだが、普通の小説としても読める…とあるが、設定として科学的な根拠があるものをSFというのか、それこそロボットアニメのようなそれっぽいものもSFというのか、よく分からないと思いながら読んでいたが、後者でしか馴染めない人でも割と読めると思う。面白かった。 -
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名作と名高いSF。SFでもあり青春小説でもあり、最後のシーンはミステリのようでよく考えられた小説だと思った。
粘流(グルーム)、死の星ラックス、寒さへの本能的な恐怖心、感応力の動物ロリン、氷魔アイスデビル。いわゆる4letter wordsの代わりに「凍る」系の単語が下品な単語とされていたり、設定が独特。
後半はSFというより、ただの少し身分の違うブラウンアイズとの青春小説、最後の方はフェンスで隔てられ寒さによる死が定まった少女で、なんか戦時中のようで読んでいられなかった。
最後の最後が抽象的な終わりだったので、続編も読んでみたいと思う。 -
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初イーガン。オチまで読んでもわからなくて「?」となったりもしたけど、総じて面白かったし、予想よりずっと読みやすかった(なのにわからないという、ね)。
どうせ忘れてしまうから、1編ごとに簡単に感想を書いたけど、こうしてみるとやはり、人間の生の意味とか自由意志とか、思考(あるいは感情)とはなにかという、SFらしい壮大なテーマが流れているのを感じます。
「適切な愛」事故に遭って危篤の夫を救うため、摘出した脳を胎内で(!)保存することを選ぶ女性。その決断に至るのは、保険が下りるかいなか、経済的に見あうかどうか。それもリアルだし、保存に至る過程もリアルだし。新井素子の「あたしの中の」を思い出しつつも、もっとエグい。ちょっとつわり起こしそうになった。(ほめてます?)愛と欺瞞をめぐるその最後のひと考察がなかなか難しくて、手が届きそうで届かない。
「闇の中へ」地球各所に突然出現するワームホール。そのなかに取り残された人たちを救出するランナーの物語。わー、これは確かによくわからないかもしれん。
「愛撫」究極の活人画の話。昔からある遊びだけど、何かエロティシズムを感じさせる。そこに遺伝子操作によるキメラを導入するという、ね。
「道徳的ウイルス学者」同性愛者や不倫をしたものだけを殺す恐ろしいウイルスを作り出した、正義感でいっぱいの恐ろしいマッドサイエンティスト。エボラ様ウイルスなのがこわい。
「移送夢」脳をアンドロイドにコピーするとき、恐ろしい夢を見るかもしれない? 最後には、これは現実なのか夢なのかという悪夢のような話に。
「チェルノブイリの聖母」
聖母のイコンをめぐる殺人事件を追うハードボイルド。「いちばん面白かった」という感想が多いけど、オチの部分がよくわからなかった……なんか読み落とした?
「ボーダー・ガード」
出たー、量子サッカー!(笑)これ自体はまったくわからなかったのだけど、そのあとのマルジットとのいきさつはおもしろかった。ある意味で「しあわせの理由」にもつながっていくような。人間の生とはなんなのか?(「適切な愛」「移送夢」もその系統。)
「血を分けた姉妹」
これもウィルスがらみで、今読むとちょっと生々しい。「二重盲検法」もよく耳にするようになった語。ひとしきりウィルス――ワクチン――ハッキングなどが語られたのち、姉妹へ思いが還っていくラストがちょっと切ない。
「しあわせの理由」
ノーベル生理学賞を受けた利根川進博士がかつて、人間はあらゆる化学反応の集合体、という意味のことを言われていたのを読んだ記憶があるけど、そんな話を思い出した。命の危機に瀕しているときに多幸感を味わい、病を克服してからはうつのどん底という皮肉な形で。最後はユングの集合無意識をちょっと思い出した。 -
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ハヤカワ文庫
グレッグイーガン
祈りの海
科学とアイデンティティの対立を描くハードSF短編傑作集。共通テーマは「科学の時代に自分のアイデンティティを確立できるか」
各短編 SFでしか描けない状況のアイデンティティを描いている
*霊のアイデンティティ
*DNA操作により生まれた赤ちゃんのアイデンティティ
*自身のバックアップがいる人間のアイデンティティ
*母胎システム管理により消滅させられる同性愛者のアイデンティティ
*決められた未来を生きる人間のアイデンティティ
*医師不要の時代における医師のアイデンティティなど
感動したのは 同性愛者のアイデンティティ「生まれつきのものであり、それを 誇りに思うことも 恥に思うこともない」
終盤2編「イェユーカ」「祈りの海」は読みとりにくい。職業倫理や宗教観が アイデンティティという捉え方でいいのだろうか?
貸金庫=自分の意識を保存する肉体
*意識(精神)と肉体 は別
*意識が 転々と人間(宿主)の肉体に憑依して 記憶を形成していく
キューティー
*親の愛は 子どもが人間として存在することを前提としている
*人間として存在する=赤ちゃんが親へ意思表示(パパと言うなど)
*DNA操作により生まれ、4歳で死がセットされた赤ちゃんに 親の無償の愛は存在するのか
ぼくになることを
*人間は バックアップ用の能に経験を同期し、30歳くらいにバックアップ用の能にスイッチし、永遠に生きられる世界
*同期により自我と意識は1つになる→一人の人間しか存在していない
繭
*母体子宮を管理し同性愛者を発生させない細胞(繭)の研究
*分離主義〜同性愛が病気の一種にされる→一つの人種が地球から姿を消す
百光年ダイアリー
*決められた未来を生きる人間にアイデンティティはあるのか
*不変の未来〜歴史は過去も未来も決定済
*歴史はつねに勝者が書いてきた〜歴史の作者の干渉〜誰もが操られている
誘拐
*自分のスキャンファイルにより、自分の死後、仮想現実に コピーを復元できる
*私たちはお互いのことをコピーとしてしか知ることができない。私たちに知ることができるのは、自分の脳の中にいる、お互いの一部分でしかない
放浪者の軌道
*放浪者=倫理的単一文化の居住者の道徳律から外れた自分
*一つの思想体系は 信奉者から周辺の人へ広まり、無秩序な集団を取り込んでいく
ミトコンドリアイブ
*アイデンティティを確立するために 人間のルーツを規定しようとする誤り
*男性も女性も、民族主義も〜捨てるべき。そのとき「幼年期の終わり」がくる。先祖を冒涜せよ
無限の暗殺者
*無限とアイデンティティの対立
*主人公のわたし=無限=無限の数のバージョンのわたし〜死ぬことなど気にする必要はない→わたしは 無にすぎない、測度零の集合
*アイデンティティ=わたしが死ぬときに わたしが引き返さないことで 恥辱に まみれずにすむ
イェユーカ
*医師が不要となるヘルスガードという装置。主人公である医師がヘルスガードを付けること自体、医師が病気に負けている世界
*理解できれば どんな病も癒せる医師としてのアイデンティティが生まれたラストシーン
祈りの海
人生を価値あるものにしているものが〜無意味である可能性に面と向かう気構えがあれば〜その奴隷になることはない
最後のやりとりが印象に残る
「神ってのは なかなかいい思いつきだが、まるで意味をなさん」
「でも生きることがつらすぎませんか?」
男は笑って「四六時中って わけじゃないさ」
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本書は1975年に執筆されたSF青春ストーリーの古典的名作。
本書を知ったのは、読書好きな人には有名な作品である「文学少年少女あるある」を面白可笑しく描いたギャグ漫画『バーナード嬢曰く1巻』で取り上げられていたからだ。
『バーナード嬢曰く』は“名著礼賛ギャグ漫画”とも言われており、その中の主要登場人物であり大のSFマニアの神林しおり嬢が本書『ハローサマー、グッドバイ』を「SF史上屈指の青春恋愛小説」として激推しているのだ。
本書は、ある星に住む人間と同じ姿かたちをした少年少女たちの恋愛を主題にした小説なのだが、SFとはいうものの、地球以外の星を舞台にしたということと、ちょっと変わった動物がでてくること、そして『寒さ』が悪の権化であるということを除けば、地球上の思春期を迎えた少年少女の恋愛小説と何ら変わりない。
そして読み進むにつれこのまま恋愛の話で終わるのかと思いきやラスト50ページからの怒涛の展開には度肝を抜かれる。
表紙のほのぼのとした可愛らしい女の子のイラストからは想像できない、まったくもって硬派な小説になっていくのだ。
これはSFファンならずとも、まさに一読の価値ありだ。神林しおり嬢が激推しするのもうなずける。
しかも、この本には著者が本書『ハローサマー、グッドバイ』から30年以上後に著した『パラークシの記憶』という続編も存在する。
この続編もいずれ読んでみたい。
と言う訳で、『バーナード嬢曰く』に取り上げられる本には、名作、古典が多く、読書通を自称する人たちにはちょっと読んでもらいたい漫画である。
・・・って、このレビュー『ハローサマー、グッドバイ』のレビューというよりも『バーナード嬢曰く』のレビューになってるんじゃね? -
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イーガンについて私などが何を申すことがありましょう…まあ、何をいってもイイガン!と私の米子弁魂が主張しますので展開しますと、まんず文系女子には科学・天文・IT的設定説明はいっさい意味をなさず、ただ流れ行くものを立派じゃのうとうっとり眺めているにすぎない。でもその中で描かれる人間性が、感情が、とてもリアルで胸を打つので、その世界に私も属するもののように感じるのです。
未知の世界に足を踏み入れるとき、愛する人にかたわらにいてほしい。まるで相容れない世界で助けてくれた誰かのために隠れて泣く。
データとなって深宇宙を渡ろうが、ゲーム世界の登場人物として目覚めようが、生きよう、謎を解こうとする人間の魂が変わらぬことが深く深く響いてくる。
だーかーらーSFが好きだし励まされるし、SFがないと生きていけないよう! -
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- 孤児惑星(Hot Rock)
この話はこの著者の十八番である惑星において一つの生物圏をそっくり創ってそこで繰り広げられる生物の話なのですが、相変わらずマクロからミクロな視点まで裏付けをしっかり整えている点が凄すぎます。
核心にはオーバーテクノロジーなど存在するのですが、科学的整合性のあるまま想像力をここまで広げられるものかと毎度驚かされます。。
- 鰐乗り(Riding the Crocodile)
他者・別文化圏・意思疎通すら取れない生物とも認識できないものに対して communicate を中心におき、ホモ・ソーシャルとも言えるものの生き方について記載した短編。(タイトルもそういうことなのかな?)
何をなすべきかということはなく、自由意志なき今のなりたい・為したいことについて考える良い機会になりました。 -
Posted by ブクログ
『1984年』は2+2=5であることを証明するSFである
と他の誰でもないこの作者が言うのだからそうに違いない
それはともかく
この作者の作品を久しぶりに読んだけれど
SFとして最先端であるというより小説としての幅の広さが良くわからない感じ
『ルミナス』のように小説らしいSF小説が書かれている一方で
表題作のようにむりやり小説にしているようなお話もあり
SFにおけるカガクテキな着想をお話にする手段に
質の高低でなく種類の幅が迷走しているかのように見えて落ち着かない
数理論文でないものを書きたいのだろうし
SF作家として名声を獲得しているのに何かをいうこともないけれども
小説としては合わないと合う作品の幅が大きくて困る作者作品也