白石朗のレビュー一覧
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赤の背景に黒文字という装丁の強いコントラストに惹かれ、手に取った。ホラー小説を好んで読むことはこれまでなかったが、本作では、良くないことが起こりそうな予兆や理屈の通らない現実、物語全体に漂う不穏で不明瞭な感覚を味わうことができた。
未知の世界に足を踏み入れるようで刺激的であり、不穏さそのものを楽しむこともできた。しかし、ラストに読んだ「赤塔」は苦しかった。読み進めながら、どこかで理解することを拒んでいた。嫌悪ではないけれど、これ以上は踏み込めないという感覚があった。それは恐怖だったのかもしれないし、世界そのものが歪んでいるという感覚に耐えきれなかったのかもしれない。
あとがきによれば、リゴッティは精神疾患を抱えながら創作を続けてきたという。作品群は、その苦悩の昇華として生まれたのだろうか。 -
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ネタバレ長年一つの学校に勤め続け、もはや存在が学校の伝統そのものになってしまった、チップス先生。
教師としては平凡な存在であるように書かれているけれど、長く一つのことを続けることと、どんな状況においてもユーモアのセンスを忘れないことは、得難い長所であると思う。
特に、戦時下で敵の攻撃を受けながら授業を続ける中で、生徒を一笑いさせる場面に「この人本物だ、、」と思わせる強靭さを感じた。
悲観的な状況でこそ、外からくるものに飲み込まれず、ユーモアを手放さない力強さを自分も養っていきたい。
中編くらいのコンパクトな文量に、あまり好き嫌いの分かれなそうなテーマと親しみやすい文体、最低限チップス先生だけ把握できれば読み切れる内容であり、こどもから大人まで幅広い年齢層で楽しめると思う。
「古典海外文学読んでみたいけど、読み易い本はあるかな?」と聞いてくれる方がいたら是非お勧めしたい一冊。
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イギリスの裕福な家庭の子供たちが通う歴史の古いパブリックスクールで、先生を務め終え退職後も母校の隣に住んでいたチップス先生の回想録。
最近文庫でもページ数の多いものに疲れてきたので、この100ページちょっとの本ならすぐに読めるかなと思って。
先生は、次々に卒業していく子供たちには、真面目で平凡な紳士と思われていたが、授業は後々まで語られるくらい冗談交じりの愉快なものだった。
独身者の寮に、退職まで長く住んでいたが、若い頃に一度結婚したことがあった。山で知り合った、キャサリン・ブリジスという女性で、この明るく聡明で、美しい人はすぐにみんなの人気者になった。
彼女の影響でチップス先生も注目され、彼の生活は輝いていた。
しかし三年後、子供を出産するというときに、親子ともに亡くなってしまった。
先生は一度に無くした家族のために打ちのめされた。
時がたち、チップス先生は想う。
細々と、まあなんと沢山の出来事が、過去に深く埋めてしまわれたことだろう。
先生は色々な出来事を思い出しながら、学校から聞こえる子供の声や、鐘の合図を聞き、運動会やスポーツの対抗戦の見物をして、たまに子供たちが訪ねてくるとお茶をご馳走する。
そして、今でもその子供たちの父親のそのまた父親の子供の頃の話をしてみんなを笑わせ、穏やか日々を過ごしている。
ガズオ・イシグロの「日の名残り」を思い出す。長く執事を務めたあと、思い出の女性を訪ねてみようと思いつく、そんな男性の心情が胸に残る小説だが、この本も同じく、静かなユーモアの中にイギリスの歴史が篭っているような、余韻のあるいい本だった。
訳が読みづらかった。言葉遣いも変わってきてはいるだろう。もう少しこなれた訳だったら、面白さももっと感じられたかもしれない。
映画化されてアカデミー賞主演男優賞を受賞したのは、チップス先生を演じたピーター・オトゥールだったそうだ、悲しいような、時にはキラキラ輝くような眼をするオトゥール、なんだかチップス先生は彼のような人物かもしれない、と思った。 -
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下巻の要約は本書カバー見返しに書かれてあるとおり。追われる身となり潜伏中のアパートで、ビリーはある雨の夜、男たちから酷いことをされた女の子アリスを助けてしまう。
仕事の残りの支払いはされず、傷ついた女の子を追い出すわけにもいかず、ビリーは身動きを取りづらい状況に追い込まれるが、自分をはめた連中、そしてアリスを傷つけた男たちへの制裁に、ビリーは仕事の相棒バッキーの手を借り、動き出す。自伝の続きを執筆しながら。
さて、ここから少しネタバレモード。
ビリーが助けた女の子アリス。21歳になったばかりというが、見た目はティーンエイジャーにも見える美少女。アリスといえば、キングの作品では『セル』に登場した勇敢で聡明な少女だ。お世辞にも成功した作品とは言い難い『セル』において、一つの希望のような存在だったアリス。絶望的な状況を切り開いた彼女はしかし、物語の中盤で命を落としてしまう。このことは多くの読者を失望させ、キング自身も「失敗した」と感じたんじゃなかったけ…。とにかく、「アリス」という名前のヒロインに私はある希望を見出さずにはいられなかったのです。キング先生、今回はアリスを殺すなよ、と。
そして、もう一つ、キングファンのお楽しみ、いや、ニヤリと笑うか、心がざわつくか。
バッキーノ住まいというのがコロラドの山中。しかも、山道を登った先の見晴らしの良い場所からは、あの「展望台ホテル」の焼け跡が見える。さらに、バッキーの山小屋のすぐ上にある〈夏別荘〉と呼ばれる小さな小屋には、不気味な絵が。子どもが描いたと思われるその絵は、オーバールックホテルの庭園にあった動物のトピアリーを描いたものだった。しかもその絵は見るたびに少しづつ姿を変え…。もう、いやな予感しかしない。
嫌な予感はもう一つ、ビリーとアリスが最後の敵を倒しに行く道すがら、ハイウェイで追い越して行った車の後部座席に乗っていたピエロ…。読者はいやでも「最悪の結末」を予感してしまうのです。
さて、ビリーの自伝は、最後にわれわれ読者にも思いがけないプレゼントを残してくれます。ええっ、こんなのあり…?!ていうか、そうか、その手があったか!とキング先生の手腕に快哉を送らずにはおられません。ノベル・イン・ノベルという構造を巧みに利用した構成に、私は救われる思いがしました。
上下二巻、今回もあっという間に読んでしまいました…。
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読書備忘録966号(下)。
★★★★★。
やっと読み終わりました。
キング作品は時々菊版(A5よりちょいデカい)で出版される。
今作がこのサイズ。
このデカいサイズで更に上下段組。300pとはいえ、進まん!全然ページが進まん!
1日50pが限界!
そんなことはおいといて。
フェアリー・テイル。
すなわちおとぎ話です。ディズニーの世界です。
言ってみれば鏡の国のアリスです。
いやいやちゃいます。
表紙絵を見てください。
藤田新策さんの絵ですよ。
確かに向こうに王国を統べる王家が住んでそうな城がありますけど、不気味すぎて・・・。
そしてあたり一面罌粟の花・・・。
犬くらいのサイズのあるコオロギとかゴキブリとかが出てきますわ。
馬もしゃべりますわ。
さて備忘禄です。どこまでも自分用の。
上巻の備忘禄に書いた通り、主人公チャーリーの住む家の横にはサイコハウスという不気味な屋敷がある。そこに住んでる不気味なジジイ。そして獰猛なジャーマンシェパード。近づいたら噛み殺される。
そんなある日、犬の悲しい鳴き声が。
行ってみるとジジイが倒れている。ハワード・ボウディッチという名前があるけど。
どうやら、屋根から落ちたみたい。
横でおろおろしているのは老犬レイダー。お婆ちゃん犬。
救急車を呼び、ジジイを入院させ、レイダーを預かり、すっかりなじんでしまったチャーリー。レイダー可愛すぎ。
ただ、ボウディッチの屋敷には倉庫があり、時々そこから不気味な音が。
退院して歩けるようになったボウディッチは銃を持って倉庫に。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
心臓に爆弾を抱えている老人にはキツイアクションだった。
心臓発作を覚悟したボウディッチは全ての遺産と遺言のテープを残して旅立っていった。
テープには驚愕の物語が残されていた!
倉庫の中にある井戸を下り、螺旋階段を下り、トンネルをくぐるとそこには異界があると・・・。
バンッ!バンッ!バンッ!は、異界から這い出してきた巨大なゴキブリの駆除だった。
そして異界には、時を巻き戻せる日時計があると!
寿命を迎えるレイダーを救うためには日時計だと!
おいおいチャーリー。レイダー可愛いけど天寿を全うでええやんか!
ただ、それでは物語が始まらない!
そしてレイダーの若返り作戦のついでに(あくまでついでに・・・)、闇の怪物ゴグマゴグに支配されたエンピス王国を取り戻すためにレーア王女を助ける為に、チャーリー王子となって活躍するおとぎ話のはじまりはじまり!
以上備忘録終わり!
ただね。
やっぱり不気味ですよ。
キングのおとぎ話ですからね。
ドワーフとか、夜影兵とか、フライト・キラーとか、巨人とか・・・。
そして、恒例の白石朗さんの解説。
この作品をキングが書いたのはまさにコロナ禍。
米国は数百万人の死者を出しましたよね。
キングは考えたそうな。
どうしたら、人々の心をちょっとでも明るく出来るのだろうか。
そうだ!楽しい小説だ!ディズニーだ!おとぎ話を書いたんですと。
不気味すぎっ!
デビュー50年にしてまだまだ旺盛な執筆活動を繰り広げて下さっているキング様にはリスペクトしかない!これから翻訳される作品全てに★5つ決定です。 -
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ネタバレ2025年の40、41冊目は、スティーヴン・キングの「ビリー・サマーズ」です。キングの作品を読むのは、「アウトサイダー」以来でしょうか。この作品は、キングお得意の超能力もホラーも有りません。至って普通の小説です。上下巻、2段組みの構成で合計600ページ以上有りますが、流石にキングです。読ませます。作家人生の最終盤に向かいつつあるキングの最後の傑作と言って良いかも知れません。
主人公は、元軍人でイラク帰還兵の凄腕の殺し屋ビリー・サマーズです。ビリーは、ある人物の暗殺を依頼され、それを最後の仕事と決めて引き受けます。最後の仕事と云うベタな設定ながら、そこはキングです。最後は思いも寄らない所に着地します。
読み所としては、まずは、ビリーが暗殺に向けて、何ヶ月も前から地域に溶け込み、地域住民と触れ合いながら、入念に準備を進める過程が面白く、非常に凝ってもいます。次に、アリスが登場して以降は、別の作品になったかのように変化して行きます。辛い出来事を経験したアリスが、ビリーに助けられ、行動を共にして行く中で、辛い出来事を消化しつつ、新たな人生を模索し、踏み出す過程が描かれて行きます。
そして、作中作品として描かれるビリーの自叙伝が何より素晴らしいです。最後、作中作品であったはずが、本編に合体してクローズするという構成が凄すぎます。
☆4.9余韻が残るラストも素晴らしい -
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高校生のチャーリーはある日、近所の怪しい屋敷に住む老人を助け、生活の支援をすることになる。謎めいた老人、ミスター・ボウディッチとその飼い犬レイダーと親交を深めるうち、チャーリーは奇妙なことに気づき始めた。庭の小屋から聞こえる不審な物音、そしてミスター・ボウディッチが所有する大量の黄金。彼はいったい何者なのか。そして始まる異世界への冒険にわくわくさせられるファンタジーです。
偏屈に思えたミスター・ボウディッチですが、読むごとに魅力が増してきます。そしてなんといってもレイダーが可愛くて健気でたまりません。もちろん彼らとどんどん親しくなるチャーリー、彼が一番魅力的。幼少期に様々な苦難を乗り越えただけあって、善良だし頼もしさが高校生とは思えません。そりゃあこんな少年、誰だって好きにならずにはいられないかも。
しかし楽しい生活がずっと続くことはなく、やがて迎えた転機。そこからの展開が何ともいえず奇想天外で、「おとぎ話」そのものでした。しかしその世界観はふわふわしたような感じではなく、不穏さも内包していてサスペンスが高まる一方。壮大で危険な冒険に挑むチャーリーの物語は、これからが本番です。 -
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異世界エンピスで、死に瀕したレイダーを救うことに成功したチャーリー。しかしある者の罠により、チャーリーは囚われの身となる。牢獄で行われる残虐な競技を生き抜き、チャーリーは世界に平和をもたらすことができるのか。異世界ファンタジー全開の下巻です。
ハッピーエンドの物語だということは最初から公言されているものの、それでもどきどきが止まらない展開です。牢獄の息詰まるような生活、その中で行われる「大一番」の恐ろしさ、そして囚人たちと団結しての、敵との闘い。どれもこれも読む手が止まりません。数々の「おとぎ話」をモチーフとした、いわばお約束のようなエッセンスが大量にありながら、しかし意外な展開も満載。強大と思えた敵が意外とあっけなく、だけれど予想外の方法で倒されたりするのには驚きの連続。チャーリーに与えられた運命とも言うべき役目、その中で成長していくチャーリーの姿が頼もしいです。
残虐な部分も多々あり、決して甘いだけのおとぎ話ではないのですが、間違いなくハッピーになれる物語でした。そしてなんといってもレイダーが可愛い。とんでもなく可愛い! 特に犬好きではないのだけれど、メロメロでした。 -
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2025年に読んだ本の中で、最も「読んでよかった」と思った上下2巻であった。
スティーヴン・キングというとホラーの巨匠、話題の映画化小説を何冊も生み出した大作家の印象が強く手を出すのに気遅れしていたが、こちらはこのミス2025年版海外編にランクインしていたため手に取った。
とても面白く上下巻一気に通読(あえて言うなら、ミステリーというよりはサスペンスのような?)。主人公が殺し屋ということもあってアリスを迎えてからの後半は映画レオンを彷彿とさせる部分もあったが、ビリーとアリスの別れ際の情景の美しさが目に浮かび、個人的にはこちらの方こそ映画の大画面で見たいものだと思った。上巻を読んでいるときはまさかこんな流れになるとは思っておらず、やたらビリーの潜伏生活が詳しく語られていて、まさかこれが下巻まで続くのか…?と訝しみながら残りのページ数を確認したりしていた。
ビリーが潜伏生活をするうえで作家として自分の半生を書き起こしていくが、それによってビリーの生い立ちだけでなく人となりが分かり、いつしかビリーに肩入れする気持ちが生まれる。そんなビリーがこの仕事を無事にやり遂げ、穏やかな余生を送れるよう願う気持ちがさらに読むスピードを加速させ、手に汗握らせる。それだけでなく、この物語の形式が結末にも関わるので、さすが巨匠が書くとこれほどまでに完成した作品になるのだなあと感服した。 -
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主人公チャーリーは幼い頃母を亡くし、それ以来アル中になってしまった父の世話をしながら育つ。いよいよ路頭に迷う時に神と契約する。父のアル中を治してくれるなら何でもします、と。それ以降のチャーリーはボランティアや勉学やスポーツに励み、模範的な高校生になる。ある時、サイコハウスと恐れられている屋敷で犬の鳴き声を聞く。タダならぬ気配に屋敷に入り骨折した老人を助けた事で世捨て人同様に暮らしていた彼とその犬と交流を深める事になる。彼の品行方正さや父親への想いや日々の生活が目に見えるように描かれる。そして8割位過ぎた所で転機が訪れる。いよいよ異界への旅立が始まる。
チャーリーと犬のレイダーが愛おしくて堪らない。下巻が楽しみ。