千野隆司のレビュー一覧
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町内の鴛鴦夫婦の美人妻は、実は、仮面の下は、とんでもない女だった。婿養子の夫は、使用人の扱いで、役者狂いの贅沢三昧、娘は、贔屓の役者との間の子、親戚は、金食い虫、殺すまでには至らなかったけれど、夫の方に、同情してしまう。女は、つくづく恐ろしい。
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朝比奈家の女達が、凄い。凛之助の母親と祖母が、仲が悪いという言葉では足りないな。何かに付けて、反発して、いがみ合っている。男達、父親と本人は、どうも、ふがいない。しかし、事件を解決する手腕、執念は、凄い。
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若殿に難題が襲い続ける
天明7年春、昨年一昨年と関東以北は冷害による凶作で、江戸では米不足と共に米価上昇の影響で諸物価が上昇して、平穏で不安のない暮らしが送れない状況だった。地方も飢饉ゆえ食うにも困る有様で、穀物の不足が続く中、生活を維持するだけでも精一杯となり、安定した暮らしを諦めてまで生計を立てようとする人々が増え、江戸へ流入する 大勢の人がいた。江戸奉行所は、街の治安を守る責務に追われ、日々の事件の始末に忙殺される日々を送っていた。
上総高岡藩の若殿井上正紀は、藩財政の逼迫を憂え、資金繰りの難局に立ち向かいながら、これまでに利根川堤の補強を進め、高岡河岸の整備を図り、取手の商店からの借財返済を確実に果たすべく尽力してきた。
井上家は三河浜松藩が本家である。正紀の高岡藩と正広が後継ぎの下妻藩は共に井上家の分家になる。この三家が集まる会合があり、井上家菩提寺、浄心寺の本堂改築の件が提案され、既にこの計画が進んでいるのだった。
本堂建て替えの費用は1300両で、浜松藩がこの半分600両を負担する。高岡藩と下妻藩は200両ずつを拠出し、残りは寺の檀家衆に寄付を募るという。
難題が次から次へと正紀を襲う。
正紀は高岡藩に婿入りする際、江戸家老と国家老の妨害を徹底的に排除し、最終的に彼らを切腹に追い込んだ。下妻藩の正広も、後継者問題で家来の多くが藩主正棠に従い分裂状態にある。
それゆえ、浄心寺の改築について、正紀と正広が失態を犯せば若殿の座を退くことになりかねない。
そのために何としても200両ずつを確保しなければならない。二人は100両は勘定方の力を借りて工面したが、残り半分は当てがなかった。
正紀は、江戸街中で破落戸に因縁を付けられて暴力を受けそうになる両替屋の房太郎という若者を助けた。房太郎は、予々米などの穀類の値段の動きを調査していた。房太郎は正紀に、この先大麦の値が上がると助言した。
早速、正紀と正広は併せて160両買い入れて、相場が上がるのを待った。やがて房太郎の言うとおり数日後には2倍近い値になり、売り抜けたのである。その後も房太郎の助言で為替相場を利用、200両ずつを調達出来た。
物語のこうした筋書は魔法のように感じる。展開して益々謎を深め、終盤には将軍らしい人物が姿を現す。天が見捨てぬ人、正紀と正広だったのだと示唆される。読み終えて誠に不思議な物語だと実感した。 -
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難事続きの正紀
利根川高岡河岸の建設は、行徳の塩製造問屋桜井屋の援助で高岡藩に無事完成した。藩財政逼迫状況は少しは改善されるはずだ、と安堵する正紀だ。
しかし、難事は続いたのである。
藩主正国の大阪奉行所代としての赴任に伴う、生活費用の負担増により諸費用が借金で賄われていたのである。その額は120両余りに及び、藩の家老、園田頼母の妻の実家である取手の戸川屋からの借金だった。正国の大阪奉行所務めは、江戸幕府内の出世に影響する重要な出向先である。それと頼母は、前回の高岡河岸建設の際の不祥事で切腹させられている。
小さな藩はこの時代貧乏な所が多い。米作に頼るのみで豊作の年ばかりではなく、天候に恵まれず凶作、不作の年もあり、度々飢饉に見舞われた。播磨龍野藩は淡口醤油を醸造して、名産品に仕立て上げて、大坂や江戸に送ることが出来る。数少ないゆとりある藩であり、そうした藩は西国に多かった。
正紀は、戸川屋からの返済要請に応えようと、馴染みのお店や知人縁戚に借金の依頼で奔走するが断れるばかりだった。貧乏小藩に婿入りした正紀は再度難題が襲われたのだった。
江戸の醤油問屋大松屋が、播磨龍野の名産の淡口醤油を仕入れた時、大松屋を商売敵とする津久井屋がこれを船ごと横取りするという事件が発生した。しかも船頭の酉蔵が死体で発見された。高積み方与力の高野辺は、奉行所の人手不足で町廻り方に代わり事件を調べる。この事件が、やがて盗品の預け先として取手の戸川屋に繋がるのであった。
何とかして借金を返済をしたいと金の工面を考える時、正紀は尾張藩の縁筋でもあるので、家宝の掛け軸や茶道具などの名品を処分する瀬戸際に追い込まれるのだが、事件の解決により救われる形になった。
正紀は、毛並みの良さが自然と湧き出る若者らしい。周りを囲む友人や支援者にも恵まれて、今回も無事乗り切った。後味が爽やかな物語である。 -
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不器用な武士、大事業を為す
高岡藩主井上正国の後継ぎとして正国の娘と結婚した竹越正紀であった。
新婚であるにも拘わらず、正紀は藩の内情が厳しいことに考えを巡らせるのである。米の不作で藩財政逼迫の状況を何とか助けたいと考えた。とは言え、17歳の若さはどう見ても未だ半人前だ。また、以前利根川堤防の補強のため領地の小浮村を訪れたものの、正紀は高岡藩について詳しくない。正紀が想い描いたのは、利根川を利用する弁財船の中継地として河岸場と納屋の建設であった。
ただ、事業を始めるには段取りが必要だ。見積もり費用や施工者の選定、工事期間、施設の規模と図面、需要の確保など、予想しなければいけない事が山とあるだろう。しかし、正紀は元より江戸藩邸内の家老や中老までまるでそれに考えが及ばない。
侍というのは何んとおおらかなものだと思う。
物語は、江戸の塩問屋伊勢屋の萬太郞が、通り掛かりの醤油問屋武蔵屋の前に積まれた醤油樽が崩れ、下敷きになって亡くなる。伊勢屋は瀬戸内産の下り塩を仕入れて、商いは江戸市中の他、遠く北関東の上野、下野、常陸に販路を持った江戸でも屈指の大店である。
伊勢屋は、登録外の流しの杵造が持つ船を使い、塩等を常陸に運ばせた際、船が行方知れずになり荷物を掠われた。その時以来、伊勢屋の経営は行き詰まり、金貸し大和田屋から借金をするのだが、商いは元に戻らず借金が膨らみ、この返済の為に萬太郞が金策に歩き廻り、遭遇した事件だった。
高積み見廻り与力で正紀の友人の高野辺は、この事件が事故ではなく殺人の疑いがあると判断した。そして背後に同じ塩問屋都倉屋と大和田屋が伊勢屋の身代を乗っ取る企みを暴いたのである。
行徳の塩製造桜井屋の隠居長兵衛が萬太郞の話しを聞き及び、江戸に塩問屋の進出を計画していた。これが幸いして、伊勢屋は桜井屋にお店の権利などを長兵衛に譲渡して、その代金で伊勢屋は借金を返済した。
また、正紀も河岸場の建設を長兵衛に話したところ、長兵衛は快く納屋の建設を引き受け、荷物保管場所として利用することを約束すしてくれた。
土地の工面も、小浮村の農民が1000坪を10両で譲ってくれることになり、納屋建設に向うことになった。
正紀が荷物の搬入の際にも、乱暴狼藉に遭い苦労の連続であった。
こうして物語を読むと、正紀の事業が成功裏に成し遂げられたとは言えない。その辺りを作者が上手く描いていると感じた。
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不思議な魅力を持つ弐吉
江戸時代中期以降、侍の生活は困窮し、幕府の俸禄だけでは生活がままならなくなっていた。侍たちは俸禄として支給される米を札差で金に換え、江戸での生活を支えていたが、幕府からの俸禄が増えない中、物価は上昇し、借金漬けになる侍が増加していた。笠倉屋では、五年先までの俸禄を担保にして貸金を行っていたが、新しい札差仕法の噂が流れ、その対応に追われていた。
笠倉屋の手代、弐吉は金利を下げて借金の借り換えを札旦那に勧め、返済の負担を軽減しようと試みたが、様々な妨害に遭遇した。特に同じ店の手代である猪作からの恨みを買い、命を狙われることもあった。最終的に幕府より棄損令が出され、弐吉の対策が功を奏し、笠倉屋は被害を最小限に抑えることができた。
物語を通じて、弐吉は困難に立ち向かい、持ち前の勘の良さと行動力で難題を解決する才能ある若者として描かれている。人柄も真面目で信頼でき、人間性豊かな一面を持つ弐吉の姿に読者は魅了される。物語は、弐吉の不思議な魅力に惑わされて、自然と読み進められてしまう。 -
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札差弐吉の勇敢な働き
札差・笠倉屋では、後継ぎの若旦那が相変わらずお店に迷惑になることばかりしている。
今回は、外で女を孕ませる事態を引き起こし、主人・金左衛門が息子貞太郎を連れて女宅を訪れて、金で事態を収めるのだった。貞太郎の軽率な行動は、一つ間違えればお店の暖簾に傷を付けるような事ばかりである。
手代の弐吉は、大得意先の御納戸組頭黒崎が連れてきた御納戸衆能美彦兵衛の金談の対応をした。本来能美の借金には応じられないところ、黒崎の要請を汲んで弐吉は能美に5両を貸し出して金談を済ませた。
だが、弐吉は無理を押す能美の要求を不審に思い、番頭・清蔵に相談した。そして清蔵は弐吉に黒崎の周辺を調べるように指図した。
弐吉は、父の死亡事件に黒崎が関係しているとの疑念を抱いていたこともあり、札差仕事と黒崎の調査を合わせて行う忙しい日々が始まった。特に、外出する用が出来た時には、容疑に浮かんだ者の屋敷に聞き取りを行ったり見張ったりした。
町回り同心、城野原の岡っ引き冬太がこれに加わり、協力し合い細かい調べを行った。そして黒崎と用人篠田を公儀呉服屋・玉置屋の主人と番頭が料亭で接待する所を見た。
公儀の注文品白絹500反に絡む、玉置屋と能美、黒崎の贈収賄事件が暴かれる。
能美が玉置屋に白絹500反を注文して、その代金の一部を黒崎に還元したことが判明したのである。黒崎は、かねてより上役溝口監物に贈り届けをして、自らの出世を望んでいたのである。その贈答品の購入に賄賂として得た金を当てていた。
弐吉は黒崎が本当に父の敵なのかを古着屋女房に面通し、確認してもらった。黒崎が父の敵と知った弐吉は復讐心に火が付き、更に贈収賄の証拠となる玉置屋の裏帳簿を見つけ、奉行所に届けた。奉行所経由で目付に訴えが回り、溝口監物も同時に事件を届け出て、黒崎と用人篠田、能美は切腹、お家は取り潰しとなり裁かれた。
弐吉の非常に勇気ある行動、即ち細かな調査活動と時に命知らずに侍に向かう態度は、とても立派で感銘を受ける。優秀な若い手代だ。
物語は捕り物風である。この若い弐吉が、自らの商売に一意専心務めれば、また別な面での課題を解決するだろうと期待が持てる。楽しみである。
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札差屋小僧のお手柄
浅草森田町にある札差、笠倉屋の小僧、弐吉は将軍直参の侍に支給される切米を侍の自宅に配達した帰り道に、魚油屋上総屋五平が侍と思しき二人連れに殺されて、集金したばかりの金子、十数両を盗られた事件を目撃した。遠くからであり、日が暮れて辺りは暗かったため、顔や姿までははっきりとは解らない。目撃者は複数人いて、犯人は一人だ証言する者もいた。
魚油屋五平殺しと金子十数両の窃盗事件を調べるため町廻り方が探索に動いた。
事件の容疑者が聞き込みから3人が浮かんだ。旗本の梶谷と塚本、そして御大身の宇根崎将監とその用人阿部である。
町方の調べで梶谷が下手人の可能性が濃厚になったのだが、弐吉の証言どおりなら下手人が一人足りない。町方は梶谷を下手人として有力視していて、何度も笠倉屋を訪ねては弐吉の人柄や生い立ちなど、信用が出来る男かを確かめようとする。弐吉はお店では他の奉公人たちからも嫌われていて、普段から孤立している。弐吉に有利な面はなく、益々皆から疑われ弐吉も窮してしまう。梶谷は笠倉屋の札旦那である。下手人なら、72両という貸し金が未回収となり店の損失にもなる。そこで、こうした事情を勘案した笠倉屋は、独自に手代の猪作と小僧の弐吉に事件を調べさせるのである。
このままでは、弐吉にしても出世の道が遠のく。弐吉は事件の探索に力を注ぎ、自らの証言の信憑性を明らかにするのであった。
弐吉は事件の真相を捜して粘り強く街中を歩き回り、また細かく丁寧に調べて、やがて弐吉の証言通り下手人が、御大身宇根崎将監とその用人阿部の二人であると確信した。
宇根崎は将軍のお側仕えの役目に神経を擦り減らし、吉原の高級な郭で花魁遊びなどで気を紛らわすなど荒れた生活を送っていた。そして、もっとも酷いことは、憂さばらしに町人の辻斬りを働いていたことだった。
物語は短い文章が連なりとても読みやすい。私自身、読解力に欠ける点があるが、解らずに何度も同じ箇所を読み返す箇所もあったのだが・・・おもわず弐吉に同情してしまった。