土屋政雄のレビュー一覧
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愛と平和は、雌竜が吐く霧によって保たれている。夫婦の愛と社会の平和は、忘却によって保たれている。
雌竜の霧。いい表現だ。
それはともかくカズオ・イシグロが導き出す現実は、身も蓋もないぐらいに厳しい。『私を離さないで』を読んだ後、目の前が真っ暗になるような思いをしたが、この『忘れられた巨人』も同様の読後感を持った。アーサー王物語も古代ブリテンの歴史も知識がほとんどないまま、ファンタジー的な物語なのかと思って読み進めていたが、終盤の終盤に一気に心が鬱になりかけた。
夫婦の旅の目的地は、三途の川の向こうの死の世界だ、と私は読んだ。結局、死は一人で迎えるしかないものである。最後の場面、主人公の決断が胸に来た。 -
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ネタバレ自分のためじゃくてジョジーのためだけに全てを尽くすクララが持ってるのは、果たして人間的な心なのか。思いやりや憐憫は確かに心の一側面ではあるやろうけど、保身、嫉妬、依怗みたいな醜い感覚が排除されてるそれを心と呼んで良いのかは難しい。
とはいえそんなクララが、人間を特別たらしめるものを看破してるのが何よりも尊い。
お日さまとの約束とかいう、信仰に近い論理に心からの希望を見出してる感じ、映画『A.I.』と同じくSF作品の中でファンタジーに解決策を見出す矛盾と無力感があった。このパターン心が苦しいからやめて欲しい。
最後の店長の「B3型には愛情を感じられなかった」という言葉、人間に近づき過ぎたものには抱けない愛情の存在な。 -
「わたしを離さないで」について
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが端正な筆致で綴る、ある女性の人生の物語。
提供者を慰める介護人の職に長くついていた女性。彼女が職を辞めるにあたり、自分のこれまでの人生、特に生まれ育ったヘールシャムで仲間と過ごした日々を回顧する。
提供者、介護人など説明なく出てくる言葉の意味が、女性の回想から次第に明らかになってくるにつれ、世界の残酷な姿が浮かび上がってくる。
この世界の真実は、SF小説のファンならばすぐに見当がついてしまうだろう。
読みどころは、むしろ小説としての巧さ、人間描写の厚みの部分だ。大きな状況に翻弄される主人公たちが、小さな人間関係にすがる姿がなんとも哀しく映るのだ。
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「教皇選挙」を観て、レイフ・ファインズ熱が再燃。
自分的No.、最も美しく儚い姿だった「イングリッシュ・ペイシェント」を思い出した。
原作は読んでいなかったな、ということで手に取る。
本書の解説にもあるが、映画と小説はかなり別物であった。
なので、映画が好みだからと言ってこちらも気にいるかは別問題。
しかしながら、小説にはこの形式でないとできないだろう展開・発展があり、その揺らぎが文庫版の訳者曰く「読む人を選ぶ本」だそうだが、私には合っていてすぐこの世界感に没入した。
話者がコロコロ変わる、時間が自在に行き来する、ということだったがその変化に反発せずについていけ、こちらも時間も空間も地図上の移動も自由に旅することができた。
なんという想像力だろう、こういう作品にあと何回出会えるだろう、と思う類の読書体験。特別な作品だった。
“飛行機屋”からしたら、そりゃないぜなエッセンスもあるだろうけど、そういうことを突っ込むのは野暮だろう。
もしそこを突っ込んだとして、この本の価値はそこではないし、これをベースにして作られたあの映画も色褪せはしないと思う。
冒頭から最後まで、脳内ではレイフ・ファインズが語り、あの美しい様々なシーンが絵になってあらわれた。
ハナとキップ、砂漠の風景、皆が住む廃墟など、印象的なことをあげたらキリがない。
映像になっていなかった要所も、まるで文字を追っている目と本の間にスクリーンが立ち上がり、映像が浮かぶような心を掴まれる描写ばかりで、行ったことのない砂漠の乾燥した熱風を受けたり、日陰では涼しく暗い洞窟で、水滴の垂れる音だけ聞こえているような静謐を感じたり、あらゆるものが五感に語りかけてくる本だった。
映画のことを言えば、あの時レイフ・ファインズは33,34歳だったらしい。
信じられない程の悩ましい色気!
美しい青い瞳と最高に切ないあの眼差し。たまらないね。
何がどうなったらあのような造形に仕上がるのか...
ヴォルデモートの姿しか知らない人は、ぜひ観てほしい姿だわ -
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これまで読んで一番面白かった小説を一つ挙げて、と言われたら、有力候補の一つとしてこの本が挙がってくると思う。それくらい面白い。魅力的な本。
本書のクライマックスは、やはりストリックランドがタヒチに行ったのちに命をかけて最高傑作をかけ上げていくシーンなのかもしれない。ただ個人的には、前半のパリでの出来事や、あのいかれていると思われるほど、お人好しの彼の切ない感じが大好き。
自分にはストリックランドのような圧倒的な才能も、なぜだか女性を惹きつけてしまう野生的、セク書なるな魅力もないと自覚しているので、それに圧倒されつつも惹かれてしまう彼や彼の奥さんの気持ちがなんとなくわかる気がするのだ(もちろん、あそこまで極端にはなりきれないけれど)。 -
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ネタバレ月と六ペンス読みました。
終盤のところが1番印象的で好きでした。
生まれる場所を誤る人がいる、とゆう一文から始まる文章のところや、タヒチでのストリックランドの様子。
物語中盤にストリックランドがブランチのことを、支配欲は激烈で魂の支配までする、ただ自分のものにしたかっただけだ、と言い放っていましたが、タヒチのアタは自分をほっといてくれるからこれ以上は望まないといい、最期をそこで過ごす。このふたりの対比は痛々しく、ブランチに同情してしまう私は似たものをどこかで持っているからなのかなと思ったり。
世間はどうでもいいストリックランドと、ブランチの夫の他者に執着にも感じるような介入をしたがる様子との対比。人物像が生々しく、言い回しが難解なところが多々あって何度も読み直しては考えながら読みました。
妻の元を去ってから出会った女性たちは、ストリックランドの何にそんなに惹かれたのだろう。
主人公が彼を色んな角度から分析し描写していましたが、野生的さと肉体的強さ、官能的と書いてあるところがありました。お金や名誉をもたなくても、そのままのたたずまいや皮肉さ、仕草や肉体に惹かれたのだろうか、それとも理想を追う生き方に魅了されたのか、理性が吹き飛ぶような劣情を感じさせる人とはどんなものなのだろう、などと、女性側の視点に立って色々考えてしまいました。
とはいえ、自分にはこの生き方しか生きれない、と決意した人には何を言ってもこちら側が滑稽に見えるだけで、手を伸ばしても届かない月のような存在と思うのが1番かも、なんて身もふたもないことを思った。
モームの他の作品も読んでみたいな。
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購入済み
副題から分かるように全ての短編に音楽の要素が出てきますが、もうひとつの「夕暮れ」はどういうことだろうと思いながら読んでいました。訳者あとがきにも書かれていましたが、音楽以外にももうひとつ男女関係・夫婦関係の危機というモチーフも全ての短編に共通しています。登場人物皆もう若くなく、ある人は結婚した時の状況とはお互いの関係や自分の感情や人生に求めるものが変わっていたり…。こういう人生の盛りを過ぎてそれでも残りの人生を生きていく人々を「夕暮れ」という言葉で表現しているのでしょうかね。思えば『日の名残り』もそのような意味合いでしたか。
ひとつひとつ心にしんみりとした感覚を残す短編でおすすめです。