約ネバすぎるのがノイズだった
でもすごく物語の構成も、文体も、登場人物も、綺麗な小説だった
抽象化すると全体的に"合理"VS"非合理"で対立してたなあ
最初の方にでてきた先生も、展示会の真の意味も、エミリー先生団体の動機も
でもやっぱりメインは郷愁だとおもう
最初の方に現れた提供者がヘールシャムの話を自分の子供時代と混同させて楽しみ聞きたがったように、僕も暖かいベールシャムでの思い出を読むのが楽しかった
小学生時代のいじめ、芸術作品という評価基準、全寮制の中での秘密の話、時々見える大人の仮面が剥がれた大人の不思議な部分、中学生時代の音楽の流行り、先生に気に入られているという評価基準、性に精通しているという虚言と踏み込まない暗黙の了解、高校時代の読書量という評価基準、先輩に気に入られる魅力、性の始まり等々
"子供時代あるある"が細かく上手く詰め込まれていて、別に自分にそんな美しい思い出はないけど懐かしい気持ちになれた
あとは、終わり方が変にドラマチックの激しい勢いや号泣やハッピーエンドでゴリ押さなかったのが淡々と語っていくこの小説らしくてよかったな
クローン人間に対しての気持ち悪さがお涙で急に解消されるとかもなくてよかった
納得いかなかったのは、ルースの扱い
ルースとキャシーはトミーよりも長いし、秘密の共有や探求はしていないにしても乗り越えた問題は多かったんじゃないのか
何度暗黙のうちで喧嘩しても、2人で仲直りしていたし
コテージで先輩に媚びを売ったり大人ぶるルースはただの見栄だけではなく、自分と同じく仲間も先輩に好かれることが嬉しく必要であると信じ、仲間にやった事なのだし
深夜に定期的に2人で話し込んだりしたんじゃないのか
それが、トミーと中学生?高校生?の時に付き合っていて、コテージでトミーとルースの仲が悪くなり決裂がうかがえた時に、トミーとキャシーの後釜を危惧して「トミーは処女厨」と嘘の情報を教えて阻止したことで、死んだ後も恨まれてしまうし、ロストポイントで思い返すのはトミーだけなのか、と。
トミーとキャシーは根本的に性格が攻撃的かそうじゃないかで違うけれども、共有した思い出は同じだし、キャシーが嫌うルースの性質はキャシーとトミーの関係に嫉妬することによって生まれたものでもあるから、そこまで責めたてられるものでもないんじゃないか
ルースが女性ではなく男性で、トミーのように偶然から来る秘密の共有と救済者と被救済者という関係性にあったら好きになってたの?
臓器提供のために作られたクローン人間が家畜のように生産と消費される社会で、それに対し疑問を抱える団体がヘールシャムという全寮制の教育機関を設立した
主人公のキャシーがヘールシャムでの思い出を独白のように現在の気持ちと過去の気持ちをいり混ぜにしながら小中高大社会人編(年齢的には)段階を分けて語っていく
小学生編では、クラスメイトの評価基準は芸術作品の上手さになっている。
定期的に開催される"展示会"という、全生徒が詩や絵画などの芸術作品を作り上げ、それを先生が選考し、最終的に"マダム"と呼ばれる謎の人物が引き取っていくイベントがある。
物語の主軸となっていく、ルースという天真爛漫でリーダーシップのあるプライドの高い女の子と、トミーという癇癪持ちで素直で心理的にも芸術駅にも不器用な男の子がいる。
下手な絵を書いてふざけた時に、先生に庇ってもらったことを理由にクラスメイトから反感を買ったいじめられっ子のトミーは定期的に癇癪を起こしていた。それを遠目から少し憐憫をもち観察していたキャシーがある日、トミーが癇癪を起こした後に、女子グループの面前で、トミーのお気に入りのシャツが汚れていることを言及する"触れてはいけないやつ"という腫れ物扱いを突き破った
それを境にトミーはキャシーに話しかけてくるようになる
それとヘールシャムの"展示会"や1部の先生が匂わせる"何かを学んでいるようで何も学んでいない"という言葉や"芸術作品を頑張らなくていい"という言葉に対する疑問の追求をトミーとキャシーで行うようになる
この頃キャシーはトミーの子供らしい不器用さを鬱陶しく感じていた
おそらく中学生に上がった頃にはいつのまにかトミーとルースが付き合っていた
この頃からルースとキャシーは時々険悪な仲になり、先生に特別に気にいられてるアピールを虚言で盛るルースと、それを知ってることを仄めかすキャシーなど、こういった"プライドが高く意地っ張りのルースとそれを疎ましく思うキャシー"といった構図が何度か繰り返されていく
1度マダムの横を女子生徒グループで通ってみると、恐怖と嫌悪感を顕にされた
それ以降マダムに対して疑問を深めていたキャシーは、ある日"私をはなさないで"という音楽に合わせて不妊症の母親がやっとのことで生まれた子供を抱いてることを想像してダンスを踊っているところを泣いているマダムに見られる。
次の日ステージ、コテージに進む
ヘールシャムの同級生とはバラバラになり、トミー、キャシー、ルースは同じだった
そこでもルースの先輩への媚やマウント、それに対するキャシーの反発
トミーとキャシーの仲に嫉妬するルース
等々昔ながらの関係性が描かれていた
ルースのポシブル(この時は詳述されていなかったが親かクローン元かのどちらか)を探しに先輩と3人で街へいくことに
ここでもお馴染みの対立がおき、トミーとキャシーは2人で行動することになる
その時キャシーが昔無くしたジュディのカセットを見つける、ここも秘密だ
ある日トミーが、"展示会'への画期的な見解を示す
それは、"真に愛し合ってるふたりは提供を免れられる"という噂に基づき、展示会はその真実を見極めるための道具であったというものだった
その事実と、過去に先生に肯定され絵を描くことをやめたトミーは今更取り戻すように熱心に想像上の動物を描き、それを最初にキャシーにみせた
この秘密の共有がルースにバレ、3人の関係はギクシャクする
ソレに決定打をいれるように、ルースはキャシーがルースのトミーに対する軽い悪口に笑っていたことを誇張して、キャシーも絵をくだらないと思っていると表現した
それに対する驚きと怒りとが入り交じった気持ちで何も言えなかったキャシーは、ルースが嫉妬からやったことを知っていたから2人に背を向け去った
そのままキャシーは介護人への道に進み3人はバラバラになった
介護人として躍進するキャシー
ヘールシャムが無くなったということをしったり、ローラというムードメーカーでおちゃらけていた同級生が介護人になることによってその明るさを失いくたびれていた現実的問題にも直面する
確かローラにすすめられて、キャシーは嫌な別れ方をしたルースの介護人になることを決める
トミーと3人で船を見に行くことにした
その道中で、ルースが気まずい雰囲気をどうにかしようと誰も知らないルースの友達の話をし、それに困惑するトミーを見て、キャシーがその話を退けるとトミーもそれに賛成してルースに対立した共感が芽生えた
ここでルースは昔のように反発しなかった
コテージにいた時の先輩クリシーが死に、その彼氏であったロドニーがその死を受け入れていることをキャシーが報告する
山に登る時にも車の中でも衰えを見せていたルースは、ここで自己投影したのか「そんなはずはない、キャシーはわかっていない」と昔らしい反発をみせた
帰り道でキャシーはいきのトミーとの共感に味をしめて、道すがらのポスターを批判したルースに対立しトミーに共感を求める
もう1枚のポスターを見かけた時、キャシーはつい"マダム"という3人の決裂に繋がる禁止ワードを出してしまい、それをみたルースは銃を奪い返した映画の登場人物のような恍惚とした表情をする
しかし、ルースの口から出たのは、ふたりが本当に付き合うべきであったということ、過去にキャシーが性衝動を抑えられないことを異常しとして扱い、トミーは処女厨だと言ったがそれはどちらも嘘であるということ、償いとしてマダムの住所を知っているから2人なら"本当に愛し合っている免れられる提供者"になれる、と託してくれた
それからキャシーとルースは昔のような空気のまま、ルースの最期を引き取った
キャシーはルースの遺言通りトミーの介護人を引き受けた
2人は「どうしていまさら」という後悔と、「免れられる提供者になれるのか」という不安を抱えながら牧歌的な生活を送る
決意を固めてマダムの元を尋ねることになった
マダムに"展示会"への見解を語るが、「やりすぎでしょうか?」という歯切れの悪い返事をするマダム
すると後ろから校長先生的立場であったエミリー先生が出てきた
全ての種明かしが始まる
愛し合っているからと言って免れられることは無いこと、世の中では臓器提供者は粗雑に扱われていてエミリー先生所属の団体が青春時代だけでも提供したり、周囲に人間であることを示す運動をしていること、それもデザイナーベイビーズの実験が進んでいることが要因で世間に危険視されてしまい頓挫したこと、などなどを話した
聞いてからしばらく落ち着いていた2人
帰り道、裏道ばかりを通り静寂の漂う空気の中、トミーは路肩に車を止めてもらうことを頼む
そこでトミーは暴れた
現実を受け入れた後のふたりは、
腎臓の悪くなっている最後を最愛の人に看取られたくないトミーと、看取りたいキャシーで、"提供人"や"介護人"というレッテルの張合いですれ違う
最後は劇的なおわりではなく、トミーが誰にも言っていなかった「サッカーで勝って戻ってくる時水の上を走ってる想像をしながら手を上げる」という冗談時見た事を言って、2人ともそれに笑う
手を挙げたトミーをみて、二人の関係は終わる
最後はキャシーがヘールシャムのことを思い出し、学校での小話であった"ロストポイント"という無くしたものが集う場所で、トミーが地平線の向こうから手を振りながら歩いてくるところを想像して終わる