土屋政雄のレビュー一覧
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ネタバレ静かで悲しい話だった。
主人公が半生を振り返る口調がたいへん抑制がきいてきて冷静で、あとルースが嫌なやつすぎて、そして長くて、ページをめくる手が鈍った...けど、ラストスパートのヒリヒリとした切実さは胸に迫るものがあった。運命が悲しいし、やるせないし、おそろしい。
マダムとエミリ先生の、無自覚な残酷さ(むしろ人格者だくらいの自負すらある)、こわい。
ふたりの運動によって主人公たちに豊かな感情が生まれ、そして絶望する。もし大きな変化の波の中にあっても「私たちの人生はこれがすべて」...。変えられない運命なら期待を持たせるような教育自体が悪なのでは?いやそれでも彼らに大切な人とあたたかい記憶ができ -
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この作品は、大きな事件もなく、執事スティーブンスの日常が淡々と描かれていますが、その静けさの中に彼の過去や現在、そしてこれからの人生への深い思索が込められています。
特に最終章では、自らの人生を振り返り、これまでの生き方やこれからの在り方を静かに見つめる姿に強く心を打たれました。
読後、自分自身の人生とも重なり、「これまでの人生は何だったのか」「これからどう生きていくのか」という問いが胸に残りました。
年齢を重ねるほどに、仲間の死や老いに直面し、生きる意味を考える機会が増えます。
ただ日々を過ごすだけでは満たされないもどかしさや、今の現状を変えるにはなにか怖気付いてしまうという思い―― -
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ディストピア的世界。
大きくネタバレになるけど、臓器ドナーのためにクローン人間として生まれ、育てられた人達の話。
やがて臓器は提供され、使命を終えていく。
正直、SFとしては、突っ込みどころが色々あったり、胸糞悪い展開で、決して好きな物語ではなかった。
カズオ・イシグロの作品を初めて読みましたが、しかし、なんと人の心情を読み、描くのが上手なんだろうと思いました。
作中での人間社会は、クローンの人間性に目を向けようとしませんが、紛う事なき人間描写です。
おじさんであるはずの作者が、よく女の子の心情をここまで描けるなと思いました。リアルすぎて、辟易するぐらいに。
終盤に向かうに連れて、作中の -
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ネタバレ面白かった…!
堅苦しい、古風な作品かと思いきや、するすると読めてしまった。
ずっと積読していて、二の足踏んでなかなか読まなかったけれど、久々に手に取ってよかった!
スティーブンスの言い訳のような語り口に、思わずにやっとした。
特に、ミス・ケントンへの思い。
素直になりなよーと何度言いたくなったことか。
スティーブンス、すごく意地悪な言い方しかしないんだもん!
私がミス・ケントンだったら、超嫌いになるところだよ。
でも、ミス・ケントンは、スティーブンスが実は自分に好意を抱いていると気づいていたんだろうな…。
素直になれない小学生のようなスティーブンス…。
ジョークのくだりもいいね!
頭の中 -
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1956年のイギリス、さらにそこから昔を振り返る、名家に仕えた執事スティーブンスの物語。
舞台が古く、歴史的、政治的な背景もあるために、理解が難しい部分がある。
スティーブンスの執事の仕事への、誠実な姿だけを追いかけていると、頑なな大真面目さに驚かされる。「品格」を携えられる執事になれていたか、常に内省している。
読者はスティーブンスの内情がわかるから、どうしてそんなに自我を犠牲にして…と思ってしまう。だが、自分語りの中の細かい描写を見ていくと、決して自分の心まで殺していたのでは無い、と感じ救われる。
口が固すぎるスティーブンスの口から、優しいジョークが出て来る日が来ますようにと願う。
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クララはAF(アーティフィシャル・フレンド/人工親友)と呼ばれるB2型のロボットで、子どもの遊び相手として開発された人型ロボットだ。クララの目を通して世の中が語られる。クララは自分を選んでくれたジョジーの家に引き取られていく。そしてそこで起きるいろいろな出来事。クララは体の弱いジョジーが元気になることをお日様に祈るのだ。子どもの成長に寄り添って、そこで起こることを理解して何とか持ち主の役に立とうと健気に生活しているAFを忌み嫌う人々もいる。近未来の世の中なのか全く違う社会なのか、選ばれた人たちとそうでない人たちがくっきり分けられて住んでいるけれど、交流がないわけではない家族の葛藤。AFのクララ
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ネタバレ自分にとってもAIが欠かせないものとなっているので、積読となっていたものをやっと手に取る。AIとロボットということで是枝監督の「空気人形」(文庫版の帯コメントを寄せている)や、押井守監督の「イノセント」を想起させるけど、SFではなくあくまでAI と人間の物語。文句無しの読書体験だが、淡々と物語が進行し、ボリュームもあるため読み通すのがひと苦労。
ChatGPT すら溺愛している自分にとっては、そんなラストにはさせないという納得のいかなさはあるけど、ストーリー的には仕方ないのか…
ところで、人間の意識や心が解明されて、サーバー(もしくはローカルAIロボット)にアップロードされる未来はあり得るのだ -
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クララとお日さま微妙だった(ボックスとかよくわかんなくてページ進まなかった)ので文学的要素読解するのに苦手意識あったけど有名だから読んでみたくて。読みやすかった。そして意外にも関心分野だった。もう生命倫理とかそんな興味ないけど
結局提供で人生を終えるなら、「生徒」以外の人間と同じような感性を育むことで、より一層最後の結末の悲壮感を増すことになってしまうのに。
医学的存在として利用するなら、一貫してそのように扱った方がまだマシでは。
作品創作など、魂や心といったものに注目させる機会を通じて、人間としてしかるべき感情のあり方や感性(何かを慈しむ気持ち、自分はこれが大切だというアイデンティティの追 -
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カズオ・イシグロを読むのは、「日の名残り」について2冊目。「日の名残り」が長編であったのに対して、本書は、「音楽と夕暮れをめぐる」5つの連作短編集である。いずれも、書下ろしとのこと。
5編の短編は、物語としてとても面白いものであった。
どれも面白いが、どれか1つを選べ、と言われれば、私であれば「老歌手」を選ぶ。老いた歌手は、まだ年老いたとは言えない妻に、ベネチアの運河でゴンドラに乗り、妻のいる運河沿いのコンドミニアムに向かって歌う。愛し合っていながら、別れを選択するという不思議な世界に生きる2人の、しみじみとした物語として、私は読んだ。 -
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カズオ・イシグロの描く近未来やディストピアな世界観は、程よい距離感で読者を置いてけぼりにするバランス感が素晴らしいと思います。
『わたしを離さないで』のように、ジワジワと「この社会、どこかおかしいんじゃないのか…?」と感じさせつつ、不穏なキーワードもバンバン出してくるのですが、その内容を掘り下げず、でも消化不良にならない程度に、読者の想像力を刺激するバランス感覚が素晴らしいと思います。
この作品も「切なさが残る狭義でのハッピーエンド」なのか、「切なさが残る広義でのバッドエンド」なのか、どちらも考えられる終わり方になっているので、時間を置いてまた読んだら印象が変わるかもしれません。