土屋政雄のレビュー一覧

  • 日の名残り

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    ネタバレ

    主人公がまるで実在した人間のようにリアルに描かれていた。
    イギリスの屋敷の様子も、執事の仕事の様子も、旅の過程も、想像しやすく描かれている。
    終盤は特に良かった。
    今までのこと、元雇い主や元女中頭への想い、自分の人生を悲嘆するように主人公は涙する。だが見知らぬ男性の「夕方が一日で一番良い時間なんだ」という言葉に触れ、また新しい雇い主の元でやっていこうと前を向く。男性の言葉は私の胸にも響いた。
    この終わり方が大きな救いであり、読後感がとても良かった。

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    2026年10月25日
  • クララとお日さま

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    2026/10/8-2026/10/21

    【⭐️4.4】
    数年ぶりのカズオイシグロ文学。
    カズオイシグロ文学、やっぱり難しい、、、
    翻訳小説だからこそなのか、カズオイシグロだからなのか分からないが、翻訳小説特有の会話文の難しさや感情の起伏の激しさを感じた。

    AIやロボットを主人公にしていた物語は今までにもあったが、語り手として設定されていたり、関係性を築いていく対象がほとんど人間な点が新鮮に感じられた。
    作中ではAIが完璧なものとして描かれ、一方人間は変わりゆくし、言動の不一致があったりと、AIにはない起伏がある。
    クララはデータを収集し、予測し学習する能力には長けています。
    ただやはりAIらしく、未体験の物事やキャパシティを超えた場面、処理しきれない場面に遭遇すると、ブロック状に分けて認識するようになったり、嗅覚や触覚がなく、街中でも看板や標識をよく描写するところに、人間にはない無機質な印象を感じます。
    しかしクララにも感情はあります。
    物語全体を通して、人に寄り添い、自分に与えられた運命をただ静かに受け入れる。
    そう言ったクララの優しさにとても心が温かくもなり、辿る運命によってはとても悲しくもなります。

    人間一人ひとりには特別な何かはあるのか。
    人間を人間たらしめているものは何なのか。
    それぞれの他者と共にする時間や、築いてきた関係性、会話の全てがレイヤーとなり、重なり合った部分にその人の特別な何かや、人間たらしめているものが見えてくるのかなと思った。

    読後は何とも言えない気持ちになった。
    ただやっぱり温かさは残っていました。

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    2026年10月26日
  • クララとお日さま

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    ネタバレ

    AIロボット「クララ」の一生を描く本作。

    個人的には、「大人のための(ちょっとブラックな)児童文学」と形容したくなる作品だなと感じた。

    もう手の施しようのない病気や怪我に見舞われた時、人は奇跡を願ってしまうけど
    人間、特に大人は 頭の片隅で「そんな都合のいいことは起こらない」と感じてしまっている部分があると思う。

    クララが、自らが目撃した奇跡を起こしたお日様のことを信じ抜いて、そのために自分の一部を差し出して

    クララが奔走する姿をみても 私自身は「奇跡起こるのかな…?」と半信半疑だった

    「奇跡」は滅多に起こらないから奇跡なんだけど
    その奇跡を起こせるのは、それが最後まで起こると信じた者だけなんだよなあと思ったり
    そのひたむきさがすごいなと思ったり

    一歩ひいた目でみていた自分自身がかなしくなったり笑

    AFであるクララは
    本作の誰よりも 一生懸命で
    生命力がみなぎるような存在だったなと

    だからこそ

    最後の章の物寂しさが映えてしまう。

    家族の一員でも、命の恩人でも
    物としてうち捨てられることが「当たり前」で
    クララ自身もそれが自分の最後だとわかっていて

    「モノ」に対してこれだけ残酷になれるのは
    残酷だということにも気づかないのが人間なのだと

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    2026年10月21日
  • 千の輝く太陽

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    読んでから、トラウマみたいにこの本のことがフラッシュバックして、何度も何度も考えてしまう。読むまでは、多様な価値観を認めることって大事、文化っていろいろあって当然だし、みんな話し合えば分かり合える、などと楽観的に思っていたけど、この本を読んで自分には絶対にわかりたくもない価値観や文化があると知ってしまった。浅はかな考え方をしていたことを反省して、物事はもっと複雑だと感じた。本邦含め、やはり女性がモノや家畜として扱われるような価値観を持った人間(とも思いたくない、獣)がたくさんいて、それを受け入れることは自分には難しく、生理的嫌悪があることがわかった。それは、なんというか、劣っていると思うものを排斥したいという気持ちのようなものだと感じる。
    タリークや、タリークやライラの父親のように分別のつく人間も一部いると思うけど、それは理性が優れていて、思慮深く忍耐があるからで、宗教がその傲慢さをよいことと認め肯定し、国や権力者が支持するなら、大多数の人間は流され、浅はかさからどこまでもその支配欲や暴力性を解放するんだろうと思う。最後、カブールに家族たちが戻ったけど、タリバンが最近また政権を取り、学生を含む女性たちを抑圧して、学校は退学させネイルサロンやヘアサロンも封鎖したとニュースになっていたのを思い出した。そのニュースを見たときは、全く自分と異なる文化圏で起きた他人事だと思っていた。でも、この本を読んでしまって、抑圧される人々の苦しみや悲しさを知ってしまって、どうしても他人事だと思えなくなってしまった。マリアムやライラの痛みをわたしは知っていると感じてしまう。それはイタリアで女性嫌悪から殺される女性たちの痛みで、フランスで薬を飲まされてたくさん強姦された女性の痛みで、日本で毎日のように起きる性犯罪や性差別の被害に遭う女性たちの痛みだと思った。カブールに戻った一家はフィクションの中の話のはずなのに、きっと現実にも同じような家族がいるんだとリアルに感じる。タリークが必死に守っても、抑圧や支配から完全に逃れることはできない家族のことを考えてしまう。どうしてヒトの脳みその容量が大きくなってテクノロジーが進化してもこんな酷いことが起こり続けるのか理解できない。酷いことが起こらず、世の中の女性たちが抑圧から解放され、平和に暮らせますように。

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    2026年10月11日
  • 月と六ペンス

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    【書名と著者】
    月と六ペンス
    サマセット・モーム

    【目的】
    読書会の課題図書になっていたので、とりあえず読んでみることにした。
    著者も作品名も知ってはいたが中身は一切知らなかったことに気づき、興味が湧いた。

    【読後感】
    他人が語る一芸術家の一代記。
    ストリックランドは台風の如く過ぎ去り、懐かしがられている。
    芸術の完成を達成して燃やしたなんて話になっているが、自分が絵を描くことにしか関心を持たない社会の寄生虫みたいな人物と感じた。
    ゴーギャンがモデルとされているそうだが、著者はネタにした彼の生き様と作品をどう評価しているのだろうか?


    【印象に残ったポイント】
    ・奥さんを捨てて逃げたら女がいる
    データはないのだろうけれど、このように考えるのが当時の社会か

    ・絵を描くことと、その他はトレードオフか?

    ・絵の完成は誰のおかげか?
    好きに絵を描かせてくれる、自身の世話をしてくれる人のおかげで生き延びている社会の寄生虫のような人物。
    まぁ、本人がよければいい。

    ・裕福な三流画家と赤貧の天才画家
    三流画家は売れる絵を追求し、天才画家は絵を描くことを追求し、全く異なる暮らしむき。
    この時点では明らかに評価されているのは前者。美術の評価とはなんぞやと思う。

    ・そもそも美術とは、その評価はどう妥当なのか?
    評価されてても好きではない絵画、欲しくはない。評価される絵画も突き詰めると節税の手段や地位財みたいなものと思いつつある。

    ・ゴーギャンについて気になってウィキを見た
    作品には立派な評価と値札がつくが、絵を描く以外の点では、かなり気持ち悪い人物と感じた。

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    2026年10月10日
  • 日の名残り

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    偉大な執事とは何か、品格とは何か。
    最初は、自分の感情よりも仕事を優先する執事としての価値観にあまり共感できず、なかなか物語に入り込めなかった。でも徐々に、それがスティーブンスの美学であり、彼がその美学を真っ当していることを理解して、その考えを受け入れることができた。
    偉大な執事であることと、幸せな人生は同じことではないのかもしれない。
    父親の危篤も、ダーリントン卿の政治も、ミス・ケントンとの関係も、人生を振り返る中で後悔は沢山あったと思う。それでも、過去を悔やみ続けるのではなく、価値あるもののために尽くしてきた自分の人生を受け入れ、残された時間を前向きに生きようとする。今後、もし自分の人生が思い通りにならなかったとしても、その過程には誇りを持てるような生き方をしたいと思った。

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    2026年10月07日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    淡々とした調子で主人公の口から過去のエピソードが語られるなかで、前半は主人公たちが置かれている立場や運命が少しずつ明らかにされていく。
    寝る前に読んでいたら、その静かな不気味さに背中がゾクゾクしてきて、いい歳して寝つくのが怖くなった日もあった。
    ヘールシャムを出てからは、特殊な環境に置かれた主人公たちが、狭い人間関係の中で葛藤する様子に焦点が当てられていて、後半は不気味さは薄れ、切なさや歯痒さを感じることが多かった。
    個人的にはトミーが人として好き。1番人間らしさを感じた。
    ルーシー先生の葛藤にも胸にくるものがあった。ルーシー先生が学校を去る前に、トミーを助けようとして以前伝えた言葉を訂正したのはどうしてなのか、そこのルーシー先生の真意が読み取れなかった。

    原著を読んでいないけど、とても読みやすくて、本当に女性が語っているような口調で、架空の話なのにとてもリアル。翻訳もすごかったのだと思う。

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    2026年10月03日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    読み終わって最初に出てきた感想は、「面白かった」とか「感動した」とかよりも、「なんだこれ、めちゃくちゃうまいな」

    この小説、とにかく時間軸が行ったり来たりする。

    キャシーが今のことを話していたと思ったら、突然ヘールシャム時代の話になって、そこからまた別の記憶に飛んでいく。

    でも、不思議と読みにくいわけではない。

    むしろ、その行ったり来たりに付き合っているうちに、こっちの頭の中に少しずつ物語ができあがっていく感じがする。

    特に印象に残ったのが、「そのときはよく理解できなかったけど、なぜか頭には残っていた」みたいなことが何度も出てくるところ。

    登場人物たちは、何も知らされていなかったわけじゃない。

    ある程度は教えられている。

    ただ、まだ本当の意味を理解できない時期に教えられている。

    だから、大人になってから「あのとき言われていたのは、こういうことだったのか」と意味がつながっていく。

    これが読んでいる側にも起こる。

    何気なく書かれていた一言や出来事が、何十ページか後になって急に意味を持ち始める。

    時間軸だけじゃなくて、「理解する順番」までめちゃくちゃにされる。

    それがものすごくうまい。

    登場人物もみんな好きだった。

    特にトミーにはかなり愛着が湧いた。

    子どものころは癇癪を起こしたり、周囲とうまく合わせられなかったりするけれど、その不器用さも含めて一番まっすぐな人に見える。

    嬉しいと嬉しいし、傷つけば傷つく。

    うまく取り繕えない。

    だから読んでいるうちに、自然とトミーのことが気になるようになった。

    一方でルースは、たぶん誰の中にもある嫌な部分を、少し大きくして描いたような人物だと思う。

    自分を大きく見せたり、知らないことを知っているように振る舞ったり、人間関係の中で優位に立とうとしたりする。

    正直、読んでいて嫌だなと思うところもある。

    でも、完全には嫌いになれない。

    「自分には価値があると思いたい」とか、「仲間外れになりたくない」とか、「自分が愛されていることを確認したい」とか。

    そういうものって、程度の差はあっても多分みんな持っている。

    だからルースを見ていると、人の嫌な部分を見せられているというより、自分の中にもあるものを少し拡大して見せられている感じがした。

    そしてキャシー。

    一番冷静で、一番まともに見えるけれど、この人もやっぱりどこか欠けている。

    感情がないわけではない。

    むしろかなり細かく人を見ている。

    でも、大事なことに対して驚くほど強く抵抗しない。

    傷ついても少し距離を取る。

    好きな人がいても強く奪いにいかない。

    自分の運命についても、基本的には決められた枠の中で受け入れていく。

    ただ、それを弱さと言ってしまうのも違う気がする。

    もしかするとキャシーは、何かを失うことに耐えるために、物事を少し離れたところから見る癖がついているのかもしれない。

    だから、この小説は悲しい出来事がたくさん起きているのに、キャシー自身は「私はこんなに悲しかった」とはあまり言わない。

    代わりに、「あのときルースがこう言った」とか、「そういえばこんなことがあった」と淡々と思い出していく。

    その淡々とした語りの中に、ものすごく大きな感情が埋まっている。

    たぶんこの小説は、登場人物だけじゃなくて、小説そのものも「何かが欠けている」ように作られているんだと思う。

    世界について細かく説明しない。

    登場人物の感情も全部は説明しない。

    何が正しくて何が間違っているのかも作者は言わない。

    時間もバラバラ。

    重要なことも少しずつしか教えてくれない。

    だから読者が、その足りない部分を自分で埋めながら読んでいくことになる。

    そして気づいたころには、キャシーやトミーやルースの人生が、自分の記憶みたいに頭の中に残っている。

    読み終わって、「感動した」という言葉だけでは何か違うと思った。

    もちろん悲しいし、考えさせられる。

    でも、それ以上に、

    「こういうふうに小説って書けるのか」

    という驚きが残った。

    理解できないことを、理解できるようになる少し前に置いておく。

    意味の分からない記憶を先に渡しておいて、あとからその意味を変える。

    読者の頭の中まで使って物語を完成させていく。

    読み終わった今、一番しっくりくる感想はやっぱり
    「なんだこれ。うますぎる。」

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    2026年09月30日
  • 月と六ペンス

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    面白い作品でした。
    高値で取引されるほどの作品を描いた天才芸術家はどんな人生を歩んできたのか。題名の意味も合わせて最後まで楽しめた作品です。古い作品とは思えないほどとても読みやすかったです。

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    2026年09月28日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    たまたま目に触れた一冊を読んでみた。
    何とも言えない感情に包まれ、心を大きく揺さぶられた。

    「日の名残り」以来のカズオ・イシグロ。
    冗長なフィクションとも感じる退屈な前半部から一変し、中盤以降は突如、驚きと戦慄の連続だった。
    びっくりするほど重要な情報が、あっさりと告げられる。
    隔絶された施設で平穏な学生生活を送っていた子どもたちは、実は臓器提供をするためだけに生きていたのだ。

    子どもたちは毎月の健康診断を欠かさず、外部の大人たちによる「教育」を受け、平凡な生活を送っている。
    ささいなことに悩み、喧嘩し、恋をして、未来に希望を持ちながら生きている。
    やがて、その時が来ることなどつゆ知らず。

    施設を卒業した子どもたちは、臓器「提供者」になる。
    そして「提供者」の世話をする「介護者」もまた子どもたちから選ばれる。
    「介護者」もいずれ「提供者」になり、役割が終われば、この世に別れを告げる。
    何という運命であろうか。

    「提供者」の臓器は医学の進歩のために使われ、新たな薬や治療法が開発される。
    これまで治らなかった病気が治るようになり、人類は今までより長く生きられるようになる。
    外の人間は誰も臓器提供者の存在を知らず、あるいは、知らないふりをして普通に生きている。
    まるで科学と医学の進歩のためには仕方がない、人類が背負うべき合理的な犠牲とでも言うかのように。

    これは、フィクションであってほしい。
    でも、もしかしたら、世界のどこかでこんなことが起きているのかもしれない。
    私たちは都合の悪いことにフタをして、見ないようにしているだけなのかもしれない。

    人類の業の深さを思い知る。

    0
    2026年09月26日
  • クララとお日さま

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    非現実?近未来?のような場所で起きる数々の不思議な出来事

    きっとこの後、想像出来ないような恐ろしいことが起こるのでは!?
    と思う伏線が沢山あるのですが、どれも私が想像した恐ろしいことよりも、
    もっと人間味があって、現実的な困難や苦難ばかりでした

    だからこそ作品の節々で、すごく考えさせられたり、人ってこういう時こんな気持ちになるよなと、
    内容は非現実でも登場人物の気持ちや考え方にはすごく思いを想像できる作品でした

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    2026年09月24日
  • クララとお日さま

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    物語のたどり着いた先にある、何か収まりの良さ、居心地の良さ。そんな物事を、いつも読者は期待しているのかもしれない。ぼくも、そのひとりには違いない。ジメジメした感情なんて寄せ付けない“割り切りかた”が示された結末。

    “AF”が何者かなんて、もうどうでもよくて、少なからず読者であるぼくが寄せていた感情の、その相手はジョジーでありリックであり、クリシーでありポールでもあり、店長さんや、メラニアやヘレンや、ヘンリーですら、あったのではないか。

    つまり、ぼくは読者であり、同時にクララそのものだったのかもしれない。クララには感情があったけれど、それは抑圧されていて、客観的で俯瞰されていて、だからこそ、その“感情”のあり方が胸に迫った。

    あくまでも“道具”に過ぎないからこそ、皆がそれを理解していたからこそ、AFへ抱く思いは、この上なく潔かった。清々しく思えた。高度な機能、性能を誇る“道具”の、道具としての“寿命”は、じつは儚い。“寿命”を迎えた“道具”は“引退”せざるを得ないものだ。

    けれど、ぼくには到底、そんな割り切り方ができそうもない。いつまでそばに居てほしい、そんな思いからは、解放されそうもない。

    人の、人としてのあり方は、決して割り切ることができないし、でも、相互理解や親密さを“道具”に見出す、そんな“感傷”を“道具”に対して抱くことは、ぼくの“甘さ”に他ならず、もしかしたら大きな過ちかもしれない。

    ときに美しく、ときに危うい、その“甘さ”。
    廃品置き場の場面は、その両義性を、静かに、鋭く突きつけてくる。

    0
    2026年09月21日
  • 日の名残り

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    イギリスの名門の家に仕えていた執事による人生の黄昏時の回顧録

    執事のスティーブンスは、執事だった父や同業者と「偉大な執事とは何か?」「執事の品格とは?」について語った事がある
    そんな、執事としての矜持を常に背負った人生の晩年
    これまでの主人であるダーリントン卿が亡くなり、身内が誰も屋敷を相続しなかったため、屋敷を購入したアメリカ人の新しい主人のファラディ氏に仕えている
    使用人達もそのまま残れる事になっていたが、次々と辞めていき、現在は屋敷の管理が満足には立ち行かないほどの少数でなんとか回している
    そんな中、かつて女中頭を務めていたミス・ケントン(現在は既に結婚してベン夫人)から手紙が届く
    夫婦生活が上手くいっていないかのような内容
    スティーブンスはファラディ氏から与えられた休暇とフォードに乗ってケントンに会いに旅に出る
    彼女に戻ってきて貰えればなんとかなるのではという期待を込めて
    そんな道中の1956年の現在と、1920年代から1930年代にかけての回想シーンを往復しつつ物語が進んでいく


    読み終わって思った感想を一言で表すなら「英国紳士めんどくせぇ」
    ネットスラングで言うと「ブリカス」と評されるように、自己欺瞞と、のらりくらりと弁舌で目前の問題を如何に対処するかという日和見的な態度が鼻につく

    道中の車のトラブルも自分の知識不足の言い訳や責任転嫁が伺える

    信用できない語り手のミステリのように感じる人もいるようだけど
    ダーリントン卿は序盤で既に親ドイツな態度をとっているし
    中盤以降でもユダヤ人に対する偏見で解雇している
    スティーブンスはそれを擁護しようとしているけど、本人も納得しての事ではない本音がちゃんと読者にはわかるように書かれてある
    自分は理解できないが、ご主人様の判断は間違っていないだろう
    自分はそんな事を判断したり意見する立場ではなく、自らの職責を全うする事が役目であると言い聞かせている

    ミス・ケントンを呼び戻したい理由も、屋敷の人手不足だけではないのもあからさま
    淡いロマンスが回想のそこかしこに見られるけど、本人は意図してか無自覚なのか、昔も今も決して二人にはそんな関係性や想いはなかったと言い聞かせている
    でも、滲み出る想いも、それは幻想や思い込みなんだよなー


    かつてスティーブンスは、主人の言われるがままに行動することこそ美徳だと考え、それができる自分に満足していた
    しかし、現在の主人ファラディ氏には十分に仕えられているとは思っていない
    そして自分も老齢になり、昔のようには様々なことが十分にできなくなっている
    そんな中で、旅路の終わりに偶然の邂逅で言われた事
    ------------------
    人生、楽しまなくっちゃ。夕日が一日でいちばんいい時間なんだ。
    脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。
    わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。
    夕方がいちばんいい時間だって言うよ。
    ------------------

    衰えを認識しつつ、これまでの自分の延長線上として前向きになっているのがいいな
    「新しい主人を満足させるジョークを言うにはどうすればよいのか」と考えるのも、堅物で真面目な執事なのだろうと思う


    解説で「ジーヴス」について言及されている
    あのシリーズは文庫化されている2册を読んだだけだけど
    あんな執事というか従者がいたら安心できるだろうなぁと思う
    まぁ、主人であるバーティに金銭的な損をさせる事もあるけど、でも様々ななトラブルは解決してくれる
    まるで優秀なドラえもんのような存在だものね

    執事として偉大かどうかや品格があるかは別として
    自分に仕えてくれるなら、スティーブンスよりジーヴスの方がいいなと思う

    -------------------
    品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、共に働いた女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々――過ぎ去りし遠い思い出は、今なお輝きを増して胸のなかで生き続ける。
    1989年英国最高峰の文学賞・ブッカー賞受賞。映画化でも話題に。
    -------------------

    0
    2026年09月17日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    鉄筋コンクリートに囲まれた部屋の中に、蝋燭が一本だけ立っているような小説だった。
    冷たくて、無機質で、閉鎖的で。でも確かにそこには生活があって、あたたかな光がある。
    けれどその光は、そう長くは持たない。

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    2026年09月15日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    面白いよりすごいなって作品

    印象に残ってるのは、最後にエミリ先生とキャシーが話すシーン。人間はどんなに正義を掲げても理念があっても、良いことをしているつもりでも1つの立場をとって発言したり行動すると、一気にエゴになるんじゃないかと思わされました。あの人たちは確かに善人で、ヘールシャムの生徒に一種の幸せを与えたと実感している。でも、求めてるのはそれじゃない。人の勝手な善意に振り回されるキャシー達を見て、絶望と虚無感と、終わりを迎えることに変わらない彼女達にとってあの人達の善意は何の意味もないと思わされるのがすごい作品だなと。

    それでも思い出のヘールシャムと仲間は確かに存在はしているのに。

    0
    2026年09月04日
  • 日の名残り

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    第一次大戦後、ドイツが重い賠償責任を負っていた時代に、そういう責任の負わせ方は紳士的ではないと考えていたダーリントン卿と、彼に忠誠を尽くすスティーブンスが執事という役割に徹する姿は、いかにも英国的で読みごたえがある。
    品位とは何かを突き詰め、「公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないこと」という比喩で表現している。それが父親や女性に対する感情を押し殺した対応につながり、人生の岐路でもしかしたら過った選択をしたかもしれないという、スティーブンスの後悔につながっていて、この物語の大きな軸を作っているように見える。
    大まかに受けた印象では、そこに至った思考回路はどうであれ、卿はやはり第一次大戦後から、第二次大戦前、戦中とナチ寄りだったわけで、その卿に忠誠を誓い仕え続けたスティーブンスは、執事としての忠誠心と仕事を誇ることはできても、主人がその時代に持った考え方を結局は肯定することができないというねじれた状態に置かれてしまったわけだ。
    日の光が残る桟橋で、点灯される電球の風景を眺めながら「夕方こそ1日で一番いい時間だ」という言葉をかみしめるスティーブンス。人生が思い通りにいかなかったからといって、後ろばかり向き、自分を責めてみても詮無いこと、という思いは、どんな人にもあてはまりそうだ。

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    2026年08月31日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    とても辛い内容でした。
    ふんわりとわかるようでわからず色々想像しながら読み、最後の最後で全てが繋がる構成が、主人公達と同じ体験をしているような演出でしょうか。
    読むたびに感想が変わり、新たな発見もありそうです。もう一度読みたくなりますが、心が持たないのでいつか機会があれば。
    日の名残りがとても面白かったので、著者の他の作品も読もうと思います。

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    2026年08月29日
  • 日の名残り

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    以前読んだ『文学効能事典』に本作が載っており、気になったので今回読みました。

    正直、読み切れるか不安がありました。
    というのも、以前イシグロさんの別の作品を読んだ時に読みきれず途中で断念してしまったからです。

    しかし、本作は楽しく、そして心地よく読むことができました。うれしいです。

    その理由を考えてみると、
    小説では珍しく文章が丁寧語で読んでいて心地よさがあること、また執事という仕事を通して「品格」「偉大さ」「紳士」とは何かについて一緒に考えるのが楽しかったからだと思います。翻訳が良かったというのもあるのかもしれません。
    品格について、スティーブンスの父(父も執事)の
    怨みを抱いている指揮官に対しても平然と関わる姿が、非常に印象に残りました。これが「本当の品格」というものかと納得しました。

    執事という仕事を忠実に、品格を持って全うするスティーブンスが素晴らしいなと思いました。
    冒頭で、主人のファラディ様(アメリカの人)のアメリカンジョークになんとか応えようとするスティーブンスがとても微笑ましかったです。
    ラジオを聴いて勉強するところはかわいいと思いました。
    雇人がジョークで主人を楽しませるのも仕事のうち、と捉えているのが、懸命な姿勢でいいなと思いました。

    お偉いさんがたの会談の内容はあまりよくわかりませんでした。イギリスの1930年前後の社会情勢が詳しくわかれば、より楽しめるだろうなと思いました。

    最後に……スティーブンスへ。

    終盤、カーライル医師に品格とは何かと問われた際、「公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないこと」と言えたあなた。
    すごく成長していると思いましたよ!

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    2026年08月24日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    臓器提供のためのクローンたちの物語という、色々な展開をさせられそうな突飛な設定でありながら、終始抑制のきいた文章で「人生の中で選ばなかった(選べなかった)選択肢」を見つめる主人公の胸の内を描いているのが唯一無二だと感じた。

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    2026年08月23日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    日記帳を覗き見している感覚になる小説でした。友人との出会いと別れ、保護官の葛藤が終始辛かったです。立場が変わると今まで仲が良かった友達と距離ができてしまうのは現代でも当てはまってしまうのかな?と切ない気持ちになりました。

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    2026年08月22日