土屋政雄のレビュー一覧

  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    物語を通して漂う不穏な空気、終盤にかけて「臓器提供」、「クローン」、「手術台」といった直接的な言葉で分からせられる地獄の中で「わたしを離さないで」というフレーズが刺さって、頭の中をぐるぐる巡っていた。
    クローンが作り出した絵画や詩に映る魂、友情、愛の在り方、それを人間達はどう見るのか等、単なる悲しみや切なさだけでなく、ヘールシャムの風景をはじめとした光のようなものも見えて、余韻が美しかった。

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    2025年10月06日
  • クララとお日さま

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    子供の良きAF(人工親友)になるべく開発された人型AIクララを語り手に、病弱な少女ジョジーとの出会いから別れまでが描かれる。

    クララは観察眼に優れ勉強熱心で優秀なAFだけど、人の心の機微には疎く淡々とした言動の描写からやはり人間とは違う存在なのだと改めて感じさせられる。観察と学習を繰り返した末に、人の心や感情は模倣できるのか。
    終盤、人間に作られた存在であるクララが文字通り自身を犠牲にして主人であるジョジーを救おうとする健気さに心打たれた。

    AIは人間の道具なのか、パートナーなのか。心とは、優しさとは。
    近い将来、こんな未来がくることもあり得るのだろうかと考えさせられる結末だった。
    機械が

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    2025年10月01日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    あまりに良かった。最後の終わり方が美しすぎて余韻に浸っており、感想も書けなかったし、別の方を読む気にもならなかった。

    「記憶」を一つのテーマにしているとのことだが、知らずに読み進めた場合、そのような印象を受けなかった。のちに見てしっくりきた。

    友達に勧めて貸している。感想を聞くのが楽しみである。

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    2025年09月28日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    全てを書き切らないこと、教えないことがヘールシャムの保護官の方針だったそうだが、この本にもその要素があった。そのためだろうか。終始どことなく漂う不安と不気味さが、この本を先に先にと掻き立てた。
    ただ、それ以上に人物描写が圧巻。傑作に大袈裟な「転」と「結」は必ずしも必要ではない。

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    2025年09月28日
  • 日の名残り

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    英国貴族のダーリントン卿と、その名家に仕える執事のスティーブンス、ミスケントンの3人を中心とした物語です。スティーブンスの回想録になっていて全て口語調で書かれています。そのため読みやすく、当時のダーリントン家で行われている会合や執事として働いている情景が鮮明に浮かんでくるため、没入感が素晴らしかったです。とにかく真面目で堅物なスティーブンスの人柄も良い味が出ています。

    この物語の最大の魅力としては、3人ともが自らの「人生」と深く向き合っていることです。それぞれが自らの信念のもと進む道を決断・選択しているのですが、上手くいかずに後悔、そして苦悩・・・といったシーンが描かれています。そのため、「

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    2025年09月23日
  • 日の名残り

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    素晴らしい作品だった。雇主が戦前戦後の欧米各国の思惑に翻弄され失意の中で去る話、女中頭の過去と現在の話。最終的には、執事も前を向いてジョークにまず向き合おうとこの旅を経て思えた事、何もかもが素敵なストーリー。
    カズオ・イシグロの本の中で、マイベストです。

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    2025年09月19日
  • 日の名残り

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    ネタバレ

    ある屋敷に長年執事として勤めた人物の回想と現在、これからの話。

    屋敷の主が亡くなり、スティーブンスは新しい主人の執事となったが、ノリがうまく合わずジョークすらうまくできないと思い悩んでいる。その主人の勧めで小旅行をすることなり、屋敷が全盛を誇った頃に同じ屋敷で働いていた元女中頭のミス・ケントンに会いに行くことになる。

    昔の回想と今を行き来しながら、スティーブンスが色々なものを犠牲にして、重きを置いてきた品格とは何だったのかを問う内容になっている。

    相手への配慮というか直接的な表現を避ける独特な言い回しで、訳文なのにとてもイギリスっぽさを感じる。
    人によって好き嫌いはあるかもしれないが、個

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    2025年09月08日
  • クララとお日さま

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    AIロボットと人間の関係や、家族の在り方、知識の意味、人とAIの違いとは何かなど考えさせられることが多い本であった。
    AIは本当に人間になりうるものなのか、違いは何なのか、脅威となりうるものなのか。
    最近では、技術の進歩によって、自然に発生したものを改善する方法が多くでてきている。
    そのような技術に向き合い、どのように扱っていくのか、これから人間に課された大きな課題であると感じた。

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    2025年09月02日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

    「わたしを離さないで」について

    ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが端正な筆致で綴る、ある女性の人生の物語。

    提供者を慰める介護人の職に長くついていた女性。彼女が職を辞めるにあたり、自分のこれまでの人生、特に生まれ育ったヘールシャムで仲間と過ごした日々を回顧する。

    提供者、介護人など説明なく出てくる言葉の意味が、女性の回想から次第に明らかになってくるにつれ、世界の残酷な姿が浮かび上がってくる。
    この世界の真実は、SF小説のファンならばすぐに見当がついてしまうだろう。

    読みどころは、むしろ小説としての巧さ、人間描写の厚みの部分だ。大きな状況に翻弄される主人公たちが、小さな人間関係にすがる姿がなんとも哀しく映るのだ。

    #切ない

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    2025年08月29日
  • 日の名残り

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    5年ぶりくらいに再再読。
    冒頭はスティーブンズのモノローグがすっごい「めんどくさ…」って思えてページをめくる手が止まりかけるのですが、それを乗り越えて読みすすめ、終わりまいくと、やっぱり素晴らしい作品だったと感動できました。

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    2025年08月27日
  • クララとお日さま

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    ネタバレ

    初めて読んだカズオ・イシグロ作品です。

    自分が非常に遅読なのもあり、主人公であるクララの(おそらく瞳の)「箱」で描写される風景を想像をするのに時々苦労してゆっくり読んでいました。

    少年少女の心に寄り添い支えるための人工親友=AF(Artificial Friend)であり本作の主人公でもあるクララ。
    彼女の目を通して一人の少女とその周りのことが語られていきます。

    「向上措置」やそれに関係する差別ともいえる風景などが垣間見えるディストピアのような世界観。
    クララが寄り添う少女ジョジーに忍び寄る死の影、ジョジーの母親クリシーの穏やかならぬ心、ジョジーの親友で措置を受けていないリックの将来・・

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    2025年08月26日
  • 日の名残り

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    さぁ、どうしよう?

    ブッカー賞である
    ノーベル文学賞である

    お前らみたいなもんは、どうせこの世界的名作は敷居が高いだろうから、読んだ気になるレビューを書いてやろうかと思ってはみたが、外気温が35度を超えているので、ちょっと無理かも

    語り手はイギリスの著名人に仕える「執事」のスティーブンス
    このスティーブンスが、昔の同僚に会いに行く小旅行の中で、その同僚との思い出なんかを思い出しながら「過去語り」をするというストーリー

    まずは控えめな語り口ながら、わたし仕事出来ますよ感を全身から発してきます
    はいはい、一流の「執事」なんですね、え?一流じゃなくて超一流?あーそうね、そうですね、超一流の「

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    2025年08月23日
  • 夜想曲集

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    老歌手からもうすでにいい。構成とキャラ設定、ストーリーの流れ、全部拍手喝采。行を追うのが止まらない。

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    2025年08月19日
  • 夜想曲集

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    翻訳ものは誰が翻訳したかによっても評価が分かれると思いますが、とても読みやすかったです。訳されることを前提に書いていると知った時は驚きました。
    音楽をテーマに5つの短編が収録されていますが、一つ一つ異なるテイストで楽しく、すぐに世界に引き込まれました。
    余韻のある読後感も心地よい一冊だと思います。

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    2025年08月10日
  • クララとお日さま

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    「私を離さないで」を読んで深い感動に打ちのめされた私は、「クララとお日さま」が「私を離さないで」に共通した点があることに嬉しさを感じながら読み終えた。
    AIと人間を扱う小説や映画はすでに数多くあるが、AI側の視点に立った小説は異彩を放っている。
    綿密に計算された語り口はカズオ・イシグロ・ワールド全開だ。見事に「私を離さないで」と同類の感動を与えてくれた。

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    2025年07月20日
  • イギリス人の患者

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    「教皇選挙」を観て、レイフ・ファインズ熱が再燃。
    自分的No.、最も美しく儚い姿だった「イングリッシュ・ペイシェント」を思い出した。
    原作は読んでいなかったな、ということで手に取る。

    本書の解説にもあるが、映画と小説はかなり別物であった。
    なので、映画が好みだからと言ってこちらも気にいるかは別問題。

    しかしながら、小説にはこの形式でないとできないだろう展開・発展があり、その揺らぎが文庫版の訳者曰く「読む人を選ぶ本」だそうだが、私には合っていてすぐこの世界感に没入した。
    話者がコロコロ変わる、時間が自在に行き来する、ということだったがその変化に反発せずについていけ、こちらも時間も空間も地図上

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    2025年05月09日
  • 月と六ペンス

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    これまで読んで一番面白かった小説を一つ挙げて、と言われたら、有力候補の一つとしてこの本が挙がってくると思う。それくらい面白い。魅力的な本。

    本書のクライマックスは、やはりストリックランドがタヒチに行ったのちに命をかけて最高傑作をかけ上げていくシーンなのかもしれない。ただ個人的には、前半のパリでの出来事や、あのいかれていると思われるほど、お人好しの彼の切ない感じが大好き。

    自分にはストリックランドのような圧倒的な才能も、なぜだか女性を惹きつけてしまう野生的、セク書なるな魅力もないと自覚しているので、それに圧倒されつつも惹かれてしまう彼や彼の奥さんの気持ちがなんとなくわかる気がするのだ(もちろ

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    2025年05月06日
  • クララとお日さま

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    人工知能搭載のロボットAFクララの周りの人の幸せを一心に願う健気さ、純粋さに心打たれた。
    物語の雰囲気、語り口が「わたしを離さないで」に似ていて丁寧な言葉の中に哀愁が漂う。

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    2025年03月20日
  • 月と六ペンス

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    ゴーギャンをモチーフにした小説。相変わらずモームの人間への洞察力はすごい。ストリックランドという人間を通じて、人間とはどうあるべきなのかわからなくなる。

    彼は確かに家庭を顧みずに絵画の道を選ぶものの、それが彼にとっての生きがいでもあった。そして多くの人に影響を与えた。何が良いかということは、本人しかわからないし、現世での評価が全てでもないのかもしれないと思う。

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    2025年02月13日
  • クララとお日さま

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    生成AIのまた先のAIで感情に寄り添うことができるロボットというちょっと不気味な設定。太陽の光が生きるか死ぬか大事なクララにとって黒煙はよっぽど退治しないといけないものだったのかな。初めてのカズオイシグロさんの作品だったけど視点がすごく面白くて違う本も読んでみたくなった!

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    2025年02月07日