土屋政雄のレビュー一覧

  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    読み終えた正直な感想は、「しんどい」だった。

    物語は主人公の一人であるキャシーの語りで進む。

    キャシーの主観での語りという不安定さもあるし、端々に小さい違和感があったり、「ご存知ですよね?」という感じでサラッと語られる怖い事実があり、読んでいて「これ、この中の世界はどうなってるの?」と思わされて、まるで見通しの悪い霧の中にいるようだった。

    人間関係の描き方が細かくて、人間の嫌で面倒なところがすごく表されている。

    最後に「しんどい」と思ったのは、救いが無いからだ。

    運命は決まっていて、希望が見えて抗ってみようとするけど、やっぱり運命に逆らえない。

    無力感、脱力感に襲われる読後感だった

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    2025年09月19日
  • 日の名残り

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    素晴らしい作品だった。雇主が戦前戦後の欧米各国の思惑に翻弄され失意の中で去る話、女中頭の過去と現在の話。最終的には、執事も前を向いてジョークにまず向き合おうとこの旅を経て思えた事、何もかもが素敵なストーリー。
    カズオ・イシグロの本の中で、マイベストです。

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    2025年09月19日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    この小説を読み終わった後で、何か大きなものに突き放され、しかしすがるような気持ちで思ったことは、「キャシーの人生を意味づけたものは何か」ということである。

    小説を読み終わると、このキャシーの回想は、トミーとルースの提供が完了した後に、一人おそらくどこかのセンターの病床でなされたものであることが分かる。

    そこでキャシーは過去への未練が全くない。キャシーを意味づけるものは、例え臓器が提供され肉体が完了しても、普遍に残る3人の記憶。そして、例え2人が既に失われたとしても、記憶の残る限り、それを否定する必要はないという矜持である。

    小説の最後で、キャシーは「甘え」と称して一度だけその記憶を変容さ

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    2025年09月17日
  • 日の名残り

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    ネタバレ

    ある屋敷に長年執事として勤めた人物の回想と現在、これからの話。

    屋敷の主が亡くなり、スティーブンスは新しい主人の執事となったが、ノリがうまく合わずジョークすらうまくできないと思い悩んでいる。その主人の勧めで小旅行をすることなり、屋敷が全盛を誇った頃に同じ屋敷で働いていた元女中頭のミス・ケントンに会いに行くことになる。

    昔の回想と今を行き来しながら、スティーブンスが色々なものを犠牲にして、重きを置いてきた品格とは何だったのかを問う内容になっている。

    相手への配慮というか直接的な表現を避ける独特な言い回しで、訳文なのにとてもイギリスっぽさを感じる。
    人によって好き嫌いはあるかもしれないが、個

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    2025年09月08日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    大好き
    言葉で輪郭をなぞるのでなく、光によって実態を掘り出している感じもする
    ドラマ見てないけど映画は見た、ルースはルースで魅力的なキャラクターで憎めないひとなんだけど、そこの描写が浅くて、ただ嫌な女になってたからそこは少しショックだった そう考えると一人一人のキャラクターの造形も際立っていた

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    2025年09月08日
  • クララとお日さま

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    AIロボットと人間の関係や、家族の在り方、知識の意味、人とAIの違いとは何かなど考えさせられることが多い本であった。
    AIは本当に人間になりうるものなのか、違いは何なのか、脅威となりうるものなのか。
    最近では、技術の進歩によって、自然に発生したものを改善する方法が多くでてきている。
    そのような技術に向き合い、どのように扱っていくのか、これから人間に課された大きな課題であると感じた。

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    2025年09月02日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

    「わたしを離さないで」について

    ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが端正な筆致で綴る、ある女性の人生の物語。

    提供者を慰める介護人の職に長くついていた女性。彼女が職を辞めるにあたり、自分のこれまでの人生、特に生まれ育ったヘールシャムで仲間と過ごした日々を回顧する。

    提供者、介護人など説明なく出てくる言葉の意味が、女性の回想から次第に明らかになってくるにつれ、世界の残酷な姿が浮かび上がってくる。
    この世界の真実は、SF小説のファンならばすぐに見当がついてしまうだろう。

    読みどころは、むしろ小説としての巧さ、人間描写の厚みの部分だ。大きな状況に翻弄される主人公たちが、小さな人間関係にすがる姿がなんとも哀しく映るのだ。

    #切ない

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    2025年08月29日
  • 日の名残り

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    5年ぶりくらいに再再読。
    冒頭はスティーブンズのモノローグがすっごい「めんどくさ…」って思えてページをめくる手が止まりかけるのですが、それを乗り越えて読みすすめ、終わりまいくと、やっぱり素晴らしい作品だったと感動できました。

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    2025年08月27日
  • クララとお日さま

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    ネタバレ

    初めて読んだカズオ・イシグロ作品です。

    自分が非常に遅読なのもあり、主人公であるクララの(おそらく瞳の)「箱」で描写される風景を想像をするのに時々苦労してゆっくり読んでいました。

    少年少女の心に寄り添い支えるための人工親友=AF(Artificial Friend)であり本作の主人公でもあるクララ。
    彼女の目を通して一人の少女とその周りのことが語られていきます。

    「向上措置」やそれに関係する差別ともいえる風景などが垣間見えるディストピアのような世界観。
    クララが寄り添う少女ジョジーに忍び寄る死の影、ジョジーの母親クリシーの穏やかならぬ心、ジョジーの親友で措置を受けていないリックの将来・・

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    2025年08月26日
  • 日の名残り

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    さぁ、どうしよう?

    ブッカー賞である
    ノーベル文学賞である

    お前らみたいなもんは、どうせこの世界的名作は敷居が高いだろうから、読んだ気になるレビューを書いてやろうかと思ってはみたが、外気温が35度を超えているので、ちょっと無理かも

    語り手はイギリスの著名人に仕える「執事」のスティーブンス
    このスティーブンスが、昔の同僚に会いに行く小旅行の中で、その同僚との思い出なんかを思い出しながら「過去語り」をするというストーリー

    まずは控えめな語り口ながら、わたし仕事出来ますよ感を全身から発してきます
    はいはい、一流の「執事」なんですね、え?一流じゃなくて超一流?あーそうね、そうですね、超一流の「

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    2025年08月23日
  • 日の名残り

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    まだ学生の頃に映画でみて全くピンと来なかったのですが、歳を経て小説を読んだら、読みどころが良く理解できて、素晴らしい小説でした。カズオ・イシグロさんのマイベストです。
    英国執事の視点から語られるストーリーは時と場所を超えて英国執事の価値観や深い想いを追体験させてくれます。その中で描かれる淡い恋心。人間の心の尊さを描く感動の小説です。

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    2025年08月21日
  • 夜想曲集

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    老歌手からもうすでにいい。構成とキャラ設定、ストーリーの流れ、全部拍手喝采。行を追うのが止まらない。

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    2025年08月19日
  • 夜想曲集

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    翻訳ものは誰が翻訳したかによっても評価が分かれると思いますが、とても読みやすかったです。訳されることを前提に書いていると知った時は驚きました。
    音楽をテーマに5つの短編が収録されていますが、一つ一つ異なるテイストで楽しく、すぐに世界に引き込まれました。
    余韻のある読後感も心地よい一冊だと思います。

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    2025年08月10日
  • 日の名残り

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    三宅香帆さんのYouTubeで、一番好きな作家がカズオ・イシグロと知り、読む順番のおすすめとしてはこの「日の名残り」が一番目ではないんだけど、とりあえず家に積んであったのでこれから読んでみることに。

    だって「あの文芸評論家」の三宅さんが一番好きな作家なんて言われたら、読むしかなくない?!笑

    YouTubeで三宅さんが言われていた「信頼できない語り手」って何のこと?と思っていたんだけど、これを読んで体感した。

    語り手であるイギリスの執事、スティーブンスのバイアスがかかりまくりで話が進み、「偏ってるな〜」とは思いながらも、読者はしっかり中立的に、客観視しながらストーリーを追えるから不思議。

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    2025年08月08日
  • クララとお日さま

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    「私を離さないで」を読んで深い感動に打ちのめされた私は、「クララとお日さま」が「私を離さないで」に共通した点があることに嬉しさを感じながら読み終えた。
    AIと人間を扱う小説や映画はすでに数多くあるが、AI側の視点に立った小説は異彩を放っている。
    綿密に計算された語り口はカズオ・イシグロ・ワールド全開だ。見事に「私を離さないで」と同類の感動を与えてくれた。

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    2025年07月20日
  • イギリス人の患者

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    「教皇選挙」を観て、レイフ・ファインズ熱が再燃。
    自分的No.、最も美しく儚い姿だった「イングリッシュ・ペイシェント」を思い出した。
    原作は読んでいなかったな、ということで手に取る。

    本書の解説にもあるが、映画と小説はかなり別物であった。
    なので、映画が好みだからと言ってこちらも気にいるかは別問題。

    しかしながら、小説にはこの形式でないとできないだろう展開・発展があり、その揺らぎが文庫版の訳者曰く「読む人を選ぶ本」だそうだが、私には合っていてすぐこの世界感に没入した。
    話者がコロコロ変わる、時間が自在に行き来する、ということだったがその変化に反発せずについていけ、こちらも時間も空間も地図上

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    2025年05月09日
  • 月と六ペンス

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    これまで読んで一番面白かった小説を一つ挙げて、と言われたら、有力候補の一つとしてこの本が挙がってくると思う。それくらい面白い。魅力的な本。

    本書のクライマックスは、やはりストリックランドがタヒチに行ったのちに命をかけて最高傑作をかけ上げていくシーンなのかもしれない。ただ個人的には、前半のパリでの出来事や、あのいかれていると思われるほど、お人好しの彼の切ない感じが大好き。

    自分にはストリックランドのような圧倒的な才能も、なぜだか女性を惹きつけてしまう野生的、セク書なるな魅力もないと自覚しているので、それに圧倒されつつも惹かれてしまう彼や彼の奥さんの気持ちがなんとなくわかる気がするのだ(もちろ

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    2025年05月06日
  • クララとお日さま

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    人工知能搭載のロボットAFクララの周りの人の幸せを一心に願う健気さ、純粋さに心打たれた。
    物語の雰囲気、語り口が「わたしを離さないで」に似ていて丁寧な言葉の中に哀愁が漂う。

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    2025年03月20日
  • 月と六ペンス

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    ゴーギャンをモチーフにした小説。相変わらずモームの人間への洞察力はすごい。ストリックランドという人間を通じて、人間とはどうあるべきなのかわからなくなる。

    彼は確かに家庭を顧みずに絵画の道を選ぶものの、それが彼にとっての生きがいでもあった。そして多くの人に影響を与えた。何が良いかということは、本人しかわからないし、現世での評価が全てでもないのかもしれないと思う。

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    2025年02月13日
  • クララとお日さま

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    生成AIのまた先のAIで感情に寄り添うことができるロボットというちょっと不気味な設定。太陽の光が生きるか死ぬか大事なクララにとって黒煙はよっぽど退治しないといけないものだったのかな。初めてのカズオイシグロさんの作品だったけど視点がすごく面白くて違う本も読んでみたくなった!

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    2025年02月07日