土屋政雄のレビュー一覧
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ネタバレ希望が砕け散り、真実が明らかになっても絶望せず、平穏な日々を送り続けるトミーとキャシー。
割と中盤で彼らはクローン人間で、臓器提供の為に作られたと明かされる。が、臓器提供の為に死ぬっておかしくね?ってなるはずなのにそのまま物語が進んでいくのが少し怖いまであった。
君たちはどれだけ恵まれた人間かを説くエミリが印象に残る。諦念を避けるために全てを教えないという意見は筋が通っているが冷酷で、むしろそっちの方がルーシー先生の意見よりも理論的ではと思った。
仲間の死を見届ける役割までもクローンにやらせるという自己完結性は彼らの制限された世界を象徴していると思う。(オリジナルによる良心の呵責や罪悪感 -
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カズオ・イシグロさんの『クララとお日様』を読みました。
物語は、AF(人工親友)であるクララの視点で語られます。
最初は聞き慣れない用語が多く出てきて少し戸惑いますが、丁寧な筆致を読み進めるうちに、徐々にこの世界の輪郭が見えてきます。
ハッキリとは描かれていませんが、科学技術が進歩しすぎたことで様々な分断が生まれている、そんな「ディストピア」な社会であることが想像できます。
そんな厳しい世界の中で、常に人に寄り添い、優しくあろうとするクララ。人間よりも、信仰心を持ち続ける彼女の方が、よほど人間味を感じられる点がとても印象的でした。最後にクララが見出した、「人間を人間たらしめるものは何か? -
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品格とは何かを問う素晴らしい小説。
主人公のスティーブンスは偉大なる執事として、感情を排した献身こそが品格であると信じ生きてきた。
しかし、幾つかの出来事が示す様に、その信念によって自らの人生を縛り、結果として取り返しのつかない後悔を生んでいった。
では彼は自らの心に誠実でなかったから、品格がなかったのか?そうは思えない。
もしここで彼が過去を否定し、失敗を他人のせいにし、感情を受け入れていなければ品格のない人間に成り下がっていたのかもしれない。
しかし、彼は旅の中で、自らの後悔を受け入れ、人生を投げ出さず、執事として生き続けることを選んだ。
自らが生きてきた人生に向き合い、後悔を受け -
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執事という職業自体が私にとっては、外国文学の中でしか触れることのない職業で、執事がどんなものかは作品の中で想像するしかないが、このお話の主人公は第二次世界大戦前から大戦後までをイギリスの貴族のお屋敷で働いていた1人の執事。初めは、世界大戦中の、貴族や国の重要人物のお話だったら、もっと面白そうなのに、なんで、執事のお話なんだろう?と思って読んでいた。主人のダーリントン卿が出会う国の中枢の人物たちとの話が漏れ聞こえてきて、執事は、ダーリントン卿がいかに立派な考えを持っているかということを説明していく。でも、何せ、漏れ聞こえてくる情報だけしか私たちには知らされないから、なんだか、曖昧でもやがかかって
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AIが身近なロボットとして富裕層の家庭が手に入れられる時代があるならば、まさにこういう未来があるのではないかと非常にリアリティのある内容を、AI親友ロボットの一人称視点で語られる物語。
今の世のAIが質問に何とか答えようとして情報を寄せ集め嘘をついてくることや、よく想像される人に取って代わるというような、興奮性の刺激となる流れでない。淡々と、静かに、しかし確かな川底に流れる熱さをもって、世や人間の美しさや不思議さ、愚かさ、差別、またAIのこころや信仰のような思考の波をとりあげていく。
冒頭で、ショーウィンドウにいるAIロボットのクララが “コーヒーカップのご婦人とレインコートの老人” を見、 -
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子供の良きAF(人工親友)になるべく開発された人型AIクララを語り手に、病弱な少女ジョジーとの出会いから別れまでが描かれる。
クララは観察眼に優れ勉強熱心で優秀なAFだけど、人の心の機微には疎く淡々とした言動の描写からやはり人間とは違う存在なのだと改めて感じさせられる。観察と学習を繰り返した末に、人の心や感情は模倣できるのか。
終盤、人間に作られた存在であるクララが文字通り自身を犠牲にして主人であるジョジーを救おうとする健気さに心打たれた。
AIは人間の道具なのか、パートナーなのか。心とは、優しさとは。
近い将来、こんな未来がくることもあり得るのだろうかと考えさせられる結末だった。
機械が -
「わたしを離さないで」について
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが端正な筆致で綴る、ある女性の人生の物語。
提供者を慰める介護人の職に長くついていた女性。彼女が職を辞めるにあたり、自分のこれまでの人生、特に生まれ育ったヘールシャムで仲間と過ごした日々を回顧する。
提供者、介護人など説明なく出てくる言葉の意味が、女性の回想から次第に明らかになってくるにつれ、世界の残酷な姿が浮かび上がってくる。
この世界の真実は、SF小説のファンならばすぐに見当がついてしまうだろう。
読みどころは、むしろ小説としての巧さ、人間描写の厚みの部分だ。大きな状況に翻弄される主人公たちが、小さな人間関係にすがる姿がなんとも哀しく映るのだ。