土屋政雄のレビュー一覧

  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    かつて無くしたカセットテープをノーフォークの地にて再び探し出すような煌めく午後を、「デート」と呼びます。

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    2026年09月08日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    こんな小説を読むのは初めてだ。
    意表をつく状況設定で、読むほどに薄気味悪さが募り想像をこえる世界観に脳の感応も戸惑う。

    よくある学園共同生活の描写から始まる。
    年少の頃から主人公キャシーは好意をもつトミーが皆に無視されたり虐められるのが気になる。
    年長になり友だちのルースがトミーと親しくなり、
    その後結ばれる。
    そこでは絵や工作や詩などの優秀作が選ばれて別の場所に飾られる。
    ・・・・
    ひたひたと小出しの断片的な事象が積み重なる。
    日常のエピソードが全体構成のピースを形作る。

    徐々に彼らの学園生活と別次元の全貌が像を結ぶ。「彼らの人生」が人類生存の手段になることが決められた社会だ。嫌悪に響い

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    2026年09月06日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    ページをめくる手が止まらなかった。

    介護士として提供者の世話をするキャシーが、ヘールシャムで過ごした青春時代を回想するところから始まる。最初はどこにでもあるような学校生活に見えるのに、保護官との微妙な距離感や、子どもたちに何かを隠しているような雰囲気に、少しずつ違和感を覚えていく。

    その違和感の正体が明らかになったとき、それまでの何気ない日常の風景がまったく違って見えた。自分の人生を選ぶこと、誰かを愛すること、生きることについて、静かに考えさせられる作品だった。

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    2026年09月05日
  • 日の名残り

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    読後感がなんとも心地よい。素晴らしかった。

    執事たるもの、紳士たるもの。品格とは何か。

    ありし日に思いを馳せながらも、人生を執事として全うせんとする姿は、とても格好良かった。
    そこにあるのは悲嘆でも、自惚れでもなく、誇りだった。
    すごく、格好良かった。
    終わり方もミスター・スティーブンスらしく、だからこそチャーミングに感じられ、思わず笑顔になってしまう。

    100年前の英国紳士たちやその屋敷の様子を思い浮かべるのも楽しかったな。

    「わたしを離さないで」があまりにも良かったので間を置かずにこちらを読んだのだけれど、これも大好きでした。

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    2026年08月29日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    「わたしを離さないで」の中でも特に印象的に感じたのは主人公を含め登場人物達のあまりにもリアリティのある会話や思考、行動であり、今までに読んだ本の中でも登場人物がここまではっきりと輪郭を持っていることは珍しかったように思う。

    そして、どうしてここまで「人間らしく」描かれているのか自体が物語の主題に深く連関していたように感じた。

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    2026年08月29日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    もっと早く読んでおけばよかった。こんな世界が、パラレルワールドとしてどこかに存在しているのではないかと思うような素朴さとリアルさ。ルースとキャシーの関係は、私には奇妙に見えた。自分の感情の根っこを見つけるのがキャシーは上手。ルースは不器用。トニーもいい奴。「使命」という、少し誇りを孕んでいるよう言葉を使わないと、彼らも読者も、その宿命を受け止めるのは困難だと思った。余白も絶妙で、読後の満足度も高い。少し厚めの本だけど、読みやすすぎて一気読み。
    昔ドラマをやってて、それが良かったのでその後原作を買い、そこから積んでいたので……相当眠っていたな。
    すごく美味しい食べ物を食べた後って、お腹が満たされ

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    2026年08月26日
  • 日の名残り

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    ネタバレ

    英国執事スティーブンスが、亡き主人との日々を回想する。偉大な執事とは何かを問う、ノーベル文学賞作家の一冊。

    めちゃくちゃいい執事小説だった。
    品格のある執事とは、どんな執事が優れた執事なのか、ということをたくさん考えられてよかった。
    主人たちの会話を邪魔しないように、かつ、呼ばれたらすぐ反応できるように、宴会場の物陰に立っているというシーンが個人的にかなり印象に残った。これがよき執事というものか。

    父親との話は彼らにしか分からない感動があってよかった。スティーブンスがカッコよかった。
    この物語の終わりでスティーブンスが受け入れるべき結末も父をまったく同じものとなるのか。と思いながら読み進め

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    2026年08月23日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    臓器提供のために生まれたクローン人間の主人公が過去に過ごした施設での出来事や、同じ境遇の友人達との思い出を振り返っていくストーリー。

    はじめは謎が多かったが、少しずつ真実が明らかになっていき、しかもその謎が割とサラッと明かされる。一瞬理解が追いつかず、一拍おいてから驚きが来るのが面白い感覚だった。

    メインの登場人物(キャシー、ルース、トミー)についても単なる仲良し3人組ではなく、嫉妬や憐れみなど負の感情を何度もぶつけ合っていたので、途中読むのがしんどくなる時があった。でも彼らの置かれた立場や状況を鑑みるとそういった行動になってしまうのは仕方がないと感じた。自分が同じ境遇だったらきっと彼らの

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    2026年08月21日
  • 日の名残り

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    偉大な執事とは何か。
    品格とは何か。
    自らの仕事に人生を捧げた男の、独白。

    執事という仕事に人生を捧げたスティーブンスが、最後にミス・ケントンと出会い、そして彼女が心境を打ち明けた時に彼女の幸福を祝福した(してしまった)シーンで、僕は少し涙が出た。
    偉大な執事として、ダーリントンホールに君臨したスティーブンスとしてなら、かつての同僚の幸福を祝福するのは至極当たり前である。しかし、その地位と引き換えに、スティーブンスという1人の人間としての本能はかき消されてしまったのかもしれない。それが良い、悪いではなく、それが生きるということなのだと思う。
    カーディナル卿との会話で、スティーブンスは頑なに自

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    2026年08月19日
  • 日の名残り

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    「夕方が一日で一番良い時間だ」完璧な人生ではなかったかもしれない。それでも、自分の本質を理解してくれる人がいたという温かい記憶を胸に、人生の夕暮れを肯定して歩き出すスティーブンスの姿が、今も深く心に残っている。

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    2026年08月17日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    細かな感情や人間関係の動きに説得力があって面白い。淡々と明かされていく世界観も引き込まれる。すごい…

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    2026年08月15日
  • ねじの回転

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    幽霊は本当にいるのか…?
    子どもたちは本当に無垢なのか…?
    一体、誰が本当のことを言っているのか…

    疑い深い私には、登場人物が全員怪しく見えてくる。
    ずっと読みたかった作品。
    新訳のおかげでとても読みやすかった。

    何が正しいのか。
    そもそも、正解なんてあるのかな…。

    まるで『料理の鉄人』のように、極上の食材も、道具も、火力もすべて揃えられていて、「さあ、あとはご自由に」と差し出されたような、妄想好きにはたまらない作品だった。

    どんな説を考えても、いや、それはさすがに無理では?とならない。
    そんなどんな説でも成立してしまうような謎の残し方が本当にすごい。
    不正解はないんじゃないかとまで思

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    2026年08月11日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    ヘールシャム出身でない提供者は、キャシーがそこの出身と聞くと、その話を聞きたがるという。
    それは提供者が自身の記憶として、ヘールシャムを思い出すことができるかもしれないから。
    それ以外の提供者にはつらい記憶しかないから…。
    キャシーは介護人としての12年間、多くの提供者に話して聞かせてきたのでしょう。
    ヘールシャムは幸福な時代だったのかもしれません。
    介護人を終えたキャシーは提供者としての運命をたどるはず。
    キャシーはヘールシャムの記憶を持つ最後の提供者となるのでしょうね。
    そして、その後も提供者たちは生まれ続ける…。
    残酷な世界を淡々と語るこの小説を読み終え、何とも言えない感覚になりました。

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    2026年08月09日
  • クララとお日さま

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    ネタバレ

    ディストピアの世界観が会話から予測できること、母親の行動は誰のためのものなのか。愛と言い切れるのか。最後のシーンの考察を含めて何が正しくて、愛やら、人の定義とはと色々と考えてしまうが、全体的に優しい空気感と世界観に包まれてる作品

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    2026年08月08日
  • 日の名残り

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    ネタバレ

    できること、できないこと

    『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』で、「もののあはれ」を感じたと書かれていたので気になって。

    プロローグから、スティーブンス執事への愛おしさがすごい込み上げてくる!冗談を言ってくるアメリカ人の主人にどう対応するか、悩む様が可愛らしい。終始、話が回りくどくて長いのもいい。

    定義するって、言葉でその言葉を説明するのではなく、具体的な出来事等から、その言葉の意味を抽出したり感じたりすることなのかもな。「品格」についての定義を読んでいて思った。

    旅の間中、ダーリントン卿を救えなかったことやミス・ケントンがいなくなってしまったことについての出来事を思い返す描写

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    2026年08月06日
  • 月と六ペンス

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    古典の名作。導入で尻込みし何度も挫折したのだが、ついに読破。読み進めるとそれほど難しい世界観ではなかった。順風満帆な人生、家庭を突然捨て「絵描きになる夢」を追いかけるストリックランド。ゴーギャンをモデルにしたと言うがあまりにも性格、行動が破綻しており(何故か人たらしではあり関わった人々は全力で搾取されるのであるが)あくまでモデルの域であるのだろう。
    人には真の故郷があり、彼にとってはタヒチだったのだろう。終始読み手も振り回される傍若無人っぷりを発揮したストリックランドだが、あるシーンで驚くべき反応を見せた。
    それにしても芸術とは死後評価が高くなるのものだが早々にそれを見抜いていたストルーブは大

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    2026年08月05日
  • 夜想曲集

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    ネタバレ

    てっきりそれぞれの話が完全な独立しているものだと思っていましたが、ちょっとした繋がりもあって、一冊で連作短編集となっているのですね。
    そしてその一篇一遍がレベルが高い!

    『老歌手』
    ヴェネチアという舞台設定がもうロマンチックなんですが、内容もウェット。愛し合っているけど、これからの自分達の先のために別れる、という芸能界ならではの価値観も、元共産圏の主人公だからこそ、色眼鏡がつかずに、スッと読むことができました。

    『降っても晴れても』
    カズオ・イシグロはコメディセンスがある、と解説で言っていましたが、本作は確かに然り。切れ味のある台詞の応酬もそうですが、散らかした部屋を偽装するために犬の真似

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    2026年08月03日
  • クララとお日さま

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    イシグロカズオの本は最初はもったり、展開遅めで少々退屈する感じはあるものの、ところどころに?が散りばめられてて、思わず読んでしまうような、また読みあわった後に毎度スカッとするような不思議な世界観があるなと思う。
    今回は特に講評の中で、日の名残のようなナレーター目線的な(今回でいうクララ)語り部がいる点、また私を離さないでで描かれたディストピア的要素がうまく絡み合ってるみたいなことが書いてあり、とっても納得した。この二つを読んでから、クララとお日さまを読むと、なんというかよりイシグロカズオワールドにあしを突っ込めたような感じがある。

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    2026年08月03日
  • クララとお日さま

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    読んでるときのシチュエーションや、現実世界での出来事、感情、、なども良きスパイスとなって、忘れられない作品になりました。

    カズオイシグロさん作品、まだまだ未読のものが多いけど、きっとどれも好きになるという確信めいた感覚がある。著者の持っている根本的なもの、世界の見方とか、人間への洞察とか、そういうものへの信頼の厚さというか。

    「カパルディさんは探す場所を間違ったのだと思います。特別な何かはあります。ただ、それは…」という部分が特に好きでした。

    この作品を読んでいる間に考えていたこと、それは、「優しさ=想像力」なのかな、ということ。相手の様子、感情、考え、などを理解しようお思いを馳せること

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    2026年07月30日
  • 日の名残り

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    『日の名残り』を読んでまず感じたのは、これは英国の老執事が過去を振り返る物語ではなく、「自分の信念を貫いて生きた先に、本当に後悔は残らないのか」を問い続ける作品だった。

    主人公のスティーブンスは、名門ダーリントン邸に長年仕えた執事である。ある日、かつての同僚ミス・ケントンを訪ねる旅に出た彼は、その道中で自らの半生を静かに振り返っていく。主人への忠誠を何よりも重んじ、一流の執事として職務を全うすることだけを人生の誇りとして生きてきたスティーブンス。しかし、その回想をたどるほどに、彼が仕事と引き換えに失ってきたものが少しずつ浮かび上がってくる。物語は大きな事件や劇的な展開で読ませるのではなく、一

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    2026年07月29日