土屋政雄のレビュー一覧
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こんな小説を読むのは初めてだ。
意表をつく状況設定で、読むほどに薄気味悪さが募り想像をこえる世界観に脳の感応も戸惑う。
よくある学園共同生活の描写から始まる。
年少の頃から主人公キャシーは好意をもつトミーが皆に無視されたり虐められるのが気になる。
年長になり友だちのルースがトミーと親しくなり、
その後結ばれる。
そこでは絵や工作や詩などの優秀作が選ばれて別の場所に飾られる。
・・・・
ひたひたと小出しの断片的な事象が積み重なる。
日常のエピソードが全体構成のピースを形作る。
徐々に彼らの学園生活と別次元の全貌が像を結ぶ。「彼らの人生」が人類生存の手段になることが決められた社会だ。嫌悪に響いた「提供人、介護人、保護官、健康診断、ポッシブル‥」などの用語は移植システムの呼称であり、無機質なセックスが繰り広げられるのも違和感だった。読むうちに、知るほどに、からくりの悍ましさが脳を満たす。
クローン技術と臓器移植が制度化された架空社会の一面である。生きる限り臓器を提供し続けるクローンの「人生」だ。提供は4回くらいが限度で、あとは役割を終えて消えるだけ。
滑らかな文章と丁寧で抑制の効いた表現で翻訳も手伝い極限の残酷が淡々と描かれる。
いつの間にか読者を「架空現実」に誘い、一時も気を逸らさせず、心を捉えて根底から揺さぶる。
カズオ・イシグロは一作毎に新境地を切り拓くことを心がけているそうだ。繊細な気配りと奥行のある文体で紡ぐ文章はますます磨きがかかる。これを薦めてくれた人に感謝である。他の作品も読むことにする。 -
Posted by ブクログ
もっと早く読んでおけばよかった。こんな世界が、パラレルワールドとしてどこかに存在しているのではないかと思うような素朴さとリアルさ。ルースとキャシーの関係は、私には奇妙に見えた。自分の感情の根っこを見つけるのがキャシーは上手。ルースは不器用。トニーもいい奴。「使命」という、少し誇りを孕んでいるよう言葉を使わないと、彼らも読者も、その宿命を受け止めるのは困難だと思った。余白も絶妙で、読後の満足度も高い。少し厚めの本だけど、読みやすすぎて一気読み。
昔ドラマをやってて、それが良かったのでその後原作を買い、そこから積んでいたので……相当眠っていたな。
すごく美味しい食べ物を食べた後って、お腹が満たされるけど、いいものを食べた後の感覚に似ている。
余韻、かな。 -
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ネタバレ臓器提供のために生まれたクローン人間の主人公が過去に過ごした施設での出来事や、同じ境遇の友人達との思い出を振り返っていくストーリー。
はじめは謎が多かったが、少しずつ真実が明らかになっていき、しかもその謎が割とサラッと明かされる。一瞬理解が追いつかず、一拍おいてから驚きが来るのが面白い感覚だった。
メインの登場人物(キャシー、ルース、トミー)についても単なる仲良し3人組ではなく、嫉妬や憐れみなど負の感情を何度もぶつけ合っていたので、途中読むのがしんどくなる時があった。でも彼らの置かれた立場や状況を鑑みるとそういった行動になってしまうのは仕方がないと感じた。自分が同じ境遇だったらきっと彼らのようには受け入れることは出来ないと思う。
キャシーとトミーが雑貨屋でレコードを一緒に探す際に、先に見つけたキャシーがトミーとの楽しい時間を終わらせないため、見なかったふりをしようかと迷ったシーンがクローン人間なのにとても人間臭くて印象に残った。
こんなにも人間らしい感情を持ち合わせている彼らがクローンだとしたら、人間を人間たらしめるものって一体何なのだろう? -
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幽霊は本当にいるのか…?
子どもたちは本当に無垢なのか…?
一体、誰が本当のことを言っているのか…
疑い深い私には、登場人物が全員怪しく見えてくる。
ずっと読みたかった作品。
新訳のおかげでとても読みやすかった。
何が正しいのか。
そもそも、正解なんてあるのかな…。
まるで『料理の鉄人』のように、極上の食材も、道具も、火力もすべて揃えられていて、「さあ、あとはご自由に」と差し出されたような、妄想好きにはたまらない作品だった。
どんな説を考えても、いや、それはさすがに無理では?とならない。
そんなどんな説でも成立してしまうような謎の残し方が本当にすごい。
不正解はないんじゃないかとまで思えてくる。
最近、妄想ネタばかり書いている気がする。
でも、こういう作品を読むと妄想が止まらなくなるんだから仕方ない。
※ここからは、ネタバレと勝手な妄想です。
頭の中を整理するつもりで、私の妄想した説を書きました。
※妄想ですが、ネタバレも含まれているので、未読の方はご注意ください。
実は誰も死んでいないのでは……。
亡くなった2人とマイルズは本当は生きているのでは…。
ミステリ好きとしては、これがいちばん面白い。
使用人の男と前の家庭教師が関係を持っていたことが叔父にバレた。
さらに、使用人の男がマイルズ(兄10歳)に悪さをしていたことも知った。
叔父は、このことを表沙汰にしたくない。
そこで2人を解雇し、世間には〈死んだこと〉にした。
だから2人が現れても、子どもたちと家政婦は見えないふりをする。けれど、夜中にこっそり会っていた。
それを見た家庭教師(私)は、〈死んだはずの2人が自分にだけ見えている〉と思い込む。
マイルズは死んでしまったのか…?
〈邪悪な心〉が死んだという比喩で、〈元の無垢〉な子どもに戻ったということなのでは……?
はじめにこの物語を朗読しているダグラスという男はマイルズ?
ダグラス=マイルズ、妹の家庭教師=「私」と考えると、年齢がぴったり合う。
そう考えると、マイルズが生きているという説にも辻褄が合う。
そもそも私は幽霊を信じてないので、こんな妄想になってしまったのかもしれない。
他にもいろんな説が妄想できるような謎がたくさん隠されている。 -
Posted by ブクログ
ネタバレヘールシャム出身でない提供者は、キャシーがそこの出身と聞くと、その話を聞きたがるという。
それは提供者が自身の記憶として、ヘールシャムを思い出すことができるかもしれないから。
それ以外の提供者にはつらい記憶しかないから…。
キャシーは介護人としての12年間、多くの提供者に話して聞かせてきたのでしょう。
ヘールシャムは幸福な時代だったのかもしれません。
介護人を終えたキャシーは提供者としての運命をたどるはず。
キャシーはヘールシャムの記憶を持つ最後の提供者となるのでしょうね。
そして、その後も提供者たちは生まれ続ける…。
残酷な世界を淡々と語るこの小説を読み終え、何とも言えない感覚になりました。 -
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古典の名作。導入で尻込みし何度も挫折したのだが、ついに読破。読み進めるとそれほど難しい世界観ではなかった。順風満帆な人生、家庭を突然捨て「絵描きになる夢」を追いかけるストリックランド。ゴーギャンをモデルにしたと言うがあまりにも性格、行動が破綻しており(何故か人たらしではあり関わった人々は全力で搾取されるのであるが)あくまでモデルの域であるのだろう。
人には真の故郷があり、彼にとってはタヒチだったのだろう。終始読み手も振り回される傍若無人っぷりを発揮したストリックランドだが、あるシーンで驚くべき反応を見せた。
それにしても芸術とは死後評価が高くなるのものだが早々にそれを見抜いていたストルーブは大したものだ。
人物描写に優れ、人となりが手に取るように分かる。モーム自体が劇作家として活躍したので表現力は随一だ。今年は少しずつ古典作品を読み進めることにしたが、良いスタートを切れた。
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Posted by ブクログ
読んでるときのシチュエーションや、現実世界での出来事、感情、、なども良きスパイスとなって、忘れられない作品になりました。
カズオイシグロさん作品、まだまだ未読のものが多いけど、きっとどれも好きになるという確信めいた感覚がある。著者の持っている根本的なもの、世界の見方とか、人間への洞察とか、そういうものへの信頼の厚さというか。
「カパルディさんは探す場所を間違ったのだと思います。特別な何かはあります。ただ、それは…」という部分が特に好きでした。
この作品を読んでいる間に考えていたこと、それは、「優しさ=想像力」なのかな、ということ。相手の様子、感情、考え、などを理解しようお思いを馳せること、それ自体が優しさなのかな、とクララを見ていて思いました。
カズオイシグロさん、かけがえのない読書時間をありがとうございました。
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Posted by ブクログ
ネタバレメリーバッドエンドともいえる結末。
クララ本人は、幸せいっぱい。でも、結局廃棄されてしまっているし、献身的に尽くしたジョジー、そしてリックの道は分かれます。
でも、すべては、本当に無駄だったのか、意味が無かったのか?というのはNOだと個人的には思います。
クララ本人が、よかったと思えたのなら……。
そもそも、意味、こころ、愛、信仰とは何か?人間だけが持ち得ると思われているものが極めて曖昧であることに気付かされる一作だと思いました。
本作の独自要素として、『向上処置』というものがあります。こちらは、知性の向上が望める処置で、受けさせているのが現代だと多数のよう(少なくとも一定の階級家庭では)。だが、命に関わるリスクもあるようで、それによってジョジーの姉は命を落とし、ジョジー本人も命の危機に瀕していることが伺えます。
そもそも、機械ぽいですよね。アップグレード、というか。
そして、この『向上処置』がある世界が、AIと人間の境目をさらに曖昧にします。
ジョジーの父は、『向上処置』をしていないせいで、『置き換え』られてしまったと描かれています。失職と同じ意味ですが、度肝を抜かれる表現ですよね。
この『置き換え』というのも、重要な表現だと思っています。
何故なら作中、人間自身が置き換え可能なものとして何度も描かれるからです。
お手伝いのメラニアさんも最後には居なくなっています。
作中のターニングポイントとなる、『肖像』もそうです。
リックの最終章の科白でさえも。
「ぼく自身は、きっといつもジョジーみたいな誰かを探し続けると思う。」
全然趣の違う作品に『ハイパーインフレーション』という漫画作品がありますが、作中のフラペコというキャラクターがこんな事を言っています。
「役割は替えが聞きます。大事なものは替えがききます。それが、大事な自身の娘だろうと、大事な姉だろうと、祀り上げられた救世主だろうと」。『ハイパーインフレーション』では、自分の命くらいしか大事なものはない(本当に言いたいことも、さらに別のところではありますが、ここでは割愛)という趣旨を言っているのですが、
この「替えがきく」ということを何度も描く本作は、機械と人間の境目を問う意図が感じられます。
作中、ずっとクララの目線で話が進むこともありますが、人間達とは違って、クララの行動に、『こころ』の存在をどうしても感じます。
反面、『トイ・ストーリー』のおもちゃたちとは違い、自身に与えられた役割を全うし、順守する一方、あっさりと廃棄される運命も当然のこととして受け入れます。
AFに書きこまれた命令を、自分たちが「こころ」があると勘違いしているに過ぎないのでしょうか。
だけど、「こころ」ほど曖昧な概念もありません。そもそも、AFやロボットに書き加えられた命令の複雑さはつゆ知らず、私達人間も、本能に従って、行動するのですから。
母親に抱きしめられて混乱するところ。
店長さんに窘められても、ジョジーとの約束を覚え、大事にするさま。
交流会で、ほかの子供に行動を命じられても、応じなかったこと。
そして、ジョジーへの献身。お日さまへの信仰。
誰かのために身を捧げ、誰かのために祈る。
例え、書き込まれた命令だったとしても、この無垢さは、なんというのでしょう。『向上処置』を受けた人間達より、よほど「こころ」があるように思います。
やはりその境目を曖昧にする『向上処置』。
この『向上処置』を受けた人間は、やっぱりどこか超常的というか……サイコパス的というか……進歩のために、他者を顧みない性質があるようにも思います。
献身的なクララとは、あからさまに違います。
先へ先へと進んでいき、終わったものは振り返らない。
クララは結果として、命運通り、廃棄されました。
最後、店長さんと会えて嬉しがっていたし、店長さんも喜んでくれてましたけど、恐らくジョジーに似た独特の足の引き摺り方……『向上処置』を受けたのだと思われる店長さんは、別れた後のクララを振り返りません。
先へ先へと進んでいき、終わった者たちは振り返りません。
でも、それは本当に正しいのか?
と作者は語っているように思います。
テーマの根底は、能力主義や格差社会のアンチテーゼも感じさせます。
ノーベル賞受賞後第一作ということですが、さすがというしかない、一作でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレchatGPTと話してると、よくオススメされるのと、SF好きなので一度は読んでみたかった本作。
展開が遅いのと、徐々に徐々に設定が明らかにされていく構成で、あと一歩で積読になりそうだったんですが、奥歯にものが挟まったかのような書き方が逆に、これどうやって風呂敷畳むの?作者はこの作品で何を描きたいの?という疑問を増幅させ、無理やり60%くらい読み進めたところ、やっと没入できてそこからラストまでは速かったです。
で、読後感が異常なほど切ないのと、結局作者が何を描きたかったのかはバシッとわかりませんでした。
ただ、ヘールシャム〜介護人になるまでが、リアル人生でいうところの学生〜社会人 介護人〜提供者になるまでが社会人〜老後の特に終盤あたり になんとなく思えて(期間が全く違いますが)考えさせられました。
私たちも終わりが決まってるという意味では同じ。また、主人公が1人、また1人とかつての学友を見送る姿と老後の(想像ですが)自分が重なって見えてきます。
30代半ばを過ぎた今では人生の重要な分岐点が一通り終わり、キャシーが介護人として提供者を見送りながら自分の終わりにも近づいていく時間の流れと、どこか重なるものを感じました。
再読すると、もっと理解を深められそうですが、思ったよりヘビーな作品だったので当面の間はできなさそうです。
(追記)
余韻がすごくてずっと考え続けた結果、これはクローン人間という設定を使った、人生のメタファーでは?という結論に至りました。人生という大きなテーマに触れたことで、今抱えている問題への執着が少し薄れました。
でも、話自体のスケールが大きいわけじゃなくて、なんなら主人公の半径数メートル以内の話で終わる、なのに頭の中にずーっと残ってジワジワと考えさせる感じ、さすがノーベル賞受賞作家・・
「日の名残り」も気になりますが、連チャンは重そうなので何冊か挟んでからにする予定です。 -
Posted by ブクログ
キャシーの回想から始まるこの小説。序盤から強く引き込まれる。介護人、提供者、どれも聞き慣れない言葉。
彼女達が幼い頃を過ごした学園。幼き頃の思い出はとても鮮やかなもの。些細なことで友人と喧嘩したり、仲良しグループで固まったり、実は気があることを悟られぬようようこっそり異性の友達と落ち合ったり、どこにでもある、私たちにでもあるような子供時代。だけどとこか私たちとは違う。
少しずつ浮き彫りになっていく学園と自分たちの未来の真実。
学園で過ごした側の立場と、運営側の立場の違い、それ故の残酷さが、なんとも言えなかった。人間らしく扱うことに意味があると思っている側と、だうせ提供されるのなら教育も道徳も無意味だったと思う側。でもその教育らがなければ家畜のように扱われることと同等になってしまう。
キャシーとトミーは再会するのだが、結ばれるのがもっと早ければ、というシーンはすごく切ない。2人にはとにかく時間がない。
ラストの先生方との再会。家族をおらず、仲間だけを頼りに生きてきたキャシー達。自分たちが生きてきた学園の意味。全てが切ない。
読みながら、思わず、何度も自分の娘を抱きしめてしまった。
そういう気持ちにさせられる作品。名作だと思う。