あー。すごい。すごい、これ。それ以外まず言葉が出ない。
ブッカー賞を受賞した中でも最も素晴らしい作品を選ぶという企画の中で選ばれた本作。ブッカー賞オブブッカー賞。
「イングリッシュ・ペーシェント」という題で映画化され、かつアカデミー賞も受賞したとのことだがその筋に疎い私はそんなことも知らず。
この
...続きを読む小説が最初ですべてだったわけだが、すごい。
私が海外文学が好きな理由の一つに「絶対に日本人には書けない物語を書ける」ということがあるのだが(もちろんその理由で日本の文学も好きだけれども)、この小説は日本人には絶対書けない。
第二次世界大戦が舞台で、かつ、ヒロシマナガサキの描写が物語のキーになってもいるのだが、それでもこれは日本人には書けない。
イタリアで、戦禍から取り残された病院。そこに残った、飛行機が墜落したことで大火傷を負い顔を失った「イギリス人の患者」。その患者の面倒を見るべく、病院に残った若い看護師のハナ。
物語はその二人の、とても静かな描写から始まる。
なんとなく居心地の良い静寂を楽しむ物語なのかと思い読み進めると、ハナの亡き父の親友でもと泥棒(かつスパイ)のカラバッジョと、不発弾を処理する兵士のキップが屋敷にやってきてから途端に様相が変わる。
今までの静寂から打って変わり、様々な人間の様々な愛が語られるようになる。
突然の展開に若干面食らいながらも読み進めるうちに、これも本作の特徴ではあるのだが、そして作者が詩人であるということも大いに関係しているのだろう、体言止めと曖昧な時制(過去のことを現在形で綴る)を多用しながら視点がぐるぐると変わる不思議な体験をさせられながら、イギリス人やキップの過去が明らかにされていく。
そしてそれらの過去が明らかになり、いろんなことがつながったとき。そして読者が「うーん、なかなか壮大な愛の物語だったなあ」と思った瞬間に、またそれをひっくり返す。詳細は語らないが、ここでヒロシマナガサキ。
えっ、となり、急転直下。
でもここからなぜか涙が止まらなくなる。最終盤。
本当に涙が止まらなくなる。戦争の悲惨さとか、そういうことも含めて涙が止まらなくなる。
そして物語が終わる。読み終わった後、どう捉えるかは人それぞれだと思うのだけれども、私は「やっぱり壮大な愛の物語」だったかな、と思う。
これは、本当に素晴らしい。
人生で何冊とない一冊。
こういう出会いがあるから、読書はやめられない。
本当に素晴らしい小説だった。ブラボー。