土屋政雄のレビュー一覧

  • ダロウェイ夫人

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    以前に「灯台へ」を読んでいたのでウルフの独特な文体については、一応免疫ができていると思う。その分、まだ入りやすかったのかなとは思うが、意識の流れで視点がどんどん変わっていく文体に、とりとめのないストーリー、かなり読みにくい小説である。

    このふわふわした文体、主人公である「クラリッサ」ダロウェイ夫人の、その日のパーティの成功だけを考えているような地に足のつかなさに、うまくマッチしているような気がする。

    「アンジェラの灰」「コールドマウンテン」「ダロウェイ夫人」と続いた土屋政雄さんの翻訳もの。これで小休止。

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    2012年09月09日
  • 月と六ペンス

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    話が激しく展開していくのとは裏腹に、読みながらゆったりまどろむような気持ちになって、まるで童話のようだった。

    男女の機微が随分ミステリアスに描かれていてかわいいなあ、と思っていたのですが最後の解説を見て腑に落ちました。まあそんなの抜きにしてもオトコとオンナのことは第三者が見てわけわかんないくらいの方が素敵だと思います。恋や愛を言葉で説明したってしょうがないや。

    しかしこの登場人物と読み手の間の絶妙な距離感はなんだろう。冗談でも「あーわかるわかる」なんて言えない彼らのシンプルな神々しさは。

    どの登場人物をとっても「このひとはきっとどこで何しててもこういう風にしか生きられなかったろうな」と思

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    2012年05月23日
  • ダロウェイ夫人

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    人々と意識、思考が交錯して複雑なものが流れているように思えもするんだけど、本の中に流れているリズムや意識にとってもリアリティを感じる。
    人の中に潜ったらこんな感じかなって。

    本を読み終えた時、もう一度読み返した時何を感じるか想像してしまうのは嬉しいことだ。
    生き物みたいな作品というものは存在するね。
    そういうものに出会えた時はとても興奮する。
    多面的とも少々違う。
    有形でありながら、可変。という感じか。

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    2012年01月22日
  • 夜想曲集

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    Nocturnes(2009年、英)。
    音楽をメインテーマとした短編集。チェーホフを彷彿とさせる哀切感漂う3編(奇数章)と、アメリカンコメディーのような2編(偶数章)で構成されている。

    「降っても晴れても」が一番好きだ。著者の作品としては例外的に軽妙に笑える。とはいえ、根源にあるのはやはり哀愁なのだが…。全編を通して私が最も好きな登場人物が、この物語の主人公、レイモンドなのである。他の人々が自分の才能を人に認めさせようと躍起になる中、彼だけは自分のアドバンテージを自ら放棄して、親友夫妻のために道化役を演じるのだ。それが本人の意図を超えて、何もそこまでやらんでも、というほど必要以上に道化になっ

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    2022年09月06日
  • 月と六ペンス

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    物語の展開が、ものすごくドラマチックな小説だと思った。
    この小説のストーリーテリングの巧みさは、最初から最後まで見事だった。そもそも、「月と六ペンス」というタイトルの付け方からしてスゴい。
    モームは、現代であれば名うての構成作家になるような人だったのだと思う。

    自伝的小説でありながら、本人の手による記録ではなく、それを観察する「私」の視点からの描写になっていることで、とても客観的にストリックランドという人物の特異性が浮かび上がるようになっている。
    「私」の考え方は、常識的で、大衆的で、大きく偏ったところがほとんどない。いわば、当時のヨーロッパの社会通念そのものを代表する立場として、ホームズを

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    2020年07月15日
  • 夜想曲集

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    カズオ・イシグロに触れたのはほんの数冊(その内一冊は二十年近く前に読んでよく分からなかったというオチまである)なので今作の軽やかで、時に切なく、時に楽しいバラエティに富んだ内容なのは驚かされた。
    人生の出会いと別れ、それら一つ一つに悲しんでどうするのか。いつか必ず終わる一時のどんちゃん騒ぎ──そんな風に言われたようだった。
    文体も優しく包み込むような雰囲気があり、静かにジャズをかけながら浸りたい。

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    2025年12月22日
  • 日の名残り

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    「クララとお日さま」を読んで著者の別作品に興味が湧き、英国最高の文学賞ブッカー賞を受賞作と知り、期待して読み始めましたが、取り立てて特別の感動を感じませんでした。
    英国の品格ある執事としての理想を追求する主人公スティーブンス、女中頭として同じ館で働き始めたミス·ケントン、主人公に思いを募らせるケントンと執事としての役目に没頭してその思いに気づかないスティーブンスとの切ないやり取り。
    ダーリントン卿に絶対の信頼感を抱き、その高潔な人格を持つ主人に仕えることこそ執事の本望であると仕えるも、敗戦国ドイツと祖国イギリスの間を取り持とうと卿が奔走するも人々から中傷を浴び、また、自分の過ちもあったことを吐

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    2025年12月21日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    イシグロの作品って、今にも駆け出しそうなのにずっと腕を掴まれてるような感覚に陥る。細部をしっかり見せて静かなフィナーレを迎える、そんな感じ。この本もそうだった。青空が広がっているはずの描写でさえも少し灰色がかっていて常に唯ならぬ空気を纏ってる。

    ディストピアとは思わず読んだので心の準備ができておらず...。人生を全うするのが最善と言われているけど、彼らもそうなんだろうか?介護し提供するだけ人生が最善?...そんなのあまりに悲しすぎる。

    私にとって死は常に意識しているわけではないから、突如その場面に出くわすと恐怖を覚える。なら彼らは?意識せずとも隣にある死と向き合いながら前向きに生きることは

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    2025年12月20日
  • 夜想曲集

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    繊細な台詞と開かれた結末。読後、何日も心に残り続けるイメージが、まるで作品自体が語りかけてくるかのようだ。ただし、英語版で読んだほうがイタリアの情緒や登場人物の感情が’、より生々しく伝わったかも知れない。

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    2025年12月08日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    ネタバレ

    最初は翻訳感が強い文章で、背景もイマイチ読めないまま外れかな、なんて感じで始まるものの、途中でだんだん引っかかるものが出てきて、その違和感がだんだん形になっていく中で一気に読んでしまった。
    ある種ディストピア的でミステリ的で、最後も別に明確に終わりがあるわけではない、という点で個人的には消化不良感がある。

    最終的には提供者として死んでいく。その中で幻かもしれないが人生の素晴らしさ、それは主に創作とこの小説の中ではされてると思うけど、それを味わえたことをよしとしているのか、いや残酷だというところなのか、そこの判断はある種委ねてるのかなとは思う。

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    2025年11月29日
  • 日の名残り

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    後半一気に面白くなるタイプの本。ナチドイツ周辺の歴史的な知識があればもっと面白く読めたかもしれない。信念を突き詰めるのもひとつの素敵な生き方だと思うが、スティーブンスは色々なものを引き換えに差し出しすぎたのだろうと思う。人間臭くてよかった。ストーリー展開の派手な物語ではないので、時々眠くなるけれど、日の名残り、というタイトルがしっくりくる穏やかでノスタルジックな小説だと感じた

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    2025年11月24日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    この作品の肝である残酷な事実を除いて読むことが出来たとして、幼馴染の3人とその思い出の場所に馳せる思いは、まんまと語り部のキャシーを肯定するかもしれないけど、その設定を受け入れればルースやトミーと肩を組みたくなる。

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    2025年11月20日
  • ねじの回転

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    両親を亡くしたとある兄妹の家庭教師として、イギリスはエセックスの屋敷に赴任した主人公「わたし」の手記によって展開されるホラー小説。今作の興味深い点は何と言ってもやはり、「信頼できない語り手」の存在である。物語にて2人の幽霊が度々登場するのだが、唯一の語り手である主人公の「わたし」を除き、それらをはっきり見たとされる登場人物がいないため、そもそも幽霊がいるのかという疑問が読み進めていく中で湧いてくる。また、主人公と狡猾な兄妹との間で繰り広げられる緻密な心理戦も今作の見どころである。兄妹と幽霊の関係やマイルズの退学の理由など、主人公が対面する数々の謎は読者の興味を強くそそるに違いない。

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    2025年11月17日
  • クララとお日さま

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    子どもの友達として開発された人工知能を持ったロボットであるクララの一生を描いたSF小説。

    身体が弱いジョジ―の家族に迎えられ、ジョジ―の幸せを願って行動するクララ。
    相手の気持ちをおもんばかり、感情すらもつクララが純粋な心を持った人間のように思える。

    対して、処置した人としない人、人間とロボット、第2世代と第3世代…と何かにつけて比較し態度を変える人間たち。

    人間を人間たらしめるものは何か。
    知能が高いロボットは、人間に使われるべき存在なのか。
    考えさせられた1冊だった。

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    2025年11月02日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    10年程前になるだろうか。当時のドラマは衝撃的だった。私が介護人だったらどう思うだろうか。私が提供者だったらどう生きたか。知っているようで知らない生まれた意味、生きる目的。
    それにしても、読み終わるのに時間がかかってしまった。

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    2025年10月28日
  • ダロウェイ夫人

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    20世紀を代表するイギリス文学と評判こそ聞き知っていた作品。
    歴史的傑作をたっぷり読む! という目標のもと、今回入手して挑戦してみました。
    第一次世界大戦後のイギリスで上流階級のダロウェイ夫人が晩餐会を開く準備をしています。その一日を、数人の登場人物の内的独白に迫りながら描いています。
    物語は最初から最後まで章や切れ目がなく、一つの大きな塊として始まり終わります。ある人物の意識の流れを丹念に追いながら、そのあと別の人物の意識に移行し、筋は続いていきます。この作品には、2つの読み方があるようです。最初から最後までまとめて一回で読み終える。または少しずつ、描写を味わいながら読み、お気に入りの栞をは

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    2025年10月27日
  • 日の名残り

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    かなり前に読んだものの再読。

    前半部分はわりと覚えていたのに、ミスケントンと再会する場面を全く覚えてなかった…。
    でもそのお陰で新鮮に楽しく読めました。

    当時も思ったけれど、私みたいに歴史的背景や知識がなくても、主人公の執事としての日常や矜持、過去の日常についての独白が続くのに、退屈せずにどんどん読める。

    スティーブンスは執事としては忠誠心があって優秀かもしれないけど、遊びがなくて、人に対して不器用で鈍感で空気が読めないところがイラッとしつつ段々と可愛らしく思えてくる。

    個人的には言葉遣い一つで登場人物の印象も変わると思っているので、作家さんが書いた言語で読みたいのだけれど、こちらの訳

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    2025年10月21日
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

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    霧の中でなーんも見えなくて手探りで進んでいくうちに何かをつかむ。後で明るいとこでそれを見たら、とんでもなくおぞましいものだった。って感覚。

    「介護人」「提供者」「保護官」などの耳慣れない単語が、主人公キャシーの追憶を通してだんだん形を成していく。キャシーの淡々とした語り口も相まって、その過程がとてもグロテスクだった。彼女にとっては「それ」が「使命」として当たり前のこととされているのが、不気味で…
    でも、私の感じた不気味さと裏腹に、キャシーは友達と過ごし、好きな人と愛し合い…彼女の人生を送っていく。

    全て読み終わった後に、「私と彼らの違いってなんだろう」とぼんやりした。

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    2025年10月17日
  • 忘れられた巨人

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    ネタバレ

    かなり読み終わるまで辛かった。難解。
    老夫婦が息子のの住む村に行く間のファンタジー?
    記憶が消されたり、夫婦が離れ離れになったり、とてもついていけなかった。
    老夫婦はその後どうなるのか?
    私の読解力のなさで、なんかモヤモヤ霧に包まれたように終わった。

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    2025年10月12日
  • 日の名残り

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    序盤から中盤にかけて退屈だなあと思いながら読んだ。執事たるものこうあるべきとか御主人のこととかそういうことばかりで。ところが中盤以降、徐々に小さくゆらゆらと燃え上がる何かが起こってくる。ちょっと先が気になってきたという状況がやってくる。最後にその燃え上がる何かが弾けるのかと思いきや、そのままゆらゆらして消えていった。そんなお話でした。あと読んでいて感じたのは、スティーブンスに対して「ええ、それはなあ…」という場面が多かった。もちろんこれは自分が現代の日本で生きているという状況で、かつ執事文化にもイギリス文化にも馴染みがないものにとってはなかなか書かれているもの全体を深く味わうことが難しかった。

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    2025年10月10日