あらすじ
ウェスティッシュ大学野球部の捕手マイク・シュウォーツは、痩せっぽちの高校生ヘンリーの守備練習に見とれていた。ますます強くなるコーチのノックを、この小柄な遊撃手は優美なグラブさばきで楽々と捕え、矢のような球を次々と一塁に送る。その一連の動きはまさに芸術品だった。「来年はどこの大学でプレーするんだ」と聞いた。「大学へは行かない」シュウォーツはにやりとした。「さて、そうかな」シュウォーツはようやく見つけたのだ。みずからの弱小チーム立て直しの切り札を―アメリカ文学界の新星が贈る、野球への愛にあふれる傑作小説。
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Posted by ブクログ
ウィスコンシン州にあるウェスティッシュ大学の硬式野球部が舞台となっています。小説の題名はアパリシオ・ロドリゲスという守備の名手が書いた本『守備の極意』から来ています。アパリシオは18シーズンセントルイス・カージナルスでプレーしたとあるので、実在した選手と思い込んで読んでいました。他の小説でもよくMLBの選手の名前がでてくるのでそう思ったのです。ここですこし考えました、作者が作り出した架空の選手ではないかと。フィクションなのでまったく問題ないのですが、そう考えると『守備の極意』の中身もちょっとおもしろいです。
例えば、
59「ゴロをさばくことは寛大な行動であり、理解の体現である。ボールに向かって動くのではなく、ボールとともに動く。下手な守備者は敵に立ち向かうようにボールに突っ込む。これは敵意である。真の内野手はボールの通り道を自己の通り道とし、それによってボールを理解し、自己を無にする。自意識こそすべての苦悩と下手な守備の根源である」
とやたら文学的で実用書としては役に立たない表現となっています。
アパリシオ・ロドリゲスという野球選手、ウェスティッシュ大学、応援歌まであるハープーナズという野球部そして野球教則本『野球の極意』の中身。
いろんな小説がありますが、小説家が細部にこだわって、読者の目に届かないところまで作り上げると物語がものすごく豊かになるという例だと思います。読者はそのへんのところは気にしないで楽しめば良いので気が楽です。
野球とならんで小説の核となってくるのがハーマン・メルビルの『白鯨』です。ウェスティッシュ大学周辺はそのなりたちから『白鯨』だらけなのが楽しい、『バートルビー』という酒場もあります。メルビルの長編小説『白鯨』と短編小説『バートルビー』はよくアメリカ文学の中に登場します。野球とメルビルの小説は多くの(主に白人だけかも)アメリカ人の生活の中心にあるのでしょう。