小説 - 講談社作品一覧

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  • 兜町狼
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    三条銀行の頭取・高藤喜七郎は、財閥解体政策によって統制を失っている旧三条財閥を、銀行の主導権の下に復活させることを悲願としている。しかし、三条不動産社長・田淵英造は、高藤に対抗し、不動産の主導権による三条系列再編成を画策する。一方、もと証券取引所守衛・山沢新二郎は、某外国人と組み、三条不動産株の買占め、乗っ取り、さらには東京のド真中・日本橋の租界化を企む。買占めの情報は「とり屋」の栗山に嗅ぎつけられ、事件は影の主役、保守政党政調会長の登場をよぶ。欲望の町・兜町を舞台に、利権を追って浮沈する人間の相をダイナミックに描く長編ロマン!
  • 海流
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    遭難した紅洋丸の通信長・豊野道彦を救った密輸船の秘密。沖縄と海の生活を舞台に展開される、波瀾万丈のメロドラマ。海難事故から始まる出だしで、壮大な海洋物の長編と思いきや、ぐいぐい恋愛に引き込まれていく傑作。
  • 右京介巡察記
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    将軍代替りのたびに、各藩へむけて発向せしめられた幕府巡察使は、しだいに初めの意義がうしなわれ、形骸化してきている。各藩が失政をおおいかくすため、巡察使に対して酒色と賄賂の奸策を用い、その口を封じようとしたからだ。だが、その年の3人の正副使のなかに、ひとりの気骨ある武士がいた。瀬名伝右衛門。巡察の古習を守ろうとする正義のふるまいは、各藩にとって、若々しいかぎりであった。しかし、藩の秘密を守ろうとする奸計にはめられた伝右衛門は、腹を切って果てる。その怨念を承けついで日かげに育った一子・紫右京介は……。神変無想流をきわめた虚無的な瞳の美剣士が、父の仇を討つ時が刻々せまる!
  • しょうゆ顔少年の謎
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    「おしょうゆ顔」世代のダンディズム研究。汗なし、涙なし、脂気なし。「朝シャン」で髪を整え、バーゲンに賭ける青春? ポスト新人類の思想と行動を鋭く分析、時代を読む痛快キーワード集――「もう、早く洗面所あけてよ。私だって使いたいんだから!」「一体なんなんだ、キミたちは!」……しょうゆ顔少年の朝、至福のひとときは姉貴の悲鳴によって破られる。シャンプー、整髪、お肌の手入れ。東にバーゲンあれば、青春を賭けて並び、西にパーティーあれば、タキシードで駆けつける。彼らのダンディズムとは何か? 軟弱と笑わば笑え、現代少年生態図鑑。
  • シバテン群像
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    高知に棲息する天狗の幼虫的存在で、道行く人に相撲を挑み、1000人から勝ちを得ると天狗になれるという、妖怪・シバテンを題材に、江戸時代から明治開花の御世までを舞台に、坂本龍馬なども登場させて、虚実綯い交ぜの民話風味わいの滑稽譚集。
  • 薔薇の木にバラの花咲く
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    潔癖で清純な心の持主の黎子は、アルバイトをしながら大学で学んでいた。戦災で両親を失い、肉親は姉ひとり。人の負担になるまいと肩を張って生きている彼女の前に、名門の建築設計士の叶が現われる。叶は黎子を愛し、若い直情から、彼女の肉体に愛の烙印を押した。黎子に静かな愛を寄せていた誠実な鳴海は、事情を知ったとき、男らしく耐えて、黎子と叶が結ばれることを願った。が、それは、黎子を蟻地獄のような苦しみと迷いに追いやるのだった。純粋な処女の心理と、愛情の哀しみと美しさを追究した、清爽な抒情あふれる青春ロマン。
  • 夜と昼と
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    静子は過去に一度結婚したが、夫に女ができると自ら身を引いて別れるような、内気なやさしい性質であった。姉の愛子の家に、妹の珠子とともに身を寄せているが、姉たち夫妻のいまだに新婚気分の漂う幸福そうな様子、バレエに打ち込む珠子に較べ、女としての自分の幸福を夢みることもあった。静子は姉の夫の弟の和夫に親しみを感じていたが、和夫の方も共かせぎを続ける妻のさばさばした性格とは違って、いつも「女」を意識させる静子にひかれてゆき、やがて二人は周囲の人々の目を忍ぶ暗い情熱に結ばれてしまう。現代社会における愛のあり方を追求した力作。
  • 鶴の来る町
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    南国・薩摩半島の農家に生まれ、枕崎のあいまい屋で働いているかね子は、一度だけ男にだまされたことがあった。それ以来、男に気を許すまいと誓っていたのに、蜂飼い男の刀祢吉が店に現われたとき、ふしぎな心の動揺を感じた。刀祢吉は、妻に先立たれ、まだ幼い一人娘をかかえた、風采のあがらない男だった。なぜ馬ヅラの蜂飼い男に惹かれるのか、かね子自身にもわからなかった。まして、それが悲しい運命の序章になるとは、夢にも思わなかった。……この作品は、貧しく世間知らずの二つの魂が、幸せを求めてのたうつ姿を、社会性のある眼で捉えた、美しい心の歌である。
  • 忠直卿行状記
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    越前宰相・忠直には、沸々たる不満がたぎる。二代将軍・秀忠の兄・秀康の長子に生まれ、大坂の陣にも東軍随一の戦功をたてながら、恩賞は薄かった。「血統から言えば、わしが将軍となって当然の身分ぞ!」忿懣は忠直を酒色に走らせて、やがては狂乱の殺戮をほしいままにする。愛妾の一国とともに罪人の処刑を見物し、鮮血のなかに盃を傾け、果ては罪なき家臣に無理難題をつきつけて成敗する。残虐の裡に無上の快楽を求めていた。忠直の妻は、秀忠の娘・勝姫である。狂気の中に身を滅亡の淵に追い込もうとする夫の行動を、彼女は江戸に告げた。独自の新解釈による「忠直卿行状記」ほか9篇を収録。
  • 地場者
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    地場者、それは日のあたる証券会社の椅子から振り落とされた一匹狼たちである。大相場師と謳われた亡父の夢のお告げに人生を賭けようとしている神沢、客の株券で思惑を張り1800万円の大穴をあけて悩む隅野。彼らは、喫茶店ナインに集まっては自嘲をくり返し、情報を囁きあうのだ。そこで神沢は資金繰りの秘策を練り、隅野は逃亡を決意した。しかし、所詮は地場者、神沢は空しく高騰を続ける相場を傍観するだけだったし、隅野もこの街の魔力から離れることはできなかった。兜町の影に生きる男たちの生態を生々しく描く「地場者」のほか、企業小説2篇を収録。
  • 鮮血洋燈
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    洋燈(ランプ)に隠された、ロマノフ王朝最後の王女・タチアナの宝石を巡って、ロシア、満洲、日本を舞台に繰り広げられた殺戮と惨劇。だが、実はその宝石は、ある日本人が軍に供出していた品で、ある日本の大臣が秘匿しようとしていたことがわかり……。元・日本探偵作家クラブ会長の手による、戦争が生んだ狂気を描いた傑作ミステリー。
  • 戦国兄弟
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    敵の内部を分断する反間苦肉の策。秀吉一流の調略に見事はまった織田信雄は、亡父・信長以来の家老・岡田重孝の誅殺を策した。豪邁の士・重孝は「さらば死に狂いの働きを見せよう」と主の面前に進む。暗愚な信雄に、戦国武士の死にざまを示そうというのだ。深傷を負いながらも、なお屈しない凄絶の暗殺劇だった。そして、兄への諫言も空しく残された重孝の弟・義同は憤激した。織田・徳川連合軍相手に奮戦し、小牧長久手の戦いに発展してゆく。義同はやがて前田・加藤両家を転々するが、その雄偉なる骨格、性根は、戦国の世にも異彩を放ってやまない。剛毅に己が信念を貫いた「戦国兄弟」の生涯を描く。
  • 神々の岩壁
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    南は、ハーケンを打つ右手に、異常を感じた。手ごたえが甘い。垂直300メートルに屹立する衝立岩にとりついて3日目、最後の一滴の水もつきていた。バランスを失って、危うく墜落しそうになる。もはや彼の心には、岩に対する憎しみだけがあった。登攀不可能といわれる衝立岩は、神々の手に守られて、人間を拒んでいるかに思える。それでも、南は危険な垂直の前進をやめようとしない! 少年の日、登山家を夢見ていらい、ヒマラヤを志して精進を続けた、天才的クライマーが、魔の谷川岳、衝立岩に挑む姿をえがいた実録小説「神々の岩壁」はじめ山岳小説4篇。
  • 新編 八犬伝
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    おなじみ、苗字に犬という字があり、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌それぞれの文字のある玉を持つ、8剣士ならぬ8犬士の物語。日本文学最大の長編と言われる滝沢馬琴の名作を、剣豪小説の名手が描く!
  • 小次郎と武蔵の間
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    佐々木小次郎が宮本武蔵に敗死した後、豊前細川家では長い間、兵法者を召し抱えていない。藩主・忠利が、小次郎の死を哀惜したからに外ならぬ。10数年後に、その忠利が見出したのは、二階堂流の松山主水であった。知行800石で召し抱えられた主水は、軽捷無類、魔法としか思えぬ剣の妙手であった。忠利は、小次郎と流祖を同じくする主水を寵愛した。肥後に国替えになった細川家で、やがて忠利と父・忠興の間に、新旧の相剋が起こる。忠興の家来が主水に辱しめられた事件は、火に油をそそぐ結果となり、「主水、討つべし」と忠興は激昂するのである。武芸者の意気地を描く「小次郎と武蔵の間」ほか8篇。
  • 告白・女心遍歴
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    幾度も職業を変え、貧に悩み、さまざまな傷心を、人の何倍か味わった水上勉は、人間のおそろしさにおののき、しかも人間を愛さずにはいられない。「女心遍歴」という言葉の中には、理想の女を求め、裏切られ、やはりそれを思うことをやめられない男の、せつない祈りがこめられている。また、みずから破戒坊主と称して、女性とのもつれ合いを「告白」するとき、水上勉の心には、愛へのはげしい願いが、こみあげてくる。……自伝的な、この2つの異色作は、著者の作品群の中で印象的な位置を占め、著者の心の記念碑ともいうべき、美しくかなしい物語である。
  • 皇女和の宮
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    有栖川宮熾仁親王と婚約するも、公武合体・尊王攘夷で揺れる幕末の、江戸幕府と皇室と複雑な関係から、将軍・徳川家茂に降嫁することになった和の宮。大政奉還の後、二人は再会するが……。巨匠・川口松太郎が描く、幕末のヒロインの物語。TVドラマ化もされ、またこのドラマが縁で平幹二朗と佐久間良子が結婚へ向かったことでも話題になった作品。
  • 慶長大判
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    関ヶ原の戦いの翌年、徳川家康は江戸大判座で大型金貨を鋳造し、日本で初めての全国的流通金貨とした。その金貨を届けるために男たちは……という表題作はじめ、人情や愛嬌のある人々を描いた、8作品の短編集。
  • 国枝史郎伝奇文庫 暁の鐘は西北より
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    帝政ロシアの極東政策が、ひそかに日本に上陸か? ……得体の知れない奇妙な建物、浅間山の谷間にあるという人体建築の秘密とは? 日本人ばなれした濃艶な娘・ニナ小夜子をめぐって、泉東十郎と坂部軍之進との激烈な恋あらそい。また、オリガ桜子一党と人体建築の主・溝呂木信兵衛一党との凄惨な確執。世紀末的症状を現わす田沼時代の、秘密に満ちた多様な人間の綾なす絵巻!
  • 偽りと真実のあいまに
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    たみ子とのぶ子は、魅力的な結婚適齢期の姉妹である。よく似た顔立の2人だが、性質は対照的で、姉は引っこみ思案、妹は積極的でコケティッシュでさえある。ある日、のぶ子は、デパートの特売場で好意を感じている好青年・野崎正雄と出会い、急速に親しくなる。そこでのぶ子は、野崎とたみ子を結びつけるために、野崎の若い血潮を燃え上らせ「飢餓状態」に引き入れようと企んだが……。ユーモアと健康なエロティシズムで愛情の真実を描いた「偽りと真実のあいまに」の他、「ハシカのようなもの」「辛抱づよく生きたS氏の像」「私の犬はレオという」「猫」「老婆」を収録。
  • 甘いホテル
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    いっけん英国紳士風の直江一良は、「善良な市民のよき相談相手」と称する《直江コンサルタント》を開いている。ある日、麗しい女性の依頼人がやってきた。彼女は細谷てい子といい、金力にものをいわせて温泉マークのホテル建設を狙って画策している萩原仙三に対抗して、品格あるホテルを建て上品な保養地にする計画の実現に力を貸してほしい、という相談であった。躊躇している直江のもとに「彼女こそコール・ガールの組織を操る悪女」という怪電話があり、助手の紀子と竜平の応援をえて、俄然真相究明にのりだす。笑い・スリル・お色気に溢れるユーモア・ミステリー。
  • 花の墓標
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    勤め先のアメリカ人商社が、密輸容疑で捜索された日、厚子は、社長の使いだという背の低い男に、車で連れ去られた。彼女は、3日後、轢死体となって発見された(「黒い首飾り」)。両親のいない勝子は、幸せを求める女ごころから、隆鼻手術を受けた。医者が、彼女の鼻に入れたプラスチック材に、ダイヤをひそませたことを彼女が知るはずもなかった。彼女は、荒川土手に死んでいた(「鼻のない顔」)。……占領下の日本の街々で、人知れず散った女性たちに、著者が花を捧げるつもりで綴った、異色連作小説7篇を収録する感動的名篇。
  • 歌舞伎剣法
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    15歳の美少年・山三郎は、蒲生氏郷に召し抱えられたが……という表題作はじめ、五味康祐、柴田錬三郎とともに、剣豪小説を支えてきた著者による傑作8編。
  • 佳人
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    一日中、子供用の肘かけ椅子に行儀よく坐って、紅殻色の出格子にはめこまれた小さなガラス窓から道路をのぞいていた、足なえの童女、その名は圓(つぶら)。薄い皮膚に「いのち」を包んで、それは幻のように美しい童女であった。女にとって、いちばん華やかで夢多い季節になっても、彼女は10歳にも満たぬ躯しかなかった。が、数奇な運命をになう彼女に、結婚の日が訪れる。それは非情な忍従を求める、おそろしい日々の明け暮れだった。清純に死を選んだ彼女が残していった紅絹の匂い袋……。直木賞作家・藤井重夫が哀切な筆でえがいた佳人の生涯。
  • まぼろしの人
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    初恋の女性との結婚生活に失敗した私は、いまふんぎりの悪い独身生活をつづけている。ある日、私は、既に人妻となっているリキ子と、37年振りに再会した。私とリキ子には、東北のS町で幼い性の遊びをしたという遠い記憶がある。それは異常な老婆の仲だちで行われた暗い彩色画のような、心の歴史の一齣であった。幼い体験から出発した二人は、それぞれに辿った人生の半ばを過ぎた頃、ホテルの一室で語り合う夜がめぐり来るとは、夢にも思わなかった……。人生のたしかな実感に裏打ちされた中年男性の抒情を流露させた「まぼろしの人」ほか4編収録。
  • チンネの裁き
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    ヒマラヤ遠征隊のリーダーとして有名な蛭川繁夫が、剣岳チンネをめざして池の谷左俣の雪渓で落石死した。剣尾根のドーム壁を登攀していた木塚健は、落石が3方から起こり、その上にそれぞれ人がいたことから遭難に疑惑を抱く。しかも、アイゼンの紐が切れていた! 何者かの作為を感じ真相の究明にのりだした木塚と蛭川の兄・一郎の前に立ちふさがる、山の偉容となまぐさい人間関係……。この「チンネの裁き」は、美貌の女流アルピニストをめぐって山の掟をやぶった山男たちの愛の確執から、登攀ルートに企らまれた完全犯罪が山の裁きをうける顛末を、逞しい筆致で描いた異色作。
  • じゃが太郎兵衛無惨帖
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    日光と上野にある輪王寺を守る宮様に仕え、快剣・南蛮刀法を自在に操るじゃが太郎兵衛は、義経の後胤説もある、神出鬼没の動きをする剣客。泰平の御世を喰い物にする水野出羽守忠成とその一味を相手に、胸のすく大活躍をする! テンポのいい文体で描く連作短篇集。
  • この子の父は宇宙線
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    11人の女性だけを月に送り込んだ国と、9人の男性ばかりを送り込んだ国があったが……、という表題作はじめ、山岳小説で有名な著者が描いた、貴重な4つのSF小説。現在の電気通信大学卒で気象学者という、理系の作者だと実感できる。
  • エデンの海
    3.0
    瀬戸内海にのぞむ女学校に、新任教師として赴任した南条は、教師の間で「問題児」として見られている清水巴に惹かれて行く。複雑な境遇のため祖母のもとで育った巴は、「成熟の側からは不逞にみえ、未熟の側からは可憐にみえる」特異な少女であった。教師として巴に対しながらも南条は、彼女の姿態の中に女を見、はげしい感情にとらえられる。二人の行動は、周囲の好奇の目にさらされて行く……。教え子への想いに、教師としての限界に悩む青年教師と、純粋な感情のままに、奔放にふるまう女生徒との愛の行方を、明るい太陽とひろがる海を背景に描き、青春の光と影を鮮やかに刻む傑作ロマン。
  • 国枝史郎伝奇文庫 猫の蚤とり武士(上)
    -
    秘密結社・明暦義党は、徳川幕府転覆を謀る組織である。首領の鵜の丸兵庫は、由井正雪の異母弟で、猫の蚤とりという賤業に身をやつし、義挙の機会を狙っている。だが、盟主とあおぐ紀州・頼宣の違約により、計画の実現は容易でない。松平伊豆守の女隠密・梶子、頼宣の嫡孫・萩丸、兵庫の恋人・菊女、義党にとって凄愴な敵・刃三十郎など、種々多様な人間模様の、種々多様にからみあう、謀反と反逆と宝探しの面白さ。<上下巻>
  • 国枝史郎伝奇文庫 明暗二道
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    戯作者の鵞湖亭茅舎が、木曽へ向かって旅立ったのは、天保10年の夏のことでした。鳥居峠まで来た時でした。一人の武士が鵞湖亭を見詰めながら立っていました。ところがちょっと意外なのは、その武士が顫えていることでした。…………老婆が一人崖っぷちに、切り倒されておりました。(さっきの武士が切ったんだろう)(抵抗力もないあんな老婆を、何故あの武士は切ったのだろう?)…………鵞湖亭茅舎の行く先々にもちあがる、意外、不思議な事件の数々!
  • 花嫁の父となりぬ
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    娘の結婚に、どこの家の父親も……。銀行員をしながら作家をしていた著者の、ユーモアあふれるホームドラマ。父と娘の愛情を描き、連続ドラマにもなった作品。
  • カミさんと私
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    結婚して25年の雄三夫婦。カミさんは男8人女3人の11人兄弟姉妹の7番目で、実家にいるときは7番さんと呼ばれていた。銀行員をしながら作家をしていた著者の、ユーモアあふれるサラリーマンもの・夫婦ものの物語。
  • いとしい恋人たち
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    幼い頃に父を亡くし、母の手一つで育てられた矢沢次枝は、恋人・勝田伸にプロポーズされたことを、母に言い出せなくて悩んでいた。依怙地な母は、娘の様子に恋人の存在を感じても、知らぬ振りをしている。伸はそんな状況のなかで、自分自身の勇気のなさに苛立ちつつ、次枝の態度に歯がゆさを覚える。次枝母娘と同じアパートに住む宮内咲子は、勤めのかたわら夜は学校へ通っているが、同級生の加治千太のやさしさを好意以上のものと感じながらも、伸に心ひかれるのだった。それぞれの思いを胸に秘めて、ひたむきに生きる恋人たちの姿と、人々の善意と哀歓を描く青春長編小説。
  • 野火
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    若い兄弟の孤児が、つまずきやすい青春を支え合い、貧しいながらも美しい恋を得て、人生行路を乗り出す、正義と純情の現代ロマン。競馬場のシーンがたくさん出てきて競馬ファンにもおすすめの1冊。
  • 冬の椿
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    戦火がいよいよ烈しさを加えて来た昭和19年、画学生・笹田香澄は、母とともに鎌倉に疎開して来た。隣家の青年実業家・瀬木龍彦は、香澄の美しさに惹かれ結婚を申し込んで来るが、香澄の心には同じ研究所の画学生・伊吹慎一の面影が焼きついて離れない。しかし伊吹に赤紙が来て、応召の前夜、香澄は伊吹に抱かれた。……何年か後、香澄は財力にものをいわせた求愛の前にくずれ、瀬木の妻となっていた。しかし戦死を伝えられた伊吹が突然生還し、香澄の情熱は再び燃えあがった。ふとした事で知った革染の美と伊吹への恋が、香澄の前に明るく開けて来る……女の恋と情熱を描く長篇!
  • 第三の火
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    滝村くみ子は、青森行きのみちのく号から水戸駅に降り立ち、東海村へと向かうが……。北海道初の女性作家、『もめん随筆』を書いた女性随筆家による傑作。
  • 生きる場所
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    結婚5年目の伊乃、南仏リビエラのハインリッヒ……。山田耕筰に師事するも、病気のため音楽をあきらめた作家による傑作小説集、全9篇。
  • 新粧
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    新婚旅行に出かける香澄と晴彦。蛇のびっくり箱の悪戯に、電車の中は大騒ぎに。そこに居合わせた晴彦の知り合いの竹内と出会い……。北海道初の女性作家、『もめん随筆』を書いた女性随筆家による、若者たちの姿を描いた傑作。
  • 失踪
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    超満員の観衆でふくれあがった後楽園球場。6回表、突如、自からマウンドをおりた東京イーグルスの渡部投手は、球場から姿を消したのである。その夜、若手実業家・副島秀雄が絞殺され、現場に渡部投手のシガレット・ケースが落ちていた。さらに翌日、バーのマダム・木下綾子が絞殺された……二重殺人事件……。敏腕の速水警部は、事件の裏にひそむプロ野球の暗黒面に捜査の手をのばした。一方、独自の推理で「失踪と殺人」を追う弁護士の百谷泉一郎・明子夫婦の活躍。複雑にからむ事件のナゾを明快にさばく二人が、やがて探りあてた犯人は……。
  • 思はぬ人
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    戦後の混乱した世相と、その中に生きる人間のひとひとりの苦悩とを、『人生劇場』の尾崎氏一流のユーモラスな筆致で描いた傑作、全4編。
  • 子供の眼
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    利発な、長いまつげをした小学校3年の修。実母は病気で世を去り、新しく来た母・幸子は歯科医で、結婚後も実家の仕事場通い。父も勤め人だし、家を切りまわすのは若い叔母の喜世子だけ。黙って梨の実をかじる修の童心の四季に、父の不満や義母の気苦労、婚期にある叔母のあせりなど、おとなの生活と愛情の重みが投影する。「第二の母をもった私の経験が、この作品にいちばん入っている」と作者は自らいう。一度はこわれかけて、また作り直される善意の人々の<家庭>の中に、ひとり眼をみはる修少年のすがたを、流麗の文章にうたいあげた秀作。
  • 今日のいのち
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    才色兼備の南方理子は親のあとを継ぎ、医者になる決意をしていたが、戦争で失ってしまった青山の病院を再建する話とともに、青年医師で研究者の吉成朝巳がプロポーズをしてきて……。山田耕筰に師事、音楽を目指した病気で断念した著者の傑作。石原裕次郎、津川雅彦、浅丘ルリ子らも出演して映画化された作品。
  • 吸われざる唇
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    スター軽車輛工業の人事課長・塩地銀吾が殺された部屋には、元社長の娘・古城依子がいた。なぜ美貌で貞淑な人妻・依子が、夜のホテルに塩地を訪ねたのか? 一度ならず三度までも……。この秘密をめぐって、単身九州支社へ去った依子の夫・古城益美と、彼らの仲人で総務部長の垣内京三の不可解な心理。事件の周辺に見え隠れする、警備係・淵上唯一の沈痛な表情。依子への疑惑を解こうとする千尋警部補と、その友人で彼女に魅せられた白藤浩哉。真犯人は誰か? 乱歩賞・直木賞作家の多岐川恭が、複雑な恋愛心理を軸として、運命の波に弄ばれる男女の葛藤を描く、長編推理ロマン。
  • 寄席行燈(上)
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    芝居ばなしで一世を風靡した落語家・三遊亭円朝が、人気を捨てて敢然と新しい素話を目指して苦闘する。『法善寺横町』『桂春団治』の著者、十八番の芸道物。<上下巻>
  • 仮面と衣装
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    港湾の小都市・南浦市のパチンコ屋の娘・戸田松子が堕胎し、そして縊死した。日日新聞の支局付記者・番匠谷人志は、松子の死を疑い、調べてゆくうち、ヤクザの大里組と葦原組との争いの中に巻きこまれていった。何かを画策している大里組の小湊正美、しばしば番匠谷の危難を求う傷病軍人・城励太郎、妖艶な芸者・つた代、女給・ミリー。サスペンス溢れるスリラー長編。
  • としまあず
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    30代の女の盛りを楽しもうという、としまのぐるうぷの名誉会員・その子は、富士大学教授夫人の美女である。愛の充たされぬ夫との生活を過して来たその子にとって、熱烈なファンである新進オペラ歌手・柳瀬俊吉の愛の告白は、青春が再び甦り、女としての充実した時を予感させる快いできごとであったが……。虚構の物語の中に女性心理を追究した力作長編小説。
  • 由比家の姉妹
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    異国で迎えた祖国敗戦の日から幾多の辛酸と闘って生きていく二人の健気な姉妹。満州・大連からの引き揚げ者の女3人の家族が、周囲に何度もだまされながらも、けなげに生きる様を描いた傑作。焼け野原となった東京で、父親を待ちながら……。巨匠の麗筆が全女性に訴える敗戦の哀歌。
  • 無頼空路
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    加島は東京駅で、元海軍の機長に護衛を頼んだ。名古屋に着いてからのことを。機長は鉄道で行くと言うが、加島は飛行機を使うという……。守るのは現ナマ。ある企業の株主総会へ向けて、ある計画が……。経済小説の第一人者による、共同通信経由地方誌配信の連載小説。
  • 肌は匂っていた
    -
    デパートに配送ミスの苦情が来た。ワイシャツがパンティにすり替わっていたというのだ。配送担当の枝里子は、自分のミスでも責任でもないという思いを抱きながらも、お客様の家へ謝りに行く。そして家に帰ると、結核の夫が待っているのだった。そして、意外な事件が起こり……。サスペンス感もあふれる、働く女性の物語。
  • 女の港
    -
    丘の上にあるカトリック系の女子学園。港を見下ろすことができる。西川はそこで英語を教える、数少ない男性教師である。信者ではないが、司祭をしている叔父の紹介で勤めているが……。周囲の人々との関係性を描いた、生活感のある傑作。
  • 私の耳は貝の殻
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    引き揚げ船で日本に戻ってきた奔放な美少女が、サーカスで暮らしたあと、波瀾万丈の人生を送る。社会性も常識もない彼女だが、エネルギーあふれ野生的、そしてなにより魅力的だ。女優としてデビューし出会った、セクハラ親父の大金持ちにもひるむことなく、手にした財産もすべて寄付してしまう……。ジャン・コクトーの詩から取ったタイトルも印象的な傑作。
  • テント劇場
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    作者の得意とする大阪は河内を舞台に広げる男女の恋愛絵巻。どさ回りの一座がテント劇場にやってきて、大入り満員に。大学中退の演出家に惚れる、座長の娘二人。しかも姉の方は、看板スターの妻なのに……。複雑な三角関係を中心に、様々な男と女の関係を描いた作品。今村昌平監督の初監督作品「盗まれた欲情」の原作にもなった傑作。
  • たれかが呼んでる
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    本州最北端のふのりの採れる集落。15歳になったスズは、大農の長男のもとに嫁いだが、姑の気に入られず、やがて、実家にかえされる。スズの流転の人生は、ここからはじまる。ひたすらに愛を求めるスズは、その後、若い教師、行商人、牧場経営主、脱獄囚、牧夫と関係し、次々に子供を産んでいく。6人の男に身をまかし、10人の私生児を産んだ、スズという女の一生を温い目で描いた力作。
  • おこまさん
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    「おこまさん」は、小ぶりな身体から生れた愛称である。年ごろの一人娘・萱子と二人ぐらし。亡夫の遺志で建てたアパート「松の荘」の持主で未亡人。親切で世話好きなおこまさん母娘を中心に、現代社会の縮図ともいえる、男女さまざまな10人のアパート止宿人の生活から、笑いとペーソスを織込んだ人生悲喜劇が展開される。庶民的ユーモア溢れる長編小説。
  • 父の秘密
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    中学3年生の娘は、年末のある日、父と暮らす家の古土蔵を大掃除していたら、ある家族の写真を見つけてしまった。それは、昭和19年5月、東京・麹町の家で、その家族が撮った1枚のようだったが……。戦争を抱えながらも、懸命に戦後を生きて行く家族たちの物語。
  • 知床岬殺人事件
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    涼たる北の秘境で、映画づくりに情熱をかたむけるグループを襲う不気味な殺人者。一行に加った怪しい出資者の正体は? 愛憎入り乱れる人間模様の長編推理小説。(講談社文庫)
  • 黒髪日記
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    女学校を出た彼女は、仕事場である男性と出会い、恋愛結婚をした。東京・渋谷に住む、この若い夫婦の元に、召集令状が届いた。そして、夫は戦争に行ったのだが……。戦中戦後の都会の中での、女性たちの本音と生き方。少女小説の元祖といえる作家による傑作長編。
  • 化身
    5.0
    琵琶湖が一望に見下される泰門庵の庵主・梵仙は、眉涼しく筋骨たくましい青年であった。尼僧の舜海も、画学生の阿井子も、祗園の美しい芸子すら、身を投げだして悔のない魅力をそなえていた。しかし、法燈のもとの愛欲の業は、五条の親分の怒りを誘い、梵仙の法衣もまた風を孕む。厳しい戒律に反抗しつづける梵仙。彼によって女の灯を点された舜海尼。ここに生々しい人生図があった。……
  • ポプラ並木はなにを見た
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    北海道の貧しい村。そこに暮らす、やさしい人たち。小学校の吉岡先生は、子供たちに人気がある。そして、独身でまだ若い。 ある日、新潟から津軽海峡を渡ってきた祖父と孫がいた。村の人たちは心配して……。テレビドラマ化もされた感動の物語。
  • 薔薇荘殺人事件
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    全作品、「問題篇」と「解答篇」に分かれ、読者の挑戦を待つ、楽しめる本格ミステリー。名探偵・星影龍三が、見事すべての謎を解き明かす! 小栗虫太郎の黒死館を摸した薔薇荘で起こる殺人のトリックとは……という表題作ほか、本格ミステリーの巨匠の手による、全7篇の傑作ばかり。
  • 白扇
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    大衆文壇不世出の鬼才・邦枝完二、最後の長編小説。妖気迫る四谷怪談を画く傑作長編! ――山王祭の当日、江戸中村座の金主はスリに財布をすられた。取り返した田宮伊右衛門は、恩にきせて礼金を要求する。その悪党ぶりを見た菊五郎は鶴屋南北に、伊右衛門みたいな化物の侍物語を書くように言う……。
  • 白い密室
    -
    雪が積もった邸宅の中で、大学教授が殺害された。だが、そこはまさに密室だった……。という表題作のほか、「赤い密室」「青いエチュード」など、全8編の本格ミステリー集。巨匠が『りら荘事件』より前に書いた傑作ばかり。
  • 沈まぬ太陽
    -
    福岡の八幡市に住む平凡な一家。近くには動物園があって鳴き声も聞こえる、のどかな生活をしている。娘の一人は東京の大学を出て、銀座の百貨店に入社が決まっていたが、頼んでいた戸籍謄本を両親が取り忘れていたことから、上京せざるをえなくなった母親が昔の恋人と偶然の再会したことで……。普通の家族の幸せを描いた、『糞尿譚』が芥川賞を受賞した作家による傑作長編。
  • 隊長と犬係りと橇犬たち
    -
    西堀隊長率いる南極越冬隊。天候の悪化で、ソリを引く犬たちが……。という表題作のほか、山の中の狼、鷹匠と鷹、土佐闘犬、全部で4つの物語。動物文学を確立させた直木賞作家の腕が冴える傑作集。
  • 嫉ける
    -
    長嶋薬局の若主人・雄太郎は、若く美しい女・戸倉由里亜に心ひかれ、その親友・野田金次郎は、アパートの隣室に住む奔放なファッションモデル・松宮のり子にのぼせ、そして由里亜は、モデル時代の恋人の推理作家・柾目秋介が、のり子と関係をもったのに激しく嫉妬する。由里亜の夫・戸倉作也は、妻の心をとりもどすため、のり子と一芝居うったのだが……。からみあう男女の妬心を描く推理長篇。
  • 金紅樹の秘密
    -
    作家のもとにある夫人から、夫の殺人予告の手紙が何通も届く。友人に相談して未然に防げないかと考えるが……。殺人は起こるのか? はたしてその結末は……。時代小説『若さま侍捕物帖』シリーズで有名な作家が描く、現代ものミステリーの傑作長編。
  • 海は七色
    -
    九州若松港の肉体労働者たちと、そこを取り仕切る親分衆。彼らはみな血気盛んで、ギャンブルにのめり込んでいる。ふとしたことから、海女だったという女と出会い……。北九州の海や島も舞台に、心意気を見せる男たちの物語。『糞尿譚』が芥川賞を受賞した作家の傑作。
  • 加納大尉夫人
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    大阪で指折りのメリヤス問屋の末娘に生まれた安代は、卒直な明るさを持つ娘であった。安代が女学校を卒業した年に、戦争が始まった。ある日、母に見せられた1枚の写真、それが海軍中尉・加納敬作であった。敬作のりりしさにあこがれた安代は、彼の妻になった。少女時代の延長のような稚なさの安代が、帝国軍人の妻らしくなりたいと努力し、緊張するほど、無邪気な失敗がくり返された。そんな妻を、敬作はいとしく思った。戦いは次第に苛烈さを加え、敬作の出征中に、安代は男の子を生んだ。そして半年の後に、敬作の戦死が伝えられた……。ほかに「猫」「山」「二人の女」を収録。
  • 下り“はつかり”
    5.0
    「四時半ごろ、浅見川にいたわたしが六時に東京で殺人をやるなんて不可能じゃないですか」と千家和夫が言う通り、手札の写真は、下り“はつかり”をバックに釣糸をたれる彼のものであった。当日の撮影に間違いなし、と傍証が固められては、丹那刑事も一撃を喰った感じで、南風荘事件の捜査はフリ出しにもどった。…… という表題作のほか、全6編を収める本格派の驍将・鮎川氏の新作推理小説集。
  • 愛の海峽
    -
    女子少年院で更生し出所した清純な若い女性が、世の荒波にもまれながら人間の真実と愛情に目覚めていく、映画化もされた感動の物語。スリ犯の不良少女・多恵子は、女子少年院の生活と院長の息子・弘志の愛情で更生したが、少年院を出て彼女の行く先はなく保護司に預けられた。だがその家で……。
  • ふくろうの歌
    -
    昼は写真工場の工員、夜は定時制高校に通う泰彦に注ぐ母の愛は、母一人子一人ゆえに大きかったが、職場の無理解、定時制に対する世間のハンデキャップから、泰彦は母に抵抗する。演劇部グループ内の恋のさやあて、学生運動、そして絶望、幻滅、孤独、虚無……。現代の若い生命の苦悩と哀歓を描いた長編力作。
  • タイトル・マッチ殺人事件
    -
    霧の深い夜、世界バンタム級チャンピオンのホセ・ネルボと、日本バンタム級チャンピオン・竹中義夫の、タイトル・マッチが行われた。第5ラウンド、リングの中央に進んだ竹中は、突然、異様な苦しみに襲われた。そして、ネルボの勝利が告げられた時、竹中は謎の死をとげた。それに続く、湖上の水死事件と自殺事件。全篇スリルとサスペンスに富んだ、私立探偵・矢笠俊平ものの傑作ミステリー。
  • 明けゆく島々
    -
    瀬戸内海の島に駐在することなった保健婦の俊子。懸命に島の人々の健康を守ろうとするが、島の風習とは対立してしまうことも多い。そういう島ならではの事件を経験しながらも、奮闘して成長する。『Dr.コトー診療所』などにも通ずる、僻地医療作品の傑作。
  • 妙齢失わず
    -
    本を読まない人を馬鹿にしているちず子が久しぶりに実家に帰ると、姉の明子が出迎える。その明子は、実は子供を……。大人の女性たちの心模様を、詩的な風景描写をまじえて描いた、日本を代表する詩人の長編小説。
  • 武四郎探検譚
    -
    動物文学の第一人者が、戦国・江戸時代の歴史的人物を描く、傑作短編7編。蝦夷地探検で名を残す幕末の探検家・松浦武四郎の大自然の中での行動を描いた表題作ほか、鉄砲伝来の種子島、織田信長、今川義元、武田勝頼など、ノンフィクション作家としても定評のある著者ならではの作品ばかり。
  • 武豪列伝
    -
    動物文学の第一人者にして、ノンフィクション作家としても多くの名作を残した著者による、12編の傑作。山岡鉄舟、千葉周作、沖田総司、嘉納治五郎などを見事に描いた作品。
  • 濡れにぞ濡れし
    -
    恐怖と表裏をなしている幼年時代の性の記憶、羞恥に彩られた少年期の性の意識……京都の三高に入学した私は、倉田百三の「出家とその弟子」の恋愛観、ひいては親鸞の「歎異鈔」の倫理観によって、新しい精神の世界にめざめていった。性には罪悪感がつきまとう。私には愛を伴わない情慾は考えられない。東大に進学した年、六本木のカフェで女給の柳とく子に逢ったとき、私は「ここに私の妻がいた」と直感する。彼女と旅に出た私は、宿では手を握り合って寝たが、帰京した夜、彼女の下宿で初めて烈しい性衝動に襲われ……。晩年までの性中心の自伝で、絶筆となった長篇。
  • 天国遠征
    -
    大雨の日、筑後川の氾濫を心配する人々。その中に、戦後の新しい時代に、資本家となり芸術に心を傾ける家族がいた。その家の娘は、お芝居に夢中になり、配役で抜擢されもする。そして……。キリスト教をモチーフに人間の罪と罰を、『糞尿譚』で芥川賞を受賞した作家が描いた長編小説。
  • 私も不良だ
    -
    大学の学生寮に住む真弓。友人のお見舞いのために寮の中へ忍び込みたいという、他大学の男子学生の願いに、偽善的な大人たちへの反発もあって……。衝撃的なラスト、親に反発して抵抗する女子大生の心理と行動を描いた、長編小説。
  • 子供は悪魔だ
    -
    弁護士、売春婦、留年続きの大学生が探偵役という3つの探偵小説に、奇妙な味のどんでん返しの短篇を加えた、4つの短篇集。親のすねをかじる子供たち、雪山での死、三角関係……当時の世相や風俗が浮かび上がる背景と小道具が盛りだくさんの傑作だらけ。
  • 山は大きい
    -
    大阪・心斎橋で、田舎から出てきた少年がスリを働き、地元のワルどもに因縁を付けられていたところ、一人の青年が助けに入った。お金持ちのその青年は、少年を自宅のある東京に連れてこようと上京すると、一人の女性が……。そして、ある事件に巻き込まれ……。少年と青年の交流を描いた感動の名作。
  • 紅だすき無頼
    -
    公儀直参五百石・織部主膳の嫡男に生まれながら、義母との不和から余儀なく家出して5年、今では渡世人「顎外しの勘八」と異名のある信太郎が、ふとした奇縁で雨中に武家娘の危難を救ったが、それがまだ見ぬ許嫁のお雪だったとは……。という、可憐な美女のひとすじの恋慕絵巻をくりひろげる「紅だすき無頼」ほか、主君の悲哀を察して処女妻を残したまま放浪10年を送る武士の意地を描く「めおと春秋」、天下の剣豪競い立つ幕末期、甲源一刀流の若い剣士が男谷信友・高柳又四郎の情の鞭に鍛えられてゆく「剣客」。ほかに、動乱期に狂い咲く仇花を描いた「夜の花道」などを集めた傑作集。
  • 花嫁太平記
    -
    親藩・松平家の江戸留守居役を、倅の藤太郎に譲って隠居した藤翁は、同藩目付役の娘・お乃芙を倅の嫁に迎えたが、藤太郎は国事に奔走するため、妻と相談の上、脱藩する。家名の断絶をおそれて倅を勘当した藤翁は、夫を信頼する嫁の強さといじらしさに心うたれて、勘当を思いとどまる。という、幕末の藩邸にありがちの事件を描いた「花嫁太平記」のほか、格式ばった武士階級の中に人情味を汲みとった「藪うぐいす」「ばかむこの記」や、勤皇浪人に危難を救われた男嫌いの姐御が、一夜の情交からすっかり女らしくなる「舞鶴屋お鶴」など、幕末動乱期のなかに義理人情を描いた、珠玉の名作集。
  • 雲を呼ぶ声
    -
    戦後、福岡の炭鉱の街。坑夫たちと農家との関係は微妙だ。その街に暮らす人形浄瑠璃に人生をかける一人の男……。絞首刑になったはずの戦犯など、まだ戦争を引きずりながらも、新しい時代へ羽ばたこうとする人々を、『糞尿譚』で芥川賞を受賞した作家が描いた傑作長編。
  • くれない系図 若さま侍捕物手帖
    -
    両国広小路「娘手ずま胡蝶斎一座」の君太夫が、何者かに殺された。親方・一神は、秘蔵弟子の死をきくと、なぜか花太夫の安否を気遣う。おなじみ遠州屋小吉が駆けつけ取調べていると、花太夫が行方不明となり、常回り同心・矢村小左衛門が検死にきたとき、君太夫の死体は煙のように消えていた。そのうえ小吉は、剣客風の武士に事件から手を引けと威される。花房家跡目相続にからむ一党と幻術師の死闘が展開され、渦中にまきこまれた「若さま」は、船宿・喜仙で淘然とばかりもしていられず、忍者もどきの大活躍をする。数多い作者の「若さま侍捕物手帖」のうちでも屈指の異色長篇。
  • お助け河岸
    -
    江戸の下町、居酒屋「上州屋」にあつまる常連のなかで、奇妙な話が流れた。どこの河岸かはわからないが、その河岸に悩みをもつ者がたたずむと、きっと「旦那」があらわれて窮境を救ってくれる……そこを「お助け河岸」と呼ぶそうな。上州屋の常連客のなかに、いわくありげな隠居がいる。そして、若い浪人・仙之介の闊達な飲みっぷりに、看板娘のお菊はぞっこん惚れていた。その頃、江戸の町に、奇怪な殺人が続発する。第一の殺人は、質屋の番頭・和三郎、彼は「お助け河岸」を探すうちに殺されたらしい。事件の探索に仙之介が立った。意外や若きこの浪人剣土の腕の冴え!
  • おれは不服だ
    -
    バラエティに富んだ6編のサスペンス集。アパートで起きた殺人事件について黙秘する女子大生、痣のある子供を狙う猟奇殺人魔、……。変格作家としてこの作品集も、主要人物の独白が多く、トリックよりも人物関係に重きが置かれている。
  • おえん殿始末 若さま侍捕物手帖
    -
    将軍家の寵妾おえんの方付の奥女中が、宿下り中、謎の矢に射られて死んだ。その背後に秘められた大事件!? ――「ここは柳橋米沢町、船宿喜仙の大川に沿った二階屋敷。齢のころなら三十四五……」一向に格式張らず、何の屈託もなさそうな至極のびのびと育った人柄の若さま。船宿の一人娘で今年19のおいと。二人の閑談をいつも邪魔して無粋さをおいとにうらまれる御用聞き、遠州屋小吉。……ご存じ、若さま侍捕物手帖『おえん殿始末』は、将軍家の寵妾・おえんの方という歌川の局付の奥女中が、宿下りして謎の矢に射られて死んだことから、大奥を舞台に豊臣家遺臣の謀叛事件が発覚する。その底深さに挑戦する若さまの鋭い推理と、優美な剣の冴えが、錦絵さながらに繰り広げられる巨篇。
  • 夜は新しく
    -
    香料技術家の夫・毛利直保が、銀座街頭に連れだっていた若く背の高い女は誰だろう……。平穏な日常生活に退屈した28歳の人妻・由美子の心にしのびよる愛の渇き。そして、濃い眉と逞しい胸をした建築家の小泉青年とともに、バア・トレントで乾したジン・フィズの味が、ひとつの危機の重みとなって冷たくのしかかる。傷ついた美しい獣のような由美子が、死を賭してまで捉えようとしたものは何であったのか……。人妻の不倫に内側から照明をあて、大胆な筆致と濃密なムードに浮彫した野心的長編。永遠にかなしく美しい〈女のかたち〉がここにある。
  • 夜の人魚
    -
    シベリア抑留から生還した、頑固一徹の元・師団長がたどる、変わってしまった日本の世相。清純な長女といわゆるアプレゲールの次女が、社長の息子で漁色家に翻弄され、ついには騒動に巻き込まれるが、その先に幸せをつかんでいく……。
  • 虹の誘惑
    -
    国鉄で若い頃一緒だった津村基幸と祖父江謙吉。平凡な幸せを掴んだ基幸家の人たちと、出世はしたが、道彦という長男が冷血な色魔である祖父江家の人たちの、愛と苦悩の物語を飽かせることなく読ませる。定年後、囲碁だけを趣味に生き、いかなる苦労も淡々と引き受ける飄々たる人生観が魅力的な基幸という人物像が、非常に魅力的に描かれている。
  • 地に満つる愛
    -
    瀬戸内海の同じ島に育った、高校の同級生という二人の青年。一人は高松市の講習所で農業を教えているが、船に乗って島へ帰ってきた。二人は役場に勤めている同級生の女性に声をかけるが、その女性は……。まじめな島の若者たちを描いた名作。
  • 大阪の風
    5.0
    しがないサラリーマンの大川清吉と朝子夫妻、その子どもたちの久子、一郎、次郎3人の成長の物語。清吉が東京支店に左遷させられた後、子どもたちは大人たちの生き方を見て、それぞれの形で自立していく。久子は台湾人との結婚を宣言、清吉と朝子は衝撃を受けるが、一郎と次郎は受け入れる……。長門裕之、南田洋子、浅丘ルリ子らが演じてで映画化された家族物語。
  • 若草軍記(上)
    -
    紀ノ川の近くの館で、真田昌幸・幸村に仕える忍びの又四郎。また猿飛佐助。徳川の策略で秀頼は……。そして真田が動くとき……。大阪城落城前後の攻防のとき、隠密の活躍や人心の混乱を描き、被害を受けた善意の人々を浮彫にした異色時代長編。<上下巻>
  • 若い樹々
    -
    快活で美しい立花理々子には、父がない。中学を卒業すると、東京に出て働きながら夜間高校に学ぼうと決心する。上京した彼女はお手伝いさん勤めをするが、慣れない環境で身も心も疲れていった。そういう理々子の心の支えになるのが、洗濯屋のご用聞きをしている戦災孤児の橘悟くん。周囲の無理解と蔑視に傷つき、また悩みながら、しかし希望をもって彼等は生きる……。幸せを願い、明日をさして伸びゆく若い樹々のような若者たち。働く人たちの愛と生活を暖かく描いて定評ある壺井文学の名作長篇。大映映画化。若い世代に贈る話題の1冊。
  • 死のある風景
    3.0
    妹の誕生日に、謎の失踪をした石山真砂子。嫁ぐ日近く、未来の夢にふくらんでいるはずの彼女なのに……。一方、北陸の内灘海岸で無惨にも射殺された看護婦の春日鶴子。疑惑の人間数人が、いち速く警察のリストに上った。真砂子の婚約者・鳥居、鶴子の同行者・百済木医師、鶴子が裏切ったセールスマンの橋口、鶴子を憎む塩沢という女性たち。金沢から遠路上京して、容疑者のアリバイ崩しに汗水たらす伴刑事の苦労。独特のカンで情報を集めまわるトップ屋の桑原。事件は泥沼におちこむかにみえるが、著者の精緻な構成はひときわ冴えかえる。昭和40年度最優秀作との声が高い傑作。
  • 絞首台の下
    -
    北海道の開墾地で兄と働く近代娘の千早。消息を絶っていた許婚のハガキを手に千葉へ向かうが、そこは刑務所で彼は殺人罪で服役中だった。そしていろいろと周囲に話を聞くうちに、事件を取材した新聞記者が会社を辞めていたり、不可解なことが出てきた。だが、彼は脱獄を……。赤木圭一郎、長門裕之らで映画化された傑作。
  • 見えない影に
    -
    戦後、数年にわたって起きた不可解な3つの事件。社会的地位のある被害者と加害者が、何のために殺し合わなければいけなかったのか、まったく不明な難事件だ。双方同時に殺意を抱くという、加害者もなければ被害者もない、この相互殺戮事件のカギは……。240年以上前にもさかのぼり、そして日米両国を舞台に繰り広げられる、直木賞作家の傑作。
  • 花園を荒す者は誰だ
    -
    渋谷のハチ公前に一人の貧しい青年がいた。古雑誌を売って今晩のおかず代にしようとして。そこにケーキの宣伝カーが現れ、美人のキャンペーン・ガールが登場した……。新しい時代には、金がものを言うことを今さらながら感じた青年は、犯罪に手を染めてでも……。アプレな戦後成長期の日本、そこでもがく若者たちを描いた傑作。戦争中に「糞尿譚」で芥川賞を受賞した作家の手による戦後の作品。

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