橘外男の日本を舞台とした怪奇小説を集めたもの。執筆は1937(昭和12)年から1957(昭和32)年。
初めて聞く名前の作家で、全然知らなかったのだが、江戸川乱歩と生年が同じらしい。
巻頭の『蒲団』を読んで衝撃を受けた。昭和12年の作品などとは信じられない、実に素晴らしく、傑出したホラー短編な
...続きを読むのだ。これこそが名作というものだろう。
感動しつつ、2つめの「棚田裁判長の怪死」を読んでみるとこちらは私には面白くなく、良くなかった。しかし他はなかなか良く、長めの「棺前結婚」「逗子物語」は面白かった。これらに出てくる幽霊は人を取り殺すような悪意の存在ではなく、「善い霊」なので、恐怖メインではないが、なにがしかの感情を喚起する優れた幻想小説だった。
文章は完璧というには遠く、ときどきひっかかる部分もあるものの、「語り」は実に上手く、読者を巧みに物語ストリームに乗せてゆく。人物像や台詞、情景等にはそれなりにリアリティがあり、何から何まで人工臭があってあからさまに作り物めいた江戸川乱歩の世界とは一線を画し、勝れている。
橘外男はこのような怪異小説をを中心にたくさん書いた小説家らしく、これからちょっとこの作家の本を(古書で)集めようと思う。