東京都中央区佃。
江戸時代から庶民の町として栄え、現代でも旧佃島地域は昔ながらの人情と風情のある古い街並みで知られている。
そんな佃で2人のおばちゃんが営む食堂兼居酒屋を舞台にしたグルメ&ヒューマンドラマ。『食堂のおばちゃん』シリーズ12作目。
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昼前のはじめ食堂。今日もランチの準備に一子たちは余念がない。
二三が炊けたばかりのごはんをお釜から電気ジャーに移していく。ガス釜で炊いたごはんは香ばしいおこげができて相変わらず美味しそうだ。
二三がジャーにごはんを移し終えると、今度は一子の出番だ。ホカホカのごはんを杓文字で適量すくい、すばやくおにぎりにしていく。
ふんわり美味しいおにぎりは4つ。一子と二三が1つずつ。残る2つは皐だ。
皐は割烹に修業に出た万里に代わり、先日からはじめ食堂を手伝ってくれている。モデルタイプのスラリとした身体と美形と言っていいきれいな顔だちをしている皐は、化粧をほとんどしていなくてもやはり目を引く。
実はこの皐、最近まで勤めていたショーパブでNo.1を誇った人気ダンサーなのだ。
将来、味噌汁を中心にした店を出したいという夢を持つ皐のために、まずフロアでの接客の勉強をさせているが、天性の明るい魅力は常連たちにも好評だ。また、はじめ食堂で出す味噌汁も勉強を兼ねて皐が作っていて、これも評判がよい。
万里が1人で切り回していた厨房は一子と二三の2人で担当しなければならないため、皐の即戦力ぶりは一子たちにとって正直なところうれしかった。
こうして新体制で回り始めたはじめ食堂。慌ただしかったランチタイムが終わり、休憩時間を挟んで夜営業の居酒屋タイムがやってきた。
皮切り客は常連さんの辰浪康平だ。食堂に酒類を卸してくれている酒屋の跡取り息子である。
いつものカウンター席に座った康平。今日も瑠美と待ち合わせのようだが、いつもと違ってどこか元気がない。二三が理由を尋ねたところ……。
( 第1話「初夏のサラダ祭り」) ※全5話。
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本巻のメインは辰浪康平と菊川瑠美という常連同士の恋の行方です。
康平と瑠美はどちらもアラフォーの独身。はじめ食堂で顔を合わせるうち親しくなり、いつしかデートをする仲となった2人。本巻ではついに互いの両親に紹介し合い、結婚秒読みかというところまできました。
本作の人間模様はこれまで亡くなったり別れたりが多かったので、やっとメデタイ話が♥と期待したのですが……。
営業から配達まで酒屋の中心となって切り盛りする康平に、人気の料理研究家として多忙な日々を送る瑠美。そんな2人が結婚後の生活について出した答えは、なんと別居婚。難色を示したのは康平の両親でした。その気持ちは十分理解できるだけに、どう決着がつくのか気になります。
ただ表題作の第5話で少し希望が持てる展開になりはしましたが、お楽しみは次巻に持ち越しとなりました。 ( 引っ張りますねー。)
その他に、興味深かったことが2つ。
1つ目は、第3話「たまごのキノコ」に登場した鹿肉。
足柄の民宿に小旅行に出た一子たちが舌鼓を打つのですが、鹿の刺し身が大好物な身としては、読んでいてノドがゴクリと鳴りました。
この足柄の鹿肉は万里の修業先である割烹八雲で扱うことになったので、今後の八雲の料理が楽しみです。
2つ目は、最終話でついに『婚活食堂』の舞台、「めぐみ食堂」が登場したことです。訪れたのが康平と瑠美のカップル。付き出し全部乗せと自慢のおでんがやっぱりそそります。
クリスマス・イブの夜はレディ・ムーンライトの手料理。ターキーやチキンの代わりに鶏ガラ出汁のおでん。なかなか洒落ているではありませんか。
残念ながらこの店の常連さんは出てきませんでしたが、恵女将は元気そうでうれしくなりました。
実は、めぐみ食堂に酒類を卸しているのは康平とこの辰浪酒店ではないかと思っていたので、予想が外れて少し残念です。
それでもちょっぴり得した気分になった最終話でした。 ( 今回も名前だけ登場の「食堂メッシタ」も、そのうちきちんと満希さんともども登場させて欲しいと思います。)
営業妨害が入ったり旅先で要が急病で倒れたりと困りごとはありましたが、最後はきれいに収まって満足して読み終えました。