東京都中央区佃。
江戸時代から庶民の町として栄え、現代でも旧佃島地域は昔ながらの人情と風情のある古い街並みで知られている。
そんな佃で2人のおばちゃんが営む食堂兼居酒屋を舞台にしたグルメ&ヒューマンドラマ。『食堂のおばちゃん』シリーズ13作目。
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「日替わり牡蠣フライ、2つ!」
皐のよく通る声が店内に響く。今日のランチのメインは牡蠣フライとあっていつにも増して人気だ。
はじめ食堂の牡蠣は身が大きくジューシーで食べでがある。しかも初代店主の孝蔵が考えた自家製タルタルソースがたっぷり付いてくる。これに小鉢が2品つきごはんもおかわり自由で 700円とかなりリーズナブルだ。
実はこの値段はずっと変わっていない。平成元年に消費税が導入されたときも、その後3度の税率アップのときも、営業努力で価格を据え置いてきたのである。
けれど近年の食材価格高騰の煽りを受け、さすがに経営が苦しくなってきた。このままでは昼営業は赤字に転落するのは目に見えている。
対策としては、50円値上げするか小鉢を1品減らすかが考えられる。そのことについて常連さんに相談してみると三原茂之や野田梓などは値上げの方に賛成で、理由は小鉢は2品食べたいからのこと。
それを聞いてもまだ思い悩む様子の一子たちを見た三原は、所用で訪れた大阪でたまたま入った大衆食堂の話を始め……。
( 第1話「未練のカキ鍋」) ※全5話。
* * * * *
今回は大きな変化はないものの、いくつかの恋模様を核にして展開していきます。
まずは安定したところで、康平と瑠美のその後です。
もう何年も連れ添った夫婦のような2人。今回は泊りがけで北関東酒蔵巡りに出かけます。泊まるのは日光金谷ホテルとちょっと贅沢ですが、新婚旅行代わりだそう。
酒の康平と料理の瑠美。専門家の2人が酒蔵の若夫婦に手を貸すストーリーはなかなか楽しめます。
続いて、新登場の塩見秀明。江戸時代についての著書も多い大学教授です。アニメオタクであまり女性にモテないため独身なのですが、ひょんなことから要の勤める出版社とご縁ができ、接待した要に惚れてしまいます。
この塩見教授、はじめ食堂に通っては要の帰って来る看板近くまで粘るほどの入れ込みよう。一方、好きでもない相手ながら大切な仕事相手でもあるため、困惑する要。教授の恋の行方は !?
そして、これも新登場のシリポーン・ムサクンラット。ショーパブ風鈴のニューフェイスのダンサーで、もちろんニューハーフ。
シリポーンの出身はタイ北東部のイサーンです。真面目で辛抱強い性格のシリポーンですが、日本では故郷の料理が口に入らないため元気がありません。
そんなシリポーンを見て義侠心を発揮したのが万里です。イサーン料理を出す店を探し出し、予約までしてシリポーンを招待することにします。
それを聞いたはなが親切すぎるのではと心配した通り、異国の地で自分に優しくしてくれる万里にシリポーンは恋してしまいます。いきなりシリポーンに口づけされて頭を抱える万里ですが……。
最終的には要と万里が結ばれてはじめ食堂を継ぐのではと思っているので、さほど心配せずに読めたこともあり、この2つの恋の成り行きを大いに楽しみました。
最後にもう1つ、万里についての変化を。
これまで魚、特に尾頭付きのものは食べられなかった万里ですが、割烹八雲で修業するうちにこのままではだめだと気づき、食べる練習を始めます。万里の食わず嫌いは矯正できるのか。興味を引くところですね。
ともあれ安心して楽しめる13作目でした。
追伸
他作品とのコラボもありました。
第1話に ( 名前だけですが ) 登場する2人。
1人は谷岡樹という女性。(『ゆうれい居酒屋』) もう1人は日高真帆という女性。(『婚活食堂』)
どちらも民間の研究者で、要の出版社が仕事を依頼するのですがあいにく都合で折り合えなかったという設定でした。
こんな読者サービスが最近の作品ではよく見られるようになったので、ますます読むのが楽しみになりました。