元・人気占い師だった玉坂恵が営むおでん屋「めぐみ食堂」を舞台にした、連作短編ヒューマンファンタジー。シリーズ11作目。
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その日、恵が訪れのは、東京メトロ新宿3丁目駅から5分ほど歩いた路地にある雑居ビルだ。縦に長細いビルの1階には理髪店が、3階以上の各階には小さなオフィスが、それぞれ入っている。恵の目的の店はその2階にあった。
狭い階段を上った先には「蕎麦居酒屋ひなた」と書かれた看板が上がっており、その脇に胡蝶蘭の祝い鉢が1つ置かれている。鉢には「丸真トラスト」という名札が添えられていた。
「こんにちは」と言いながらドアを開けた恵に、「いらっしゃい」と元気な声がカウンターから返ってくる。明日開店するこの店の女将、桂木日向だ。
日向は昨年末にふた月ほどめぐみ食堂で女将としての研修を積み、この度めでたく開業の運びとなったのだった。
カウンター席5つと2人がけテーブル1つの小ぢんまりした店内を見回した恵は……。
( 第1話「一皿目 蕎麦で愛して」) ※全5話。
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10巻でひと段落と思っていたので、この巻からは何か新しい展開になるのではと期待して読みました。
思ったとおり、新展開の幕開けを祝うかのように賑やかな内容で、恵の初弟子・日向の独立あり、新たに結ばれるご縁あり、古馴染さんたちの久々の登場あり、子どもの誘拐事件ありと、とても楽しめる展開でした。
中でも特筆すべきは、ある常連さんの女性に芽生えたご縁についてです。
そのご縁に巡り会った女性とは、「クールビューティー」沢口秀。自立心と正義感が強く、頭もいい。登場人物の中でいちばんカッコいいと、私が思っていた女性です。
彼女は恋愛しにくい体質であるという設定なので、山口恵以子さんがどんなストーリーを考えていらっしゃるか、前々から気になっていました。
展開は読めてしまうのですが、感動的なラストシーンが用意されていて満足でした。
恋愛しにくい体質と言えば、藤原海斗 ( 男性陣ではいちばんカッコいい!) についてもチラリと触れられているところがあり、それが来たるべきドラマの前フリのように思われたので、続巻もおおいに期待できそうです。
ただ今回は、他作品とのコラボはお休みだったので、少し淋しく感じました。