東雅夫のレビュー一覧
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今年生誕150周年を迎える綺堂のアンソロジー。
今回、初復刻となる「五人の話」は、あの話やこの話の原形だったんだな~、と。この話のこのネタをベースにアレンジを加えてのちの作品としてブラッシュアップされたんだなって気配が感じられて興味深い作品群でしたね。
上記に加えて、戯曲、随筆、年譜と内容充実。
綺堂の随筆は芸談系のネタだとあまり綺堂本人の姿が見えてこないものが多い印象なのですが、本書収録の怪談がらみの話になると、綺堂自身が見えてこれまた楽しく堪能。
詳細な年譜も良かった。しょっちゅう風邪と中耳炎で体調を崩しつつも、ずっと芝居を書き続けてたんだなぁと感嘆。 -
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江戸時代中期、広島・三次藩の武士・稲生平太郎の屋敷を一か月にわたって襲った怪異現象を記録した「稲生物怪録」。
なんだろうね。平太郎本人が豪胆すぎて夏休みの絵日記のような趣で書かれています。書かれてしまっています、かな。普通の精神で乗り越えられる現象ではない怪異の数々。対処はしてみるけど、どうにもならないし、とり立てて被害もなさそうだから、寝てしまえ、という精神にあるのが信じられない。
豪胆というか、実は頭のネジがぶっ飛んでいたんではなかろうか、と邪推してしまいます。
どの怪異なら自分でも耐えられるか、と考えても見ましたが、うぅむ。どれも無理という結論です。一番怖気が走ったのは、十日目の怪異。化け物が変化した友人が訪れ、頭が膨れ上がり穴が空き、中から赤子がぞろぞろと這い出してくる、というやつです。これはしんどい無理です。
この十日目が一番で、それと比べたらと思いましたが、どれもこれも無理です。
平太郎の精神力は尋常なものではないです。
歴史上実在した人物が経験した怪異。本人の記録と本人からの聞き取りという二つの資料が残っていることが、最大の怪異だったりするのかもしれません。
岩が蟹になったり、葛籠がひきがえるになったり。絵で見ると可愛げがあるけども、実際目にしたらとんでもなく怖いと思うんだよなぁ。まず普段目にしているものよりも大きさが違うし。人の顔もそうだけど、意識外の大きさのものが突然現れたら、恐怖以外感じないと思います。
古典を読むつもりでしたが、想像以上に怪異に怯えてしまいました。いや、いい読み物でした。 -
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2021年刊、文庫オリジナルのホラー短編アンソロジー。2001年から2017年に発表された作品が収められている。
冒頭の3編はエッセイである。著者の母親が霊感の強い人だったそうで、著者自身も幾らか霊感があり、何度も霊を見る体験があるとのこと。なるほど、それで幽霊の出てくる物語を多く書いてきたのかと納得。
続く「恋慕」「花車」「慕情」は『律子慕情』なる単行本に収録された連作で、主人公律子の霊体験を、幼女時代からの成長に伴って描いている。この3編が、とても良い。一般的にこれは「ホラー小説」なのか?という疑問もあり、「恐怖をメインとした小説」という定義からは外れ、普通小説としての滋味を持って物語が進む末に、最後に故人の幽霊が出現する。その故人は主人公にとって親しい人々で、遺恨を遺して死んだわけでもないから「うらめしや」ではなく、生者への優しい愛惜を持って立ち現れるのだから、ほとんど怖くない。怖いホラー小説ではないが、怪異小説と呼ぶなら当てはまる。しかしそれよりも普通小説として「良い作品」だと思う。読んだことはないが、小池さんは恋愛小説を多く書いてきた作家なので、さすが、恋愛体験の細かな機微を巧みに描いている。
掌編小説も何編か入っているが、ちょっとしたスケッチといったところか。小池さんは川端康成の『掌の小説』を愛読しているそうだ。
ホラー小説らしく恐ろしい物語を紡いでいる時も、作者の文体は淡々としていていたずらに情動に揺れることは無い。特に文学的に優れた表現は見当たらないが、改行が多すぎることも無く、地味ながら却ってホラーの味わいを際立たせて効果的である。その点、こんにちの他のホラー作家の作品よりもぐっと優れている。
普通小説の味わいを持ち、ふつうに優れた短編小説の入った、良い作品集だった。
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東雅夫・編『文豪山怪奇譚 山の怪談名作選』ヤマケイ文庫。
近代から現代の文豪たちが山の怪異を描いたアンソロジー。12編を収録。
昔から山は怪談や怪異の舞台となり得る霊的な力をたたえた特異な場所であったことが窺える。多くの文豪たちが手を変え、品を変えて描く山の怪異とは……
火野葦平『千軒岳にて』。突然噴火した千軒岳に翻弄される河童たち。
田中貢太郎『山の怪』。猟師の半兵衛が山で体験した怪異。
岡本綺堂『くろん坊』。黒ん坊と冗談で交わした約束を破ったことで起きた悲劇。
宮沢賢治『河原坊(山脚の黎明)』。宮沢賢治らしい世界観の詩編。早池峯山の南にあたる登山口の異世界のような風景。
本堂平四郎『虚空に嘲るもの 秋葉長光』。夜間の登山を禁じられた御山で剣豪が出会った怪異。
菊池寛『百鬼夜行』。剣豪と百鬼夜行との闘いの結末は。
村山槐多『鉄の童子』。未完結作。放浪する主人公が山中に見付けた印度の小鐘。
平山蘆江『鈴鹿峠の雨』。鈴鹿峠で逢った男女は他人には見えず、生きた人間か死んでいるのか解らぬままに不安に駆られる私。
泉鏡花『薬草取』。謎の美女ヶ原は夢か幻か。
太宰治『魚服記』。本州の北端にある山脈を舞台にしたお伽噺のような物語。
中勘助『夢の日記から』。恐ろしい罪を犯した私は夜な夜な悪夢に苛まれる。
柳田國男『山人外伝資料(山男・山女・山丈・山姥・山童・山姫の話)』。柳田國男が描く山人の足跡。
定価770円
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乱歩の怪奇短篇傑作集。ほぼ読んだことのある作品ですが。読めば読むほどに味わい深いです。
「目羅博士の不思議な犯罪」がやはり好き。短篇ではこれが一番好きな作品かな。幻想的な光景が目に浮かび、ふっと引き込まれそうになってしまうところがまた恐ろしくもあります。
何度も読んでいるけど、「芋虫」も感慨深い作品。実は愛情に満ちた作品なのでは、と思いました。「ユルス」の一言が心に刺さります。
「蟲」もなんとも凄い作品。これって「虫」だとダメなんですよね。「蟲」でないと。
「防空壕」は読んだことがなかったかも。少しばかりユーモラスな印象だなあ。まさかそんなオチだとは。 -
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乱歩先生の作品の中でも『猟奇と妖美』をテーマにした作品12編。ミステリー作品は入っていないのでご注意を。
未読作品は4編。
「火星の運河」は『私の夢を散文詩みたいに書いたもの』というだけあってストーリー性は無い。乱歩先生お得意の不気味な背景の中で、主人公は男なのに夢の中では女になって自分の体を掻きむしり血をダラダラと垂れ流す。
何とも意味深な夢に見えるがそこに深層意識などを解釈しようとするのもナンセンスか。
「白昼夢」は白昼の往来で堂々自分の猟奇的犯罪を語る男の話。その男が指差す先には彼の犯罪の紛れもない証が。果たして本当に彼は犯罪を犯したのかそれともからかわれたのか。
「目羅博士の不思議な犯罪」は目羅博士による連続殺人事件の謎解きとそれを止める探偵の話。乱歩先生の作品にはこんなことで人を操れるのか?と思えるものが時折出てくるが、これもその類。そして探偵のモジャモジャ頭はもしかして?
「蟲」は収録作品中もっとも印象深い作品。
これもまた乱歩先生の作品にはよく出てくる、人付き合いが苦手な引きこもり青年が主人公。しかも裕福でプライドが非常に高い。
プライドが高いゆえに途轍もなく卑怯で姑息なことをしてしまうという、相反する行動を取ってしまうのが面白い。人付き合いが苦手で蔵の中に閉じこもる生活をしているのに、自分の欲望を叶えるために自動車学校に通ってみたり敢えて人前に出てみたりと姿勢ブレブレなのに彼の中では一貫しているというところも。
彼の歪んだ欲望はついに果たされるのだが、この作品の真骨頂は実はここから。さらなる欲を出したがために思いもよらぬ事態に陥っていくのだ。タイトルの意味がここで分かる。
彼の欲望と破滅といい、エログロ要素といい、乱歩先生らしさ全開。主人公はあくまで真剣で必死なのに、読んでいるこちらは滑稽な感じすら受けてしまう。ごめんなさい。
様々な愛のかたちと破滅という視点で言えば「芋虫」「お勢登場」もそうだ。乱歩先生の作品は女性のほうが立場が上だったり性格的に強かったりというキャラクターも多い。
「防空壕」は艶っぽさも入れたオチ話のようで収録作品の中では変わり種。一方で焼夷弾が降り注ぐ夜空や燃え盛る町を美しいと思いうっとりと眺める主人公の姿にはなんとも言えない危うさも感じる。
「人でなしの恋」や「押絵と旅する男」という人外もの?もある。しかしこの二編、破滅なのか成就なのかその判断は難しい。
「踊る一寸法師」は「蟲」とは逆にプライドをズタズタに踏みにじられている一寸法師が遂にキレる。「白昼夢」同様、あまりに堂々とされると周囲の人々の正常バイアスが掛かって思考が止まるもの。
「鏡地獄」もまた何かに没頭し暴走していく男の話だが「目羅博士~」同様、果たしてこれで『自身を亡ぼさねばならなかった』ほどの衝撃を受けるのかは分からない。だが乱歩先生の頭の中ではとてつもない狂気と妖美の世界が広がっていたのかも知れない。 -
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気になる作家さんが居るとき、なるべく第1作目を読むようにしている。可能ならば、書かれた順に読みたい派だ。
そんなわけで、最近気になっている郷内心瞳さんのデビュー作が収録されているこちらを手に取る。
そうか。デビュー前から拝み屋としてのスタンスを出しつつ怪談書いてたのか。と驚いた。それから最初から構成力とか文体がずば抜けている。
どうして書き始めたんだろう。供養という意味合いもあるだろうけれど、これでもかというくらい構成を練ったり、余計なものをそぎ落とすような文体は、書いてみた、だけでは収まらない気がする。それはいつか語られるのだろうか。
それから、文末のコンテスト講評を見ると、表現や構成に厳しい世界なのねってなる。だから面白く読めるのか。ありがたや。 -
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三次もののけミュージアムに行ったので、その記念に購入。
絵巻をカラーで一つ一つのエピソードをしっかり見られたのはよかったなあ。
平太郎本人作という『三次実録物語』はさすが京極夏彦先生、非常に読みやすい小説になっていました。
9日目のエピソードは何度読んでもエグいけど。
聞き取って書いたと伝わる『稲生物怪録』は、『三次〜』との相違点が散見されて、その違いを楽しめるのもいい。
読み手側が詳しくないので、その相違点が先生による脚色によるものかどうなのかまでは判断つかなかったのですが、絵もあり、成立過程の違う2種類の物語を一度に楽しめたりと、稲生物怪録に最初に触れる本としては適切だと思います。 -
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童話作家として名高い小川未明の「影の世界」。
アンソロジスト東雅夫セレクト、未明地獄編とでも呼びたくなる
儚げで残酷で美しい物語の数々(厭戦・反戦感情強し)。
小学生のとき「赤いろうそくと人魚」その他を確かに読んだはずだが、
中身が記憶にない(!)……なんというポンコツだ私は(笑)!!
我が半生に一点の悔いアリとすれば、
読書日記を綴り、保管してこなかったことだなぁ……と、しみじみ。
そんなワケで、定番として扱われる人口に膾炙した名作と
比較しようもなかったのだが、ともかく、この本は面白い。
構成は以下のとおり。
後半は特に、不吉な死の匂いが充満する、
大人の、しかも「好事家」向けの作品群。
序
小川未明の幻想文学観を示す随想。
ラフカディオ・ハーン一周忌に寄せた、
恩師を偲ぶ「面影」他。
Ⅰ 妖魔たち
人の形を取って現れる妖(あやかし)。
厭世的な人間嫌いの男が深夜の散歩で出会ったのは……
「電信柱と妙な男」他。
Ⅱ 娘たち
可憐な美女・美少女たちの姿を写し取りながら
世の無常を感じさせ、
結末の残酷さにハッと胸を突かれる作品群。
男たちを足止めし、沈没させる、砂漠の町の
悲しい伝説の銘酒「砂漠の町とサフラン酒」他。
Ⅲ 少年たち
此岸と彼岸を身軽に往還する、
あるいは彼方に攫われてしまう少年たちの様相。
ソログープ「かくれんぼ」の印象を喚起される
「過ぎた春の記憶」他。
Ⅳ 北辺の人々
作者の故郷である上越地方の海辺に張られた幻想の網。
森の中の家でひっそりと手仕事に勤しむ女を描く、
和製ラヴクラフト的なムードを醸し出す
「森の暗き夜」他。
Ⅴ 受難者たち
章題どおり、
理不尽な目に遭って死の恐怖に直面する人たちの姿。
都会で初めて見た機関車に
得体の知れぬ脅威を感じる老婆「血の車輪」他。
Ⅵ マレビトたち
漂泊者の怪しいシルエット。
不老不死の托鉢僧が訪れる度、村の誰かが死ぬ。
彼は死神なのか、それとも、信仰心のない人々に
罰(ばち)が当たっただけなのか……「僧」他。