中山祐次郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
医師でありながら小説家でもある9人の短編小説が詰まった作品でした。あんなに忙しそうなのに、いつ小説書いてるんだろうって不思議に思う凄い方々。
医師であるからこそのリアルな感じが伝わってきて、とても面白かったです。
特に空中テントは、認知症の家族を介護したことある人なら誰しも共感出来る部分がたくさんあると思いました。施設の入所は、家族を見捨てることではなく、プロがみてくれる安全な場所にいれるという考えが広がったらいいな。
私も主人公のお母さんにとても同情しました。介護する人は、自由が奪われて当然なのか、当事者じゃない人達から見捨ててるなんて文句言われる筋合いはほんとにない。文句を言うなら1週間でいいから、在宅での介護を経験してみたらいいと思う。どれだけ大変かはやったことのある人にしか分からない。
あとは救いたくない命も面白かったです。医療従事者であれば、色んな患者がくる。犯人であろうと、被害者であろうと、どんな人であろうと病院に来たら、全力で治療をしなければならない。そこに差別はあってはならないけれど、医療者も人間だから色んな考えが浮かぶよなと改めて考えさせられました。たくさんの人の命を奪った人を救うことは、正しいのか。でも真相解明のためには、犯人に生きててもらって動機を聞き、罪を償ってもらうのがいいような気もする。難しい問題だと思いました。
こんなにたくさんの医師が書いた作品をたくさん読めて楽しかったです。
-
Posted by ブクログ
中山祐次郎のやめるな外科医を読みました。
泣くな研修医シリーズの第4巻です。
手術の回数もこなして、自信もついてきた頃ミスを犯して、患者を危険な目に合わせてしまいます。
手術のしばらく外されて医者をやめようかと考えてしまいます。
誰でも長い人生の中では大きなミスをしてしまう事はあると思います。
私も学生の頃自転車でバイトしていて、大きなミスをしてしまったこともありました。
社会に出てからはそれほど大きなミスはありませんが、それでも思い出せるミスはいくつかありました。
主人公は、末期癌の若い女性が亡くなってしまう場面に出逢うのですが、私もこの年になると高校や大学の同級生を癌で亡くしています。
先日も、親しい大工さんの奥さんが癌で亡くなりました。
お医者さんは常に患者さんの死と直面してるので、本当に大変なと思います。
-
Posted by ブクログ
研修医から六年目へと進んできた外科医・雨野の成長を描く医療小説のシリーズ四作目です。
主人公は六年目になった外科医の雨野。今までは困ったときや難しい患者説明などは先輩医師に助けてもらっていたが、段々と自らが主治医として責任を持たなくてはならない立場となってきている。外科医として患者をなんとか治療したい、けれど患者は治療を拒否している、そんな状況にどのように向かっていけばいいのか悩み、様々な死生観や患者の心に触れて一歩ずつ積み重ねていく最中、自らの執刀ミスで患者の緊急再手術となってしまう。自信をなくし、外科医をやめた方がいいのではないかと悩む主人公だが――。
前作は複数視点から描かれた物語でしたが、今作はまた主人公の雨野先生視点で固定になりました。今回は主人公の雨野先生の悩みが深い話が多かったという印象です。
患者の説明に悩み、病状に悩み、治療方針に悩み、医者として、人としてどうするのがいいのかと悩み、そうこうしているうちに付き合っていた彼女とも上手くいかなくなって悩み、医療ミスまで引き起こしてしまう。一物語だとはいえ、医療畑の医師である作者が書いているお話である以上、きっと現実にもある悩みだったりするのだろうと思うと、どれだけのストレスの中で医師の先生方は患者を診てくれているのだろうと頭が下がる心地です。
特に、治療をするのか緩和ケアをするのかという線引きは難しいものなのだろうと想像します。
私も、先日祖母を白血病で亡くしました。抗がん剤治療に通い、何度も薬の種類を変えて、週一回の輸血で保ってきた命でしたが、最後は祖母本人の希望を尊重して入院・治療はせず自宅での看取りとなりました。何度も担当医師からは『今度来たら入院だよ』『次に来る時は入院の用意をしてくるんだよ』と言われ続けてきましたが、その度に『家に帰ります』と言い張った祖母に先生の方が折れてくれました。治療をやめるということは、そのまま亡くなる方向に一直線になるということ。きっと先生も葛藤があったのだと思います。
けれど、それが本人の強い希望なのであれば、それは『治療を諦める』ことではなく『最後の生き方を自分で決めさせる』ことなのではないかと、今の私は感じています。
けれど、それだけ死に近い仕事をしているのであればなおのこと、主人公の先生にはもっと今の瞬間を大切にしてほしい、と思ってしまいます。
忙しさにかまけて会いに行けなかったせいで、最後に言葉を交わすことができなかった父がいるのだから。
忙しさに余裕をなくしているのだとしても、今連絡を取らなくてはもう二度と連絡ができなくなるかもしれないという後悔をしないために、自分にとって後回しにできない大切なことは何かを、きちんと知っておいた方がいいのではないか、などと感じる一冊でもありました。
シリーズはまだまだ続くようなので、次作が楽しみです。主人公の成長をそっと見守っていきたいと思います。 -
Posted by ブクログ
医師でありながら作家でもある方々の医療小説9編。
私の知っている作家さん以外にこんなに多くの医師作家さんがいることに驚きました。どれも医師であるだけに小説の内容は臨場感が溢れていて迫力がありました。
中山祐次郎さんの『救いたくない命』は救急で運ばれてきた患者が犠牲者15人以上を出した通り魔事件の犯人と知り、葛藤をしながらも必死に命を救う姿に京アニ事件を思い出しました。
南杏子さんの『空中テント』は家族の介護の経験がある人は共感出来るはず。
どれも本当に良い作品ばかり。若手医師の過酷な労働時間、医療ミスの隠蔽、不都合な論文を闇に葬る等、医療小説が好きな人なら興味のある内容ばかり。でも朝比奈秋さんの『魚類譚』はちょっとホラーぽくて異色でした。 -
Posted by ブクログ
泣くな研修医シリーズの3作目。前作から2年が経ち、できるようになったことが増えた分色々なことを考えてしまうようになった5年目医師と、先輩・同輩・後輩医師、患者との成長物語です。
前作の衝撃のラストから時は経って、外科医の雨野先生は5年目の医師に。前作で研修で回ってきていた西桜寺先生は、最終的に外科を選んで雨野先生の後輩として戻ってきた。中堅医師として先輩医師の佐藤先生に頼り切るばかりでなく、自分でも少しずつ自信が出てきているような様子も伺える。
そんな中、今回のキーパーソンとなる患者は二十代の末期癌患者の女性の、向日。本来医師と患者は一般の友人のような関係を築いてはいけないのだが、ひょんなことからフェイスブックの登録~友達登録をすることになり、後輩の西桜寺先生も患者とつながってしまう。そうして聞いてしまった、「人生でやっておきたいこと第一位」――それは、富士登山だった。
今作は、前作2作と異なり、視点が雨野先生だけでなく後輩の西桜寺先生、先輩の佐藤先生と移り変わりながら多角的に展開していったのが新鮮でした。後輩に頼りにされる医師となった雨野先生は、今でもまだ泣いてしまうことはあるようです。
佐藤先生の置かれた状況がなんともリアルで、きっと著者の先生はこのような場面を見聞きしてきた人なのだろうなと感じました。医師は医師同士で結婚するのが一番いいと言われるのは、やはりお互いの仕事の領分を理解できるからなのだろうなと思ったりします。
末期癌患者の向日さんを、医師と患者の関係として見たらいいのか、友人関係として見たらいいのか、雨野先生も西桜寺先生も距離を測るのが難しい関係を作ってしまったのだなと思いました。何かがあった時に、フラットな感情で向き合うことができないのは、今後のプラスとできるのかマイナスになるだけなのか、悩ましいところです。
富士登山は、お手軽のように言われることもあるけれど、過酷な登山です。これ以上は断念しよう、と判断する基準をはっきり持っていないと、『それでもここまで来れたのに』という気持ちが先に出てしまって引き返すことができなくなります。そういう意味で、今回の登頂が本当に正解だったのか判断に迷う内容ではありましたが……それでも、よく頑張ったと、言ってあげたいです。
主人公一人の視点だったシリーズが、他の視点も取り入れることによって少し雰囲気が変わりました。続編もどのような展開になるのか、楽しみにしています。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ9人の現役医師による医療小説アンソロジー。
医師作家でしか表現できないと思われる臨場感あふれる詳細な描写、ヒューマンでミステリアスなストーリーが魅力の作品集だ。
1〈研修医ヒナノの洞察〉
上司からパワハラを受けている研修医が患者の膠原病を見つけ上司を見返す痛快な話
2〈魚類譚〉
封建的で理不尽な医大の内部構造、詳細な手術シーンにミステリーとホラーの要素を取り入れた作品
3〈パイナップルのある光景〉
同じような引きこもり系の精神疾患でも、一方は入院治療、一方は家族による対処という示唆をする精神科医。専門的な見解が押し付けなく、ふわっと伝わってくる秀作
4〈救いたくない命〉
救急外来に運び込まれてきた瀕死の男はとんでもない犯罪者。しかも、手術助手を務める医師には憎むべき理由があった。救急救
命手術場面の描写がすごい
5〈春に綻ぶ〉
コロナ病棟で働く内科医の日常と苦悩をリアルに描く。苦闘の果てに主人公はかすかな希望を見出だす
6〈闇の論文〉
がんを見極める生検の際、傷ついた血管からがん細胞が侵入し、転移を招くことを証明した論文。これが世間に知れた場合の混乱を避けようと医療界の重鎮は論文を闇に葬る。現実世界ではどうなっているのか気になる
7〈言葉が消えるまえに〉
過去に同じ脳神経外科の医局員だった男の裏切りで医局を追放された主人公。そこへ、その男がグリオーマ患者としてやって来る。主人公のヒューマンな姿勢が光る
8〈空中テント〉
唯一、医師の視点ではなく、女性看護師を主人公にした作品。肉親が認知症になった時の介護を巡って、エゴむき出しの親族や主人公に訪れる修羅場、介護サービスを考えるまでの経緯がリアルに描かれる
9〈峠を越えてきた命〉
伊豆半島にある産科救急に特化した病院の若手医師が主人公。切迫早産の妊婦が救急車で揺られながら険しい天城峠を越えて病院に向う様子、待機して万全の体制を取る医療スタッフ、分娩室での対処の様子が実に生々しく描かれる。危険にさらされる新しい命を懸命に救おうとする産科スタッフの努力と救急隊との密接で的確な連携が読み手の心を打つ。秀逸で感動的な人間ドラマだ