夏川草介のレビュー一覧
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夏川草介氏の『神様のカルテ0』を読んだ。
「神様がそれぞれの人間に書いたカルテってもんがある。医者は、その神様のカルテをなぞっているだけだ」――大狸先生のこの言葉が、本書のタイトル『神様のカルテ』の意味を象徴しているように感じた。これまでシリーズを読んできたが、本書を読んでようやく、そのタイトルに込められた意味が少しわかった気がする。
特に心に残ったのが、元国語教師である患者・國枝さんの言葉だ。
「人は、一生のうちで一個の人生しか生きられないが、本は別の人生があることを教えてくれる。そうすると、たくさんの人の気持ちがわかるようになる。そういう人々の気持ちがわかるようになると、優しい人間になれる」
本を読むことの意味を、これほど端的に、そして深く表現した言葉はないと思う。本を通して自分とは違う人生を知り、さまざまな人の気持ちを想像する。それが人を少し優しくするのだという國枝さんの言葉は、読書が好きな自分にとっても、あらためて考えさせられるものだった。
本作では、研修医時代の栗原一止をはじめ、金山事務長の過去、進藤と如月のエピソード、そして榛名さんの山岳写真家としての一面など、これまでのシリーズでは描かれなかった登場人物たちの物語が描かれている。
おなじみの登場人物たちにも、それぞれに過去があり、迷いや苦悩を抱えながら今を生きている。その姿を知ることで、これまで読んできた『神様のカルテ』の世界がさらに立体的になった。
医師が向き合うのは、病気だけではない。その人が歩んできた人生そのものなのだと思う。そして医師は、患者という一人の人間の「カルテ」を読み解きながら、その人生に寄り添っていく。
シリーズの登場人物たちの原点や知られざる一面を知ることができた『神様のカルテ0』。これまでの物語を振り返りながら読むことで、より深く心に響く一冊だった。 -
Posted by ブクログ
シリーズ第3作にして主人公が直面する大きな壁。医療トラブルは表面的な契機に過ぎず、本質は地域医療で奮闘して5年、手応えを感じ始めていた彼が突きつけられる「このままで良いのか」という葛藤こそが本作の真の壁だろう。
30歳という節目(誕生日のエピソードもニクい伏線だ)を迎え、働く人間なら誰もがぶつかるキャリアの普遍的なテーマを描いている。信州松本や安曇野の情景に、本作では「冬」や「年末」という変化と思索の季節をうまく取り入れているのも秀逸だ。
前二作で彼の奮闘に寄り添ってきた私たち読者だからこそ、ともに心が打ち砕かれる体験はシリーズの特性を最大限に活かした見事な構成。これだけ苦しい展開でも、人との関係に確かな優しさを感じさせ、希望を与えてくれるのは夏川作品ならではの素晴らしさでもある。
もっとこの世界に浸っていたい。残り2作となった寂しさを噛み締めつつ、大切に読みたい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ【きっかけ】
だいぶ前に、読みたい登録したが、死と向き合う内容であろうことから、読み始めるのが、躊躇われた。
お盆に入って朝晩少し涼しくなり、読むなら今と判断。
【読後】
魅力的な医師たち。
主人公の医師は、一際、魅力的である。
達観している感じもするが、決して冷たくなく、諦めているわけでもなければ、過度にがむしゃらというわけでもない。とても落ち着いている。
どうすれば、このように落ち着いた人間になれるのか。
命を救っても、その命が、永続するはずもない。
ドラマのように、奇跡のように、命が救われることばかり、続くこともない。
人は、死に向かう生き物なのだ。
龍之介と向き合う哲郎の、選ぶ言葉が、温かい。
スピノザって哲学者なんだ。
掴みどころのない人らしい。
スピノザのエチカ(哲学?)
様々な患者が、その人生の最期を病院で過ごす。
末期の患者の痛み、苦しみ、そして看護、介護する家族も、削られていく。
死に向かう患者に、焦ることはないと云う。
哲郎も、焦らない。慌てない。
違和感の正体を探る。正体は、キミだな?
犯人を見つけたよ。
脳梗塞じゃない。薬の副作用だ。
カッコ良い…。医龍のような熱い感じは、全くないが、落ち着いたカッコ良さ。
人の幸せは、どこから来るのか
病気が治るのが幸せだとすると、
治らない人は、幸せになれないのか?
考えさせられる。
たとえ病が治らなくても、
仮に、残された時間が短くても、
人は、幸せに過ごすことが出来る
出来るはずだと、主人公はひとりごつ。
哲郎の哲学は、沁み入るなぁ。
最期の時まで、夫も他界し、難病を患いながらも、
絶望の淵にいながらも、笑顔を絶やさなかった妹
なるほど、ココがきっかけか。
いくら思案のレンガを重ねても、
レンガの方が荒削りだから、
隙間だらけで、じきに倒壊してしまう。
良い表現。
【凄く沁みた言葉】
人間はどうしようもなく、儚い生き物で
世界は、どこまでも…無慈悲で冷酷だ。
けれども、だからといって、無力感に囚われてもいけない。
世界には、どうにもならない事が、山のように溢れているけれど、それでも、出来ることはある。
人は無力な存在だから、互いに手を取り合わないと、
たちまち、無慈悲な世界に飲み込まれてしまう。
手を取り合っても、世界を変えられるわけではないけれど、少しだけ景色は変わる。
真っ暗な闇の中に、束の間、小さな灯がともるんだ。
その灯は、きっと同じように、暗闇で震えている誰かを、勇気づけてくれる。
そんなふうにして生み出された、ささやかな勇気と、安心のことを、人は、幸せと呼ぶのではないだろうか?
医療技術には、人の悲しみを克服する力はない。
勇気や安心を、薬局で処方できることにはならない。
そんなものを夢見ている間に、手元にあったはずの幸せは、あっという間に、世界に飲まれて、消えていってしまう。
私達に出来ることは、もっと別のことなんだ。
暗闇で凍える隣人に、外套をかけてやることなんだよ。
妹の死への向き合い方に、哲学が広がる。
ワタシも、先生から学びたいと思った。
続編も読みたい‼️
花垣も秋鹿も、良いキャラ。良いなぁ。
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Posted by ブクログ
表題作「神様のカルテ」では若き研修医時代の栗原一止の話が入っているが、患者さんとの対話からさまざまなことに想いを巡らせてしまう。
病気との向き合い方、医療とは何か、生死の優先順位。
あまり普段の生活のなかでは目を向けない部分だが、私もこの作品が初めて世に出た頃よりは歳を重ねたこともあり深く考えていかなければいけないなと思う次第である。
この作品の魅力は話のテンポが良いのと何よりも出てくる登場人物たちの心意気や覚悟、キャラクター性に温かみがあるので読み心地が良い。
更に物語の随所に出てくる信州の大自然と、行きつけの居酒屋の描写になんだかとても癒される。
重苦しくなってしまいそうなテーマとは裏腹に読み終わるとなんだか生きる気力が湧いてくる。
明日からも頑張ろうかなという気持ちにさせてくれる優しいお話だと個人的には感じている。